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19.朝帰り

 俺は今、王立魔法学院の学生寮、その一室に居る。

 ベッドに腰掛け、待ちぼうけの状態だ。

 ここに来た理由は、先程の戦闘で衣服がボロボロになってしまったので、セレナの着替えと、寮生であるプリシラという少女にルビィという名のカーバンクルを返す為である。

 既に完全に夜になっているはずであり、そろそろ人々は床に着く頃合だというのに。


「――えっ? えっ?」

「セレナ……! だ、誰その人?」

「私の黒衣の王子様……♪」


 セレナが俗に言う、恋人繋ぎと呼ばれる手の繋ぎ方をしている所を数名の女学生に見付かり、その生徒達へ恍惚に満ちた表情でセレナが返答をした所。


「大変よ! セレナが! セレナが男連れてる!?」

「嘘でしょ!?」

「ハァ? セレナの恋人って夢の中だけの王子様なんじゃないの!?」

「セレナの想い人って現実に存在したの!?」

「嘘だろ!? あの学園一の美形で秀才の男でさえ玉砕したのにか!?」

「貴族の息子様すら袖にしたんだぞあのセレナは! 誰だよその男は!」


 ……ものの数十分で、まるで学園中が蜂の巣でも突いたかのような騒ぎになり。

 下手すれば男子生徒達が暴動でも起こしそうな空気すら出てきた為か、急遽教師陣が出張ってきて鎮圧するという一大事にまで発展した。

 この室内にまで雪崩れ込んで来てもおかしくなさそうな雰囲気だったのだが、不思議な事にと言うべきか幸いな事にと言うべきか、そこまでの事態には至っていない。

 なので今現在、この部屋には俺一人だけである。

 というか、セレナって所詮はこの学院の一生徒にしか過ぎないんじゃないのか?

 なのに何でこんな学院中を引っ繰り返したような騒ぎが起きてるんだ?


 尚、当事者であるセレナは衣服を脱ぎ捨て、今現在入浴中である。


「こんな汚れた格好じゃ、ライゼル様の隣に居るのに相応しくないから」


 とは彼女の弁である。

 身奇麗にするので、少しここで待ってて欲しいとの事だ。


 ククク……! 今この部屋には俺様と、後は浴室に一糸纏わぬ生まれたままの姿であるセレナしか居ない。

 男は狼と言う言葉もあるし、これで襲わないのは寧ろセレナに対して失礼だというモノだろうグヘヘ。

 据え膳食わぬは男の恥。ましてや相手は俺様が見てきた女性の中でもとびっきり、間違いなく五指に入るであろう美女である。

 そして周囲の反応からして、セレナはこれまで何人もの男に言い寄られ続けてたみたいだが、その全てを断ってきたというのが推測出来る。

 まああれだけの美貌を持っていれば、言い寄る男の十人や二十人、不思議でも何でも無いだろう。

 つー事は男性経験が無い、つまり処女か。

 しかもどういう訳か、セレナは俺様にホの字って奴だ!

 俺様が一番槍で純潔散らしちゃっても良いんじゃねえのコイツはよぉ! ぎっひぇっひぇっひぇ!



