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104.焦燥の渦

 交易都市アレルバニアを発ち、残り僅かとなった魔力溜まりポイントを潰して回る。

 これだけは、成さねばならない。

 そうしないと――


 一つ、また一つ。

 術式を仕掛けていく都度、渦巻く感情の波が大きく、強くなっていく。

 俺は、強くなっているはず。

 これが終われば、また一つ上に進める。

 進んでいるはずなのに。


「……えーっと、ライゼル様……? その次は、何処を目指すんですか?」

「無い……何も、無い……」


 目指していた目標。

 その一つが、あの女によってあっさりと塵に帰されてしまった。



 ……もう、精霊を探す理由が無くなってしまった。

 戦う理由も、無くなってしまった。


 精霊を従える、リーゼロッテ。

 つまり精霊を倒した所で、従えた所で、リーゼロッテを超えられない。師匠を、超えられない。

 付与世界陣(ワールドエンチャント)も、ほぼ完成してしまった。

 あと一か所残ってはいるが、それももうじき終わる。

 終わって、しまう。

 こんなモノで、あの二人を超えられるのか?

 超えられる気が、しない。


 どうすれば。

 どうすれば良いんだ。

 どうすれば俺は、この先に進めるんだ?


 答えが、分からない。

 目の前の壁を超える為に、自らを成長させてくれるような強者を探すか? 何処に居るというのだ、そんな奴が。

 俺の戦闘に耐え得るような、強力な武器を探すか? そんなモノ、簡単に見付かれば苦労しない。

 どうすれば俺が強くなれるのか、その回答が見出せない。

 だがしかし。これじゃあ足りない、それだけが事実として重く圧し掛かる。


 俺が一歩進んでいる間に、二歩も三歩も先に進まれる。

 追い付けない、距離は広がるばかりで、追い越すなんて夢のまた夢。


 焦燥感だけが、ジリジリと俺の心を黒い炎で炙ってくる。

 熱い、痛い、苦しい。

 小悪党を蹴散らしてウサ晴らしをしても、根本的な解決にはならない。

 ただのガス抜きであり、雑魚をプチプチ潰した所で、強くなれる訳が無い。


 それでも、最後の作業だけは成さねばならない。

 しなければ、これまでの年月が無駄になる。


「――ねえ、ライゼル。何してたのか結局良く分かんなかったけど、次に行く場所でライゼルが行っておきたい場所、最後なんでしょ? それが終わったら、どうするの?」

「どうするか……?」


 どうするかだと?

 そんな事、俺が聞きてえよ。

 俺はこれから、どうすれば良いんだ。


「…………」


 無言のまま、街道を進んでいく。

 この先にある、ユースヴァニア村という場所。

 そこに最後の術式を刻み込めば、それで終わり。

 それで、俺の付与世界陣(ワールドエンチャント)は完成系となる。


「何時までもこうやって、フラフラし続ける訳にも行かないのはライゼルも分かるでしょ? ライゼルがやりたい事をするなとは言わないけど、そろそろ何処か、帰る場所を作った方が良いと思うんだけど」

「帰る場所、か」


 俺の帰る場所は、あの日(・・・)に無くなってしまった。

 ……だけど、生まれ故郷が無くなったという意味では、フィーナも一緒だった。

 フィーナが良く知り、一緒に遊んだ友達も、見知った村の住人達も。

 皆、居なくなってしまった。


「でもそれ、私も前々から思ってました。そろそろ、私とライゼル様の愛の巣を見繕って、そこで永住しても良い頃だと思うんですよね!」

「拙者は、割とこの股旅暮らしみたいな生活も悪くはないと思ってるのでござるが」

「えー!? 駄目よそんなの! この生活スタイルで私がどれだけ苦労して美容を維持してるか考えてよ!? 化粧水だって必要最小限しか持てないのよ!? こんな若い身空で肌ボロボロとかなったらライゼル様に顔向け出来ないじゃない!」


