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The Wail Of Warwolves  作者: Kb hajime
異世界からの来訪者
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序 人狼たちの慟哭

『The Wail Of Warwolves』体験型RPGとして登場し、その特殊性からネット内で話題となったゲームである。

このゲームがなぜそこまで人気になったのか?

それには多くの理由が存在するのだが、その一つとしてはこのゲームの難易度の高さが安易なプレーヤーたちの参入を阻んだためであろう。

つまり、初心者はお断りとでもいわんばかりの初見殺し、魔族と呼ばれるモンスターたちの圧倒的な強さ、何より一度死ねばせっかく作ったキャラクターが完全に消滅するという極悪仕様であったのだ。

このことから、ダンジョンの一つでも攻略し、ブログ内で報告を行えばその広告収入だけで生活が成り立ってしまうといった話もあった。




それ以外にも初心者から上級者までが重宝するマップ情報、キャラメイキングからスキル、 ステータスの考察といった情報を提供するサイト運営者はWOWをやるすべてのプレーヤーから支持され、尊敬されていた。

WOWにおいてギルドは所属していなければモンスター討伐はおろか、町の外すら満足に歩けない。

これはこのゲームにおける常識であった。

非常に例外的なプレーヤーを除けば必ずWOW内のほぼ全てのプレーヤーはギルドに所属していた。

仮にプレーヤーが一匹狼プレイと呼ばれるソロでのモンスター討伐やダンジョン攻略を挑むとどういうことが起きるのか?

まず、街から出れば初心者を狙うプレーヤーたちに襲われることは間違いないだろう。

次にモンスターのソロ討伐はプレーヤーの技量的な問題として倒せない、あるいは倒したとしても消耗が激しすぎて無事帰還するのは非常に困難である。 

また、ダンジョン攻略にはそれに特化して育てたキャラクターでなければ最深部にたどり着く前に死んでしまうだろう。

ゆえに、WOWでまともに戦おうと思えばまず適切なギルドに入る必要があった。




僕はこのゲームの中でも有名なギルドの一つ、ダンジョン攻略を目的としたハクスラ探検隊に『ユベル』という名前で前衛を担当する戦士職のプレーヤーとして所属していた。

ハクスラ探検隊は6名のプレーヤーから構成されるギルドで、主に攻略したダンジョンを秘境探検家の手記のようにブログで攻略内容をすることでギルドメンバーたちは自分の生計を立てていた。


そして、先日はタルタロスと呼ばれるダンジョンの攻略を行った。

ダンジョンの最深部でモンスターたちのボス格である魔王とよばれる魔族を倒した。

魔王を倒した後、僕らはこれまでの努力を労いお互いの健闘を称え合った。

その後、ダンジョン最深部で戦利品としてレアアイテムや魔王を倒した後に残されるドロップアイテムや経験値をギルドメンバーたちで分配した後、今後の予定を話し合っていた。


その時、忽然とそれが姿を現したのだ。




それは紫紺のローブを頭まですっぽりと羽織り、ところどころにどす黒い――何かが乾いて固化したような染みがこびりついていた。

ローブの隙間から見える目は異常と思われるぐらい大きく、獲物を狙うかのようにぎらぎらと光っていた。体は異常なまでに細く、ローブをひっかけたハンガーのようにも思わせた。かろうじて人の形をしているが、それが人なのか魔族なのかは判別がつかなかった。

「貴様らが魔王アスタロトを屠ったというのか?」見た目に反し、ローブの男は地を揺るがすかのような声で僕らに問いかけた。

「その通りだ。我々ハクスラ探検隊がここのダンジョンのボスを倒したのだ。」リーダーであるアレスが堂々と語った。

「ならば貴公らの強さに報い、願いを叶えてやろう。」ローブを羽織った奴が言った。

「何寝ぼけたこと言ってんのあんた?そんなこと信じられるわけないじゃない」プリシラがローブの男の言に嚙みついた。「この状況下でいきなり現れた人物を信頼するわけにはいきませんね。」参謀と称されるファルネウスの目が相手の真意を探るかのように鋭くなった。

「確かにその通りだ。ならば貴公らの腕を試すとしよう。私に一太刀を与えればその願い聞き届けてやろう。」ローブの男は首肯し、かかってこいとでも言わんばかりにゆっくりと両腕を大きく広げた。

