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魔王のパンツ  作者: 愛染ほこら
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役立たずな魔法使い

「……てめぇは?」


 誰だ? と言葉も出せねぇ俺に、銀髪男は心配そうに言った。


「私は、魔法使いです」


「……そりゃ、見れば、判る」


 俺の皮肉っぽい言葉を気にせず、ヤツは素直に頭をぺこり、と下げた。


「先程は、鳥から助けていただき、ありがとうございました。

 あの時は、髪を切ってまで助かりたくなかったのですが……。

 今は、助かってよかったと思います。

 私の代わりに、傷を受けてしまうなんて。

 あなたには、申し訳ないコトをしました」


「全くだぜ、迷惑だ」


 そんな俺の言葉に、魔法使いは黙って、その大きな目から、ぼたぼたと涙を流した。


 ……だから、てめぇは、男だろ?


 簡単に泣くんじゃねぇよ、仕方ねぇなぁ。


 それが、あんまり悲しそうで、俺は、ため息をついた。


「……傷は、受けた本人が『間抜けだったから』に他ならねぇ、気にするな。

 ……それより、てめぇ、名前は?」


「アルギュロス、です」


「じゃあアル。なんで森に一人でいたんだ?」


 俺の何気ない質問に、アルの目が驚いたように、見開いた。


「……なんだよ」


「今まで私はそんな風に、名前を縮めて呼ばれたことがなくて……」


「……迷惑か?」


「いいえ、とんでもない! 嬉しいです!」


 つい、さっきまでべそべそ泣いていた銀髪の魔法使いは、目をごしごし拭いて涙をぬぐうと、にこぱっ、と笑った。


「今まで私は、役職名のみで呼ばれていたんです。

 自分の名前がなんだったかも、忘れるほどでした」


 魔法使いは、言葉で全てを動かす職業だから、名前を呼び合うのを嫌う傾向にあるようだ。


 それにしたって、全く自分の名前を呼ばれない、なんてことはない。


「……てめぇ実は、トモダチいないだろ?」


 俺が突っ込めば、アルは、深々と溜息をついた。


「……なるべくキレイなカッコをして、皆の気を引こうとしたんですが、さっぱりで」


「女をひっかけるなら、ともかく。それでトモダチは、難しいんじゃねぇか?」


「えっ! そうだったんですか!」


 心底驚いたような顔に、俺はココロの中でアタマを抱えた。


 なんつ~~天然野郎だ!


 だけども、これで、女みたいに髪の毛一つでギャーギャー言ったのか、判ったような気がした。


 俺がこっそりため息をついたのを、知ってか知らずかアルは、指先と指先をツンツンさせながら言った。


「一生懸命お仕事しても、私の居場所は、どこにもありません。

 誰も友達になってくれるどころか、優しい言葉一つかけてくれないし。

 気晴らしに遊びに行こうと思ったら、道に迷っちゃって」


「……だから、てめぇは森の中にいたのか」


 いくら、この国では、森と街とを隔てる壁がないとは言え、こんなところを、うろうろしているなんて……!


 コイツ天然な上に、相当方向オンチだ。


 アルは、頑張ってもあんまし友達ができるタイプじゃなさそうだったし、とても寂しそうだった。


 そして、何よりも『居場所がない』って言う辛さは、俺は骨身にしみて判ってる。


 ……仕方ねぇなぁ。


「生きてこの森から出られて……なお。

 俺の依頼がクリア出来たら……この国を離れる前に、一回ぐらい、てめぇと遊んでやってもいい」


 この、傷ついたカラダでは、絶望的に無理な話に近かった。


 だけども思わず、俺の口をついて出た言葉に、ヤツはとても嬉しそうな顔をして、表情をきらきらと輝かせやがった。


「じゃあ是非、森から無事に出て、あなたのお仕事をかたづけてしまいましょう!

 私が出来ることなら、何でもお手伝いしますよ?

 その、依頼ってなんですか?」


「……う」


 それは、下着泥棒だ。


 ……なんて。


 この天然で純粋な目を持つ、間抜けな魔法使いに到底言えず、俺は言葉をにごした。


「……その……この国の魔王の城に、用があるんだ。

 だが……ルブルムの毒をくらって、俺はびくともカラダを動かせねぇ……

 依頼を片付けるどころか、生きて、森を抜けることだってできるかどうか……」


「……死なせは、しません」

 

 俺の言葉に、アルは、初めてきりっとした表情を見せた。


「私が絶対に、あなたをこんなところでは、死なせません。

 ……二人で生きて、無事に森から出ましょう」







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