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14.魔の理

 フン、やっと引っ掛かったか。

 成る程、自信満々に突っ込んでくるだけあって、魔法の腕前は中々の女だったな。

 正攻法で仕留めるのであらば、こっちもそれなりの長期戦を覚悟せざるを得なかったが……誰がそんな戦いに付き合うか。

 それに、正攻法でやり合っても負ける気は無いが、元々俺は搦め手待ち伏せを使った戦法の方が得意なんでな。

 生きるか死ぬかの殺し合いで、相手の土俵に上がる事の馬鹿馬鹿しさよ。

 誰が乗るか。俺は俺の土俵で戦うまでだ。


 ――故に、この結果は当然の帰結。


 仕掛けておいた術式の殺傷圏内、それも複数の圏内に入ってくれたお陰で、一撃で行動不能に追い込めた。

 そこで転がってる女の衣服は、確か王立魔法学院の服だったな。

 アレはかなりの上物で、魔力を流すだけで防御性能を上げる術式が縫いこんであるから、戦闘における防御面もなかなかの代物なんだが……

 俺からすればラッキーハプニングのお陰で、どうやら防御も間に合わなかったみたいだな。

 まあ間に合っても、決定打になる殺傷力をこっちは持ってるから関係無いけどな。

 あっちはどうもこの俺が馬鹿正直に魔法の撃ち合いをしてるのだと思い込んでたみたいだが……俺はそれと平行して、この森の中に罠を仕掛けて回っていた。

 木々に術式を焼き付け、まばらに設置。

 その上で、確実に相手を仕留められる立ち位置、タイミングになるようにじっと息を潜め、罠へと誘導し、その時が来るのを待ち続けた。

 相手の攻撃タイミングは、他の者ならいざ知らず……俺ならば察知出来るからな、避け続けるのは容易い。


 何故だか分からないが、俺は他の人とは違い、通常よりもかなり精確に温度が分かる。

 何故と言われても説明出来ないが、感覚的に分かる、としか言いようが無いのだが。

 それ故に、魔法陣に魔力を通した事による魔力伝導熱なんかも直感的に俺は感知する事が出来る。

 これを、魔法を扱った事が無い人物に対し説明しても、皆一様に頭に疑問符を浮かべるのだが、魔法を扱う者、特にそれを戦闘の手段として用いる者には大きなアドバンテージである事が分かる。


 魔法を現象として発動させる為には、いくつか手段が存在する。

 一つは魔法陣を用意し、イメージを固め、魔力を注ぎ込む為の詠唱を用いて現象を引き起こす、一般的にイメージされている魔法使い通りの基本的な方法。

 この方法は無駄な魔力を消費せず、純粋に魔法を発動する為に必要な魔力だけで目的を達せられるので、一番燃費が良い。

 故に、可能な限りこの手段を用いるのが理想的だ。

 もっとも、理想と現実は違う訳だが。


 そして残りの方法というのは、この基本的な一つ目の発動方法の一部を省略して発動するという方法だ。

 詠唱のみ用いるか、魔法陣のみ用いるか。

 主に魔法を戦闘の手段として用いる者は、基本的にこの一部を省略するのが一般的となっている。

 無論、これらにも技量は必要だが、そもそもこんな事も出来ないような奴は戦場に立つ資格が無い。

 この方法は理想的な魔法の発動方法と比べ、魔力のロスが大きくなるのが欠点だが、その分早く、扱い易い。

 では、この二通りの手段の内、どちらが優れているのかと言うと――状況による、人による、としか言えない。

 詠唱のみという方法の利点は、何よりも身軽で状況を選ばない事だろう。

 魔法陣をイチイチ用意する必要も無く、その場に応じて適切な魔法を行使出来る。

 これは言うなれば、敵が近くなら剣へと持ち替え、遠くへ離れたなら弓や銃へと持ち替えるようなものだ。

 無数の武器を常に保有しているようなモノであり、しかも武器を持っている事による重量の増加が一切無い。これが利点でなければ何だと言うのだ。

 だが勿論欠点も存在する。それは詠唱を必要とするという部分だ。

 言霊に魔力を乗せるという都合上、詠唱時間が短いとその分魔法に乗る魔力も小さくなる。大量の魔力を注ぐ……強力な魔法を使うとなると、それなりの詠唱時間が必要となるのだ。

