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205.駄目って言われなかったから

 防衛戦初日、決勝トーナメントへの進出を決める予選大会はつつがなく終了した。

 特に波乱が起きる訳でもなく、順当に強者が勝ち上がる結果となった。

 百人中一人しか勝ち上がれない形式ならば、思わぬ所で強者が予選敗退という結果も起きるかもしれないが、進出枠が五名ともなると、そういう紛れも発生しようが無いという事だろう。


 予選終了後、ライゼルの予選突破とチーム黒犬の優勝を祝しての祝賀パーティーを開こうとセレナが画策するも、肝心のライゼルが姿を現さなかった為、パーティーは未開催となった。

 別に優勝記念という意味だけなら、セレナ達三人だけでも問題無く出来るのだが、ライゼルが参加しない祝勝会にはセレナは興味無いようだ。

 そして企画能力のあるセレナが開催しなかった為、祝勝会は自然とお流れの方向になった。


 翌日。

 予選が終了し、いよいよ本戦が開催となり、闘技場都市の熱気は最高潮となっていく。

 予選で実力の無い選手が振るい落とされた結果、本戦進出者は誰も彼もがツワモノばかり。

 その中には、武で名を馳せた国の防衛に携わるような最高戦力達の名も散見される。

 そんな武名の中に紛れて、ライゼルの名があった。


 先日までのライゼルがそうだったように、団体戦の部が終了した今現在、フィーナ達は用事が無い状態となっている。


「へえ、まあそれなりに広いね」

「――うわっ、何か凄い」


 その為、開いた時間を利用して闘技場観戦をする事にしたのであった。

 フィーナ達が足を踏み入れたのは、横幅が広めな長方形の形状をした部屋である。

 片方一面が全てガラスで出来ており、そこからは中央闘技場を俯瞰視点で観戦する事が可能となっている。

 高級そうな家具も備え付けてあり、そこまでグレードが高い訳ではないが、飲み物も常備されている。

 所詮は観戦用の部屋なので、トイレや風呂といった水道絡みの設備や寝室なんかは無いが、それを除けばちょっとした宿のような見た目だ。


「こんな部屋、一体どうしたの?」

「んー? ほら、優勝者の特権ってのは使ってなんぼでしょう?」


 フィーナの疑問に、セレナが答える。

 フィーナ達は、この闘技場という晴れ舞台で、過程や方法は何であれ、優勝と言う快挙を成し遂げた。

 この闘技場都市では、勝者には様々な特権が与えられる。

 その特権により色々、金銭的に優遇されるのだ。

 闘技場都市内における、飲食店や武具の類の商店にて、割引サービスが受けられたり。

 そして今回のように、闘技場の個室型観客席を利用する事も出来るのだ。


「ここでなら、ライゼル様の活躍を特等席で見物できるって訳よ!」

「でも、こんなお祭り騒ぎだとこんな良い席なんて真っ先に埋まっちゃうんじゃないの?」

「ああ、それは大丈夫よ。ここは関係者以外には解放されてない区画だからね。そして、私達はその関係者になったって事よ!」


 闘技場都市内にて特権を得た、つまり先日の優勝により、フィーナ達はこの都市限定ではあるが、特権階級になったのだ。

 尤も、その特権も永久と言う訳ではなく、長くても一年程度しか持たない。

 その特権を引き続き享受したいのであらば、再び勝ち取るしかない。

 それが、力こそが正義という、この闘技場都市における法なのだから。


「所で、ミサトさんは何処行ったの?」

「さあ……? 今朝からもう部屋に居なかったけど、もしかして闘技場の席取ってたんじゃないの? こんな場所で見れるなんて私、知らなかったし。ミサトも知らなくて席取っちゃったとか? というか、セレナも前もって教えてくれたって良いじゃない」

「えー、そもそも何でこういう所を調べておかないのって言いたいんだけど? 普通は調べるもんじゃないの?」


 フィーナとセレナが問答をしている最中、試合開始のアナウンスがされたのでそこで問答を中断する。

 室内に置いてあった椅子をガラスの近くまで引っ張り、闘技場の舞台へと視線を移す。


『――この間のを見てる分には、次の試合はかなり期待出来そうだな』

『へえ、結構評価高めじゃない。何かあったの?』

『この間の大会の優勝チームの一人だからな』

『実際、この試合のオッズはかなり偏ってますからねー』


 解説役のドラグノフとカーミラの発言に、司会が続ける。


『――さあ、それでは続いて第四試合と行きましょう! グウィネス・オスロー選手VSミサト・リエゾン選手です!』

「「――何か出てる!?」」


 フィーナとセレナが、ハモった。



―――――――――――――――――――――――



 本戦の初戦となる戦いは、見事ミサトが勝利を収める結果となった。

 ミサトが何か隠していた新たな手を見せたという事もなく、既に公開していた手のみで相手を押し切り、最後は相手の首を刎ねて決着であった。

 倍率の高い予選を勝ち抜いた相手だけあり、流石のミサトも瞬殺とは行かなかったが、苦戦するという程でも無かったようだ。


「――何で個人戦に参加してるの!?」

「いや、参加したら駄目とは誰にも言われてなかったし、団体戦とも日程が被ってる訳では無いから、良いかなー、と思った次第でござる」

「団体戦の後に個人戦まで参加するなんて、どんだけバトルジャンキーなのよ……?」


 試合後、ミサトを引っ張って観客席に戻って来たフィーナとセレナ。

 連戦形式ではなく、トーナメント式の大会なので、一度勝った後は次の試合まではしばらくインターバルがある。

 その間だけは、ミサトもこの観戦席に居ても問題は無い。

 問題は無いのだが……いくら闘技場では体力は元通りになるとはいえ、精神的な疲労は発生する。

 団体戦での激しい戦いを終えた後にそのまま個人戦にも参加するというのは、精神的に相当摩耗する筈である。

 しかしミサトは、特に苦に感じている様子は無かった。


「しかし、こんな個室を貸し切りに出来るとは。先日の大会で優勝したというのは、思っていた以上に大きな功績だったんでござるなぁ」

「……まあ、私達はここで観戦してるから。ミサトさんの試合が終わったら、ここに戻ってくれば何時でも観戦出来るよ」

「これだけ良い位置で観戦出来るのは、助かるでござる。他の選手の観察もし易そうでござる」

『続いて、第十二試合! ミューティー・チシャ選手VSライゼル・リコリス選手の試合です!』

「あっ、ライゼルの試合だ」

「ライゼル様ー! そんな奴瞬殺しちゃって下さい!」


 喜色を乗せた声援を送るセレナ。

 予選ではほとんど手の内を明かさなかったライゼルだが、本戦からは流石にそうも行かないだろう。


 ここからは"駆除"ではない、ライゼルの"戦い"が、衆目に晒される事となる。


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