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The Wail Of Warwolves  作者: Kb hajime
異世界からの来訪者
5/12

第四話 凶兆

さて、ここで重大な問題に差し掛かる。

一人はフード付きの青いローブに杖を持つまだ幼さの残る齢15,6の少女、

これはまだ何とかなるだろう。

そういうファッションだと言えば通用するかもしれない。

だがもう一人は黄金の鎧を着る19歳男性、一人暮らし職業ニート。

これはどうしようもない。

目立つことこの上ない。

その上武装すれば完全に不審者、通報ものだ。

勢いで早く仲間を探そうと言ったものの、具体的な方法は思いついていなかった。

「ねえミリアちゃん、この姿だと非常に恥ずかしいのだけれど。

人目をごまかせそうな魔法は使えないかな?」

僕らが使える魔法とWOWの住人が使える魔法にどの程度差があるのかわからない。

それに僕は魔法職専門のプレーヤーではないからその辺は知識として知っているだけである。

ゆえに本人から使える魔法を訊いておいたほうがいいだろうと判断しての質問であった。




正直に言えば、自分を尊敬の念を込めて勇者と呼ぶ少女に助けを求めるのは気が引ける。

でも、この姿でコートを着たとして余計に目立つ不審者でしかない。

それに元の身長よりWOW内では身長は5センチほど高く、

何より元の自分より体ががっしりとしている。

更には甲冑を着ているのだから、そんな服がこの世に存在しているのかどうかはなはだ疑問である。

駅前から5キロほど離れたアパレルショップに大型サイズ専門店があった気がするが、

それでも結局頭は隠し切れないのだから余計におかしなものになることは避けられないだろう。

いっそうのこと”大道芸人です”とでもプラカードをつけておこうか。




「あの…ユベル様はそのお姿が恥ずかしいのでしょうか?

