0.黒白の遺児
喉が熱い。
肌を刺し貫くような熱気で、途切れていた自らの意識を揺り起こす。
一体、何が起きたんだ?
地に伏した自らの身体を起こし、むせ返るような煙と揺らぐ熱気の中、周囲を見渡す。
生き残ったのは、後詰めの俺達だけか?
前線に出てた連中はどうなったんだ?
何も分からない、考えても答えが出る訳も無い。
ここに居ても埒が明かない、どうなっているのか状況を知るにも、前に進まねば。
余りの高温に晒された為か、生木が多量の煙を吐きながら自然発火している。
荷馬車は、先程吹き付けた嵐に巻き上げられ。
地面に叩き付けられた衝撃で全部駄目になっている。
もっとも、その全てが炭化している辺り、嵐が無くとも使い物にならなくなるのは確定していただろうが。
視界が悪く、遠くの視認が困難だ。
何とか他の生存者を探すべく、中心部へと向かう事にする。
高温に晒され酷く熱せられ、まるでバターのようになってしまった岩を乗り越えるのを諦め迂回し、薙ぎ倒され熱せられた巨木を越え。
開けた地形……いや、「開けてしまった」地形に到達する。
中心部は、俺達のいた後方より遥かに凄惨な光景であった。
その地面に積み上げられた骸の山は、どれもが完全に焼け焦げ炭化してしまっている。
どの死体を見ても、その人物が生前どんな姿をしていたのかを推し量る事が不可能な状態だ。
その死体の山の向こう、敵勢力がいた場所には人の姿が見受けられた。
目を細め、熱気で揺らぐ視界を捉えようと目を賢明に駆使し。
まるで巨大隕石が衝突でもしたかのように窪んでしまったその地の中心に、その姿を捉える。
「――あれは……子供、か?」
遠目ではあるが、どうみても大人、という年齢の顔立ちには見えない。
背丈やおぼろげに見える顔立ちからして、そう判断する。
黒衣に身を包んだ短髪の男と、白を基調とした騎士風の衣服に身を包んだ、長い髪の女。
その対照的な姿と、死屍累々の戦場の中にポツンとたたずむその異様な光景に息を呑む。
――あれが、俺達の軍を一瞬で壊滅させた奴等なのか?
聖王都ファーレンハイトが誇る、精鋭揃いの討伐軍である、俺達の軍を?
こんな事、有り得ない。
こんな惨状が、あんな子供二人によって引き起こされたのか?
怒りと恐怖で、手が震える。
こんな物、戦争と呼べるか。
これじゃ、ただの殺戮じゃないか。
「この……化け物共が――!」
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聖王都継承戦争。
聖王都ファーレンハイトの玉座を巡っての血族争いを発端とした騒乱であり、この世界における比較的最近起きた最も大きな戦争、内乱である。
混迷とした戦況を呈し、兵や人々の血が流れ続ける血みどろの争いに終止符を打つ決定打となったのは、何と当時十代という異様な若さの二人の男女であった。
人の身でありながら「天災」とまで例えられたその実力。
それは現ファーレンハイト国王陛下により直々にお墨付きを貰う程であり、その恐怖の名を全世界に轟かせた。
人々はその姿と、家屋や木々を易々と薙ぎ払う防ぐ事敵わぬ、まるで嵐のような天災の爪痕を残すその戦い方。
彼の存在を、畏怖の念を込めてこう呼称した。
――黒衣の暴風、と。