198.三本の矢-4-
『さあ、キャットファイトと呼ぶには余りにもレベルが高い団体決勝戦! ポテンシャルの高さ的にはチーム黒犬が速攻で決めてしまうかと思いきや、相対するチームトリリオントリオも流石決勝まで駒を進めた実力者! あのミサト選手をミーア選手がたった一人で食い止めている! そして嵐のように暴れ回るフィーナ選手! しかし、それ以外の動きがイマイチ分かりませんね。一体どういう状況なのでしょうか?』
『ティオって奴がチョロチョロと何か狙ってる感じだな。フィーナって奴にチマチマ攻撃してはいるみたいだが、ロクにダメージ入ってる感じしねえな。狙いは別にあるってか? セレナとキャロルは最初に動いたっきりで後はなーんも動いてねえな』
戦いに関しては初心者の実況が、解説役であるドラグノフに対し説明を求める。
水を向けられたので、自分の見ている限りで分かる内容を言葉として発するドラグノフ。
『そういえば、あの雨が降り出してから戦況が硬直し始めたように思えるのですが?』
『そうだな。間違いなくあの雨は、普通の雨じゃねえな』
『まあ、魔法で生み出した雨ですから普通の雨ではないですね』
『そういう意味じゃねえよ』
闘技場では雨が降っているが、本日の天気は快晴。
雲もほとんど無く、この試合がかなりの長期戦の様相を呈している事もあり、徐々に夕方から夜へと移行しつつある時刻。
西日から夜の闇へと、少しずつ変化していく。
『つってもなぁー、生憎あたいはああいう小賢しい小細工とは無縁だったからなぁー。あの雨に何かカラクリがあるのは間違い無いんだろうが、何を何処までしてる、みてえなのは分かんねえなぁー。こういうのはクレイスかカーミラ辺りにでも聞けば分かるんだろうけどなぁー』
『……もしかして、他の四天王の方もお招きした方が良かったでしょうか?』
『そうした方が良かったかもなぁー!』
交じりっ気の無い高笑いを上げるドラグノフ。
年老いて随分と小さくなってしまったが、若かりし頃の彼女の在り方は――猪突猛進。
竜種という、強靭な肉体とエルフにも並ぶ程の長命、そして人型であるが故に爪や牙ではなく、多彩な武器を用いて戦えるという器用さ。
致命傷でなければ容易く傷を癒し、そしてその頑強さを生かして強引に敵陣を食い破る。
小賢しい小細工を、彼女は幾度と無くその目で見て、体験して来た。
何故ならば、そうでもしなければ戦場で暴走するドラグノフを、人類が止める事が出来なかったからだ。
そして止められたかと言えば――ほとんど止められなかった。
流石にそれを仕掛けて来た相手が勇者や、それに準ずる者であらば、彼女程の傑物であっても足を止めざるを得なかった。
だがそれ以外の全てを捻じ伏せて来ており、だからこそ、こういう搦め手に関しても詳しい! ……と、言えたら良かったのだが。
緻密な作戦、罠に真正面から突っ込んで、力技ゴリ押しで強行突破!
器用さと言うが、槍以外ロクに使っている所を見ない!
魔法で捕縛とか色々画策してたのだろうが最後は「何かよく分からんけど思いっ切りぶん殴ったらいけた」的なニュアンスで済ませて帰って来る!
超! 脳筋ッッッ!
『で、ではこの戦いが終わったら、一体どのような作戦だったのかを説明して貰いましょう!』
魔王軍元四天王、ドラグノフ。
格闘戦という事ならば頼りになる解説だが、魔法はからっきしの彼女には、この戦況を説明し切るにはおつむが足りなかった!
―――――――――――――――――――――――
セレナは、焦っていた。
フィーナやミサトと違い、セレナは近接攻撃手段を持たない。
それ故に、敵を見付けてぶつかっていくという手段が取れない。
寧ろ、敵を見付けたら捕捉しつつも距離を離さねばならない。
そして距離を取った上で、敵を的確に潰していく。
それが、魔法使いとしての在り方として最適解だからだ。
だが、この雨によって視界が悪くなり、敵の姿を見付けられない。
敵の姿を確認し、そこから適切な距離を取るという手段が取れない。
しかしそれでも、手が無い訳ではない。
ある程度距離が離れていても、仲間の魔力を探る程度はセレナ程の術師であらば息をするかの如く出来る。
仲間の位置さえ分かれば、それを元に敵の位置をある程度推測する事も可能だろう。
だが、雨に混じったキャロルの魔力という余計な不純物によって、味方の位置を探る事も出来なくなってしまっていた。
これによって、敵から距離が離れているのだから好き放題魔法を乱射する、という手法も使えない。
味方の位置が分からなければ、フレンドリーファイアを引き起こす可能性があるからだ。
そして、今はまだ敵が近くに居ないが、それも何時まで続くかは分からない。
厄介な術者を潰すのは、戦いの基本だ。
だから、セレナは今間違いなく、索敵対象に入っているはずなのだ。
そしてそれは実際正解であり、フィーナを相手取りながらという形ではあるが、少しずつティオがセレナの潜伏しているであろう場所を探りつつある。
今はまだ見付かってはいないが、それも時間の問題だろう。
雨によって風の流れも淀み、視界が悪化し、魔力探知を潰され、魔法使いとしての五感を潰された状態だ。
そしてセレナにとって一番潰したい相手であるはずのキャロルに至っては、最早影も形も感じられない。
否、正確には感じ過ぎていた。
何しろこの雨にはキャロルの魔力が混じっているのだ。
降り注ぐ雨によって至る所からキャロルの気配が放たれており、そのせいで逆に何も見えない、感じられない。
キャロルは、自分の気配という葉を隠す為に、闘技場を包み込む雨という森を作り出したのだ。
これら全てを、魔法によって雨を降らせるという、ただの一手のみで作り出した。
個々の実力では、確かにセレナ達の方が上手なのだろう。
だがここまでの戦況を見れば、チームの戦略という点では、キャロル達の方が二歩も三歩も先を進んでいた。




