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魔王のパンツ  作者: 愛染ほこら
2/9

お莫迦な依頼は世界を救う

 ………………


 今までずっとつかんでいたジジィの首根っこをぽいと離し、噛んて含めるようにジジィに宣言した。


「……だから、俺はぜっっったい、盗みをしない。

 下着泥棒なんぞは論外だ……判ったか?」


 俺の宣言に、ジジィはひょい、と片眉をあげた。


「……例えば、その『盗み』が、この国の民を救うコトになったとしても、かのぅ?」


「ああ?」


 突然思いもかけねぇコトを言われて、反射的に眉が寄った。


「ん、だよ、そりゃ?」


「おぬしが、聞きたくば、話せばなるまい。実は……」


「いや、俺は別に聞きたくねぇし」


 そんな、下着が絡むような下品な話は、まっぴらごめんだ。


 後は、勝手にやってくれ、と。宿屋の新しい部屋に移ろうとした俺に、ジジィが、ぴょ~~んと、飛びかかって来やがった。


 その。


 ジジィの軽いカラダが、俺の胴体全部を覆うように張り付いて、俺は、思わず叫び声をあげた。


「きゃ~~うわ~~!」


「頼む~~話ぐらい、聞いてくれ~~!!」


「ィヤ~~!!!」



 ばきっ!



 俺の放った強力な拳の一打は、正確にジジィの顎をとらえ、俺に無茶な依頼を持ってきたエロジジィは、めでたく夜空の星となった。



 きらりんっ☆



 ……【完】



「~~たのむ~~始まる前に終わらんでくれ~~」


 今、殴られて星になったハズのジジィは、超ソッコーで帰って来たかと思うと、今度は泣きつきやがった。


 ちっ、丈夫なヤツ!


 その様子に、思わず舌打ちする。


「……で? 話したいことがあるなら、さっさと話せ」


 クソジジィのカラダを張った訴えに、とうとう折れた俺が、額に浮かんだ青筋を隠さずに聞くと、ヤツは、自分の手をもみもみしながら話し始めた。


「この国は、民を統べる王が、強力な魔法を使って『森』からも国を守っておるのじゃが……」


「ああ」


 ジジィに言われて、来た時のコトを思い出した。


 ……この国は、魔法の触媒に使う、レアメタルを産出する鉱山を中心に、かなり大きな街が発展しているというのに、森から身を守る、高い塀なんてちっとも見当たらなかった。


 小さくはない街に、森がはびこって来ないなら。妖魔が入って来ないと言うのなら、相当に強力な魔法の力がかかっているに違いなかった。


 しかも、人間同士、国同士の決めごとや、公務の合間をぬって、なお。


 木や石の壁を作らずに『森』から国を守るとは、相当魔法の才に秀でた王に違いない。


 まさに、魔王、だ。


「その、王が……実は人間では、ないのだ」


「は?」


 言いにくそうなジジィの話に、俺は首を傾げた。


「人間ではない? じゃあ、一体『ナニ』をこの国の人間は『王』に祭り上げてるって言うんだ」


「……ホムンクルス、と言うモノじゃ。

 王自身もまた、二十年ほど前に、この地にやって来た偉大な魔法使いによって生み出された。

 ヒトによく似た……いいや。

 ある意味、ヒトを超えた力をもつ、生き物なのじゃ……!」


「……なんだって?」


 だから、ヒトにはとてもできないほどの能力を持ち、感情に流されず、甘言にも乗らず。時計のように正確な、理想的な統治ができたのだそうだ。


 そんな理想的な『王』と国を直接守る『魔法使い』を兼任するヤツの話に、俺は納得して頷いた。


「へえ……そんな奴がいるのなら。他の国でも、同じヤツを作ってそいつを魔王にすれば、世の中すっげ、平和になりそうだな」


 森に沈み、人を食う妖魔に襲われても、なお。


 争いやら、もめごとで、国同士ごたごたしているコトを考えると、そんなヒトにあらざる魔王は、もしかすると救世主かもしれない。


 俺が思わず感心してうなづくと「ところが、そう。上手く、行かなくての」と、ジジィは渋い顔をして言った。


 元は淡々と国を統治をし、国を守っているだけの人形のような王だったのに、年を経るごとに妙に人間くさくなり、贅沢な食事や酒。衣装を要求してきたそうだ。


 最初のうちは、功労者の言うコトなので、目をつぶっていた。


 けれども、それが国の財政を危うくさせるほど高額で、挙げ句の果てに生贄を要求するに至り、とうとう魔王を作りなおし、新しいモノと交代させるコトになったらしい。


 ジジィは深々とため息をついた。


「それを察した魔王自身が、自分の複製を作られるコトを嫌って、設計図と身体を作る材料の複製の元、全てを焼いてしまったのじゃ」


「へえ」


「ところが、先日。

 魔王を作り、一度はこの地を去った魔法使いが、現れての。

 予備の複製の元を、魔王も知らない場所に隠した、と言ったのじゃ」


「……まさか、その場所が」


「左様。魔王のパンツの中だと言うのだ。

 場所から考えて、薄い布に書かれた設計図だろう。

 だからおぬしに、パンツを盗んで来て欲しいのじゃ」


 長い話を終えて、ジジィはドヤ顔で、びしっと指を突きつけてきやがったが、俺は知らん。


「話は、判った。

 だが、昨今の盗賊(シーフ)は盗みをしねぇんだって」


「国家の行く末を左右するパンツじゃ。

 くれぐれも、大事に盗んで来るのじゃ~~」


「だから、ヒトの話を聞けッつぅの!」


 …………アタマ痛てぇぜ、くそったれ!







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