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111.大農業都市 ファーマイング

 ファーレンハイトを支え、世界の食糧事情を担う、世界最大の穀倉地帯。

 この地に何かがあれば、即座に世界中が飢饉に襲われる。

 その表現が過言でも何でもない、全ての国が認める、食糧庫。


 それこそが、世界最大都市の一つに数えられる地。

 大農業都市 ファーマイングである。

 ファーマイング地方の大半は麦や米といった穀物や、野菜の栽培に用いられる畑ばかりであり、畑と住宅が完全に区分けされている。

 この地で暮らす農民達は自らが暮らす住宅地から出立し、持ち場である畑を耕し、手入れを行い、収穫期には刈り入れを行い、朝は日の出前から、夜は日没間際まで、忙しく働き続けている。

 街道からは地平線まで続く畑を見る事が出来、収穫期間近にもなれば、黄金の絨毯とでも例えたくなる麦畑が一面に広がる。


 ファーマイングに暮らす農民に加え、ここで収穫された作物の仕入れに訪れ、農民に必要な日用品を卸す商人。

 それだけ人が集まれば、その他仕事を求めて集まる労働者も数多く居る。

 その労働者を受け入れるシステムとして生み出された、ギルドという概念もまた、このファーマイングにも当然のように備わっている。


「――御役所仕事、お疲れ様。どうだい? アフターファイブはこの俺様と一緒にアバンチュールな一時を堪能たただだだだだ!?」

「調子が戻ったと思ったらこれか! 何なのよアンタは一体!!」


 爽やかな笑顔を浮かべながら、ギルドの女性職員に粉を掛けるライゼル。

 そんなライゼルの耳を引っ張りながら、カウンターから引き剥がしに掛かるフィーナ。

 ここ最近、鬱屈した空気を常に纏い続けていたライゼルだが、このファーマイングに到着した頃から調子を取り戻していた。

 元気になり過ぎて、美人な女性を見掛ければちょっかいを掛け始める悪癖まで復活してしまっている。


「くそっ、嫉妬は見苦しいぜフィーナちゃ~ん……嫉妬心をかわいいって思ってもらえるようなツラになってからそういうのはだなぶふっ!?」

「凹んだツラした奴が何をほざくか」

「凹ませたのはお前だろうが!?」


 ギルドのカウンター横で延々と漫才を繰り広げ続けるライゼルとフィーナ。

 ギルドを訪れる人々から好奇の視線を浴びせられるが、何処吹く風である。



 今回、セレナの提案である"ユニオン"結成の為、その下見としてこのファーマイングをライゼル達は訪れていた。

 ユニオンの本拠を構えるにあたり、選択肢はロンバルディア首都、及び聖王都首都、そしてこのファーマイングの三ヵ所にまで候補は絞られた。

 特に何処の国である必要がある、という理由もこだわりも無い為、外国であるロンバルディアも候補の一つに入っている。

 尚、ミサトからすれば全て外国なので、特に何処が良いも悪いも無いようだ。

 しかし、レオパルドだけは除外されている。

 元々は魔族の地であるレオパルドにも、ファーレンハイトやロンバルディア同様のギルドシステムが導入され、そのシステムも世界共通である為、あちらでも活動自体は出来るのだが。

 そもそも行った事も無い魔族の地――ライゼルだけは行った事があるらしいが――それに加え、ファーレンハイト領における魔族がそうであるように、レオパルド領での人間はまだまだ肩身が狭い。

