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126.薬と毒

「こんにちわー! ライゼルくんいますかー!?」


 毎日毎日、やってくる襲撃者。

 その魔の手から逃れるべく、父親の仕事部屋へと潜り込む。


「どうしたライゼル? フィーナちゃんと遊んでくるんじゃないのか?」


 今日も部屋で仕事をしている父さんが、声を掛けてくる。

 ガラスに入った液体を、下から火で温めていた。


「俺、別にフィーナとなんか遊んでない」


 勝手に連れ回されてるだけだ。


「そうなのか。所でライゼル、お前良くフィーナちゃんと向こうの山に遊びに行ってるらしいな。あの山一帯は、毒のある植物ばかりだから遊ぶなら気を付けるんだぞ?」

「大丈夫、分かってる」


 父さんがくれた、毒を持っている植物を沢山記載してある本に書いてあった。

 あの本に書いてある、毒草が沢山あの山にはあった。


「ねえ、父さん」

「何だ?」

「何であの山は、あんなに毒のある植物ばっかり生えてるの?」


 普通、毒のある植物が生えているなら、毒の無い植物だって生えててもおかしくない。

 でも、あの山にある植物は全部俺が読んだ本、毒のある植物図鑑に書かれている植物ばかりだ。

 見事なまでに、毒のある植物ばかりで、あの山は覆い尽くされている。

 フィーナに連れられて、あの山の中に入った。

 その時に見た植物は、全てそうだった。


「何であの山には毒草ばかり生えているのかは私も分からない。だけど、あそこには毒草ばかり生えているから、私はこの村に住む事を決めたんだ」

「どうして?」

「それはな、私が薬を作る人だからだよ。あそこにある毒草が、必要だからね」

「何で? 薬って、人を助けるものでしょ? どうして人を苦しめたり殺したりする、毒のある植物が必要なの?」

「私が作っている薬もな、大まかな分類で言えば毒なんだ。だけど、毒でなければ薬にならないんだ。だから、毒のある植物が沢山生えているこの一帯は、薬の材料になる植物が沢山あるという事でもあるんだ」


 そうなの?


「例えばライゼル、風邪を引くと熱が出るだろう?」

「うん」

「どうして熱が出るか、分かるか?」

「分かんない」

「熱が出るのはな、身体に入り込んだ悪い菌を退治する為に、身体が悪い菌を弱らせる為に熱を出すんだ。ほとんどの菌は、熱に弱いからね。だけど、人間の身体は熱を出し過ぎると、焼いたお肉みたいにカチカチになって戻らなくなっちゃうんだ。そうなると、人間は死んでしまうんだよ」

「何でそんなになるまで熱を出すの? 出さなきゃ良いじゃん」

「人間の身体というのはね、ライゼルが思っているよりもずっと良く出来ているんだけど、それと同時にライゼルが思っているよりもずっと、単純でマヌケだったりするんだよ」


 単純で、マヌケ。

 その言葉で、今も我が家を襲撃している青髪の女の子の顔がチラついた。


「それで、熱を出し過ぎてはいけないのに、それでも身体が出そうとしてしまった時。その熱を下げる効果がある薬を与えれば、人間の身体は熱が下がるんだ。これが、父さんが作ってる薬の一つ、解熱剤だね」


 棚に並んだ、幾つもあるガラス瓶。

 その一つ、"解熱剤"とラベルの貼ってある、粉末の入った瓶を見せてくれた。


「熱が出ている時に、この解熱剤を飲めば、熱は下がる。でも、この薬は薬で合って、同時に毒でもあるんだ。この薬は、熱を下げる。どんな時でも。風邪を引いてない、体温が低い時でも、飲んでしまえば必ず、熱を下げる。熱が出てもいない時に、この解熱剤を飲めばどうなると思う?」

「……寒くて死んじゃう?」

「そうだな、正解だ」


 ポン、と。

 俺の頭に手を置いて、クシャリと頭を撫でてくる父さん。


「熱以外でも、咳だってそうだ。咳は、身体に入ろうとしている悪い菌を追い出そうとして出てくるんだ。咳を止める薬だって、身体に悪い菌が入ろうとしているのに、それを追い出す邪魔をする毒でもある。だから、薬は毒でもあるんだよ」


