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184.物語の交差点-不死の姫

「――あらあら、随分強いのねあの子」


 男の獲物であろう戦斧ごと、魔法による突風で吹き飛ばしたライゼルの勝利。

 納得が行かない男が何度もライゼルに挑むも、結果は変わらず。

 何度でも同じように、闘技場に設置されたスタジアムの場外に吹き飛ばされて終わりという事実が変えられない。

 その気になればいくらでも相手を殺せるというのに、ただ吹き飛ばすだけに留めている辺り、ライゼルは若干配慮加減しているようだ。

 結局、男は悪態を吐きつつ逃げ出すという結果で終わった。

 ライゼルによるワンマンステージであった。


「あの、さっきから食べてるその臭い食べ物……何ですか?」

「スルメ。食べる?」

「いらないです」

「それなら一つ頂くでござる」

「え゛っ、食べるのそれ……!?」

「昔、父上が食べているのを分けて貰ったでござる。イカの干物でござる、結構美味しいでござるよ」

「美味しいの? なら食べてみようかな?」

「嫌よ! そんな臭いの食べないよ!?」


 そんなワンマンステージを最早見る価値無しと視線から外し、腰掛けた観客席で騒ぐフィーナ達。

 デカい声を出してるのはセレナだけであり、フィーナとミサトは黒マントの女性からの御裾分けであるスルメを頬張っていた。

 強烈なイカ臭に距離を取るセレナ。


「所で、何で貴女も一緒に付いて来てるんですか?」

「一応、巻き込まれた以上最後の結末まで見届けようかなって思ったからね。最悪、私が直々に相手しようかなとかも考えたけど、必要無かったみたいだね」


 手にしていたスルメを千切って口に放り込みつつ、話を続ける黒マントの女性。

 セレナが更に距離を取った。


「それに、この闘技場都市の施設ってのも見てみたかったしね」

「ここにわざわざ一人で訪れたという事は、腕に自信があるのでござるか?」

「うーん、別に自信がある訳じゃないけど、一応弱いつもりは無いかな?」

「成程、人を見掛けで判断するのは良く無いという典型でござるな」


 この黒マントの女性は、肌を覆っている面積が非常に少なく、世の女性が羨む白く綺麗な肌を惜しげもなく晒していた。

 故に、外見から全く筋肉が付いていない華奢な身体が容易に見て取れる。

 それでこの闘技場都市の下層に来ているのだから、見た目からは分からない、何らかの戦闘能力を隠し持っているのだろう。

 セレナのように、何らかの魔法で戦うのかもしれない。


「所で、貴女達はあの子の彼女さんか何か?」

「 幼 馴 染 で す 」

婚約者(フィアンセ)です」

「師匠でござる」


 一人だけ妙に口調を強めて強調するフィーナ。

 絶対に彼女になんて見られたくないという強い意志を感じる口振りである。


「そう言えば、貴女は何ていう名前なんですか? 私はフィーナって言うんですけど」

「私? 私はカ――あっ」


 口元を抑え、咄嗟に言葉を引っ込める黒マントの女性。

 逡巡(しゅんじゅん)した後。


「――取り敢えず、イカのお姉さんで」

「イカのお姉さん」


 名前を言うのを拒んだ。

 名乗りたくないにしても、余りにも適当な、偽名ですらないあだ名である。


「何か、名前を言えない深い事情でもあるのでござるか?」

「……うーん、この闘技場都市を見てる分だと、もう名乗っても問題無いのかな、とは思うんだけど……ちょっと、踏ん切り付かないかなぁ」


 空を見上げ、僅かに目を細める。

 容姿端麗、少女の可愛らしさと大人の美しさを両立させたその女性は、ただそれだけの所作で、同性すら目を奪われる程に美しかった。

 そのまま空間を切り取って、額縁に収めるだけで芸術品になる程。

 片手にスルメが握られているせいで、全て台無しになっているが。


「それにしても、随分と時代は変わったわねぇ……こうして、人と魔族が本当に共存してるなんて……」

「なんか、言ってる事が年寄り臭くないですか?」


 イカ臭から距離を離していたセレナが言及する。

 確かにファーレンハイト領では珍しい光景かもしれないが、ロンバルディア領ではごく普通に見られる光景である。

 迫害された人と魔族の混血児や、僻地に追いやられた人達が集まった結果、建立されたのがロンバルディア共和国というのが世界における共通認識の歴史である。

 国の礎となった、とある少女が人と魔族とその混血児を筆頭に、血筋容姿一切関係無しに能力を重視して雇用した結果、ロンバルディアという国は完全に人種の坩堝(るつぼ)となっている。

 数百年前の認識ならばまだしも、この国が興されてから何百年と経過している現状、特にロンバルディア国内であらば人と魔族が共存している状況など、ごくごく当たり前の光景だ。


「おっと……まあ、取り敢えずこの騒動は一段落って事で、一旦お暇しようかな?」


 席から立ち上がり、黒マントの女性もとい、イカのお姉さんは笑顔で手を振ってフィーナ達と別れ、闘技場を後にしていった。


「――お前等、何食ってんだよ」

「スルメ」

「何でスルメなんか食ってんだよ」

「何か、イカのお姉さんがくれた」

「イカのお姉さんって何だよ」


 入れ違いで、フィーナ達のもとに戻って来たライゼル。


「さっきまで一緒に居た、何か黒いマント羽織ってた綺麗な女の人だよ」

「そのイカのお姉さんとかいう奴は何処行ったんだ?」

「……何? 追い掛けていってまたナンパでもする気? 綺麗だったからねぇーあの人」


 半目でライゼルを睨むフィーナ。

 美人の女性と見れば、声を掛けずにはいられない。

 そんなライゼルの有り様を知っている為、もしそうならフィーナは即座に襟首掴んで止めるだろう。


「――あ、あー! そういう! いやー、フィーナちゃんってばヤキモチ妬いてるってかぁ~? そういう束縛する女はモテないぜぇ~?」

「誰がヤキモチなんか妬くか! 人様に迷惑掛けるのやめろって言ってんのよ!」

「まぁ俺様イケメンだしぃ~? フィーナちゃんがヤキモチ妬くのも理解出来るんだけどさぁ……まあ、まさかあんな分かり易い恰好でうろついてるとは思えないんだけど、一応名前聞いておこうかなって思ってな」

「名前なら、さっきフィーナ殿が訊ねてたでござるが、何やらはぐらかしてたでござるな」

「……いや、まさかな。あんま強そうには見えなかったし、人違いだろ」


 結局、ライゼルはただの勘違いと結論付け、闘技場を後に――しない。


「折角来たんだ、もう一戦やるぞ」

「えー!? もうご飯食べて寝る感じだったのにー!?」


 間近に迫ったフィーナ達が参加する団体戦に向け、更なる追加の特訓が決まるのであった。

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