206.鬼門
『――えーっと、ライゼル選手……アレは、一体何なのでしょうか?』
『魔法を使った感じはしなかったな。原理とかサッパリ分からねえが、ありゃ単純に武器による攻撃だと思うぞ』
『魔力を使ったを使った攻撃ではあるんだろうけど、魔法という形にはしてないのは間違いないね。流石に魔法という形にしてたら気付くし』
戦いは、一方的であった。
ライゼルに近付く事も出来ず、一撃も当てる事も出来ず、対戦相手は沈んで行った。
戦いとすら呼べない蹂躙劇が終わり、舞台に刻まれた、まるで巨大な獣が暴れ回ったかのような、爪痕の如き痕跡を見る司会と解説二人。
『……分類としては、鞭なのかな? 攻撃の痕跡が直線または弧を描いてるパターンしか無いからね』
『あー、鞭系かー。それならこれも納得だなー』
『ただ、それだけだと予選を抜けた時の状況説明が出来ないね。まだ何か、手の内を隠してる気がするわね』
解説役らしく、ライゼルの手の内を考察し続けるドラグノフとカーミラ。
魔族側の最高戦力の座に居座っていたという、四天王の肩書は伊達ではなく、二人の考察は正にドンピシャであった。
ライゼルが用いたのは、ミスリル銀糸による斬撃攻撃であった。
その斬撃が目標から一部外れた結果、地面に真横の傷跡を刻んでおり、それに注目した結果がこの二人の考察結果である。
長いその銀糸は戦場で目視するには余りにも細く、だというのに流し込んだ魔力によって強度は鉄を遥かに凌ぎ、名刀も斯くやといった切れ味を有する。
そして糸状であるが故に、遠くまで伸ばす事が出来、薙ぎ払うように振るえば、振るったその直線状全てが切り刻まれる。
余りにも初見殺しな特徴を多く有した攻撃であり、初見の対戦相手はそれに対策する事も出来ず、敗北したという訳だ。
だが、次からはそうは行かないだろう。
初見殺しという事は、既知なら通用しないという事の裏返しでもある。
『接近戦も出来るし、魔法も使えるって事か? おめーみてえな奴だな』
『私は武器なんか使わないけどね』
『まあ、お前は素手でぶん殴ってるしな』
『人の事を暴力女みたいな呼び方しないで貰える?』
尚、四天王というのは魔王という暴力の頂点を守護する者達の名称なので、暴力女なのは確定である。
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防衛戦の本戦、二日目の日程はトーナメントの二回戦まで実施される。
つまり勝者は、今日は二回戦う事になっている。
「では、行って来るでござる」
その為、ミサトとライゼルは今日もう一度だけ出場する。
この戦いに勝利した者が、三日目に進出する事が出来る。
「行ってらっしゃい。団体戦の方で名を残したから最低限の目標は達したけど、参加した以上はそう簡単に負けないでよ? 優勝は無理だけど」
「優勝が無理だろう事は拙者も理解してるでござるが、それでも易々と負ける気は無いでござるよ」
セレナなりの声援を背に受けながら、ミサトはそう言い残して扉の向こうに進む。
そもそもこの大会はトーナメント形式であり、尚且つライゼルも同時に参加している以上、何処かでライゼルと当たる事になる。
フィーナ達三人がかりでも勝ち目が見えないライゼルと、サシでだ。
どう足掻いてもそこに勝機は無く、ライゼルとぶつかった時点で負け確定である。
なのでミサトは良くて二位であり、優勝出来ない事を承知の上で参加した。
ミサトは、武人の気質が強い。
己を高め、強者との戦いを磨き砂とし、切磋琢磨。
そういう在り方のミサトからすれば、この闘技場という舞台は願ったり叶ったりな場所なのだろう。
「――所で、次のミサトの対戦相手は誰なの?」
「えーっと……この表、字が小さくて見辛いのよねぇ……もっと大きくしてくれれば良いのに」
予選で相当数が振り落とされたとはいえ、本戦進出者だけで数百人単位で残っている。
その参加者の名前を連ねた表ともなれば、文字数も相当である。
一枚の紙に収めようとすれば当然ながら、文字を小さくするか紙を大きくするかの二択になる。
そして紙を大きくするとかさばるので、必然的に文字を小さくする事になる。
フィーナとセレナがミサトの参加に気付いていなかったのは、この文字の小ささも原因の一つなのだろう。
「……って言うか、もう今やってる試合も終わったし、読み上げ待てば良いんじゃない?」
『――さあ、二回戦第二試合! これは注目カードとなっております!』
「ほら、言った側から」
実況席からのアナウンスが始まり、セレナとフィーナの視線と耳が舞台へと向けられた。
この第二試合に、ミサトが参加するのだ。
その対戦相手の名に、二人が意識を向け――
『オッズも過熱しております! この対戦カードはどう転ぶか分かりません!』
『まー、団体戦の優勝者だしなあ。それに、あの時の戦いを見るにミサトって奴の戦闘力は相当なもんだって事は良く分かってるしな』
『私は見てないから、何とも言えないわね。そんなに強いの? ミサトって子』
『まあ、間違いなく言えるのは滅茶苦茶速いって事だな。あの速さだけは、あたいが若い頃でも捉えるのは中々面倒だったと思うぜ?』
『へえ、そんなに? だけど、それでも対戦相手が対戦相手だからねぇ。流石に順当にあっちが勝つと思うよ? 私は直接手合わせはしてないけどね』
『……ああ、そうか。お前はあの時あの場に居たんだっけか』
『私が相対したのは、ガレシアって人の方だったけどね。でも、アレと同格なんでしょ? 相当ヤバいわよ?』
『何しろ、あの先代勇者一行の一人にして、現聖王都近衛隊長ですからね! その実力は折り紙付き! ミサト・リエゾン選手VSロンドキア・ストラグル選手ッ! いよいよ試合開始ですッ!!』
――ファーレンハイトが誇る、最強の一角の名が、読み上げられた。




