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30.野盗討伐戦

 タリタリア村を発ち、再びライゼル達はその歩みを進めて行く。

 目指すは、ファーレンハイト領とロンバルディア領の国境に位置する山道であるロゴモフ山道。

 ライゼルとセレナからすれば鈍足だが、他者から見れば余りにも異常な速度でその旅路の道程を進めていた。

 道無き道を、草木を掻き分け。目的地へと向けて邁進する。

 尚、ライゼルとセレナは空を飛んでいる為、草木を掻き分けているのはフィーナだけである。

 日が沈み、今日はここで野宿だと野営の準備を整えていく。

 携行食料の缶詰を食べ終え、フィーナはその缶詰を地面に置き、踏み潰していく。


「……この缶詰、捨てていければ良いのに」

「おいおい捨てんじゃねーよ。ロンバルディア共和国で鉄は買い取って貰えるんだから全部持っていけよ? 塵も積もれば金貨になるんだぞ?」

「知ってるわよ。ただこれだけ重いと、文句も言いたくなるわよ。もっと軽い容器とかあれば良いのに……」


 ぺしゃんこになった空き缶を拾い上げながら、ブツブツと文句を垂れるフィーナ。

 この世界において、最大の工業国であり、最大の鉄消費量を誇るロンバルディア共和国。

 別にこの国に限らず、鉄というのは農具であったり、剣や鎧であったり、あらゆる所で使われる需要の多い代物だ。

 しかしながら、ロンバルディア共和国では他国に無い科学技術というモノが栄えており、その技術を利用した武器や移動手段の為に、他国とは文字通り桁違いの鉄を消費している。

 それ故に、ファーレンハイト領内で最早使わない屑鉄などが発生しても、ロンバルディアに売れば多少の金になるという事で、それを専業にした鉄の回収業者なんかが存在していた。