 ――ハァ、馬鹿馬鹿しい。



 先程まで考えていた事を無造作に横に放り投げる。

 この部屋は、セレナとプリシラっていう女生徒の相部屋だって話だ。

 鼻腔を突くは、女性の部屋特有の香り。女性の持つフェロモン交じりの体臭に混ざり、香水や化粧品の匂い等。

 部屋には魔法学院らしく、教科書や魔法に使用する道具なんかも置いてある。

 散乱してはおらず、しっかりと棚に纏められている辺り、この部屋の住人であるセレナとプリシラはどちらも几帳面なようだ。


 まあ、そんな事もどうでも良い。

 どうしてあんなにセレナが俺なんかの事を好いているのかは知らないし、思い出せない以上それを追求する気にもなれない。

 思考を止め、暇潰しがてら俺は懐から懐中時計を取り出し、その蓋を開ける。

 規則正しく時間を刻み続ける時計盤に目を落とし、俺は体内を巡る魔力を操作し、魔法を発動する。

 規模は、本当に最小限。魔力を絞り、精密な操作を行う。没頭し、時間の流れから置き去りにされるような、そんな感覚を覚える。

 暇さえあれば、俺はこの魔法の鍛錬を続けている。

 どれだけ追っても、離れて行き。その背中に触れる事すら出来ない。

 そんなアイツに唯一勝てる、俺だけの武器。

 他の全てで負けていても、これだけなら勝てると。そう考え俺はこの武器を磨き続けた。

 今までも、今も、そしてこれからも。

 アイツを、アイツ等を。越える為に。



 この俺が、「最強」になる為に――



「――あ、あの……」


 集中し、伸び切っていた時間を止めて現実に引き戻したのは、横から飛んで来た少女の声であった。

 横を向くと、扉を開けて入ってきたプリシラの姿があった。

 流石に着替えたのか、最初に会った時の酷い格好ではなく、普段通りと思わしき姿だ。


「セレナから聞きました。貴方がライゼルさん、ですよね? 私のルビィを、助けてくれてありがとうございました」


 プリシラの肩には、先程セレナが賊の手から救い出したカーバンクルの姿があった。

 プリシラが深々と俺に対し頭を下げると、落ちそうになったカーバンクルが器用にプリシラの肩から背中へ移動する。


「助けたのは俺じゃねえぞ」

「でも、ルビィを助けてピンチになってたセレナを助けてくれたんですよね? セレナって、すっごく強いからあのセレナが追い詰められるような相手が居るってのが信じられないけど……セレナが嘘付くとも思えないし、きっと本当の事だと思うから。やっぱり、ライゼルさんにお礼を言うのが正しいと思うんです」


 出会った当初は追い詰められていた為、気が動転していたのだろうが。

 こうして落ち着いた状態だと、プリシラは随分と礼儀正しい素直な良い子である事がその言動から滲み出ていた。

 きっと普段の日々を、希望に満ち溢れた素晴らしい思い出になるような、そんな明るい毎日として生きているのだろう。


 俺とは違って。



 脱衣所の方から、何やら騒がしい音が聞こえる。

 何だ一体、と思い脱衣所のある方の扉に目を向ける。

 目を向けた途端、脱衣所の扉が勢い良く開け放たれる!


 まだ拭き切れていないのか、そのセミロングの髪からは水滴が滴り落ち。

 胸元をタオルで申し訳程度に隠し、目を見開き室内を凝視するセレナが飛び出してきた!

