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43.宿での一幕

 イルミナル村。

 ファーレンハイト領北端に位置する村の一つであり、ファーレンハイトとロンバルディアの国境となるファーロン山脈に隣接するやや大きめの村落である。

 両国の物流を担う村の一つであり、それ故に何の特産も資源も無い場所でありながらも、一定数の住民が存在している。

 商人や旅人が足を止める事も多いので宿屋も多く、線路というロンバルディア共和国の重要なインフラが存在している為か、村の規模に対して警備の数も多く存在している。

 蒸気機関車が停車するイルミナル駅には、ロンバルディアにて生産された時計が存在しており、その時計の時刻を見る事で次の蒸気機関車が何時にやってくるかを知る事も出来るのだ。

 ライゼル達がこの村に到着した頃には既に日暮れとなっており、生憎今日の蒸気機関車の最終便は既に出てしまった後であった。

 次に来るのは翌朝であり、残念ながら今日はここで足止めとなる結果となった。


「最速で10時間後か、こりゃ今日はここで一泊だな」


 イルミナル駅に掲示されている、時刻表を見て呟くライゼル。


「良かった……今日はちゃんとしたベッドで寝られる……」


 エルンスト辺境伯邸以降、野宿での強行軍により疲労が蓄積していたフィーナは心の底から安堵の溜息を付いた。

 何故かは分からないが、ライゼルはどうも先を急いで強行軍になる傾向が非常に強い。

 旅人や傭兵等、戦いを生業にしたり長距離を移動する者であらば、野宿の回数はなるべく少なくし、可能な限りしっかりと休息を取れる集落や宿で寝泊りするように心掛けるように行動するのは常識である。

 体力の少ない状態で魔物に襲われれば、命に関わるからだ。

 それをライゼルが知らない訳が無いはずだが、数キロ道を外れればそこに村や街道があり、楽に進めたり野宿をせずに済む事があっても、地図上における直線距離で進もうとする事が多い。

