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18.こくいのおうじさま

新年明けましておめでとうございました

「やっと! やっと逢えた!」


 左腕に嬉しそうに抱き付いて来るセレナに対し、どう対応するべきか悩む。

 は? 一体何だ?

 ねえ何が起きたの?

 なーんかさっきまで俺が受けてた塩対応っつーか冷徹対応とは真逆の反応なんですが。


「やっと逢えたって……俺、そもそもセレナちゃんとはさっき逢ったばっかじゃねえの?」

「違います! 服装も態度も全然違ったから最初は分からなかったけど、私、小さな頃にライゼル様に助けて貰ったんです! もしかしたらライゼル様は忘れてるかもしれないけど、貴方のお陰で私は、あの暗くて寒い闇の中から抜け出せたんです!」


 目元に涙を溜め、必死さすら感じる口調で説明してくるセレナ。

 んー、つーてもねぇ。

 俺様、こんな可愛い子を助けた記憶なんて無いんだけど。

 どうでも良いような記憶はぜーんぶ魔力として燃やしちまうから、もしかしてその絡みか?

 いやでも、こんな可愛い子を助けるなんて記憶、忘れるなんて事無いと思うんだけどなぁ。

 だって俺様、世界中の女性を愛する男だし。

 でも強くなれば何時か逢えるって信じて疑ってないって事は、多分過去に逢ってるんだろう。


 俺は、強い奴を今までずっと探し続けてきた。

 全力を出すに値する、それだけの強さを持つ相手を。

 雑魚を倒しても全く強くなれない。あの壁を越える為に、その為だけに。俺はずっと行動している。

 昔も、今も尚。


「ありがとうって、お礼を言いたくて。でも探したくても何処に居るのか全然分からなくて……! それでも強くなれば何時かまた逢えるって信じて、ずっと頑張って来たんです! なのにあの男に負けちゃって……」


 あの男……さっきの覆面と外套で全身隠した野郎の事か。

 手酷くやられてたみたいだしな。

 まあでもこの俺様がてきとーにチンタラ戦ってるだけだと責めあぐねる程度の力はあったみてえだし、強さの基準で言うならあの野郎は上から数えた方が早い部類に入るんだろう。

 一学生程度の戦力で相手にするのは荷が重かったって事なんだろう。


「まあ何でも良いけど、取り敢えず離れてくんねーかな?」

「あっ!? ご、ごめんなさい! こんな汚い格好で、迷惑でしたよね?」

「いや汚いとかはどうでも良いんだけどよぉ」

「……あ、あの……私、ちゃんと強くなれてましたか……? ライゼル様にもう一度逢いたくて、ずっと、ずっと頑張って来たんです」

「んー……?」


 強いかどうか、か。

 ま、あの男相手にあれだけ善戦したなら。それは充分実力者と呼べる力量ではあるのだろう。

 俺からすればまるで足りないとしか言いようが無いけどな。


「まぁ、強いんじゃねえの?」

「本当ですか!?」


 花が咲いた、という表現がピッタリな。満面の笑顔を浮かべるセレナ。

 そんな表情を見て、俺様には到底及ばないけど、という言葉を飲み込む。

 レディを傷付ける趣味は無いからな。


「んじゃ、俺様そろそろ行くわ」

「えっ……?」


 ひしっ。

 といった感じに再び腕に絡み付いてくるセレナ。


「……何だ? まだ何かあるのか?」

「うぇっ!? えっ、えっと……その」


 引き止めた本人が混乱している。

 どうやら自分の意志ではなく、反射的に俺の腕を掴んでしまったらしい。


「その、ライゼル様はこれから何処へ行くんですか?」

「んー? まあ別に教えるのは良いんだけどよぉ。それを知ってどうする気なのさ?」

「あ、あの……!」


 まごまごとした様子を見せるセレナ。

 言うべき言葉が見付からないのか、薄紅色の唇をパクパクと動かす。

 やがて意を決したのか、一度目を伏せ、キッと目を見開いてセレナは言葉を口にする。


「――私、ライゼル様と一緒に付いて行きたいんです!」

「……は? 何でさ?」

「私――私は……」


 セレナの頬が曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の如く真っ赤に染まっていく。

 しかし、もう口にしてしまったのだとばかりに覚悟を決めたようで。


「私は! 貴方が――ライゼル様の事が好きなんです! ずっと、ずっとあの時から! 貴方の事だけを考えて生きてきたんです! もう離れたくない! ずっとライゼル様と一緒に居たいんです!!」


 そこまで言い切り。

 セレナの顔がまるで湯気でも出るんじゃないかとばかりに蒸気、じゃなくて上気している。


「……えー……」


 何で? 何でさ?

 俺、こんな可愛い子に好かれるような事、全くしてねえぞ。

 俺はもうずっと、自分勝手に行動し続けてきた。

 そんな俺が、何でこんな純粋な好意に晒されてる訳?


