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203.防衛戦、開幕

 闘技場都市が、震えていた。

 比喩表現ではなく、割と文字通りの意味で震えているのだ。

 今この闘技場都市に、ファーレンハイト領内に限らず、世界中から参加者、見物客が一挙に集っている。

 大山鳴動、と言うべきか。

 下は貧困層、上は王侯貴族まで。

 人種性別階級一切関係なく、あらゆる者達がここへ集っていた。

 勿論、闘技場の席には限りがあるので、全員が席に座れる訳ではない。

 持てる者は快適なボックス席で、持たざる者でも立ち見や、街中のスピーカーに耳を傾けるという、見える形での格差はあるものの、全員が全員、なんらかの形で闘技場で繰り広げられる戦いを注視し、耳を傾けていた。


『――さあ、いよいよ始まりました! 年に一度の"防衛戦"ッ! 司会はおなじみの私と、解説役として前日に引き続き元魔王軍四天王、ドラグノフ様に足を運んで頂きました!』

『よぉ、また来てやったぜ。今日が本命って話だし、あたいの娘が参加するしな』

『そして、なんとなんとなんとォ! 飛び入りゲストとして、解説席にあの方がいらしてくれたぞおおぉぉッ!!』

『……』

『あ、なんかそこの金属塊に向かって話すと良いらしいぞ?』

『これ? なんか変な物体ね、新手の魔法道具?』

『違うらしいぞ。何か魔法に一切頼らず声を遠くまで飛ばせるらしい』

『へー、変な道具もあったものね。私の知らない間にとんでもない代物が生まれてるじゃない』

『えー……こちら、何と魔王軍にて現役の四天王、カーミラ様が解説役として来てくれました』


 司会者の意に従わず、独自の空気で勝手に喋り始めたのを見て、もう良いやという態度を隠しもせず、さっさと紹介を済ませる司会者。

 その後、この大会の詳細な内容について話し始めた。


 この"防衛戦"は予選の部と本戦の部に分かれており、今日行われるのは予選の部である。

 参加者は参加費を支払えば誰でも参加出来、その参加費というのも運営への手数料みたいな微々たる額であり、下手すれば子供がお小遣いを溜めて参加する事すら可能である。

 参加費以外に参加者を振るい落とす物は存在しないので、参加する人数は膨大な数になる。

 なので東西南北中央、この都市にある五つの闘技場全てを使って予選を消化し切る事となっている。


『――そういえば、アンタの娘もこれに参加するんでしょ? 何処に何時出るの?』

『あいつ、教えてくんなかったからなー』

『何? 親に見られたくないっていう思春期特有のアレ?』

『あいつもまだまだ子供って事だろうなぁー』


 そして当然、行われる予選の戦いも膨大。

 試合形式も本戦とは異なり、多人数でのサバイバル、それが同時に行われている為、流石に全ての試合を一つ一つ見ながら解説、というのは四天王と呼ばれる実力者でも、物理的に不可能である。

 見る為の目の数が、足りないからである。

 なので、こうして雑談のような……というか、雑談をしている訳である。

 勿論、解説役として呼ばれたのだから、解説をする時もある。

 注目選手が出る試合や、この二人の目に留まるような行動をした者には、その言が向けられる。


『でも、ここに置いてある試合予定表に参加者の名前書いてあるよ?』

『お、本当じゃねえか!』


 目を輝かせるドラグノフ。

 自分の娘の活躍を見たいという親心だろうか?

 人だろうが魔族だろうが、こういう親の心理は何処の世界でも変わらないのかもしれない。


 尚この予選だが、一応賭けも行われている。

 しかし参加者が膨大であり玉石混合、実力者が混ざった卓ではその実力者にベットが集中し、オッズが成立しない為、本当に一応、という形になっている。

 この予選がサバイバル形式という事もあり、しかも大会を彩る実力者が予選でアッサリ敗退、という事にならないよう、生き残った一人という訳ではなく、今回は100名が同時に戦い、5名が残った時点で試合終了という方式を取っており、強者と強者が予選でぶつかっても、片方がはじき出されるという結果に成り難いのも、あまり賭けが成立しない原因の一つになっていた。

 成立するとすれば、その強者が混ざっていない試合だろう。

 だがそれもあまり本気で賭ける者は居らず、あくまでも本命は本戦のカードとなっている。

 しかしそれでも、予選はこれだけ賑わっている。

 この予選での試合内容を見て、決勝に進出した選手の誰を推すか、それを決めるというのが恐らく最大の理由なのだろう。

 本戦の賭けは、巨額が動く。

 上手く勝ち馬に賭け続ける事が出来れば、それこそ一生を暮らせるだけの金が手に入ると言っても過言ではない。

 となれば、予選で有力な選手をピックアップしておく事の重要性は高いと言えるだろう。

 

 この予選で生き残る人数は固定ではなく、参加人数比によってこの本戦進出者の数は変動するが、今回は95%が予選で振るい落とされる比率のようだ。


『――あっ、南闘技場の試合が終わったみたいね。予定表だと次にあそこでやる試合にアンタの娘が出るみたいよ』

『おっ、そうか! まあ予選で落ちるようなヤワな女じゃねえし、もし予選落ちするような事があったら――後でミッチリしごいてやる』

『さあ! 解説席の元四天王ドラグノフ様の娘にして、現在四天王として"竜将"の名を継いだ選手が遂に南闘技場にて参戦! これは注目です!』


 司会実況の言が向けられた事で、南闘技場の観戦者達がヒートアップする!

 そして南闘技場での戦いが始まる中、北闘技場での戦いが一段落した。

 皆が南闘技場での試合内容に着目する中、静かに北闘技場にて新たな戦いが始まる。


 名のある実力者の居ない、無名ばかりの猛者達。

 その中に混ざって一人、黒衣の男が姿を現すのであった。

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