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181.個と群

 外周が円の石壁で覆われ、床も石床。

 特に目立った装飾も無く、遮蔽物も無い、ただただ平坦で広大な空間。

 闘技場都市の東ブロック、その中でも最も広い、メインのステージにライゼル達は居た。

 数万人規模の観衆を収容出来る、これまた広大な客席も存在しているが、この客席はがらんどうであり、非常に物好きな見物客が一人二人居る位である。

 その一部例外の人を除けば、ほぼライゼル達の貸し切り状態だ。


「どれ、どうせ俺様の用事まで暇なんだ。不甲斐ねぇ戦いしねえようにちょっくら稽古付けてやる。ありがたーく思えよ? そして俺様の事を師匠として崇めろ」


 闘技場の利用は興行以外では出来ないという訳ではない。

 揉め事の解決等にも使われている為、私用での使用は可能である。

 勿論、管理費や手数料として多少の金銭は取られるが、それでも微々たる金額だ。

 今回ライゼル達が居るステージは、最も広く、大規模なイベントが開催される際に使用されるような場所だけあり、それなりに良い金額がする。

 しかしそれでも金貨数十枚程度であり、大都市のメインステージという、付加価値的にも間違いなく高額になるであろう広いスペースを借りているにしては、破格も破格である。


 そして興行だけでなく今回のように、鍛錬目的で使用される事も良くある事である。

 闘技場の利用方法として最も有名なのは、やはりイベント――興行である。

 しかし興行となるような、金の動くような舞台での戦いは、しっかりとした段取りを踏んでから行う必要がある。

 参加者の募集、集客、広告、係員の配備――そういった諸々の準備があるので、さあ来たぞ今すぐゴー!

 ……という、飛び入り参加みたいな事は不可能。

 偶然そういった大会が開催されており、しかも飛び入り参加枠が空いているなんていう幸運でもあれば話は別だが、今回はそういった幸運も特にない。

 なので今現在、このメインステージは特に使用予定も無かった為空いており、それを一時的にライゼル達が借り受けた、という形だ。


 この闘技場都市に存在している舞台は、非常に特殊な術式が施されており、この闘技場で戦う分には、例え肉体全てが吹き飛んだとしても"巻き戻る"という特徴がある。

 つまり簡単に言ってしまえば――死んでも元に戻るのだ。

 そんな馬鹿な話があるかと一笑に付したい所だが、事実である。

 "魔王"と、志を共にする規格外達が手を組み、練り上げ作り上げたその術式は、この世界の理すら捻じ曲げる程の強大な魔法としてこの場に存在し続ける。

 神に喧嘩を売るかの如き所業だが、生憎魔王に神罰の類が振り下ろされたという情報は特に無い。


 これは余談だが、魔王という存在を目の当たりにした者達からすれば、「あの魔王様なら神罰をはじき返して神様すら殺しに行きそうだ」との事。


「……手解きして貰えるのは助かるでござるが、急でござるな。何故このタイミングでござるか?」

「まあ稽古とは建前でちょっくら調子乗ってるフィーナの奴をシメるかってのが主目的で……まあそれは置いておいて」

「おい」

「そもそもお前等、個々での戦いはともかく、二人以上で組んで戦った経験殆ど無いだろ。個人プレイの延長戦で、団体戦勝ち抜けるとか思ってねえだろうな?」

「うぐっ」


 図星を突かれ、胸を抑えるセレナ。

 持ち前の経歴を生かし、技術的な仕事をしているセレナは、そもそも戦闘自体から少し距離を置いている。

 勿論、腕前が鈍らないように鍛錬位はしているが、集団戦という考えから一番離れているのはセレナだ。


 尚、フィーナの苦情は完全にスルーされる。


「拙者は、魔物討伐の依頼ばかり受けてたでござるから、二人以上で組む事も多かったでござるよ?」


 魔物討伐は、不意を打たれる危険性も考慮して、基本的に単独での行動は推奨されておらず、二人以上で行動するのが一般的である。

 討伐依頼ばかり請けていたミサトも当然ながらそれに倣い、毎度毎度顔触れは違うものの、二人以上で行動するようにしていた。

 なので、セレナはともかく、ミサトにはライゼルの指摘は当てはまらないように思える。


「……お前は、それ本当に"組んで"戦ってたのか?」


 半目でミサトを睨むライゼル。

 口では言っていないがその実、ライゼルはミサトの戦闘技術はかなり高めに見積もっている。

 実際に刃を交えたからこそ、かなり正確にその力量を認識しているのだ。

 少なくとも、無傷で取り押さえようという手段を封じられる程度には難敵だったからこそ、あの時のライゼルは、ミサトの腕を切り落とすという手段に出たのだから。

 そんなミサトが、持ちつ持たれつ、協力して戦う?


「その実、本当はお前一人だけ突っ込んで全部切り殺して終わらせてたんじゃないのか?」


 ミサトの戦闘力と釣り合いが取れるような奴が、そんな簡単に見付かるのか?

 とてもそうは思えない。

 それがライゼルの考えであった。

 二人以上で行動しているのは、確かなのだろう。

 でもそれは、ただ近くに居るだけだ。

 肩を並べて戦うという距離には程遠い。

 格下を連れて、格下の魔物相手に突っ込んで、全て切り伏せて終わらせる。

 そんな戦い方だったとしたら、そんなものはチームプレイとは程遠い。


 そして、ライゼルの発言に対して言い返す事も無く、無言を貫くミサト。

 その態度が否応なしに、ライゼルの考えが正しい事を物語っていた。


「図星か。まあ、それに関しては今はどうでも良いんだ。だがそんな在り方がここでも通用するとは思うなよ? サシでやり合ってる分にはそう遅れは取らないだろうが、団体戦ってのは横から魔法が飛んでくるような環境なんだ。二人も三人もまとめて相手にしようとかしてたら絶対にボコボコにされるぞ」

「一人の時とは違う戦略が必要って事ですよね?」

「そゆこと。そもそもお前等三人が揃ってる状況はここ最近無かったし、この機会に組んで戦う練習でもしとけって感じだな。フィーナをボコ――もとい、俺様が練習相手になってやるからよ」

「ねえ今何て言おうとしたのかな? おいハッキリ言ってみろ」


 笑顔で青筋立てるフィーナに対し、完全スルーで対応するライゼル。

 煽るだけ煽っておいて完全放置である。


「――お前等、俺とサシでやり合って勝てるなんて思ってねえだろうな? 組んで戦おうとしなきゃ、一瞬で終わるぞ」


 ライゼルが短剣を構えたのを見て、フィーナ達も各々の武器を構える。

 "個"の戦い方では、ライゼルという強大な存在に決して太刀打ちできない。

 これからフィーナ達はライゼルを相手に、否応無しに"群"の戦い方を学ぶ事になるのである。

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