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魔王のパンツ  作者: 愛染ほこら
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魔王の森での拾い物

 魔法使い、か?


 いかにも動きにくそうな、貴重な布を無駄にしているだけにしか見えない服を着ている。


 ヤツは、妖魔から助かるべく、魔法の呪文を詠唱しはじめた。


 が。


 ……こいつ、莫迦か?


 その、魔法使いの唱える呪文を聞いて、俺はアタマを抱えた。


 それは確かに一発で、ルブルムを倒すコトができるかもしれないほど強力だったけれども。


 一刻(約二時間)ほども、ず~~っと、ぶつぶつ呪文を唱えていなければならず……


 呪文が完成するころには、魔法使いは確実に妖魔に食われて、骨だけになってる。


 こ~~んなトコロをうろうろしている以上、こいつもまた、誰かに下着泥棒に誘われたんだろうか?


 それとも、壊れかけの魔王を作った張本人、偉大な魔法使いって言う奴が国にいるらしいし、そいつかな?


 どっちにしろ、俺に、こんな妖魔をやっつけるほどの力はねぇ!


 それに無理して助けても、俺様の報酬が減るだけの気がする。

 

「う~~ん。どうすっかなぁ?」


 報酬減の原因であり、もしかすると莫迦かも知れない男とは関わりたくない。


 普段は即決で、逃げる方を選ぶんだがなぁ。


 今回に限って、一瞬迷った俺を、魔法使いの方が見つけやがったんだ。


 ちっ!


 気配を殺して隠れていたハズなのに、目ざといヤツ!


 ヤツは、呪文を唱えてたので何も言えないようだったが、その大きな目に、涙を滲ませて、うるうると、俺を見ていた。


 ココロの叫びは、もちろん『た~す~け~て~』なんだろう、な。きっと。


 だ~~!


 男のクセに、そんな目をして、俺を見るな~~!


 あんたも、誇り高き森の駆者ならば、自分のことは、自分で始末をつけろ、俺は、知らん!


 ……と。さっさとその場を離れるはずだったのに、俺が一歩離れると、ヤツは目の幅の涙をだくだく流して、無言の抗議をしやがった。


 その、草食動物みたいな澄んだ目に、俺は思わず、めまいを覚えた。


 ……仕方ねぇなぁ。


 俺は、腰の(さや)から短剣を引き抜くと、跳んだ。


 絶対絶命の、間抜けな魔法使いを、助けるために。


  …………


………ところが。


 間抜けな魔法使いを助けてやろうと、わざわざ近寄ったと言うのに。


 返ってきたのは、感謝の言葉でなく悲鳴だった。


「きゃ~~わたしの髪!

 切っちゃイヤ~!!」


 ああ?


 ……コイツ、男だよな?


 唯一、自力で助かる手段のはずの呪文の詠唱を止めてまで、魔法使いは俺に抗議した。


 大抵の国での女性の習慣以上に、髪を長く伸ばし、その顔は、びっくりするほど、整っていた。


 けれども、その身体は薄くとも筋肉がしっかり張り付いている。


 外見は、立派な青年男子のはずなのに、ど~~見ても、若い女のような言動が変だ。


 ルブルムの巨大な蹴爪に這い上がった俺は、爪に引っ掛かっている魔法使いの髪を切ろうと、構えていた短剣を思わず下げた。


「ん、なコト言ってる場合じゃねぇだろ!

 髪なんて、いつでも生えてくる!

 死にたくないんだろう? 切るぞ!」


「イヤ~~

 私の髪は一度切ったら、伸びないんです!

 それよりも、この鳥をちゃっちゃと、倒してください!」


 こ~~んな大きな妖魔を倒すなんて、魔法も力もない盗賊ができるか、莫迦~~!


 寝言を言ってる魔法使いの言葉を無視して、もう一度短剣を構えたとき。


 

 あ゛ん゛ぎゃあ~~



 という雄たけびとともに、どでかく赤い瞳が、ちらりとこちらを見た。


 みろ!


 もたもたしているから、ルブルム自身に見つかっちまったじゃねぇか!


 びゅっ、ざく!


 俺が、魔法使いの髪の毛を一ぺんに切ったのと、もう一本ある、ルブルムの足が俺に襲いかかって来たのが、ほぼ一緒だった。


 身をひねってルブルムの爪をかわそうとしたけれども、一瞬遅かったようだ。


 俺の背は怪鳥の鋭い爪に切り裂かれ、地上に向かって蹴り落とされた。


 カラダを動かすには適した、俺の革鎧(かわよろい)は、爪から身を守ってなんてくれなかった。


 ざっくりと背中を切り裂かれ、血を流し、俺は、背の高い木立のさらに上から、妖魔がうようよしている地面に向かって落ちていく。


 そう言えば、ルブルムの爪には、ご丁寧に毒までぬってあったっけ。


 ガラにもなく、人助けなんてするもんじゃない。


 あ~~あ。


 俺のイノチもここまでか……


『駆者』として一本立ちしてから、今まで必ず、どんな難しい依頼もクリアしてきたのになぁ。


 途中で終わらなくてはいけないコトが、ただ、ただ心残りだった。


 例え、それが間抜けな下着泥棒だとしても、残念だった。


 ぼろぼろに傷つき、落ちながら、俺は『死』を強く意識した。



 

 



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