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156.フィーナの日雇いの日々

「――ふぅ、これで最後、と」


 最後の一箱を店の中に運び込み、一息吐きながら額の汗を拭う。

 ライゼルのアホが一月毎に金貨30枚とかいう馬鹿みたいな目標を設定したせいで、今日も私はこうして荷物運びの仕事を続けている。

 正確には荷物運び兼護衛という内容だけど。

 家賃にしても、高過ぎるでしょ。

 とか文句も言いたくなるけど、文句を言ってもお金が空から降って来る訳でも無いので、頑張る他無い。

 貧乏暇無し、だったっけ?

 そんな感じで休む暇も無い。

 ライゼルは屋敷でゴロゴロしてるのが滅茶苦茶腹立たしい。

 とんでもない大金払って、何でそんな平然とごろ寝出来るのよ。

 というか一体何処からあんな大金出て来たのよ。

 普段全く働いてる気配無いのに、一体どうやって金稼いでんの?

 犯罪? また何か犯罪行為やってるの?


「フィーナちゃんお疲れ! いやあ本当助かるよ!」

「いえいえ、私こそ助かってます。こんなに沢山お給料貰える仕事、他には無いですから!」


 私は聖王都に建てたユニオンとやらに居を構えてからは、ほぼ毎日この世界における大手企業とも言える、ルドルフ商会という会社の仕事を貰っている。

 最初はギルドの掲示板で仕事の取り合いをしていたのだが、何度も仕事に参加している内に顔や名を覚えられたようで、今では名指し指名で仕事を貰っている。

 何か、ユニオンを作った後はユニオンの知名度とやらを上げないといけないらしい。

 そういう意味では、顔と名前を憶えて貰ったというのは、良い傾向なんじゃないかなと思う。


「こっちも助かるよ。荷運びする奴等は体力はあっても戦闘はからきしだし、逆に護衛を頼むような戦闘力がある奴等は、荷運びなんざ下々がする仕事だー、なんてお高く留まりやがって。そのお前等が食ってる飯は何処の誰が運んでると思ってんだって話だよ」

「誰かが運ばないと、遠くの人達が飢えちゃいますからね」


 私のお父さんは、商人だ。

 だからこういう、流通というモノがどれだけ大切かという事は、子供の頃から良く知っているつもりだ。

 子供の頃から手伝いは良くしていたので、その流れで今の仕事をしている訳だが。


「そういうこった。フィーナちゃんは仕事も丁寧だし、それに強いんだから給料は遠慮なく受け取ってくれ。それでも普通に荷運び役と護衛の二人を雇うよりは安上がりだからな!」

「えー? そんなに強いですか?」

「またまた、謙遜するなぁ。今まで雇った護衛連中と比べても妙にフィーナちゃんは強く見えるぞ? まあ、戦闘に関しては俺は素人だからもしかしたら違うのかもしれないけどさ」


 謙遜じゃなくて、純粋な疑問なのだが。

 強い? ……強いかなあ?

 私よりセレナとかミサトちゃんとかの方がよっぽど強い気がするんだけど。

 更に言うなら、あの馬鹿に至っては負けてる姿が想像付かない。

 たまに街中で自分より弱そうな女の子を見付けて絡んでくるようなアホには負ける気がしない――ちょっと待ってこの例えあの馬鹿(ライゼル)が引っ掛かるんだけど!?

 街のチンピラに負ける、うわー、この例え方だと私雑魚じゃん。


「んじゃあ、次の商店で聖王都行きの荷物を受け取って、それが済んだら待機場で一旦時間潰しだ。人が乗るようならすぐ出るかもしれんから、あんまり馬車からは離れないでくれよ」

「分かりました。馬車が目に入る場所に居ますね」


 この後は聖王都まで折り返しだ。

 聖王都からではなく今度は聖王都へ運ぶ荷物を受け取り、馬車に積み込んだ上で発つ。

 その際、相乗りしたいという人が居れば一緒に馬車で同乗していく形だ。

 積み込む荷物が馬車の積載重量ギリギリの時はこういう事はしないのだが、馬車の重量に余裕がある時は、こういう風に乗客を募集する事もある。

 こちら側としては、一度の移動でより多くのお金を稼ぐ事が出来る。

 馬車に乗り込む側としては、座席も無いので通常の馬車と比べると少々乗り心地が悪いものの、その分値段が格安となっているので、通常の馬車と比べて割安で目的地まで移動出来るという利点がある。

 毎回毎回荷物をギッチリと馬車に詰め込んで目的地に向けて出発出来る訳ではないので、案外この待機場で待つ事は多い。

 毎回乗客が現れるという訳でも無いので、無駄な待機時間になる事もあるのだが。

 でも今回は、聖王都へ向かう便だ。

 この世界にある三大国家の首都へと向かう便なのだから、これで乗客が現れないとは思えない。

 遠目で見ていると案の定、乗客は現れたようだ。

 何人乗り込むのかは分からないけど、適当に時間を潰してから馬車の場所まで行こうかな。


 買い食いをしながら、日持ちする食糧をある程度買い込み、帰路に付くべく馬車へと舞い戻る。

 私が戻ったのに気付いた、ルドルフ商会の商人が声を掛けて来た。


「おお、戻ったかフィーナちゃん」

「今戻りましたー、そろそろ出発しますか?」

「ああそうだな、これ以上待つと次の街の到着に間に合わなくなっちまいそうだしな。じゃあそろそろ出発するとするか!」

「じゃあ皆さん、道中宜しくお願いします」


 今回の乗客は、三人のようだ。

 何時もより人が多いけど、首都に向かう馬車だって考えればまあそんなものなのかな?

 道中御一緒する方々に頭を下げる。


「――おや、貴女は確か」


 乗客の一人から、声を掛けられた。

 非常に長身で、私より背は高く、汚れ一つ無い白衣がとても似合っている女性だった。


「以前、ライゼル様という方とご一緒されていた方ですね?」

「……ああ! あの時の!」


 えっと、誰だっけ?

 何処かで会ったと思う、うん。

 でも……誰だっけか?

 うわー、どうしよう思い出せない。


「えっと、私自己紹介ってしましたっけ? フィーナって言うんですけど」

「してませんが、名前は伺っております。フィーナさんですね、私はキルシュと申します」


 そうそう、キルシュさんだ!

 良かった名乗ってくれて!

 結局何処で見知ったのか、思い出せてないけど!

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