「人違いじゃね? セレナとか言ったよな? 俺、一切好かれるような行動した記憶が無いんだけど」

「人違いなんかじゃないです! 助けられたあの時から、私の心の中でずっと貴方の姿が消えなくて。ずっと想い続けている間に、好きになっちゃったんです!」


 わーお、熱意が凄い。

 恋心、つーのか? さっきからセレナから迸る魔力の量が凄まじい。

 魔力ってのは、魂や記憶、感情といった物の総称だ。

 強い感情は強い魔力を生む。

 セレナから駄々漏れしてるこの魔力は、そっくりそのままセレナの想いの強さを示していた。


「……も、もしかして……私なんかが一緒だと、迷惑ですか……?」

「迷惑っつーか、俺様と一緒に居ても全く良い事無い所か、下手すりゃ死ぬぞ」


 だって俺、そりゃもうありとあらゆる方向に喧嘩大安売り押し売りセールスマン状態だし。

 いやそれ以下か。自宅に押し入って商品を勝手に置いた挙句金庫を破って金を根こそぎ奪っていくし。


「なら私がもっと強くなれば良いんです! さっきは不覚を取ったけど、次は負けないです! 絶対に!!」


 何か、語気が強い。強すぎる。

 熱意も凄いし、下手すれば断られたらこのまま舌を噛み切って死んでやるって気配すらする。

 おいおい――それは流石に勘弁してくれ。

 俺なんかが原因で、悪党でもなんでもない人が死ぬのは御免だ。


「あっそ。まあ付いてきたいなら好きにすれば良いんじゃねーの?」


 何だか熱い眼差しをセレナは向けているみたいだが、それは心象の中の架空の王子様だ。

 俺は決して王子様なんかじゃない。

 それに、弱い奴ならそもそも俺の道程に付いて来れずに振り落とされるだろう。

 仮にそこは大丈夫だったとしても、心象と現実の落差に幻滅して、勝手にその内去っていくだろう。

 俺が断ると角が立つなら、相手に嫌いになって貰えば良い。


 俺は、好かれる必要なんてない。

 好きになんてならないし、嫌いになってくれた方が余程良い。


「本当ですか!?」


 そんな俺の心境を知ってか知らずか。

 色よい返事を貰えたとばかりに小躍りするセレナ。


「えっと、それで。ライゼル様は次に何処へ行く予定なんですか?」

「取り敢えず北上だな。目的地を辿るルートを考えると、ロンバルディア領にある鉄道網を利用しながら移動した方がサクサク要件が進められるからな」


 俺一人、単身ならば鉄道なんて移動手段に頼る必要は無いんだが。

 生憎俺にはフィーナとかいう引っ付き虫がいる。

 あの猿は俺みたいな移動手段を持ってないから、鉄路を行くというのは完全にフィーナに対する配慮である。


「あっ! ライゼル様、出発って何時ですか?」

「こんな夜から出発はねえな。早くても明日の日が昇ってからだな」


 あの野郎と遊んでる内に、もう完全に空にはお月様が昇っちまったしな。


「今日はもう帰って寝ないとな」

「だ、だったら……私の部屋に来ませんか? それに、この子もプリシラに返してあげたいし……」


 この子――ああ、すっかり忘れてたけどセレナがこんな場所まで来た理由ってそのカーバンクルを助けるのが目的だったか。


「おやーん? こんな夜更けに男を自室に招くなんて、セレナちゃんってば、だいたーん! こりゃ俺様、狼にならない方が失礼ってもんだなぁ~ぎっひぇっひぇっひぇ!」

「ライゼル様、狼になっちゃうんですか?」

「なっちゃうかもなぁ~俺様も男だしぃー!」

「ライゼル様と……そっか、夢じゃないんですよね……でも私、ライゼル様となら……」


 そこまで口にして、俯き途端に黙りこくるセレナ。

 ……あれ? 何かおかしくね?

 普通ここは、「最低!」とか「変態!」とか言われるのがパターンなんじゃねえの?

 何でそんな、まんざらでもないって感じの態度取ってるの?


「じゃ、じゃあ……行きましょう、ライゼル様……」


 ねえ待って。何で自然に俺の腕に手を回してるの?

 これアレだよね? 街中で良く恋人なんかがやってるアレですよね?

 何か腕に布越しのせいで分からないけど明らかに胸が当たるような密着っぷりなんですが?

 この数時間で急進展し過ぎじゃないですかね?

 何でこの子、そこまで俺なんかに気を許しちゃってる訳?

 過去になんかあったらしいけど、俺は過去に一体何をしたってのさ!


「えっ、お、おう……」


 混乱している思考がそのまま口調として現れてしまい、何とも情けない返答を返すに留まる。

 どうしよう。

 罵倒されたりぶん殴られるのは慣れてるけど、こんなパターンは初めてなせいでどう対応するべきか全く分からん。

 いっそ、逃げるか?

 いやでも、フィーナ置いて逃げる訳にも行かないしなぁ。

 あの女、勝手に置いて行ったら何処までも執念深く追って来そうだし。

 何かこのセレナっていう子からも、似た空気を感じる。

 ストーカーが倍率ドン! は流石に面倒臭いってレベルじゃない。



 ……やっぱ、嫌いになって貰うのが一番穏便だよな。

 このセレナって子は、フィーナみたいに執念深いタイプじゃない事を祈りながら。

 俺はセレナに引っ張られながら闇夜の中へ消えて行くのであった。

セレナ・アスピラシオン


アスピラシオンの意味は『憧れ』『熱望』『願望の対象』

キャラのネーミングは意味も考えずてきとーに付ける時と明確に何らかの意図を持たせる時とで半々位です

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