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150.壁に黒い落書きする黒い奴

「――セレナが居なくなった後も、大騒ぎだったんだよー。あ、でもね? 入れ違いでうちの寮にすっごく可愛い子が入って来てね? あー時期が違ったら一緒の学び舎だったのかーとかさぁ――」


 ユニオンの応接間にて、話に花を咲かせるセレナとプリシラ。

 セレナは学力でも、実技でも、入学してからトップの座に君臨した後は常にその座をキープし続けた。

 何時でもトップ成績で卒業出来るにも関わらず、わざと書き上げた卒論を出さず、留年し続けていた。

 ライゼルが何時か迎えに来てくれると信じ、ここから離れない為に。

 その願いが叶い、セレナがライゼルと再会を果たし、じゃあもうここに留まる意味は無いと、卒論を叩き付けてとっとと卒業してしまった。

 その後も魔法学院内はしばらくセレナが最後の爆弾とばかりに置いて行った破天荒行動で大騒ぎのままであり、その騒ぎの渦中に同じルームメイトであったプリシラは当然巻き込まれた。

 そんなセレナが去った後の愚痴も、プリシラの会話には微妙に混ざっていた。

 プリシラの愚痴は華麗にスルーしていくセレナ。


「そうだったんだ、ごめんねー?」

「セレナ、全然悪いとか思ってないでしょ?」

「うん」

「ぐぬぬ……」


 歯噛みするプリシラ。


「セレナ位の成績と実力があるなら、聖王都でいくらでも良い仕事見付けられるだろうに、フラッと何処か行っちゃったし。かと思ったら何か急に戻って来てこんな場所に店構えちゃってるし、何なのマジで」

「ライゼル様がそうしてもいいって言ってくれましたからね。どう? ここが私とライゼル様の愛の巣だよ? 立派でしょ?」

「いや、そりゃ立派でしょ。だってここ、元貴族の家でしょ? いやそうじゃなくて、一体いくらしたのよこの家? 賃貸でも相当高いでしょ?」

「ライゼル様が即金で買ったんですよ。金貨7万5000枚で」

「ハァ!? 金貨7万!? なんなの御曹司か何かなの!?」

「良く分かんない。でも良いんです、知らない事はこれからゆっくり知っていけば良いんですから」


 恋する乙女モード続行中のセレナ。

 そんな二人の空間に、扉を開けて押し入る王子様。


「はいはいちょっくら失礼しますよっと」

「あ」


 噂をすれば影というか、突如現れた黒衣の王子様ことライゼルの姿を発見したプリシラ。


「ん? 誰だ?」

「私の友達のプリシラって子ですよ」

「おおそれはそれは! お初にお目に掛かる、俺様はライゼル・リコリスって言う名だ! 以後お見知り置きを、レディー?」

「初めてじゃないですよね? 私、会ってますよね?」

「おろーん? そうだったっけかぁ~? こいつは失礼失礼、ぎっへっへっへ!」


 実際、ライゼルとプリシラは別に初対面ではない。

 先程からプリシラの肩の上でライゼルに向けてギチギチと金属音のような鳴き声を上げ続けている、カーバンクルのルビィを救出する際に顔を合わせている。

 当の本人にはその時の記憶はロクに無いようだが。


「まあそんなのはさておき、セレナその後ろちょっと退け」

「はい、こうで良いですか?」

「おk」


 ライゼルはセレナの背後に立ち、何やら応接間の壁面に小細工を施していく。

 何らかの魔法陣を書き込んでいるようだ。


「というか、先日から何をしてるんですかライゼル様?」

「魔法陣書いてる」

「いや、それは流石に分かったんですけど」


 興味本位で、ライゼルが仕掛けている何かを確認した為、魔法絡みである事だけはセレナも理解していた。

 ただ、一体何の魔法を仕掛けているのかが気になったのだ。


「何の魔法なのかな、って思いまして」

「防衛用の術式だな、この屋敷全部を保護するモノだ。この聖王都は魔力に関してはいくらでも空気中に存在してるからな」

「ああ、人が出してる魔力を利用してるんですね」

「まあ、そういうこったな」

「え? そんな魔力を使っても大丈夫なんですか?」

「人体に入れなきゃ大丈夫なんだよ」


 プリシラの疑問にサックリ答えるライゼル。

 プリシラの言った通り、他人の発した魔力を自らの内に取り入れて利用するというのは、かなり危険な行為ではある。

 命が危険になるという訳では無いが、気性や性格、記憶なんかに悪影響を及ぼす事があるというのは、魔法使い達の間では常識の話である。


「いや、身体に取り込まずにどうやって魔法陣に魔力流す気なんですか」

「それはそこ、企業秘密ってやつよ。よし、書き終わった。あばよ~」


 仕事を終えたライゼルが、そそくさとセレナの背後から扉の前に移動し、向こう側へと消えていく。

 その後、プリシラが先程までライゼルが立っていた場所に移動する。


「……何か、壁のシミみたいな魔法陣が書いてある……これ、ここにあるって言われなかったら分からないレベルだよ? こんなのを、あの短時間で書き込んだっての……?」

「凄いですよね?」

「いや、凄いってレベルじゃないでしょ。今すぐ魔石加工職人のトップになれるんじゃないの? ……何なの、この魔法陣?」

「私にも分からない」

「あ、駄目だわ。セレナが分からないって言ってる時点で私に分かる訳無いわ」


 速攻で思考を放棄するプリシラ。

 その後は改めて席に着き、適当にセレナと話をしつつ、「また暇を見付けたら遊びにくるねー」と軽いノリの約束をしつつ、学友との再会を終えるのであった。

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