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26.タリタリア村の秘密

 寝床へと案内され、俺はその寝所へと身を投じた。

 天井の木目に視線を落としつつ、考える。


 この村は、何か妙だ。


 地図に無い村、そして地図に記されていない理由。

 ミールという少年――いや、少年なのは見た目だけか――から説明された内容は、納得は行くモノであった。

 それに、嘘を吐いているようにも見えなかった。

 ここは、差別され迫害された者達だけで寄り添いあった隠れ里。

 それは間違いないんだろうな。

 だが問題はそこじゃねえ。


 ……何だ? この魔力濃度は。


 この世界には魔力というモノが存在し、その大気中の魔力濃度というのは常に一定という訳ではなく、場所によって高かったり低かったりする。

 世界で大気が巡り、高気圧低気圧という形で現れるように、魔力の濃度というのも気象や地形で変動するものなのだ。

 元々世界に存在し、循環滞留している魔力に加え、この世界で生きる知的生命体から放出される魔力なんかが大気中に流出する。

 それ故、何もない場所より人が多く住んでいる場所の方が魔力濃度は高くなる傾向がある。

 魔法を使えない者でも無意識に魔力を放出しているので、魔法を扱う力があるか否かは関係なく、単純に人が多ければ多い程濃度は高くなるのだ。

 但し人が多ければその分、魔力を扱う者も現れるようになるので、そういった人物が大気中の魔力を消費する為、人の数と比例して大気中の魔力濃度が高くなる、という訳でも無いのだが。


 この場所は、他と比べて異常に魔力濃度が高い。

 人は、集落の家屋数を見て分かるが明らかに少ない。

 盆地なんかで良くある、魔力の吹き溜まりか? 否、木々に覆われてはいるがここは平地だ。大気の循環は普通にしている。

 魔力の内包量が多い人物だけがここに集まってる? 自然に? そんな偶然ある訳無い。もしそうなら結局何かの作為が働いてる事になる。

 ここまで魔力量の多い場所なんて、魔力極点(まりょくきょくてん)位しか知らない。

 それ程までに、この地の魔力量は異常に高かった。

 下手すれば、この高濃度の魔力の影響で精神汚染が発生してもおかしくない――のだが。

 ……もしかして、街灯はその為か?

 こんな辺鄙な場所には場違いな、高級品。

 魔石を用いた魔力電池とも呼ばれる代物を使い明かりを灯す仕組みだが、アレが魔力電池ではなくこの周囲の魔力を使用して稼動しているのであらば。

 アレ等はこの周囲一体の魔力濃度が危険値に達しないよう、ガス抜きをする役目を果たしている事になる。

 オイオイ、だとしたら随分と贅沢な使い方じゃねえか。湯水の如くってか?


 ――そんなに有り余ってんならよ、俺に寄越せよ。


 周囲の音を拾い、全員が寝静まったであろうタイミングで窓を開け、ミールの家から外へと出る――


「何処に行くんですかライゼル様?」


 背後から飛ぶ声に、足を止める。


「……ありゃりゃ。起きてたんだねセレナちゃんってば~。夜更かしはお肌の大敵だぜぃ~? はよ寝た方が良いと思うんだけどなぁ~?」


 向き直り、何時もの適当な調子でセレナにさっさと寝るように促す。

 しかしセレナは窓から顔を覗かせ、一切表情を変えずにこちらをじっと見詰めている。


「何処に行くんですか?」

「……何処にも行かねぇよ。この不自然な魔力濃度の原因を探りに行くんだよ、村の外が原因とは思えないから村からは出ねぇよ」

「確かにここ、変な感じですよね。私も一緒に行って良いですか?」


 窓から身を乗り出し、駆け寄ってくるセレナ。

 準備万端の格好であり、良いかと訊ねてはいるが完全に付いて来る気満々である。


「……何もする事ねえし見ててもつまんねえぞ?」

「それでも、ライゼル様と一緒に居たいんです」


 どうせ拒否っても付いて来そうな感じがしたので、問答するだけ無駄だと思い、さっさと村の散策を始める事にした。



―――――――――――――――――――――――



 外の街灯を調べる。

 やはり予想通り、この街灯は周囲の魔力を利用して稼動するタイプの街灯であった。

 ……ここの魔力発生源は、何処だ?