わたしから見て、その鎧はなんというか神々しいというか、

勇者と言うにふさわしい恰好かと思います。」

ミリアは畏敬の念のこもった目で僕を見上げていた。

「言い換えよう、この容姿だと目立ってしまうんだ。

魔族がいる可能性があるというのに目立ってしまうのは得策じゃない。

勇者がここにいますよと喧伝して回るも同然じゃないか。」

僕は彼女を納得させようともっともらしい説明を付け加えた。




「ユベル様はそこまでお考えであったのですね。

わたしにはそこまで考えが至りませんでした。

隠匿ハイド』の魔法を使えば姿を消すことは可能ですが、いかがいたしますか?」

彼女の言う『隠匿ハイド』の魔法を使えば確かに

誰にも視認されることなく行動できるだろう。

つい頼もうとしたが、思いとどまった。

よく考えたらそれはマズい――二人とも視認されなくなるということは

ドライバーには視認されなくなる。

つまりは車に轢かれる可能性が大ということだ。

仮に僕にだけ魔法をかけて見えなくなったとしても、

ドライバーはやはり、ミリアだけしかいないと思うだろう。

狭い道路を歩いていたらうっかり車に引っ掛けられ可能性が高い。

「その魔法は止めておこう。

ミリアちゃんが使える魔法の中で、普通の人に擬態するような魔法は無いかな?」と尋ねた。

「普通の人ですか?それでしたら『模倣コピー』の魔法が使えます。

それでよろしいでしょうか?」と少女は提案した。

「それでお願いするよ。」

僕は内心ホッとしながら答えた。




模倣コピー』の魔法をかけてもらい一般人と変わらない姿に化けた。

これで何とか目立たずに済む。

本当の自分より顔が整っているのは愛嬌と言うことで。

「それじゃあ、一番近い仲間がどこにいるかを教えてもらえるかな?」

僕はスマホを取り出して、地図のアプリを起動させた。

ミリアはスマホを見て随分と興味ありげな顔をしていたが、

僕の顔を見てすぐに杖を肩より高く構えて探知系魔法『捜索スキミング』を唱えた。

僕はそもそも戦士職のプレーヤーだから魔法は使えない。

元々持っている最低限のアイテム出し入れを行う魔法『宝物庫の鍵ストレージ』、

ステータス確認を行う魔法『診断チェックアップ』が使える程度だ。

ハクスラ探検隊では基本的にリーダーが探索専門のハンター職であった。




探知系の魔法を使わずとも戦えるのでは?とよくWOW専用の掲示板では質問される。

確かに使わずとも十分やっていけるかもしれない。

ただし、それは既に攻略ルートが確立されたダンジョンであればの話だ。

何故ならば、前人未到のダンジョンであれば必要なスキルやアイテム、

出現する魔族への攻略法が一切ない状態で挑まなくてはならない。

加えて、未知のダンジョンに仕掛けられたトラップはすべて初見となる。

それにハクスラ探検隊はそもそも誰も攻略していないダンジョンを攻略するギルドであるから

当然のことながらハンター職は必要不可欠であった。




「ここからおよそ東に10キロほど離れた場所にそれらしき気配を感じます。」

仲間の居場所を見つけたミリアが僕に知らせた。

10キロか…案外近いものだ。

スマホを手に取り、地図のアプリを起動させて東に10キロ離れた辺りの駅を探した。

ここからだと3駅分離れているようだ。

15分ほど歩いて駅まで行けるだろう。

それに3駅ぐらいなら二人で電車を使っても1000円あれば余裕で往復できるだろう。

時刻表のアプリを起動させて15分以上後の電車を調べた。ふとミリアの方を見ると、

彼女は目を爛々と輝かせてこちらを見ていた。

「あの…ユベル様、その薄い板は一体どういうものなのでしょうか?」

少女は僕の持つスマホに興味津々のようだった。

「これは…そうだな、この世界でいう地図であり遠くへと声を飛ばす道具であり、

情報収集の道具なのだよ。」

どうせ、携帯電話だなんていっても分からないのだから

そう言ったほうがわかりやすいだろうと思い、こう表現することにした。

「魔法を使ったような痕跡は感じられなかったのですが、

どうやってそのようなことが可能になるのでしょうか?」と

ミリアは僕に更なる疑問を投げかけてきた。

電波を飛ばすということは知っているけれどそれ以上のことは知らない。

どうしたらいいものかと僕は悩んだ。

「そうだな…これはミリアちゃんの世界で言う魔法とは違う力を

使った道具なんだよ。」かなり曖昧な答え方でミリアの質問をかわした。

彼女は心の底から感心したように見ていた。




財布を持ったしスマホも持った、モバイルバッテリーもある。

これで準備は十分だろう。

「じゃあ、これから出かけるとしようか。

君の世界でいうところの馬車に当たる乗り物で途中まで行くからはぐれないようにね」

そう僕は言って家の外に出た。

駅までの道すがら、少女の目には新鮮な物だらけだったようで

あちらこちらへと目移りしてばかりいた。

特に驚いたものは、やはり自動車であったようだ。

これがあればどれほど暮らしが楽になるかと彼女は切なる願いを洩らしていた。




僕らは駅に着くと彼女を駅の改札口の前に待たせ、大人切符2枚を買って改札口を抜けた。

もちろん彼女には勝手がわからないので僕が先に通るのを真似するように指示した。

駅からはほとんど待つことなく、電車に乗ることができた。

ミリアは電車が動き出すととても不安そうにそわそわとしていた。

どうにも自分が想像している以上のスピードが出る乗り物に抵抗が強いようで

始終不安そうな顔をしてこちらを見つめていた。

15分ほど経った頃、僕らは目的の駅へとたどり着いた。




僕は周りに人がいないかを確認してから

「それじゃあ、ミリアちゃん。もう一度仲間の場所を探してもらっていいかな?」

そう言ってミリアの方を向いた。

彼女はこくりと頷いて再び『捜索スキミング』を唱え、仲間の位置を探り出した。

「位置は今朝からほとんど変わっていません。

ここからおよそ北東に2キロほどといったところでしょうか。」とミリアは答えた。

スマホを取り出して位置の確認を行った。

ほぼ、アタリをつけていた場所であった。

都合のいいことにそこは敷地の広い森林公園で、

起伏も多ければ木々が多いため遮蔽物となるだろう。

最大の気がかりである魔族もまたこちらの世界にいるということだが、

こちらの方は土地勘があるから幾分か有利に戦いを運ぶこともできるだろう。




それにしても、一向に襲われる気配がないというのは不思議であった。

WOWではプレーヤーの気配は魔族にはほぼ筒抜けであるというのが

プレーヤーたちの最終的な見解であった。

何せ、いくら『隠匿ハイド』の魔法をかけていてもダンジョンに入った瞬間に待ち伏せされ、

手荒い歓迎を受けていたのだから。

そう言えば昔の仲間たちと一緒に、迷彩柄にして、

臭いを消すことで敵に不意打ちをかませるのではという話になって

皆こぞって奇襲をかけようとしたが、結局のところ誰一人として成功することは無かった。

それはきっとミリアのいう気配と言う奴が原因なのだろう。




馴染みのある道の曲がり角を曲がるとそこにはN市森林公園の入り口があった。

僕と少女は公園へと入って緩やかな勾配の坂を上っていた。

両側には木々がまばらに植えられていた。

「ユベル様、もう少し近づかなければわかりませんが、どうやら近づいているようです。」

ミリアが僕にそう告げた。

「魔族の気配は近くにある?」そう僕が尋ねると、少女は首を横に振った。

「周囲には感じられません。大分離れたところにあるようですが。」

少女は少し自信なさげに答えた。




WOWの住人はそもそも魔族に対して有力な対抗手段を持っていなかったという。

ミリアが使う魔法からも基本的には外敵の危険を察知する程度であると推測できる。

この様子であれば攻撃魔法はおろか補助魔法によるステータス強化も期待はできないだろう。

そう思いつつ、道なりに進んでいた。

昼間の平日であるためか、先ほどから誰にも会わない。

それにしては何かがおかしい気がする。妙に静かすぎるのだ。

周りに意識を巡らせ些細な音を拾おうとするが、何も聞こえない。

気が付くと歩くペースが速くなっていた。

何かがおかしい――そう思いながら先を急いだ。



とにかく、仲間を見つけなければ。


その時、視界の端に何かが映ったのだ。

僕はその場に立ち止まり周囲を見回した。

ミリアは顔面蒼白にして、突然その場にへたり込んだ。

彼女は僕の呼びかけにも応じず、わなわなと震えていた。

彼女の視線の先を追うとそこには腹部をズタズタに引き裂かれ、

内臓を引きずり出された死体が残されていた。


マイルズ――少女はそう呟いた。




第四話 凶兆 ――了――


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