 ほんの数十年前まで、ファーレンハイトとレオパルドは互いに血を流し続ける戦争を続けていたのだから、当然の話である。

 今はこのファーレンハイトとレオパルドの王である二人の関係が良好である為、戦争が起こる気配は微塵も無いが。

 それが何時までも続くという保証も無く、そんな情勢でレオパルドまで乗り込んでいって居を構えるというのは流石に大胆が過ぎる所だ。

 尚、ラーディシオン領に関しては完全に除外されている。

 そもそも、ラーディシオンにはギルドが存在しないからである。


 首都に構える理由は、首都であるが故に人も多く、人が多ければそれだけ仕事も多くなるので、仕事に困る事は無い。

 過疎地にユニオンを構える者はほとんど居らず、ユニオンを構えられるような実力と信頼を築き上げられるような者達は、当然のように首都圏にその居を構える。

 仕事をするにも遊ぶにも便利なのだから、選ばない理由が無いからだ。


 そして、首都を蹴ってでもファーマイングに居を構える意義、その最大の理由は――ファーマイングは、とにかく害獣・魔物駆除の依頼が多いのである。

 つまり、ファーレンハイト、ロンバルディア両国の首都に居るよりも、圧倒的に安定して供給される仕事。

 それこそが最大の利点である。


 このファーマイングは、世界の食糧庫とも言える程の大穀倉地帯である。

 ここでの収穫量が、世界中の人々の腹具合を決めると言っても過言では無い。

 農作物、そして飼料を糧として育つ家畜。

 とにかく、このファーマイングはありとあらゆる食糧が豊富なのだ。

 そして、それだけ大量の食糧を抱えている、育てているという事実は、周囲に生息する獣や魔物も学習している。

 目の前にある黄金の如き色香を放つ食糧の山を見て、手を出さない訳が無い。

 無論、人間相手に何度も痛い目に遭う事で、安易に手を出してはならないという経験も積んでいるだろうが、それ故により狡猾に、姑息に、食糧を食い荒らすように悪知恵を付けている。

 ファーマイングの土地は広大で、その広範囲から獣や魔物を完全に駆逐出来る訳も無い。

 そんな事は百も承知だが、対症療法だとしても、それでもやらねばならない。

 なので、この害獣駆除、魔物討伐の依頼はファーマイングでは国直々の依頼で、しかも年中何時でもギルドに張り出されている。

 ファーマイングのこの依頼、畑の安全性向上はファーレンハイトの至上命題とも言える。

 その為に血税も投入されているので、仕事が無いという事態がほぼ無いのだ。

 美味い仕事とは言えないが、だがそれでも無難に食い繋ぐ程度であらば何の問題も無い。

 ギルドで生計を立てる者にとっても、このファーマイングは経験を積むという意味でも定住するという意味でも、優秀な場所なのだ。


「――それで? そっちは良い物件見付けたのか?」

「うーん、それが中々無いんですよね……私とライゼル様の愛を育む巣として相応しい物件ともなれば、絶対に妥協なんて出来ないですからね。完璧な物件を見付けたい所ですけど、条件に合うような建物が中々見付からなくて……」

「ねえ、私は?」

「拙者はハブでござるか?」

「ああ、私とライゼル様とあとオマケの家ですね訂正します」


 ナチュラルにフィーナとミサトをハブったセレナが、申し訳程度に訂正した。


「金に糸目は付けないから、予算度外視で選んで良いぞ。俺様は場所にもこだわり無いしな」

「……ライゼルって本当、一体何処からその金出てるのよ。不思議でしょうがないんだけど」

「企業秘密だ。男の財布ばっかり気にする女はモテねえぞ? タダでさえ金も無い実力も無い美貌も無い胸も無いの無い無い尽くしのフィーナちゃんなんだから性格くらいはおしとやかじゃないとゴリラと結婚する羽目になるぞ? あ、元からゴリラか! あっはっはっはっは!!」


 綺麗に放物線を描いて飛んで行くライゼル。

 収まる事を知らない軽口同様、重さを感じさせない吹っ飛び方である。

 態度も軽いし体重も軽いのだろうか?

 そう考えたくなるような光景であった。

突然ですが、このファーマイングでのお話が一段落したら第一章終了となります。

つまり、ここでの戦いが第一章のラスボス戦って訳ですね。

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