 勝手に何処かから魔力が流れ込んでくるというのが考えられない以上、この地に魔力を発生させている原因があるはずだ。


「……しかし、何て魔力量だよオイ。事前に聞いてなかったらここが魔力極点かと錯覚してたかもしれねえな」

「魔力極点? 何ですかそれ?」

「簡単に言うと、世界最大の魔力溜まりだ。ここではない別の世界と繋がる、魔力が流れ込んで来て流れ去っていく場所だな」

「へー……そんな場所があるんですねー……そんな事まで知ってるなんて、ライゼル様って博識なんですね!」

「フフン。まぁ俺様天才だからねぇ~」


 まあそんな事はさて置き。

 魔力元を特定しようと、探知魔法を起動させ――


「――オイオイ、何なんだコリャ?」


 思わず、引き攣り笑いを浮かべてしまう。

 外部からは感知出来ぬよう、巧妙に隠蔽されているが。

 この村中に仕込まれた、数々の術式を読み取ってしまう。

 普通は気付けないが、まぁ、あんな化け者共に囲まれて鍛え上げられればこれ位は出来るようになって当然か。

 にしても……この術式を仕掛けたのは一体誰だ?

 どっかの誰かと戦争でもやらかす気なのか?


「どうかしたんですかライゼル様?」


 小首を傾げるセレナ。

 この間、セレナは一度たりとも俺から視線を外さずに凝視し続けている。

 笑顔を浮かべてるが、目は笑っていない……気がする。


「いや、何でもねえよ」


 ……下手にいじくると術式が暴発して大惨事になるな。

 大惨事になりかねない程の魔力が、ここに存在している訳だし。

 だが、見なかった事にするには余りにもここの魔力量は膨大だ。

 干渉しないように遠距離から操作……それしかねえな。

 周囲を観察し、それまで用意し続けた術式との位置を計算し、少し村から離れた場所へ――


「村からは出ないって言ってませんでしたっけ?」


 向かおうとした所、即座にセレナが駆け寄ってきた。

 俺の左腕を胸元に抱かかえるような体勢で腕を絡ませてくる。

 男からすればもうたまらん! 的なシチュエーションなのだろうが。

 何故だろう。俺の腕に巻きついているのは腕ではなく蛇か何かなのではないか? そんな錯覚を覚える。


「ちょいと予定が変わった。あの村、とんでもねえ量の仕込み術式のオンパレードだったからな。暴発しねぇように少し離れた場所から作業するわ」

「作業って、何をするんですか?」

「まぁ、色々な」


 そう、色々だ。

 その色々な作業を終わらせ、再び村に戻る。

 先程思わず手を止めてしまったが、探知魔法による魔力元の特定を続行する。


「……この感じ……地下、だな」


 そして、おおよその位置を掴む。

 場所は、今フィーナが馬鹿面で眠りこけてるミールの家の辺り。

 そういえば、あの家には地下に続く階段があったな。

 つまり、魔力元としてはあの奥が濃厚か。


「家に戻るぞ。だからあんまり引っ付くな。歩き辛ぇ」

「分かりましたライゼル様♪」


 家主に気付かれないよう。窓を開けて再び寝室へと戻り、扉を開けてリビングへと出る。

 この家に戻ってきた所で「そろそろ寝ますね、おやすみなさいライゼル様♪」と言ってセレナは布団の中へ潜り込んでしまった。

 一体セレナは何の為に付いて来たんだ? 謎だ。

 まぁ、セレナの不思議な行動なんかどうでもいいか。

 今は魔術灯が消されているが、室内の構造は既に見ているし、そもそもその気になれば目を閉じてても歩ける。

 暗闇の中、足音を立てぬように気を使いながら。

 俺はこの家の地下へ続く階段へと足を伸ばすのであった。

バレンタインだったら今頃海水浴を楽しんでるぞ(東京湾を見詰めながら)

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