 ……女三人寄れば姦しい、その言葉の通りの光景が繰り広げられる。

 何とも馬鹿馬鹿しい光景で、余りの下らなさに怒る気力も失せて、毒気が抜けていく。


「帰る場所、か……」

「逆に聞くけど、ライゼルはどうして家とか、そういうのを持たないの? 何か金が無い金が無いとかちょいちょい言い出すけど、ソルスチル街の船の時といい、唐突に大金取り出してるからお金稼げない訳じゃないんでしょ? というか、あのお金あれば普通に一軒家位買えると思うんだけど……」

「あっ! そうだ、良い事思い付きました!」


 頭上に電球を浮かべたセレナが、満面の笑みを浮かべながら提案する。


「ライゼル様と私、それからそこの二人で一緒に"ユニオン"作りませんか?」

「ユニオン?」

「何でござるかそれは?」

「んー、簡単に言えば、会社みたいなモノかな?」


 フィーナもミサトも初耳の事柄なので、セレナが説明を始める。


 ファーレンハイトの王が生み出した、ギルドというシステム。

 これは言うなれば徹底的に効率化された日雇い労働者管理システムであり、それと同時に戸籍管理、銀行的なシステムも内包する、国としても個人としても非常に便利なシステムだ。

 ブロンズ、シルバー、ゴールドという目に見える箔付けも出来、自尊心を満足させる事も可能。

 その自尊心を満足させたり、よりギルド内で強い力を持とうと人々が考えた結果生まれたのが、先程セレナが口にした"ユニオン"という概念だ。


 ユニオンは日雇い労働者と言えるギルド構成員複数から成り、一つの旗頭を中心に他複数名のギルド構成員が団結(ユニオン)する事で生まれる。

 この旗頭となった人物を社長、その下に付いたのが社員だと考えるのであらば、セレナの例えは的を射ていると言えよう。

 ユニオンという概念がギルドにて生まれ、それを国が承認した事でこのユニオンという概念は公式的に認められた。

 国にも所属員にも、それなりにメリットがあるので国が公式声明を出して、認めたという事実を形にしたかったのだろう。


 ユニオンを作るには条件があり、その一つとして旗頭、つまり代表者となる人物がゴールドランクのギルドカードを持っている事が条件に挙げられる。

 これに関しては俺だけでなくセレナも満たしており、他の条件も、俺であらば余裕で、俺抜きだとしてもあの三人であらば達成出来る内容でしかない。

 作ろうと思えば、俺抜きでも今すぐ――とは行かないが、それでも一か月以内で楽々達成出来るような項目だ。


「……それも、良いのかもな」


 俺にとっての利点も、有ると言えば有るしな。


「!?」

「……何だよその顔」


 フィーナとセレナが、「まさか同意を得られるとは……」とでも言いたそうな顔をしている。


「その、良いんですか? 冗談で言った訳じゃないんですけど、ライゼル様の実力なら、こんなユニオンなんて枠組みに嵌らなくても、普通に大成出来ると思うんですけど……」

「まあそうだけどな」

「否定はしないんだね……」

「どっちでも良いってだけだ、どうせユニオンだか何だか作ろうが作るまいが、お前等くっ付いてくるんだろ?」


 これまでがそうであったように。


「そりゃ勿論」

「私の王子様はライゼル様だけですから!」

「ん、まだ恩を返せたとは到底言えないでござるからな」


 そらみろ。


「なら好きにすれば良いさ」

「本当に良いんですか!? 言質取りましたからね! じゃあ、どうしよう何処が良いかな!? 何処か希望の場所とかありますかライゼル様!?」

「んなもん俺に聞くなよ、勝手にしろ」

「じゃ、じゃあやっぱり無難な聖王都かな!? ファーマイングも悪くないし、交通網が強いロンバルディアの何処かってのも良いかもしれないし、後々――」


 何処に根を下ろすか、思考回路が突っ走り始めるセレナ。

 フィーナとはまた違った意味で喧しいな、こいつ。



 だがまあ、それはさて置き。

 俺は今、成さねばならない事をしなければならない。

 付与世界陣(ワールドエンチャント)の成就だけは成し遂げる。


 ――その後どうするか、するべき事を見付けるまで。

 こいつ等の下らない戯れに付き合うのも、暇潰しには良いのかもしれない。

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