表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/356

130.俺はお前達の"劣化"じゃない



 ――強くなれると思った。



 だが、現実は何処までも非情で。

 何処までも立ち塞がり、目の前を阻み続ける壁。

 食うに困る、浮浪児同然の俺を拾ってくれた。

 それだけに止まらず、戦う為の術を教えてくれた。

 それには、感謝するべきなんだろう。

 だが目の前に立ちはだかるは、そんな二人の背中。

 師匠――ルードヴィッツと、姉弟子――リーゼロッテ。

 勝てる光景が、想像出来ない。

 新たな戦い方を身に付け、その都度前に進んでいるはずなのに。

 その壁に迫る所か、何処までも遠ざかっていく。


「――人が持つ魔力は、魔法という現象に変換して使うにあたり、向き不向きがある。戦いという場において、炎の魔法を使う者が多いのはそれが原因だ。闘争心、怒りという感情は炎の魔法を使う際、高効率で魔力を変換する事が出来る。お前達がどのような感情を持っているのかは知らんが、己が持つ魔力の本質を見極めねば、先は無い」


 ――師匠の話を聞いて、更に研鑽を重ねる。

 何でも、俺とリーゼロッテは向いている属性というのが全く違うらしい。

 リーゼロッテは、炎と光。

 俺は、風と雷。

 それが、向いている属性であり、それを用いる分には魔力のロスを少なくして、魔法を行使できるらしい。


 特訓の都度、俺とリーゼロッテとの間を隔てる、格の差というのを思い知る。

 俺が心を擦り減らし、魔力を注ぎ込んで放つ魔法を、赤子の手をひねるという言葉がピッタリな程に、容易く打ち砕いていく。


 何度も、死んだ。

 死ぬかと思った、ではない。

 実際に、何度も死んでいたんだろう。

 師匠が俺とリーゼロッテの魂に直接刻んだ、失伝魔法-精霊化(スピリットシフト)なる魔法。

 これが無ければ、今こうして命を繋いではいられなかっただろう。

 例え肉体丸ごと消え失せたとしても、魂さえ無事であらば、再度肉体を構築する事も可能という、見た事も聞いた事も無いような魔法。

 普通であらばとっくに死んでいたであろう、そんな特訓を乗り越え、命さえ何度も失って尚、それでも決して届かない。


「すまない、少し慌てて出力調整を誤ったようだ。大丈夫だったか?」


 とか抜かしながら、丘ごと俺を丸ごと吹き飛ばす、リーゼロッテ。

 軽いノリで放たれる、炎の一撃。

 俺が、その威力を出す為に、一体どれ程の魔力と集中力を要すると思っているんだ。


 勝てない。

 リーゼロッテですら、この有様。

 それよりも上の師匠に至っては、最早比べるだけ無意味。


「――これは、ただの補助具だ。裏に刻まれた魔法陣は、"時"の力を引き出す為のモノ。どうやらお前は、リーゼロッテと違い、こちらの適正があるようだからな」


 そんなある日。

 師匠が手渡したのは、一つの懐中時計であった。

 魔法陣が刻まれている以外は、ただの時計にしか見えない。

 師匠曰く、俺にはリーゼロッテには無い、時の魔法なるモノに対する適正があるらしい。

 それは、この世界で認知されている、ありとあらゆる魔法とは一線を画す――神の力の片鱗。

 世界創造の一片。

 世界の在り方を歪ませる、神の座に至れる程の、そんな力の一つ。

 無論、それ程の魔法を自由に使いこなすのには、血が滲む所か、全身の血を絞り出して尚足りない程の努力が必要なのだろう。

 だが俺は、その道を選んだ。

 その道を、進む。


 俺は、姉弟子様とは違う。

 俺は、その土俵では戦わない。


 始めは、一秒かそこら、分かり辛い程に少し。

 時計の針、その動きがゆっくりになったように思えただけであった。

 そこから少しずつ、一秒、二秒、三秒。

 ちょっとずつではあるが、確かに時間の流れが遅くなっていくのを感じていった。

 遅くなり、その遅延を伸ばすのではなく、縮めていく。

 より短い時間で、より強く――

 それを繰り返し、繰り返し。

 眠るのではなく、気絶してぶっ倒れる程に、何年もそれに身を費やし。

 やがて、辿り着いた。



 その時。

 確かに、俺の"世界"は停止した。



 その感覚を掴み、俺は更に応用へと移る。

 ただ時間を止めるだけでは、何の意味も無い。

 これを更に、戦闘へと応用する。

 例えば、これで姉弟子様の魔法を、止める事が出来たならば――!




