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The Wail Of Warwolves  作者: Kb hajime
異世界からの来訪者
7/12

第六話 攻防

迫りくる魔族の群れは前衛と後衛の二つの集団に分かれていた。

その姿まるで猿のようだった。

先頭を猛進してくるのは片手剣やらこん棒を持つ豚のような仮面をつけた猿の群れであった。

続く後衛の集団は弓を携え、羊の仮面をつけた猿そのものだった。

組織立った行動をするのは低レベルの魔物にはまず考えられない習性である。

集団で行動し、武器に応じて隊列を組んで襲撃するようなことはまずしない。

したがって、それ以上のレベルであることが容易に想像できた。

先刻切り伏せてきた狼はせいぜいレベル7程度であるが、

迫りくるヒヒの群れはおそらくレベル30は下らないだろう。

その数はぱっと見では判断できないほどの群れであった。




ミリアを守るためにはこの時計塔の前で守るのが良策だろう。

僕は『宝物庫の鍵ストレージ』を発動させ、

戦槌『屠畜者の槌ブッチャーメイス』を取り出した。

こんなに身動きの取りづらい場所で戦うのなら刃物を使うのは得策ではない。

刃こぼれする恐れがあり、刀身が長すぎて思う存分振り回すことができないためである。

加えてこの武器が僕の持つ武器の中で最も軽く、唯一の打撃性能に優れる武器であったため、

これを選ぶことにした。

ユベルは背負っていた大剣『荒野で叫ぶもの』を階段に立て掛け、

屠畜者の槌ブッチャーメイス』を正面に構えた。





先頭を走る豚の仮面をつけた猿が階段を駆け上がり、下卑た豚の仮面が目の前へと躍り出た。

間近で見れば見るほど腹立たしい気分にさせる。

ユベルは勢いよく『屠畜者の槌ブッチャーメイス』を

豚の仮面をした猿の眉間へと叩き込んだ。

猿がよろめいて階段を転がり落ちた。

同時に後続の猿たちは将棋倒しになって階段を転げ落ちた。

しかし、その程度で致命傷になるはずもなく、すぐに立ち上がってこちらへと向かってきた。

それを一匹ずつ顔面へとスマッシュを決め、打ち倒していった。





次々と向かってくる猿たちはエサを求めて殺到する家畜の様に

三方向からアスレチックの2階のステージへと侵入してきた。

それを丁寧にうち洩らすことなく叩いていった。

どこかで見覚えのあるような気がした。戦争映画で潜水艦が魚雷から

攻撃を受けてあちこちから水が噴き出していくのを船員たちが必死で

抑えこもうとするシーンを思い出した。

あれは狭い空間へと浸水し、自分たちを殺そうとするのだから恐怖感はある。

だが、今の僕は遊具の中で同じような状況に陥っている自分の姿を思うと

つい笑ってしまいそうになった。





本来ならば、守るために必死になるものだろう。

だが、どうにも一匹ずつ叩き伏せていくことに快感を覚えてしまう。

心の底からもっと手ごわい敵を求める自分に気が付いた。

ようやく向かってくる畜生たちの中にも、打擲した刹那に体がはじけ飛ぶ奴が現れた。

武器の持つ特殊スキルが発動したためである。]

