179.適当だけど適当
「お前等、闘技場の団体戦で優勝しろ。出来なきゃユニオン解散で」
セレナがライゼルに構って欲しいと言った翌日、望み通りライゼルが構ってくれた。
ミサトも巻き込むという形で。
ベッドの上でゴロゴロしながら、「あっ、そうだ」みたいなノリでライゼルが爆弾発言をしてきた。
「へ?」
余りにも唐突な、正に今思い付きましたと言わんばかりの提案に、ライゼル以外の全員が目を丸くした。
「な、何でですか!?」
「思い付き」
「そんな適当な……」
「適当だけど、適当だぞ」
ユニオンというのは、いくつも生まれていくつも消えていく。
国中に名を轟かせる、そんな一大ユニオンなんてモノは既に市場を支配している。
無名のユニオンなんかが地道に頑張った所で、良くて低空飛行の維持が関の山だ。
人々は、知名度や看板というのを気にする生き物だ。
誰だって、入れるのであらば有名企業に入りたい。
待遇が例え同じだったとしても、有名企業と無名の企業であらば、人々は有名企業の方を取るだろう。
何故ならば、有名企業は実績があるからだ。
安定している、自慢出来る、金払いが良い、信頼出来る、積み重ねがある。
その看板という光に惹かれ、人々は集まって来る。
人が多く集まれば、それだけ選択肢が生まれる。
選択肢が多ければ、それだけ良い選択を取り易くなるのは当然の話だ。
良い人材を確保出来て、良い仕事が出来て、それが更に信頼と実績に繋がっていく、正のスパイラルへと繋がっていくのだ。
無名のユニオンには、それが無い。
ポッと出の新興勢力になんて、誰も身命を賭けてまで尽くそうなんて考えない。
強力なパトロンでも居るなら、信頼や保証にも繋がるのだろうが、ライゼル達に背景は無い。
だからこそ、無名のユニオン風情が成り上がる為には、実績が必要なのだ。
それも、世間という土埃舞う風の中、くすんで埋もれてしまうようなショボい実績なんかではなく、天空で燦々と輝く太陽の如く、大衆が無視出来ない程の強烈な閃光を放つ実績が。
「――この闘技場都市は、こと知名度って意味じゃあ、太陽になれる位の輝きがある。『あの闘技場都市で優勝した人物が在籍してる!』っていう看板は、他のチンケなユニオン風情を纏めて吹き散らかして、大衆のド真ん中で鎮座出来る位の錦の御旗だ。それがあれば、有名ユニオンとして羽ばたける翼になれる。だがそれが無いなら、所詮は一般市民の寄せ集めにしか過ぎない俺等に、他にどんな魅力的な看板を掲げられる? って話だよ。中途半端な低空飛行しか出来ないなら、いっそそんなモノに縛られず、スパッと終わらせちまった方が良い」
「……王立魔法学院の卒業生で成績も最上位、っていうのは看板にはなりませんか?」
「まあ、ならなくはないな。だがそれは、替えが効かない看板じゃあないぞ」
セレナという個人が持つ実績は、他のフィーナやミサトと比べれば、頭一つ二つ飛び抜けている。
世界的に有名な、ファーレンハイトの王立魔法学院を卒業し、在籍中の成績も優秀。
それは、無名ユニオンにとっては喉から手が出る程に光を放つ看板なのだろう。
しかしそれは、ライゼルの言う通り、替えが無い看板ではない。
そもそも、セレナはライゼル達に付いてくる為に、もう学院は卒業済みだ。
卒業した以上、成績上位者という席が空いたので、今はもう新たにその席に付いている人物が居る。
そして、その人物が成績上位のまま卒業したら、文面としてはセレナと同じ「有名学院の卒業生で在籍中の成績も優秀」となるのだ。
例えその人物とセレナの間に、実力差という名の溝があったとしても、そこまでは文面では推し量れない。
光っているか光っていないか、という問いであらば間違いなく光ってはいるのだが、唯一無二かと言われれば、そんな事は無い。
そして唯一無二ではないというのなら、そういう肩書きを持っている人物を、既存の有名ユニオンが囲っていない訳が無い。
ユニオンとして飛躍する為の武器としては、少し弱い。
「で、他に強力な手札がお前達に用意出来るかって話だよ」
「ライゼルじゃ駄目なの?」
「お前、何処かそこら辺を歩いてる奴を捕まえて、そいつに俺の名前を言って、通用すると思ってんのか?」
フィーナの質問に、現実というものを叩き付けるライゼル。
フィーナ達からすれば、まるで歩く天災か何かと言いたくなるような、理不尽な実力を有するライゼル。
だが、知名度という意味では実はそこまででもない。
聖王都継承戦争にて、決定打を叩き込んだという白黒の男女。
その異名は間違いなくファーレンハイト中に轟いているのだが……ライゼルはその黒衣の男が自分であると、大々的にアピールしていなかったのだ。
もしその当時、知名度を上げようと積極的に行動していたならば、ライゼルの名は間違いなく代替が効かない、錦の御旗になっていただろう。
だが当時のライゼルは知名度には興味が無い……というより、今でも興味が無い。
更に加えて言うのであらば、その当時の片割れ――白い女性の方にも問題がある。
その女性こそが、ライゼルの姉弟子にして"白焔の剣姫"――現、"勇者"なのだ。
勇者様という閃光が強烈過ぎて、黒衣の男の方が勇者様とその一行、といった具合に添え者扱いされてしまっている。
それが、大衆にとっての継承戦争に登場した黒衣の男――ライゼルの評価だ。
ライゼルがアピールしなかった為、この黒衣の男には偽物が多数現れている。
大半は化けの皮が剥がされたのだが、実力を持った上で名乗っている者も居るので、今現在でもこの偽物の黒衣の男、継承戦争の英雄は数名存在している。
ライゼルが知名度に全く興味を持っていない為、訂正もしないし取って代ろうともしないので、恐らくこの偽物達に関しては今後もそのままなのだろう。
「それに、俺の名前が通用したとして――それを当てにしてるようなら、もうお前等切り捨てるぞ」
「ちょっと位使わせてくれたって良いじゃん、ケチ」
「ケチじゃありませんー! 無能なお前等が悪いんですー!」
「……確かにライゼル殿の言う事を鑑みれば、今目の前にある、獲れる可能性がある看板とやらは魅力的ではあるでござるな」
「所で、何で団体戦なんですか?」
「んなモン、決まってんだろ」
ベッドから跳び起きながら、ライゼルが理由を口にする。
「――個人戦は俺が出るんだよ。お前等、タイマンで俺様に勝てるとでも思ってんのか?」
「「「無理」です」でござる」
出るのは団体戦だなと、否応無しに納得せざるを得ないフィーナ達であった。