 流石に渓谷や沼地といった過酷な要害であらば迂回するようだが、多少の原生林程度であらば強行突破しようとする。

 普段人の往来が無い場所を無理矢理進んでいるせいで、当然ながら魔物との遭遇や交戦も増え、大人しく街道を進んでいればしなくて良かったはずの消耗が増える。

 そのせいでフィーナが疲弊し、素直に街道を進んだ方が早く着くような状況でも、まるでわざとその選択肢を選ばないような節すらある。

 先を急いでいるような節があるのに、やってる行動は矛盾しているのだ。

 尚、セレナは基本的に杖に腰掛け空を飛んで移動している為、魔力以外は特に何も消耗していない。


 ライゼル達は手近の宿へと足を向ける。

 しかし、最初の宿は既に満室であった。

 特産も何も無い街だが、それでもここはこの世界で大国と呼ばれるロンバルディア共和国の玄関口となる場所の一つなのだ。

 当然行き交う人々も多く、ここで一泊と足を止める人も多くなる。

 特にライゼル達は、日暮れに滑り込みでこの村にやって来たのだ。

 当然、宿は埋まってしまっている。


 それでも、一定量の集客が見込める場所であるこの村に、宿が一箇所しか存在していない訳はない。

 実際、この村には三件の宿屋が存在していた。

 しかし、二件目も既に満室。この時点でフィーナの顔から笑顔が消え、表情が凍り付く。

 二件目の宿屋の主人から話を聞くと、何でも普段と比べて今日は訪れる人の数が随分と多いとの事。

 次の宿屋も満室だと言われれば、ライゼル達は野宿を余儀なくされるのだ。

 フィーナは手を組み、天に祈るような気持ちで三件目へと足を踏み入れた。

 三件目の宿屋の主人に聞くと、この宿は辛うじて部屋に空きがあるそうだ。

 ガッツポーズを決めるフィーナ。


「じゃあ二部屋でお願いします!」

「すいません、既に部屋数に余裕が無くて……一部屋の空きはありますが、二部屋は空いてないですね」

「うっ……じゃあ、それで良いです……」


 背に腹は変えられぬ、といった様子でしぶしぶチェックインするフィーナ。

 一部屋しか借りられないという事は、ライゼル達三人で相部屋という事だ。

 部屋の鍵を借り、三階にある角部屋の扉を開け、入室する。

 入った所で、フィーナはライゼルに対し向き直る。


「……変な事したら殴り飛ばすよ」


 念を押すフィーナ。


「だーれがお前みてぇなチンチクリンに手ェ出すかよ」


 フィーナに対し、悪態をつくライゼル。

 その頭部にフィーナの手刀が直撃した。


「セレナもよ」

「何で私が貴女に指示されなきゃならないんですか?」


 セレナはライゼルに付いて行くと決めたのであって、フィーナと一緒に行動したいという訳ではない。

 それ故に、先に居たというだけで先輩風を吹かせるフィーナに対し反発する事が多いセレナ。


 無言で睨みあうフィーナとセレナ。

 そんな二人の空気をぶち壊したのはライゼルであった。


「そもそも変な事って何だよ、言ってみろよ」

「ふへ!?」


 具体的に一例を述べてみろと、ライゼルに問われるフィーナ。

 不意を突かれ、素っ頓狂な声を上げるフィーナ。


「へ、変な事は、その、変な事よ!」


 具体例を頭の中で想像してしまい、顔を赤くするフィーナ。


「なーにいっちょ前に乙女ムーブしてんだよ。メスゴリラが何恥ずかしがっぶっふううー!?」


 ライゼルの右頬に綺麗なフックが突き刺さり、横へと薙ぎ倒された。


「疲れてんのに余計な手間取らせないでよ!」

「疲れてんならおとなしくしてろよ!?」


 最早セレナには見慣れた光景である、ライゼルとフィーナの口喧嘩を横目に、自分のベッドへと腰掛けるセレナ。

 杖を横に置き、頬杖を突き、ライゼルとフィーナの口が止まったタイミングでセレナは口を開く。


「そういえばライゼル様。どうしてライゼル様は旅をしてるんですか?」


 セレナが前々から抱いていた、疑問をライゼルへと訊ねた。

 別に知った所でどうだという訳ではないし、何処かに留まるというのであらばセレナもそこに骨を埋める位の覚悟があったので、知った所でセレナがライゼルと共に行動するという方針は変わらないのだが。

 ふと気になり、聞く事にしたのだ。


「そりゃ~勿論、世界中のレディ~達に俺様の深~い愛情をだね」

「深い愛情じゃなくて不快愛情の間違いじゃないの?」

「フィーナちゃんってば失敬だなぁ」


 ムッとするライゼル。しかしその口調は何処かわざとらしい。


「そういや、私も聞いて無かったわ。この際だから私にも教えてよ。何でライゼルは旅をしてるの?」


 セレナの質問は、フィーナも前々から気になっていた事であった。

 フィーナは、ライゼルと共に行動するようになってから大分時間が経つが、何故ライゼルが旅をしているのか、その行動理由を知らなかった。

 セレナの質問に便乗する形で、ライゼルに訊ねる。

 二人から問われた事で、しばし無表情で無言を貫くライゼル。

 しかし、フィーナとセレナの視線に耐えかねたのか、観念したように口を開く。


「……強くなる為だよ」

「……今でも充分強いと思うんだけど」


 賊を片手間で薙ぎ払い、世間を騒がせた賞金首であるユーリカすら、余力を残し隠した切り札を使う事も無く、容易く捻じ伏せる実力。

 魔物に至っては相手になる訳も無く、ライゼルの底知れぬ実力は、フィーナやセレナからすればまるで追い付ける気がしない、雲上の存在。

 そんなライゼルが、更に強くなる為に旅をしている。

 ライゼルが立っている場所の更に先なんてものが二人に見える訳が無く、今よりも強くなるという回答は、理解し難いものであった。


「うっせえなあ、明日は朝一の汽車に乗るんだから寝坊すんなよ。俺はもう寝るからな」


 質問には答えたとばかりに、会話をぶっきらぼうに打ち切るライゼル。

 窓際のベッドにその身を投げ出し、そのまま目を閉じてしまった。

 余りにも適当な回答であり、それがフィーナとセレナを納得させられるような回答とはとても言えなかったが、それ以上答える気が無いのは今のライゼルの行動で充分伝わってきた。

 フィーナも大人しく武装を解き、ベッドへとその身を滑り込ませる。



 二人は納得していないし、気付いていないが。

 フィーナとセレナの問いに対し、ライゼルは実はしっかりと本心を答えていた。

 ライゼルは、ずっと強さを追い求めて旅をしていた。

 今までも、そして今も尚。ライゼルは更なる高みを目指して旅を続けている。

 しかし、それは本心ではあるが、ライゼルの本質では無かった。

 そのズレこそが、二人が納得しなかった原因であった。

 ライゼルは、強さを追い求め続けている。

 しかし何時の間にか、目的と手段が逆転している事に。

 ライゼル自身、気付いていないのであった――

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