屠畜者の槌ブッチャーメイス』の醍醐味と言えば、敵の生命力の限界を超え、

体力を削りきった瞬間に相手の体が膨らみすぎた水風船のように弾け飛ぶという効果を持つ。

これはこの武器独特の特殊スキルである。

安定した攻撃力と使いやすさ、スキルによるレベル、ステータスの消費が無いこと、

そして何よりもそのスキルの過激さからWOWの戦士職プレーヤーから

圧倒的な人気を誇る戦槌ウォーハンマーである。

屠畜者の槌ブッチャーメイス』という名前は、この武器を使った後、

まるで屠畜場で家畜を解体したときのようにぐちゃぐちゃになった敵の肉片まみれに

なることに由来する。




後衛の羊の仮面をつけた猿どもが次々と矢を射かけてきた。

だが、その程度の攻撃など『|王の威厳(キングオブディグニティ―)』を身に纏う

ユベルにとっては生身に降り注ぐ小雨も同然だった。

他のRPGゲームと同様にWOWにおいてもレベル差とはそれだけ絶大なアドバンテージと

なり得るものであった。

もちろん、それは相性がよければということである。

ゆえに後衛の補助魔法要因としてのプレーヤーがいなければそのギルドは中級者以上に

なることはあり得なかったのだから。




ユベルは一体、また一体と豚の仮面をかぶる猿たちを叩き潰し、

肉と血とを織り交ぜた華へと変貌させた。

持っていた武器を取り落とし、這う這うの体で逃げ出そうとする

家畜の頭に渾身の一撃を打ち込んで肉の塊へと変えた。

もはやステージの上には動くものは僕以外何一つ残っていなかった。




屠畜者の槌ブッチャーメイス』を腰帯に括り付けた。

らせん階段へと近づき、大剣『荒野で叫ぶもの』を持ち上げた。

肩の鎧の装甲で大剣を支えながら、ゆっくりとユベルは階段を下りていた。

矢数はより一層激しくなるが、ユベルはものともせずに大地へと足をつけた。

ユベルは最も近い羊の群れへと襲い掛かった。

その姿はさながら無垢なるものたちに襲い掛かる狼のようであった。




羊たちは恐怖のあまりに動けなくなり、無抵抗のまま大剣に切り飛ばされた。

切り裂かれた羊たちは体液をまき散らしながら逃げ出そうとした。

しかし、傷が深すぎるため思うように動けずよろめくようにして、

這うようにしてその場から逃げ出そうとした。

狼は大剣を地面へと突き立て、戦槌を腰帯から取り外した。

戦狼ウォーウルフはゆるりとした動きで傷を負った獲物へと槌を構えて近づいていく。

その時、様子をただ見守るだけであった羊たちが軽やかな動きで、何匹も狼の手足へと絡みついた。

そう言えばこいつらは仮面を被っているだけで猿だったな――内心で戦狼ウォーウルフが毒づいた。戦槌を使って振りほどこうにも絡みつく猿たちに阻まれ振り回すことさえ難儀した。

狼は内心苛立っていた。

せっかくの獲物を目の前にしながらもその牙を振り回せないことに、

昂る感情を思いのままに不振り回せないことに。




ユベルは戦槌を持たぬもう片方の手で、利き手に纏わりつく猿たちのうち、

その一匹の首を絞め上げた。

羊の仮面の下に隠れた猿の首にユベルの指が食い込んでいった。

猿の骨が何度もミシリと軋む音を立てた。

猿は苦しみにもだえ苦しんで体をじたばたさせた。

しかし、その四肢が、爪が、叫びが狼の体に、心に届くことは無かった。

メリッと鈍い音を立てた後、猿は手足をだらんとさせて動かなくなった。

それをユベルは無造作に投げ捨てた。




堰を切ったように猿たちは雄たけびを上げ、ユベルに飛びかかってきた。

軽くなった腕でユベルは『屠畜者の槌ブッチャーメイス』を

振り回して絡みつこうとする猿たちを叩き落とした。

何度も羊の仮面を被る猿たちはユベルに飛びつこうとしたがその度に戦槌に叩き落とされ、

肉片へと変わった。

豚の仮面をした猿と比べ、防御力が低いのか体力が低いのか

飛びかかる羊面の猿たちは二、三撃で肉と血の山へとなり果てた。

残るは殺し損ねた獲物と未だ手足に纏わりつく猿たちであった。

ユベルは手足に絡みついた猿たちを一匹ずつ引き剝がしては首を絞め、

あるいは地面に叩きつけてから何度も踏みつぶした。








気が付くと矢の雨は止んでおり、また飛びかかる猿の魔族も居なかった。

仕留めそこなった猿の魔族を見やると苦痛に顔を歪ませ、すでに事切れていた。


もはやこの場に動くものは僕と時計塔に隠れるようにして眠る少女以外誰一人として残されていなかった。




第6話 攻防 ――了――


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