 ――また、死んだ。


 止める事が、出来なかった。

 タイミングは、完璧だった。

 止める事も、可能なのだろう。

 だが、理論上可能と、現実で可能の間には大きな開きがある。

 起きてしまった大破壊を止めるというのには、恐ろしい程の魔力が要求される。

 俺一人では到底、賄えない程に。

 姉弟子様の何かが狂っているとしか思えない、圧倒的大破壊を止めるのは、理論上可能ではあるが、現実としては不可能。

 そう、結論付ける他無かった。

 だが、収穫もあった。

 相手の及ぼす破滅的破壊を、時の魔法で阻止しようとすると、相手の行動を見てから対処する都合上、どうしても余計に魔力を持って行かれる。

 だが、タイミングが完全に分かっているモノ――俺自身が使う魔法を、時の魔法で止める。

 これであらば、そのタイミングを合わせる事で、必要最小限の魔力消費で済む事は分かった。

 また、時の魔法を体得した事で、新たな視点も得られた。

 自分の魔法の発動を、微妙に遅らせる事が出来るようにもなった。

 時の魔法で、いわば遅延を掛けるのだ。

 普通であらば、発動出来るのであらば、さっさと魔法を発動してしまった方が良いに決まっている。

 魔法を戦闘に使っているのであらば、一刻も争う状況であるのは間違いないのだから。

 だが、魔法の発動を遅らせ、更に次の魔法を遅らせ、その次も――

 これを繰り返し、ある一時にタイミングを合わせ、それまでの魔法を一気に炸裂させる。


 この方法ならば、あるいは――


 その考えは、ある意味実を結び、ある意味失敗に終わった。

 己が放てる上級魔法、その威力を一点に集中。

 その一撃だけで、地形を変え、千の軍を葬り去る、上級魔法。

 それを更に束ねる事で、確かに姉弟子様の魔法を、相殺という形で破ったのだ。


 直後、姉弟子様の二の矢で欠片も残さず蒸発する事になった。



 俺には、何もない。

 師匠の持つ、伝説の武器とも呼べる代物も無い。

 二人のような、恵まれた才能も持っていない。

 強くなれるという願いを抱き、その願いを捨てられぬまま、希望という海の底へと沈んでいく。


 どうしたら、そこへ行けるんだ。

 俺はどうしたら、これより先に進む事が出来るんだ?


 この二人を見ていても、そこまで至れる道が見付からない。

 先が見えない。

 だが確かに、この先の道が閉塞している事だけは、予想が付いた。


 ここではない、もう一つの道を探さねばならない。

 だがそれは、俺よりも弱い相手と戦っていても見付からない道。

 師匠ではない、姉弟子様でもない。

 それ以外の、強者。

 そこでの戦いでしか、道は開けない。




 もう二度と、あんな目には遭いたくなかった。

 もう二度と、自分の無力さを味わいたくなかった。

 だが、二人と居た間は常に俺の無力さを痛感し続け。

 離れた今も尚、背中に圧し掛かり続ける。


 ある時から、師匠の手を離れ――というより、放逐された、と言うべきなんだろうか。

 再び目の前に、世界が広がった。

 だがその世界は、あまりにもちっぽけだった。

 見渡せば誰も彼も、俺よりも遥かに弱い者ばかり。

 俺を更なる高みに押し上げてくれるような、そんな可能性を持つ者など、皆無。

 胸中に渦巻く焦燥感だけが、どんどん膨れ上がって、身も心も押し潰されそうになる。

 時折突っかかって来る、身の程知らず共を相手に、焦燥感を叩き付けて少しばかりの安息を得る事もある。

 だがそれも、所詮は一時凌ぎにしか過ぎない。

 無力さ、悔しさ、苦しさ。

 この焦燥感の根源を消し去るには、絶対的な力を得る以外に道は無い。

 雑魚をプチプチ潰した所で、レベルアップなど出来る訳が無い。

 強者との戦い以外で、これ以上俺が高みに上る手段など、遺されていない。




 そんな時であった。

 ファーレンハイトの片田舎に、"精霊"が住むという噂を耳にしたのは。

道を外れる

何時の間にか手段が目的とすり替わる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