 胸元をタオルで、の時点で当然なのだが。セレナは下着一枚すら付けていなかった。そして視線を向けていたせいで、バッチリ見てしまった。色々と。


「――ッ、何だ、プリシラか……」

「せ、セレナ!?」

「ビックリさせないでよもう……」

「ちょっとセレナ!? 何で落ち着いてるの!? ちょっ、服着てよ! 男の人が居るんだよ!?」


 ローブというのは着ていると体型が分かり辛いが、セレナもその一人だ。

 何も来ていない状態で姿を現したセレナは、シルクのような肌という例えがピッタリな白い素肌。

 掴めば零れ落ちそうな程に豊満な胸を有し、締まる所は締まった、くびれのある身体。

 痩せ過ぎて骨が浮いている訳でも無く、かといって太っている訳でもなく。

 男ウケする、女性としては理想的な肉体美を有していた。

 美貌だけではなく、肉体美すら完璧。貴族様とやらが言い寄ってくるのも無理は無い。

 眼福。


「御免なさいライゼル様。もうちょっとだけ待ってて下さいね♪」


 そう言い残し、再び脱衣所の奥へ消えていくセレナ。

 扉を閉める時、チラリと桜色の突起が見えてしまった。

 イカン、気を乱すな俺。


「……何か、御免なさいライゼルさん」

「プリシラ、だったか? 何でお前が謝ってんだ?」

「本当に、普段はあんな子じゃないんです。普段はもっと落ち着いてるっていうか、冷めてるって言うか……」


 普段もなにも、俺様本当にさっきという表現しか無い位の短い間のセレナしか知らないのだが。


「あんな興奮してるセレナなんて精々――」


 そこまで口にし、ハッとした表情を浮かべるプリシラ。

 まるで今までの謎が全て解けたかのような、そんな感じだ。


「もしかして、貴方がセレナが普段何度も口にしてた王子様ですか!?」

「俺様王族なんかじゃねえぞ」


 何だよ王子様って。

 それはこの国の頂点であるアイツの事だろ。

 違うか、アイツはもう王子様じゃなくて王様か。


「セレナって、昔酷い目に遭って、そこから助け出してくれた人を本当に好いてるみたいなんです。何でも――」


 プリシラの口から、先程セレナから聞いたような内容と同じ話を聞かされる。

 暗闇から救い出してくれたから、好きになった。

 そんな経験、無いから何の共感も覚えない。


 俺は、助けてくれる存在なんて居なかった。

 俺の目の前は、真っ暗なまま。

 ずっと、ずっと。あの時から、闇の中だ。


「――待たせて御免なさいライゼル様♪」


 今度はちゃんと、衣服を着た状態で姿を現したセレナ。

 ……うん、衣服は着てるんだ。

 メチャメチャシースルー、スッケスケの服である。下着が普通に見える。

 風俗嬢か何かと疑いたくなるような扇情的な格好だ。


「ゴメンねプリシラ。私、これからライゼル様と大切なお話しないといけないから♪ 今日は誰かの部屋に泊めて貰ってね」

「ちょっ、ちょっとセレナ!? 何その服!?」

「ライゼル様と夜伽をするなら、これ位しないと駄目だからね☆」


 暴走するセレナを必死に制止しようと試みるプリシラ。

 あー……うん、何となくセレナとプリシラの普段の関係が分かった気がする。


「っていうか! よ、よよっよ夜伽って……ェ!? セレナァ!?」


 口を鯉のようにパクパクと動かし、耳まで真っ赤になる程に赤面するプリシラ。


「どうですかライゼル様~! 私、何時かまた出逢える事を信じて、強くなれるように、ライゼル様好みの女になれるように、ずっと努力してきたんですよ!」


 風呂上りだから化粧をしている訳が無いはずなのに、セレナの顔付きは最初に逢った時となんら変わらない。

 スッピン美人って事か。

 最早衣服は着ていないと言っても問題無い程の薄着で、セレナは俺の横に座り、腕に手を回し、その豊満な胸を腕に押し付けるように密着させる。

 薄着なせいで、先程とは違いその柔らかさが直に伝わってくる。


「セレナ! ちょっと落ち着いて! さっきからおかしいよ!」

「おかしくないよ!!」


 力強く断言するセレナ。

 何だろう、目付きが少し怖い。


「やっと! やっと逢えたんだから! 私は今日、ライゼル様と結ばれるの! 邪魔しないで!」

「だから落ち着いてってばセレナぁ!?」


 何故だろう。

 ただの女子同士の言い争いのはずなのに、何故かセレナから殺気のような気配が漂ってきたぞ?


「よーし、落ち着け二人共。折角の美人なのに二人が言い争いしてるとか俺様悲しくなっちゃうなぁー」

「えっ!? は、はい! 落ち着きましたライゼル様」

「よし、落ち着いたか。じゃあセレナ、目を閉じろ」

「えっ……? は、はい……」


 素直に応じ、目を閉じるセレナ。

 何故か目を閉じるだけでなく、口を尖らせ突き出してもいる。


 ……魔法を発動させ、その結果セレナはポフンとベッドに倒れ込んだ。


「はい、落ち着かせたぜプリシラちゃん」

「……ライゼルさん、一体セレナに何をしたんですか?」

「んー、ちょっと寝て貰っただけだ。大丈夫だ一切命に別状は無ぇよ」

 

 本当、この方法便利だなぁと何時も思う。

 そう、少しばかり気を失わせただけだ。

 魔法を扱う者には、適正という物がある。

 炎を操るのが得意だとか、水を生み出すのが得意だとか。

 個性となんら変わらない、人によって違う魔法の特徴

 俺は、その中でも風属性の魔法に対する素質があったらしい。

 俺がやったのは、気体の操作。

 大気中に存在する、空気成分を意図的に偏らせた気体を精製する。

 コレに抗うのは、呼吸を行っているモノである限り不可能。

 何しろ気体は透明だから見えないからな。防げるとしたら、事前にその存在を知ってなきゃ無理だ。


「そうですか……えっと、ライゼルさんはこれからどうするんですか?」

「ん? 俺様も何か疲れたし、このまま寝させて貰うぜ」

「え゛」


 プリシラの発言に、濁点が混じる。

 何で濁点が混じったのかは知らないが、それはさておきセレナに布団を被せる。

 流石にあんな格好じゃ風邪引くからな。


「宿まで帰るのも面倒だ。悪いけど今日はここで寝るわ」


 欠伸も出てきたし。

 久し振りに暴れたから少しだけ、本当に少しだけ疲れたしな。

 暴れたっつーても2割も実力出してないけどな。


 セレナを寝かせたベッドは結構デカいので、セレナの横で寝転がっても充分なスペースがあった。

 床で寝るかとも考えたが、硬いのは嫌なのでセレナの隣で寝る事にした。

 グヘヘ、こん位してもバチは当たらないだろう。


「……眠い、んじゃプリシラちゃーん、おやすみだぜ……」

「あ、寝るって本当にそういう意味で……」


 そういう意味も何も――って、セレナは多分そういう意味で迫ってたのかもしれないが。

 俺はその一線を越える気は無い。



 その線を越える奴は許さない。

 俺から向かう気は無いし、ましてや俺の心にズカズカと踏み込んでくるような奴は絶対に許さない。

 友人? 恋人? 家族?

 そんなモノ、俺には必要ないし、作る資格も無い。


 そんな甘さ、弱さなんかがあったら。

 到底「最強」になんて届かないのだから――



―――――――――――――――――――――――



「いやっほぉ~! 今日も元気してたかな~フィーナちゃ~ん! 俺様ってば朝帰りしちゃったぜぇーキエッヘッヘヘヘヘ!」

「……おいライゼル。今まで何してたのか答えなさい」


 おやーん?

 フィーナちゃんの口調が怖いぞー?


「聞きたい?」

「さっさと言え」

「デ・エ・ト♪ そういうお前はなーに律儀に待ってんだよ健気な乙女かよ。あ、乙女じゃねえか! どっちかっつーと犬だな! 忠犬フィーナ公! おーよしよし良い子に我慢して待てが出来たんでちゅねぇ~! んー……フィーナ公ってなんかゴロ悪いな……」


 ボフエッ!!!




フィーナ「約束すっぽかして女連れて帰ってくるとか流石に殴っても許されるはず」


シリアスなようなギャグのようなそんな感じ

この物語は終始こんな感じにしていければ良いなと思ってる

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