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199.三本の矢-5-

『――散発的な戦闘が続くフィーナ選手VSティオ選手、互いにイマイチ動きが見えないセレナ選手とキャロル選手の両選手とは打って変わり、目まぐるしい程に激しい打ち合いを続けるミサト選手VSミーア選手!』

『この戦いの決着が、そっくりそのままこの戦いの決着になるだろうな。食い破った瞬間その勢いのまま他のチームをまとめて壊滅まで追い込める程度につええからなぁ』


 戦況を分析し、今後の顛末の予想を立てるドラグノフ。

 今のミサトとミーアの実力は、キャロルからの支援込みで拮抗している。

 膂力を乗せ、石の柱すら一閃で両断する程の破壊力と速度を持ったミーアの一撃を、見事に捌き切るミサト。

 ミーアの用いている剣は両刃の一般的な部類の剣だが、ミサトの剣は刀という分類の剣。

 刀というのは力任せに叩き付けるのではなく、当てる瞬間に素早く引き、その切れ味で敵を斬殺せしめる代物だ。

 故に、剣という分類にはなっているが、剣の中では剃刀に近い性質を持っている。

 それはつまり、通常の剣よりも強度的には劣る、という事でもある。

 叩き切る剣と、切り裂く刀では、打ち合いになった時では刀の方が不利。

 故に、ミサトはミーアとの打ち合いの際、刀の側面を滑らせるような形で受け止める事で、インパクト時の勢いを削り落とすというテクニックを用いていた。


 だがそれは、集中力と繊細な体捌きによって成し遂げられる技。

 その体捌きが、今は寒さによって精彩を欠いている。

 ミーアが振り抜いた刃が、再びミサトに迫る。

 ミサトの背後には木を模した石が存在し、飛び退いて避けるという選択肢が取れず、当然ながらミーアもそれを計算に入れての攻撃だ。

 しかしこの状態では当然ながら、再度ミサトも刀による防御を試みる。

 だが、刀の側面を滑らせるようにして弾く防御が、今回は何時もより遅く、そして懐に近い位置であった。

 直撃でこそ無いが、引き寄せ過ぎた攻撃が、僅かにミサトの右腕を掠った。


 寒さによって生じた僅かな綻びが、遂に目に見える形で姿を現した瞬間であった。


『――ッ! こ、これは!? あのミサト選手に、ミーア選手! 遂に一撃を入れた!』


 これまでの道中、ミサトは一度たりとも直撃を受けた事は無かった。

 服に攻撃が掠る程度はあったが、出血を伴うような攻撃を受けた事は皆無。

 だがそれは、ここまで。

 遂にミサトが、一太刀浴びた。

 それは少量ではあるが、腕から滲む鮮血が覆せない事実として物語っていた。

 だが、ミーアは表情を変えない。

 自分達の作戦が遂に目に見える形で効力を発揮し始めたものの、所詮自分が与えたのは、まだ掠り傷程度。

 勝ち誇るには、まだまだ早いと感じているのだろう。


『――ああ、成程。そういう事か。そこまで考えてやがったのか? 良くそれをやろうと思ったなぁ』

『……あの、ドラグノフ様? 一人で納得してないで解説して頂けると助かるのですが……』

『試合開始の時点と、今のミサトの動きを比べたら、なーんかミサトの動きが鈍ってきてるように思えたんだよなぁ。勘違いかと思ったが、さっき一撃貰ったのを見て確信したわ。明らかに、ミサトの動きが最初よりも鈍ってやがる』

『それはつまり、ミサト選手に疲労が溜まって来てるという事でしょうか?』

『それで半分正解だな』

『半分ですか? では残り半分は?』

『確かにミサトの奴が疲れて来てるってのはあるんだろう。でもそれはミーアの奴も同じ条件なんだ。だから、疲労って意味ならお互い同じ位消耗していってるはずなんだから、疲労だけならミサトが後れを取るって結果には繋がらねえよ』


 発した言葉に熟練者としての色を浮かべながら、司会の言を受けて説明を始めるドラグノフ。

 そして、正解のもう半分へと言及する。


『そりゃなー、ずっと雨に打たれてれば寒くもなるよなー。魔力で防御しちまえばそれで終わりって話だけど、それはつまり、雨なんかを防ぐ為に余計に魔力を消耗しちまうって話だわな。トリリオントリオの連中みたいに、最初から厚着して寒さに備えてればそんな事しなくて済む――ってか』


 厚着とは言ったが、勿論戦闘に支障をきたさない程度の軽い装備だ。

 だからそれが原因で、キャロル達の動きが鈍る事は無い。

 対し、フィーナ達にはそれが無い。

 相手がこう来ると最初から分かっていたならば、厚着をしてくるという選択肢もあっただろうが、キャロル達がこの舞台で見せたこの作戦は、初お披露目だ。

 事前準備が必要な作戦を、初見で対処しろというのは流石に無茶が過ぎるというものだ。

 それに、戦闘をするのであらば可能な限り装備を軽くするというのは基本中の基本だ。

 外套を着るという、僅かだろうが動きを鈍くするような事をする訳が無かった。


『魔力を余計に消耗して寒さを回避するか、それをせずに身体が冷えて来たか――どっちにしろ、長期戦をするには苦しい環境だなこりゃ』


 ドラグノフは、現役だった頃は四天王の中でも見事なまでに脳筋であった。

 魔法を用いての細かい戦略だとかは無縁であり、それを力技で無理矢理ぶち壊す側だった。

 だからそんな戦略戦術の類は理解出来ないが、脳筋ではあっても馬鹿ではない。

 肉弾戦のみで四天王という地位に着いていただけあり、近接戦闘における観察眼は本物。

 開始時と現在におけるミサトの動きを比較して、妙に所作が鈍くなっている事を見抜いたのも、何故ミサトだけが先にへばり始めたのかというのを考えれば、何故そうなったかの原因にも辿り着ける。


『な、成程! 特に攻撃でもない雨を降らせるというこの行為、実際攻撃では無かったものの、相手だけ一方的に弱体化を強いるという役目があったという訳ですか!』

『今はまだ掠り傷程度だが、このまま続いたら間違いなく、先に崩れるのはミサトの方だな。キャロルとかいう奴、大した策士だぜ。ああいうのはあたい、敵に回したくねえなぁー』


 愉快そうに笑うドラグノフ。

 観客側にも明確に勝負が動き始めた事が分かり、俄然熱気が立ち昇る観客席。

 勝敗、明暗が、確実に近付いて来ている。



 そして実際、この状況から僅か数分で決着がついた。



 だがそれは、闘技場に居た誰もが想像しなかった、斜めの方向による物であった。


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