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172.招待状

「――では、確かにお渡ししました」

「はい。何時もありがとうございます!」


 配達員から配達物を受け取り、愛想よく挨拶するウラライカ。

 受け取ったのは二重に紐で括られた手紙の束であり、それを抱えたまま、エントランスホールに置かれた作業机へと戻る。

 机の上に手紙を置き、括られている紐をナイフでプチリと切ると、手紙は机の上に散乱した。


 この屋敷内の掃除は一通り終わり、ユニオンとしての活動も開始している。

 となれば、受付カウンターは必要だろうという事で、簡素な物ではあるが、このエントランスに受付カウンターとして机と椅子が設置されている。

 ウラライカは勤務時間の半分以上はこの受付カウンターで過ごしており、時折やってくる来訪者からのアポイントメント、そして今回のような郵便物の受け取りが主な仕事だ。

 勿論それだけでは手隙になるので、特に何も無い時はエントランスホールの掃除も行っている。

 受付から離れ過ぎると来訪者に対応出来なくなる為、それ位しか出来ないという点もあるのだが。


 届いた手紙の宛先を見て、宛先ごとに振り分ける。

 住所自体はこのユニオンが指定されているのだが、このユニオンに所属する誰に宛てられた手紙なのかを判別し、割り振る必要はある。


「――あれ? ライゼルさん宛て?」


 それは、このユニオンで働き始めてそれなりに時間が経ったウラライカにとっても、初めてのケースであった。

 届く手紙は、基本的にセレナ宛てばかりだ。

 ユニオンの顔役でもあり、ゴールドランクという実力者でもあり、交友関係も広い。

 ミサトやフィーナにも手紙が届く事が無い訳では無いのだが、ごく少数であり、届く手紙の9割はセレナ宛てと言って良い。

 だからミサトやフィーナ宛でも珍しいのだが――ライゼルに届く手紙は、今回が初めてであった。


「うーん……何処かで見たような……まあ、良いか」


 その封蝋に刻印された紋章を見て、既視感を覚えるウラライカ。

 見覚えがあるはずなのだが、思い出せない。

 だが、思い出せないという事は大した事ではないのだろうと判断し、振り分けを終えて次の仕事を始める。


 ウラライカは、田舎出身の人物であり、この聖王都で生まれ育った訳ではない。

 だから、この聖王都で暮らしている者であらば、常識とも言えるような事に気付けない事がある。

 もし、彼女がこの紋章の意味に気付けていたならば、振り分けると言わず、今すぐにでもライゼルを探し出して届けようとしただろう。


 その紋章は――ファーレンハイト王家のみが使う事が許された物。

 ファーレンハイトという国の頂点、王族から充てられた手紙という意味に他ならなかった。



―――――――――――――――――――――――



「ラドキアアリーナに行く」


 一枚の手紙を片手に握り締め、開口一番、ライゼルはそう告げた。

 ライゼルには普段着という代物は無く、何時も通りの黒装束である。

 何時戦いになっても対応出来るよう、常に装備を身に付けている。

 だが心なしか、ライゼルの装備が普段よりも重くなっているように見えた。


「……ラドキアアリーナって、何処?」

「ラドキア半島にある闘技場都市ラドキアアリーナの事ですね。新興都市の一つで、継承戦争後に作られたかなり新しい街の一つですよ」


 フィーナの疑問に、セレナが答える。

 ファーレンハイト領の端、ラドキア半島に建立された新興都市であり、魔族の住まう地、レオパルド領に最も近い土地でもある。

 法律上ではファーレンハイト領の一部という扱いになっているのだが、非常に独自権限の強い街、という特徴がある。


 また、ファーレンハイト領で唯一といってもいい、人と魔族が大手を振って歩く共生都市でもある。


「……そういえば、ラドキアアリーナは一度も行った事無かったなぁ。ライゼル様が行くなら、私も行こうかな?」

「闘技場……でござるか。腕試しにでも行くのでござるか?」

「ライゼル様に今更腕試しとか必要無いと思うんですけど?」

「でも何で、そんな所に行く訳?」

「やっと――やっと、俺の望みが叶うからな」


 天を仰ぎ見るライゼル。

 ライゼルの手に力が宿り、その手中でクシャリと手紙が潰れた。


「望み? 望みって何?」

「強い者も居るのでござるか?」

「そりゃー、闘技場都市って言う位だからねー。噂しか聞いた事無いけど、強くなければ食い物にされて終わるし、強ければ何処までも伸し上がって行けて、金も名誉も手に入るって話よ? 兎に角、一にも二にも腕っ節が必要。そんな街なんだから、強い奴が居ない訳無いと思うよ」

「そうでござるか……」


 エントランスの床をカツカツと叩きながら、ライゼルは扉を押し開けて屋敷を後にした。


「――ライゼル殿、拙者も御供するでござる」

「ライゼル様ぁ~ん! 私も一緒に付いて行きますよ~♪」


 僅かに目を細め、鋭い眼光を宿したミサトが、ライゼルの後に続く。

 それに一歩遅れて、全身からハートを漂わせたセレナが続いた。


「いってらっしゃいませー」


 そんな三人を、のんびりとした口調で見送るウラライカ。

 扉が閉まり、先程までの喧騒が嘘のように静まり返る室内。


「――あっ! ちょっと待ってよ!? 私も一緒に行くから! 置いて行かないで!?」


 置いて行かれた事に気付いたフィーナが、猛ダッシュで三人の後を追い掛ける!

 そんなフィーナを変わらずマイペースで見送るウラライカ。

 このユニオンに所属する主要メンバー全員を見送った後、何時も通り普段通り、受付カウンターで事務作業に専念しだすウラライカ。



 ライゼル達四人は、闘技場都市を目指して旅立つ。

 そしてこの街を契機に、ライゼル達はより大きな騒動へと巻き込まれていくのであった。

闘技場都市編、スタート

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