204.初見格下殺し
時間が来たので、舞台へと上がる。
周囲を見渡すが、特別強そうな相手は見当たらない。
まあ、確かに強い奴も居るんだろうが、その強者と予選でぶつかるという事には期待していなかった。
強者というのは少数だ、そしてその少数を大量の参加者が数で薄めている。
となれば、そう易々と同じ場に立つ事は無い。
まあ、勝ち進めば否応無しに当たるだろうさ。
この広い舞台に集められた、百人の猛者。
そして勝ち上がれるのは、たったの五人。
もしかしたら予選だけはチームで勝ちを拾いに来る奴が居るかもしれないが、最後に残るのはたった一人だけ。
それに、そんな方法で勝ち上がったとしても、予選以外は全て個人戦なのだから、結局最後は個と個の戦いになる。
自分以外は全て敵、それがこの大会のルール。
『――北ブロック、第七試合! 開始!』
開始の合図が出ると同時に、気迫に満ちた声が響き、剣戟の音が響く。
その声の一部が、こちらに向かってやって来た。
巨大な戦槌を振り被り、馬鹿正直に真正面から。
……ま、手応えがありそうな奴が居ないならしょうがない。
予定通り、コイツで雑魚は瞬殺して終わりだ。
それに、こんな手はアイツには通用しないだろうし、出し惜しみする理由も無い。
奥の手、と言うような代物ではないが。
今回の為に用意した小道具。
ロンバルディア共和国にて作られたという、気体を貯蔵しておけるという小型のタンク。
中には既にお目当ての気体を充填してあり、解放すれば内部の気体が一気に炸裂する。
そいつを迫る戦槌に向けて、叩き付ける。
不審な動作に僅かに戦槌の持ち主が表情を変えるが、意識を切り替え、構わず破壊する判断を下したようだ。
このタンクを破壊する程度の破壊力はあったようで、叩き付けたタンクに亀裂が走り、破裂音と共に、その亀裂から膨大な気体が漏出した。
「あばよ、名も無き雑兵ども」
その気体―― 一酸化炭素を、操作する。
後はこのまま、闘技場全てを包み込む。
自前で生成出来る量の限度を超えていたので、今回は小道具に頼ったが。
どんな手段であれ、必要量を確保出来れば後はそれで終いだ。
見えない、聞こえない、感じない。
この不可避の一撃必殺、理解してなければかわせないし、理解していてもかわせるとは限らない。
何しろ息をしたら、それで終了なのだから。
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『――え、あれ? 北闘技場の第七試合、もう終わったそうです』
北闘技場の審判からの報告を受け、注目選手を注視していた司会が意識を北闘技場へと向ける。
『――何だ? 一体あっちで何があったんだ?』
『えー、審判からの報告によると、一分未満で試合が終了したようです』
『……あっちも百人なんだよな?』
これまでの試合の中で、最短決着であった。
余りにも早すぎる決着の為、ルールの確認ミスでもあったのかと、ドラグノフが確認してくる。
『そうですね、百人です。規定では5人残った時点で終了となるのですが、勝者である一人以外が一瞬で全滅したそうです』
『えっ? その場合はどうなるの? やり直し?』
『いえ、やり直しにはなりません。そもそもわざわざ予選の再試合に時間を割く時間の余裕は無いので、次の試合数が削られて終わり、というルールになっております』
ごくまれに、審判が止める暇も無いまま、あっという間に瞬殺されて終わる事も過去にあった為、そういうルールが既に定められていた。
『昨日のみてえな感じで大規模な破壊魔法でも使われたのか?』
その可能性に、ドラグノフが言及する。
彼女が想像したのは、先日の団体戦にてセレナが引き起こした、大破壊。
その破壊力には、ドラグノフも目を張る物がある程だ。
『それが、何も壊されずただ勝手に選手だけが倒れて行ったという報告なのですが……一体、何があったのでしょうか?』
『……何か強力な呪いの類でも使ったのかしら? でも、そんな呪いは準備に時間も用意も必要だから、こういうよーいドンで始まる戦いじゃロクに使い物にならないはずなんだけど……あっちに注目し過ぎて全く見て無かったから何もコメントしようが無いわね』
コメントしようが無いとは言いつつも、先日のドラグノフより余程参考になる解説を残すカーミラ。
ドラグノフと違い、カーミラの戦闘スタイルは魔法を主体とした物である。
その為、脳筋の極みであるドラグノフと違い、非常に的を得た説明だ。
しかしながら、やはり現場を見ていないので、何をしたのかまでは推測が付いていないようだ。
『因みに、勝ったその一人ってのは誰だ?』
『ライゼル・リコリスという人物のようですね。参加履歴も無い、初出場の選手のようです』
『聞いた事ある? 私は知らないけど』
『いや、ねえなぁ』
『――あっと。今入った情報によると、どうやらこのライゼル選手、先日の団体戦優勝チームである、チーム黒犬が所属しているユニオンの構成員の一人だとの事です!』
『……ん? 団体戦に一緒に参加しないでこっちにだけ参加したって事か?』
団体戦に参加した者は、防衛戦に参加出来ない――というルールは無い。
その気になれば、どっちにも参加は可能。
闘技場の中では、死んでも元に戻るのだから、当然ながら体力の消耗も無い。
精神的疲労を除けば、どっちにも参加するというのは普通に有りである。
『何か秘策があって、そのネタバレしたくないからこっちに出た、とかじゃないの?』
『何にせよこのライゼル選手、無名ながらも一気に注目選手になった事は間違いないでしょう。次の試合は、要注目ですね!』
どういう手口だったのかが理解出来ない実況席側は、理解出来なかった以上そこから先に言及する事も無く、次の試合へと視線を戻す。
防衛戦の初陣を、ライゼルは難なく勝ち上がっていくのであった。




