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魔王のパンツ  作者: 愛染ほこら
5/9

魔法使いのなりそこない


 …………


 幼い。


 まだ、四、五歳でしかなかった俺を、乱暴に突き飛ばして母親の元に返すと、父の弟である男が憎々しげに言った。


「リトス殿には……残念ながら、魔法使いの才はないようですな」


「……まさか、そんな!」


 口をへの字にした叔父の宣告に、俺の頭を抱いていた母は、首を振った。


「リトスは……それはそれは、記憶力が良いのです!

 どんなに長い魔法の呪文でも、一言一句間違えずに、覚えてしまうのに……!」


「魔法が使えるか、どうかなどと言うのは、記憶力の問題ではないのだ。

 全ては精霊の、御心のままに」


 叔父は、高笑いでも隠しているように芝居がかって、胸に手を当てると、父に向かって会釈した。


「残念ながら、八代続いた魔法使い長の家も、唯一の跡取りがそれ、では断絶ですな。

 次の権利は、我が家のモノだ……!」


 叔父は実に楽しそうに、にやり、と表情を歪めた。


「しかも、リトス殿は賢くても体力的に恵まれていない。

 戦士や、剣士のように重い武器を持てない以上。この村の皆と同じく、駆者として生計を立てるのなら。

 下賤な盗賊になるか、隣町で商人宅に奉公に行くか、いっそ春を売る踊り子になって身を立てるしか、なかろうな?」


 そう言い放って叔父はげらげら笑いながら、出て言った。


 そんな、がっくり肩を落とした父親に、幼なく、何も知らなかった俺は、駆け寄った。


「父さま……?

 何がそんなに悲しいのですか?

 わたしは、師匠に習った魔法の言葉を全て覚えてしまいました。

 父さまが、喜んでくださるのなら、また、新しい言葉を覚えます」


 だから、笑ってください。


 ほめてください。


 そんな思いで近づいた俺を、父もまた恐ろしい顔をして、乱暴に突き飛ばした。


「魔法の才のない、役立たずなぞ、いらぬ!

 お前は、ワシの子ではない!

 目の届かぬ所になら、どこでもいい。

 消えてなくなってしまえ……!!」


 ………………


「……父さま……!」


 一声叫んで、起き上がろうとして……無理なコトに気がついた。


 怪鳥に切り裂かれた背中の傷がずきずきと痛み、うつ伏せに寝かされたままのカラダが、びくとも動かなかったから、だ。


 それでも……俺は、まだ生きているらしい。


 怪鳥ルブルムに襲われて、なお生きているなんて、奇跡だ。


 そして。


 さっきのアレは……夢だったのか。


 親父に『いらない』なんて言われて傷ついたのは、いつのことだったのか。


 見たくもねぇ。


 思い出したくねぇモノを見ちまったぜ。


 思わず舌打ちをして、ここは、どこだ? と、動きづらい首をなんとかまわして見れば、判る。


 真っ暗な空間を、魔法の熱のない光がぽう、と輝かせていたんだ。


 迫りくる岩の形から察するに、どうやら、ここは広い洞窟の奥のようだ。


 しん、と静かで、特に殺気もない。


 空気が動いてねぇところをみると、とりあえず安全な場所ではあるらしい。


 ま、ここが危ねぇ場所でも、動けねぇけどな。


 そして。


「大丈夫ですか?

 ここは、まだ、妖魔の森の中にある洞窟なんですが……」


 低い。


 でも、穏やかにかけられた声がする。


 出所を探れば、背中までの銀色髪を乱した長身の男が、俺の顔を覗き込んでいた。


 怪鳥ルブルムに連れさらわれかけていた男だ。


 どうやら、こいつも生き残ったらしかった。


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