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24.茨の森のタリタリア村

 闇夜に紛れ、食欲を満たすべく狩りをする生物が動き始める時刻。

 既に日が沈んだ自然に囲まれた森の中、まるで獣のような荒い息が響き渡る。


「チッ。進行ペースがトロいな……しゃーねえ、今日はそこの村で一泊するぞ」


 悪態を付くライゼル。

 舌打ちをしながら落とした目線の先には、大地に全身を預け、仰向けに倒れたフィーナの姿があった。

 虫の息とでも表現したくなる状態である。別に大怪我をしている訳ではなく単純に疲労しているだけであるが。


「ライゼル様。フィーナさん置いてサッサと先に行っちゃいませんか?」


 ライゼル同様、涼しい顔を浮かべてフィーナの破棄を提案してくるセレナ。

 セレナは無駄な魔力消費を削り、特に速度を出す訳でも無く、省エネ飛行を続けている。

 その気になれば一昼夜飛び続けられそうな程の余裕である。


「だって、フィーナちゃんってば異常な位しつこくて執念深いからさぁ~、無理矢理振り切って、うっかり何処かで鉢合わせになったら目も当てられないじゃんか。だったら見える所に置いておいた方が安全ってモンよ」


 フィーナをまるでストーカーと同一視でもしているかのような発言をするライゼル。

 普段なら既にその顔面に鉄拳が突き刺さっていてもおかしくないのだが、日中ほぼ休みもせず走り続けた今のフィーナには、その体力は無かった。


「私を、狂犬か何かと、一緒に、するな……!」

「狂犬か。言い得て妙だな」


 反論する気力も殴り掛かる体力も残っていない為か、フィーナは地に伏したまま「ぐぬぬ」と唸っている。


「つーか、ここ何処だ? 地図にこんな場所に集落があるなんて書いてあったか?」

「うーん。良く分からないですけど、取り敢えず行ってみれば良いんですよ」

「おおう、セレナちゃんってば強気だねえ。ちょっとは警戒とかしないのか? こわーいお兄さんとかが居て、良い子には見せられないような事されちゃうかもしれないぜぇ~?」


 ライゼルがそう苦言(?)を呈するが、これも当然である。

 魔法ではなく科学という技術に秀でた、ロンバルディア共和国から少しずつ他国へと技術が流れてきている昨今、ありとあらゆる分野で徐々に技術水準の向上が見られるようになっている。

 それは地図という測量技術面でも現れており、この地上から未開の地という表記が消えつつあった。

 地図に未表記で存在していた集落や難所が明記されるようになって、既に久しい。

 地図上で地表の殆どが暴かれた今となっては、こういった未表記の場所はかえって怪しいというのが一般的な見解である。

 正式に作られた、新興集落であるならば地図に記載されない訳が無いし、調査の進まない過酷な地ならばともかく、ここは温暖肥沃な地ばかりのファーレンハイト領である。

 だというのに未表記の集落があるとすれば、それは国家機密か表に出られないような存在が作った集落――色々考えられるが、どちらにしろロクな事にならないのは確かであろう。


「何かあれば全部吹き飛ばしちゃえば良いんですよ♪ 敵に容赦なんて必要無し!」


 移動による疲労の欠片も見えない、明るい笑顔を浮かべながらそう言ってのけるセレナ。


「お、おう……セレナちゃってば、結構過激な思想の持ち主なのね……」


 邪魔な障壁はぶち壊す! とでも言わんばかりの、ある意味フィーナと似たような思考の発言をするセレナに、やや引き気味の反応を見せるライゼル。

 そんなやり取りをしている内に、フィーナが歩ける程度には回復したようで、ライゼル達は地図に無い集落へと入る事にしたようだ。


 木々を切り開いて、人為的に作ったであろう開けた空間。

 魔物対策であろう、杭による柵で集落は区切られており、家屋はまばらである。

 倉庫はあるようだが、人が住んでいる家は5~6軒程度だろう。

 小さいながらも畑があり、ここで自活している者もいるようだ。


「……田舎っぽいのに、魔術灯がある」


 ポツリと呟くセレナ。

 閑静で長閑な場所には似つかわしくない、この世界では都市部にしかまだ設置されていないような、魔力を用いて稼動する街灯が存在していた。

 この世界ではまだまだ太陽の動きに併せて行動する人々が多い現状と、燃料だろうが魔力だろうが、人力以外で光を生み出し続ける手段というのが軒並み高額高コストである都合上、街灯の整備は中々進んでいない。