 無論、売れるといっても屑鉄では二束三文だという事実は変わらないので、構わず缶詰の空き缶を捨てる傭兵も多数居る。

 だがそういう業者が居るという事は、その捨てられた空き缶を拾い集めて生計を立てる貧しい人々なんかも存在する訳なのだが。

 実際、聖王都のギルド等では空き缶拾いというのが仕事としてあったりする。


「軽かったら嫌がらせにならないからつまんねえなぁ」

「……何か言ったライゼル?」

「いや別にぃ? 俺様何も言ってねえぜぇ?」


 ケラケラと軽薄な笑い声を上げていたライゼルだが、唐突にその表情が真顔に戻る。

 ライゼルに少し遅れてだが、セレナも側に置いていた杖を手にし、周囲に気を配り始める。


「どうかしたの?」

「――戦闘音が聞こえるな」


 一人だけ気付けていないフィーナが不思議そうに問う。


「ここは街道に近いし、もしかしたら盗賊か何かかもしれないな」

「面倒ですし、逃げちゃいますか?」

「大変! 助けないと!」


 完全に真逆の発言をするフィーナとセレナ。

 二人は顔を見合わせる。


「え? 助けるなら一人で行って下さいよ」

「何言ってるのよ!? 困ってる人が居るのに見捨てる気なの!?」

「えー……面倒臭いから放っておこうぜフィーナちゃーん……」

「助けられるかもしれないのに、見捨てるなんて酷いじゃない!」

「だって、見ず知らずの輩が傷付こうが死のうが、俺様には関係無い話だしなぁ~」

「もう良いわよ! だったら私一人で行くから!」


 そう啖呵を切って、森の中へと駆け出そうとするフィーナ。

 それを呼び止めるライゼル。


「おいちょっと待て!」

「うるさいわね! 早く行かないと手遅れに――」

「そっちじゃない。あっち」


 フィーナが駆け出そうとした方向とは真逆の方向を指差しながら、淡々と答えるライゼル。


「し、知ってるわよ! ちょっと間違えただけよ!?」


 顔を真っ赤にしながら、フィーナはライゼルが教えた方向へと向けて走り出した。


「ライゼル様~♪」


 フィーナが森の中へ消えたのを確認し、猫撫で声を上げつつ、ライゼルの腕に絡み付いてくるセレナ。


「邪魔者も消えましたし……少し離れた場所で、私と愛の一時を――」

「あの馬鹿が野垂れ死にしねえか心配だし、面倒だけど俺様もちょっくら様子見るとすっか」


 腕を振り払い、ライゼルは立ち上がる。

 セレナへと背を向け、フィーナが走り出した方向へ向けて歩き出そうとする。


「――ライゼル様。フィーナさんなんか放っておけば良いんじゃないんですか?」

「まぁ、そうなんだけどさぁ~……あんなんでも一応、幼馴染だしなぁ~……」

「幼馴染だからって、助けなきゃいけないなんて決まりは無いですよね? 不利益を被るなら遠慮無く切り捨てれば良いじゃないですか。それとも、何か弱みでもあるんですか?」


 冷徹だが、至極全うな意見を述べるセレナ。

 幼馴染に限らず、例え家族であろうと。

 邪魔なのであらば切り捨てる決断をするのは、冷たいと言われようとも必要な判断なのかもしれない。


「――おい」


 感情の見えない、冷たい口調。

 その声にセレナは反射的に身を縮める。


「……俺の行動方針の邪魔なら蹴散らすぞ」


 振り返り、冷めた目でセレナを突き刺すライゼル。

 普段の向こう側が透けて見える程の軽薄な態度ではない、明確な敵意が混ざった発言を聞いて、セレナはそれ以上口を挟む事は出来ず。

 ただただ黙ってライゼルの後ろを追い掛ける事しか出来なかった。



―――――――――――――――――――――――



「あ~らら。フィーナちゃんってばまーだこんな所ウロチョロして。迷子なの? お家帰る? ライゼルお兄さんが連れて行ってあげようか?」

「帰んないわよ! 場所分かってるなら教えてよ!」

「おいおいフィーナちゃ~ん? それが人様に物頼む態度かー? 三回まわってアザラシの真似したら教えてやっても良いぜ~?」


 月明かりだけが頼りの夜空の下、森の中を彷徨っていたフィーナに追い付き、ただ単に煽るライゼル。


「さっさと街道まで行かないとぉ~、フィーナちゃんの頑張りがぜーんぶ無駄になるぜー?」

「……ん?」


 何かに気付き、フィーナはライゼルに対し質問を投げ掛ける。


「ねえライゼル? そういえばさっき、街道に近いって言わなかった? って事は、こんな草木が生い茂った森の中を突っ切るルートを私が走らされたのはわざとって事??」

「おいおいフィーナちゃ~ん。国境になる山道が整備されてない訳無いじゃねえか。そしてそこに繋がる道が整備されてないなんて事もある訳ねえだろ~? 未開の地ならいざ知らず、仮にもファーレンハイトとロンバルディアっていう大国の領内なんだからちゃんとした街道があるに決まってんじゃねえか。少しは考えたら分かるだろ~?」


 そんなフィーナの質問に対し、真っ当な回答を述べるライゼル。

 国境とそこへ繋がる道というのは、そっくりそのまま他国との交易路であるという事でもある。

 当然、無数の馬車や旅人が通行していくし、いざ軍事的警戒が高まれば兵達が進軍する為の通路にもなる。

 国にとっても民にとっても重要な道が、整備を放り出して雑草が生い茂ってる訳が無い。歩き易いようにキチンと整備されていて当然である。


「良く気付いたな。森の中歩かせたのなんてわざとに決まってんだろ~? 気付きもしねえで馬鹿正直に付いて来て疲れてやんのwwwざまぁwwwww徒労乙wwwww」

「ライゼルー!!」

「フィーナが怒った! 逃げろ~☆」


 跳躍し、手で枝を掴み、そこを軸にして運動方向を変え、隣の枝に飛び移り。

 ヒョイヒョイと身軽な動きで、最小限の動きで障害物を避けつつ、ライゼルは森の中へと逃亡する。

 逃げるライゼルを怒りに任せて追い掛けるフィーナ。

 ライゼルの動きはさながらパルクールと呼ばれるような、効率的な移動方であり、エネルギーの消費は最小限に抑え、淡々と移動を続けている。

 対するフィーナは邪魔な藪を引き千切り、足元を蔦が絡め取るならばそのまま脚力で蹴散らして行くという、猪突猛進という単語がピッタリな動きでライゼルの後を追い掛けるのであった。