 目を細める父さん。

 母さんが笑う時は、他の村に住んでる男の人みたいに豪快に笑うけど、父さんは違った。

 父さんはどちらかというと、女の人みたいに、小さく、柔らかな笑みを浮かべる。


「ライゼル、本を読むのは楽しいか?」

「うん」

「そうか。本を読めば、知識は手に入る。だが、そこに載っているイラストだけ見ても、実際の植物の見た目は頭には入ってこないぞ」


 ガラス瓶の中に入った、透明な液体を、別の瓶に移し替える為に、父さんは再び視線を机の方へと向けた。


「ライゼルが将来、どんな仕事に就いて、どんな大人になるのかは分からないが。家にずっと居るだけでは、開ける未来も開けないぞ。本を読むのも良いが、読んで得た知識を実際に外で生かして、知識ではなく経験に変換しなければ、本当の意味で知識を身に付けたとは言えないぞ? 父さんだって、何時も家に居るように感じるかもしれないが、たまに母さんと一緒に外に出てるだろう?」


 父さんは一か月に一回か二回位だが、母さんと一緒に村の外に出て、魔物や危険な野生動物を退治する旅に同行する事がある。

 その時は、隣に住んでいるフィーナの家でお留守番する事になっている。

 それが原因で、フィーナになつかれたんだけど。


「折角、フィーナちゃんと一緒に山で遊ぶなら、あの山に生えている植物を、ちゃんと自分の目で見て、その色や形を覚えて、これが図鑑で見たあの植物なんだなぁ、と、知識ではなく経験として身に付けるのも良いかもしれないぞ?」


 ライゼルはあの山に生えている植物は、皆毒がある危ない植物だって分かってるだろうから、勝手に食べたりしないだろうからね。

 そう、付け加える父さん。

 そっか。

 父さんがそう言うなら、きっとそうなのかもしれないなぁ。


 扉を開けて、父さんの仕事部屋から出る。


「あっ! 見付けた!」


 大きな口を開けたまま、こっちを指さすフィーナ。


「今日もあの山に遊びに行こうよ! ライゼルくんのお母さんにも、お弁当作って貰ったよ!」

「うん、良いよ!」

「何でそんな事言うの!? 私と遊びたく――えっ?」


 目を丸くして、硬直するフィーナ。


「どうしたの? 行かないの?」

「ううん、行くよ。でも、良いの?」

「うん。父さんが、あの山に生えてる植物を実際に見るのも、勉強の役に立つって言ってたし」


 フィーナの引っ張る台車に載って移動しているから、あまり感じないだけなのだが。

 あのフィーナが着々と築き上げている秘密基地がある山、結構距離がある。

 俺も歩いて移動出来なくは無い距離だけど、多分俺が徒歩で移動すると、凄く疲れると思う。

 それに、フィーナみたいにすぐに到着したりも出来ないし。

 移動するだけで、凄く時間が掛かるだろう。


「またフィーナが台車で俺の事運んでくれるなら、行っても良いよ」

「本当!? やったー! なら、私がライゼルの事運んであげるね! もし魔物とかが出ても、私がライゼルの事守ってあげるね!」

「フィーナちゃん、もし魔物が出るならちゃんと逃げなさいよ? この間討伐したばかりだし、元々この辺りは魔物も野生動物も全然居ない地域みたいだから、安全だとは思うけどね」

「はーい!」


 母さんにたしなめられ、素直に返事をするフィーナ。

 何で母さんの言う事は聞くのに、俺の言う事は聞いてくれないんだろうか?


「よーし! それじゃあ早く行こう!? やっとおうちの形になってきそうだからね!」


 本を持って、台車に乗り込む。

 あの山には沢山の毒草があるけど、俺がこの間見たのはほんの少しだけだ。


「じゃあ向こうに着いたら、道具を降ろすの手伝ってね!」

「やだ」

「えー何でー! ケチ!」


 だって俺、植物見たいだけだし。

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