 だからコストを考えても尚、配備する価値があるような都心部だけに街頭は存在するのだが、見ての通りこの集落はどう見ても田舎である。

 だというのに、この世界では高級品の類になるであろう魔術灯が設置されており、随分とチグハグな印象をライゼルとセレナは抱いた。

 フィーナは特に何も感じていない様子である。


「……何か、変な雰囲気がする村だな」


 直感的に感じた、ライゼルの呟き。

 その勘は当たっていた。


「何だよオメーらー!」


 背後から飛んで来た声。

 その声の方向に向き直るライゼル達。

 何処から声がするのかと思えば、声の正体はライゼル達の足元に居た。


 それは、ザックリ言ってしまうのであらば人形であった。

 脚は短く胴長であり、だというのに腕は長く、直立してだらりと垂らしているだけなのに腕が地面にくっ付く程である。

 例えるのであらば、テナガザルのような感じであろうか。

 声は甲高く、女の子のようにも聞こえる。

 顔には目玉と思わしきボタンが二つ付いており、頭頂部にはウサギの耳のような細長い耳が二つ。

 体色は……良く言えばパッチワーク、悪く言えばツギハギだらけなので、具体的にどんな色かというのは例えられない感じである。

 その声に合わせて、まるで人形劇のようにパクパクと口が動いていた。


「見掛けねー顔だなー! 余所者だな! 余所者だなオメーらー! こんな夜に何用だー!」


 ピョンピョンとその場で跳ね、何だかテンションが上がっているかのようにも思える動作をする人形。

 もうちょっと愛らしい姿の人形であらば、可愛いと感じる人も居たのかもしれないが。

 ライゼル達の感想は「変な人形」であった。


「……何コレ? 使い魔の一種?」

「ぬいぐるみが喋ってる……」


 相変わらずピョンピョンと跳ねている人形に対し、どう対処するべきかライゼル達が悩んでいると、集落側から乾いた音が響く。

 どうやら扉の音だったようで、一人の人物がライゼル達を視界に捉えていた。


「えっと、どちら様ですか?」


 扉を後ろ手で閉め、一人の子供がこちらに向けて歩み寄る。

 大空を思わせるような、澄んだ青い瞳。中性的な容姿であり、また声も子供の為男なのか女なのか判別し辛い程度の高さであり、一目では男か女かは判断が付かない。

 身なりは一般大衆が着るような単色の衣服を身に着けているが、その美貌は都会等の人目が多い場所に出れば目線を釘付けにする程であった。

 肩に掛かる程度のサラサラとした髪質のプラチナブロンドの髪が、月明かりに照らされて幻想的な色合いとなっていた。


「あー、俺は旅の者なんだが、日没までに次の村まで行く予定だったんだがよ、ちっとばかし予定が狂って間に合わなくなっちまったんだ。家を貸してくれ、とは言わないからよ、夜が明けるまでこの村の敷地を貸してくれないか?」


 この集落の住人を発見した為、そうライゼルが交渉を始める。

 村の外と中、どちらで一夜を明かした方が良いかと言われれば当然村の中の方が良い。例え野宿だったとしてもだ。

 ここには人が居ると周囲の生物達が学習している村の中の方が安全なのは、考えるまでも無い。

 村の外では魔物が襲撃してくる可能性がある以上、常に警戒した状態で休まなければならない。

 だからといって集落の中ならはい安全、と完全に安心し切ってしまうのもアレだが、それでも周囲への警戒度を下げられればそれだけ緊張せずに済み、その分ゆっくり休めるのは当然だ。

 しかし見ず知らずの人物を自宅に招くなんてのも、家主を警戒させてしまうだけである事をライゼルは当然考えていたので、単に村の空き地を貸して貰えるだけで万々歳と考えていた。


「でしたら、僕の住んでる家に泊まってはどうでしょうか?」

「えっ? 良いの?」


 それ故に、目の前の子供の提案にはライゼルは少し面食らった。

 フィーナは特に何も考えていない為、素直に喜んでいるようだが。


「でも、そんな事一人で決めちゃって大丈夫なの? 貴方、まだ子供でしょ?」

「ああ、やっぱり子供に見えますか? 確かにこんな見た目ですけど、僕はもう立派に成人してますよ?」

「嘘……! 若作りってレベルじゃないわよ……!」


 絶句するセレナ。

 ただまあ、子供に見える大人というのも別に居ない訳ではない。数は少ないだろうが。


「ミール! 今帰ったぞー! ご主人様に手を出したりしてないだろうなー!」

「してないよ」


 先程からライゼル達の足元でピョンピョンと跳ねていたぬいぐるみが、ミールと呼ばれた成人しているという、見た目少年の足元へと駆け寄っていく。


「皆さんもお疲れでしょうし、どうぞゆっくり休んでいって下さい。大したモノは出せませんが……」

「本当? 有難う! 貴方良い人なのね! もうヘトヘトで今日もまた野宿かって思ってたんだー…」


 これでゆっくり休める!

 そう全身で体言するかのように無邪気に喜ぶフィーナ。


「貴方達二人も、どうぞ遠慮せずにどうぞ」

「――なら、折角だから休ませて貰おうかなぁ~? いや~悪いねぇ~、俺様も流石にクタクタなんだよなあ~!」

「……私も、流石に少し疲れちゃいましたし……ご迷惑でなければ、是非とも」


 フィーナに続き、何時もの調子で宿を貸してくれる事に感謝を示すライゼル。

 そんなライゼルの様子を見て、少し疲労の滲んだ表情を作るセレナ。


 ――何だか話が上手過ぎる。何かある。


 フィーナとは違い、美味しい話なんて転がってる訳が無い。という考え方が基本のライゼルとセレナは、フィーナと話を合わせながらも、心の中では警戒心を上げつつ。

 この集落の住人である、ミールの自宅へと足を踏み入れるのであった。

10万字突破した模様。

暴力系ヒロイン(?)とチョロインと殴られて当然系主人公が揃ってやっとお話が回せるようになったし、まあこれからでしょ。

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