―――――――――――――――――――――――



 あー、やれやれフィーナちゃんの正義感には困ったもんだなー。

 正義感に火が付いちゃったからしょーがない、ササッと案内してパパッと終わらせちゃいますか。

 ゴミを箒で掃き集めて最後にポイってな具合で行っちゃいましょうかー。


「スナイパーゲイルかっこ弱めかっことじ!」


 電探反応有り、魔力反応有り、空気振動有り。

 おめーらそれで隠れてるつもりかよ、完全に伏兵(大爆笑)じゃねーか。草も生えねえよ。

 数は七人。殺すとフィーナが文句言いそうだから、思いっきり威力を落とした無詠唱魔法で伏兵を吹き飛ばす。

 飛ぶ先を誘導して、一箇所に飛ぶようにする。飛んで行く先は勿論、街道で起きている戦闘地点だ。

 これで森の中に潜んでいた連中も綺麗スッキリ一箇所に集まったって訳だ。


 フィーナより一足先に、剣が交わる血生臭い騒動の渦中へと飛び込む。

 先程伏兵を全部一纏めにして吹き飛ばして落っことしたせいで多少混乱してるみたいだが、その騒動に紛れてこっそり、なーんて気配りもしてないので当然、突如現れた俺へと視線が集まる。

 何だよ野郎ばっかじゃねえか。男に見られてもなーんも面白くもねえよ、何でかわいこちゃんが居ないんだよー。

 さーてそんな冗談は置いといてと……どいつもこいつも人相悪いなオイ。

 今まで散々気晴らしと金稼ぎで悪党をプチプチ潰してせいか、悪人かどうかが一目見ただけでなんとなーく分かるようになってきた気がする。

 んー……完璧に悪党ってのと悪党かもしれない? 的な連中しかいねえな。

 全部悪党、なんてオチだとは思えないしなぁ。どっちが襲撃側でどっちが防衛側か分かんねぇや。


「待ちなさいライゼル!」


 やっべーフィーナのとっつぁんが追い掛けて来たずぇー。

 完全に殴る気満々だずぇー。


「助けて! フィーナの奴が俺様のこの国宝とも呼べる美顔を滅茶苦茶にしようと襲ってくるんです!」

「な、何だテメェいきなり!?」


 俺様の悪人レーダーに関しては精度はまだまだなので、間違いなくコイツは悪党だろって断言出来る奴に絡んで行く。


「逃げるな!」

「悪人バーリアー!」


 俺の煽りでキレたフィーナが拳を振りかざして来たので、直撃するタイミングに合わせて隣に突っ立ってた悪党を掴んで動かし、フィーナの拳を受ける肉盾にした。


「ふぐぇっ!?」


 綺麗に拳が悪党の顔面へ入る。

 砕けた歯が宙に舞う。おー、痛そう。


「あっ!? ごめんなさい!」

「謝らなくて良いぞフィーナ。そいつ悪党だからな」


 全体を注視する。

 こっちを警戒してるだけの奴を除外。


「誰だテメェ等は!」

「そりゃこっちの台詞だっつーの。俺様の夜の一時に余計な騒動で茶々入れやがって」


 俺とフィーナに対して敵意を向けてる奴だけチェック。

 間違いなく悪党だって感じ取った奴を殴られて、それに対して怒ってるって事はこの悪党の仲間だって事だ。

 つまり、そいつ等が襲撃者側。


「いけ! フィーナ! 爆裂パンチだ!」

「何よ爆裂パンチって!?」

「増援か何かか!? あそこの二人もやっちまえ!」


 案の定、こちらに向けて武器を構えてくる。

 分かり易くて助かるわー。


「よーしフィーナ! 俺とお前に向かってくる奴だけ全員倒せ! 向かってくる奴が悪い奴だ! 様子見てるだけの奴は良く訓練された――じゃなくて、取り敢えず放置しろ!」

「え!? 良く分かんないけど分かった!」


 傭兵や、傭兵崩れのならず者程度であらば、フィーナの敵ではない。

 流石にその位の戦闘能力が備わるように嫌がらせ、もとい特訓してやったからな。

 なので俺様に向かってくる敵をフィーナの方へ誘導して擦り付けつつ、フィーナが悪党共を全滅させるまでフィーナの無双っぷりを眺める事にするのであった。

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