 つまり、発動まで時間が掛かる。これは無視出来ないデメリットである。

 詠唱するタイプの魔法使い相手ならば、詠唱させる隙を与えなければ、一方的に蹂躙出来る。そして逆にされる事もある、という事だ。


 次に、魔法陣のみを用いる手段。

 こちらの最大の利点は、詠唱を用いる必要が無い。これに尽きる。

 ただ身体から魔力を魔法陣に流すだけで良いので、声が出せないような状況――主に不意打ちや暗殺なんかにも対応出来る。

 強力な魔法を発動するのに詠唱をする必要も無く、デカい魔法を早く撃ちたいなら、その分必要な魔力を一気に魔法陣に注ぎ込めば良いだけだ。

 これだけ聞くと詠唱を必要とする手段より余程使い勝手が良さそうに思えるが、無論こっちにもデメリットがある。

 それは当然、魔法陣を別途用意する必要があるという事だ。

 自分が所持している魔法陣の種類までの事しか出来ないし、保有している魔法陣で対応出来ない事態に出くわせば、この方法での魔法使用は不可能になる。

 まさか戦闘中に呑気に新しく魔法陣を書き始める訳にも行かないしな。


 更に付け加えると、魔法陣を用いての無詠唱魔法には、魔力伝導熱という切っても切れない厄介な問題が付き纏う。

 魔力伝導熱とは、字面通りの意味であり、魔法陣へ魔力を流した際に発生する熱量の事を指す。

 魔法陣へ魔力を流した際、魔法陣が強く発光したり、熱くなったりするのはこの魔力伝導熱が悪さをした結果である。

 だからどうした、と思うかもしれない。だがこの問題は魔法を武器として用いる者全てを悩ませ続ける大問題なのだ。

 武器に術式を組み込み、そこに魔力を流すというのがこの世界における一般的な術者としての戦闘スタイルである。

 だが武器というのは、自分の手で持っていなければ使えない。

 一回、二回なら特に気にもならないが、連続で使用し続けていると魔法陣から発せられた熱によって、術式を刻んだ武器が過熱していくのだ。

 銃弾を撃ち過ぎた銃の砲身の如く、素手で触れば大火傷間違い無しのレベルまで行くのも良くある事だ。

 そんな熱量では、木製であらば間違いなく黒焦げ発火し、鉄製であってもその熱によって軟化し、歪んでしまう事だってある。

 歪めばもう術式は使えない。そうなった時点で最早その武器は武器としての効力を失ったがらくた同然だ。


 ここで俺の感覚が生きてくる。

 そう、術式を用いた無詠唱魔法ならば、必ず魔力伝導熱が発せられる。

 故に、その熱を感じられる俺は魔法の発動を感知出来る。

 更に言うならば、何処から熱が出ているのかが分かるのだから、その術式をピンポイントで破壊する事だって出来る。

 熱量の大きさは流した魔力に比例するのだから、デカい熱量ならデカい魔法が来るって分かる。

 ある程度場数を踏んだ術者が、相手の術者が使う魔法の強弱、タイミングが分かるのであらば、こういう風に一方的に相手を打ち倒すのも当然だ。


 ただ、俺の感覚でも厄介なのは無詠唱魔法を使ってくる奴だが……無詠唱魔法は難度が桁違いに高い。そもそも使うような奴は伝聞でしか聞いた事が無い。

 簡単な魔法であらば案外適当にやっても発動してくれるが、強力な魔法、つまり大量の魔力を使うような魔法ともなるとそうも行かない。

 例えるならば、魔法とは建築・工作なのだ。

 魔法陣が設計図、詠唱は定規だ。

 設計図も定規も無くても、ある程度の腕があれば目分量だけでちょっとした小物位なら作れるだろう。多少誤差があっても、それでも役割を果たす事位は出来る。

 だが殺傷性の高い魔法、つまり大量の魔力を使うような魔法ともなれば話は違う。

 設計図も定規も無しに家一件建てるようなモノだ。普通は破綻する。

 そして破綻した結果起こるのは、魔法の暴発。しかも殺傷性能はそのままに自分の近くで爆裂するのだ。

 故にそういう事が出来るのは、それこそ巷で勇者だとか魔王だとか呼ばれてるような、人間の常識に当て嵌まらないような規格外位なもんだが……そんな奴、こんな場所に居る訳無いだろ。


「アルバート様! ご無事ですか!?」


 今回の取引相手だった、賊の頭が俺の容態を案じながら駆け寄ってくる。


「当然だ。だがまぁ、良い仕事したと褒めておこう」

「ありがとうございやす!」


 こいつ等がこの女相手に攻撃を加えてくれたお陰で、ただの隙が決定的な隙になったのは確かだしな。

 余計な手出し無用だとか、そういう求道者然とした言動を俺はする気は無い。


「ハッ! まぁ確かに術の腕前は中々なモンだ。こんな所まで殴り込み掛けてくるだけの事はある」


 地面に転がった、侵入者の小娘を見下す。

 命のやり取りに卑怯もクソもあるか。勝った方が正義なんだよ。


「だがテメェの魔法には何の気迫も感じねぇ。学校育ちの教科書魔法なんかが、地獄で生き抜いてきた戦場の魔法に勝てるかよ」


 俺達は、テメェ等のせいで何もかも失い、今も尚苦しみ続けている。

 テメェ等が俺達から奪うってなら、今度はこっちが奪い返す番だ。


「ま、それには俺様も同感だな。お山の大将さんよぉ」


 ――侵入者を仕留め、さて本来の仕事を果たすとするか。

 そう考え始めたその時であった。

 闇夜の中から飛来するフクロウの如く。何の気配も無く、唐突に現れた一人の男。

 その男は、全身を黒衣で身に包んでおり、背丈は俺より圧倒的に低い。

 一瞬、子供かと思ったが……その身から溢れる異様な気配が、タダのガキではない事を否応無しに感じさせる。

 直感だが、嫌な予感がする。

 何だ? 一体何者だこの男は?


 俺の思考を知ってか知らずか。

 目の前の男は、まるでこちらを挑発するかのように、ニタリとその口元を歪めるのであった。

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