僕は同じく前衛のルシファーがローブの男へと駆け出すと同時に後衛のプリシラと”参謀”が対魔法防御『神の祝福ホーリー・ブレス』を唱え始めた。




WOW内におけるギルドのメンバーの役割とは大きくわけて前衛と後衛に分けられる。

前衛は一般的に想像される通り戦士職のプレーヤーが敵を倒す役目と壁としての役割を担う。

後衛はバックアップ要因として補助魔法や魔法攻撃を行うわけだが、WOW内での補助魔法とは詠唱している間しかその効果を発揮しない。

また、補助魔法なしでボス戦を行うことは自殺行為である。

なぜなら戦士職は当然のことながら攻撃力と防御力に特化しているため魔法に対する耐性はほぼ皆無である。

ゆえにWOW内で上級者になるためにはまず補助魔法を使いこなすことが必要であった。




ハクスラ探検隊において補助魔法を使うのはプリシラと参謀ファルネウスである。

プリシラは補助魔法専門で詠唱を行う魔導士である。

一方でファルネウスは戦況に応じて魔法攻撃を行うバランス型の魔導士であった。

通常のギルドでは補助魔法専門職は一人であるが、僕らのギルドでは二人ということになる。

こうした理由から僕らはダンジョン攻略系ギルドの中でも上位に位置するギルドになり得たのだ。




並走して、ローブの男に突撃していくのは僕とルシファーであった。

「一番槍は俺がもらっていくからな、ユベル」ニヤリとルシファーが笑って僕を追い越していった。

「おい、僕の分も残しておけよ‼」僕を引き離していくルシファーにそう叫んだ。

ルシファーは恐らく相手に反撃の隙を与えることなく倒してしまうつもりなのだろう。

全くあのでたらめな強さはどうやったらまねできるのだろうと思う。

才能とは実に不公平だ。

ローブの男は接近しつつあるルシファーを目の前にしても動じることなく未だに不動の姿勢を貫いていた。

「それじゃあ、一発かましてやりますか‼」ルシファーが二刀を構え、あと数歩で間合いに入ろうとした。 




その瞬間、ローブの男が『万物流転グラビティ・ソウル』と発した。大地がぐらりと揺れたかと思うと次の瞬間には地面に倒れこみ動けなかった。

かすかに目を動かすと先行していたルシファーも同様に倒れこんでいた。

後衛の二人が詠唱してくれた補助魔法のおかげで体力が半分程度削られた程度で済んでいた。

ここまでの威力であれば・・・神級魔法なのだろう。今までそんな魔法を使うプレーヤーにもモンスターにも数える程しか出会ったことがなかった。

二人が詠唱していなければ即死は免れなかった、そう思うと背筋が凍った。回復士のミレイユが『治癒ヒール』を唱え、全員の体力が回復させた。




「やはりこの程度では死なぬか。ならば、もう一度――」『万物流転(グラビティ・ソウル)』ローブの男ががらんどうの中で響くような声で詠唱した。

――と同時に体勢を立て直そうとして立ち上がりかけたところに再び抗えない重圧がのしかかった。

体力の残りが半分以下を切った。


万物流転(グラビティ・ソウル)』という魔法効果のためか、立ち上がることすらできない。

このままではミレイユの回復魔法量からいっても今の技を連続で受ければ死んでしまう。

「まだまだ死なぬか。さすがはアスタロトを倒しただけのことはある。」

何かを骨のようなものを振動させるかのような笑い声をローブの男は出した。




”参謀”が神級魔法『冥府の氷風コキュートス』を唱えた。

神級魔法とはWOW内の低級、高級魔法の更なる上、最上位に位置する最強クラスの魔法である。”参謀”の必殺技ともいえる『冥府の氷風コキュートス』はローブの男の周りに無数の巨大な氷柱を出現させた。しかし、それに拮抗するようにローブの男からはどす黒いオーラのようなものが放たれ、”参謀”の必死の抵抗をものともしなかった。「私に矢も魔法も効かぬよ。刃を突き立てる以外に我を屠ることはまかり通らん。」ローブの男の言葉が絶望的に響いた。




誰一人として声を出せる者はいなかった。”参謀”が『冥府の氷風コキュートス』を詠唱した後にローブの男から攻撃を受けなかったことがせめてもの幸いであった。

プリシラのみの補助魔法だけではあの男の魔法攻撃には耐えきれないだろうと思われるからだ。

ミレイユが『治癒(ヒール)』の魔法を唱え続けているが、現状下では詰んでいる。

このままではハクスラ探検隊が築いてきた名声もキャラクターも失われてしまう。

「しかし、このままではいささかつまらないものがある。私に一太刀あびせれば願いを叶えてやっても構わないぞ」ローブの男は今尚、僕らを誘うかのように両腕を大きく広げていた。




ローブの男にあと少しで届きそうなルシファーが下を俯いて固有スキル『最後の抵抗(ラスト・レジスト)』を発動した。

彼のスキル『最後の抵抗(ラスト・レジスト)』はいわゆる敵の状態異常スキルを受け、行動不能ペナルティに陥った時に行使することのできるスキルである。

具体的な効果は敵からの行動不能ペナルティと、ノックバック攻撃を無視し、敵の硬さに関係なく弾かれることのないスーパーアーマー状態と一般的に呼ばれる状態になるスキルである。

その代償としてスキル効果の消失後にレベル10の低下、それに伴うステータス減衰のペナルティを受ける。

WOWが他の体感型オンラインゲームと違って難易度が高いとされるのにはこの理由もあげられる。

つまり、大技を使うためにはレベルとステータス犠牲にする必要性があるのだ。




そして、今こそがそのスキルを使わなければいけない窮地であったのだ。

ルシファーが勢いよく立ち上がり、双剣『青龍』と『白虎』でローブの男の斬りかかった。

紫紺のローブが破れると同時にその肉体も切り裂かれた。

と同時に、強烈な腐臭が鼻腔に入り込んだ。

こいつは生者ではない、ということは急所を狙ったダメージボーナスが期待できない。

だけれど、『最後の抵抗(ラスト・レジスト)』を発動したルシファーの連撃は接近戦では絶大な威力を発揮する。

急所攻撃ができずとも相手に大幅なダメージを期待できる。

それに相手は魔導士タイプであるから物理防御力は弱いはず、これなら倒しきれるかもしれない。




ルシファーの双剣による連撃を受けたローブの男は突如、『狂飆魔槍(スピア・ストーム)』と暗く重く響く言葉で唱えた。途端に上方から空間を埋め尽くさんばかりの槍の雨が降り注いだ。無数の槍が肉体を貫き、体力が残り僅かまで削られた。体に突き刺さる槍を見ていつまでも消えないことから物理属性の魔法攻撃であることを僕は悟った。これはまずい、そう思って貫通した槍で自由の利かない体を捻ってなんとか後ろの方を確認した。




ハクスラ探検隊の後衛メンバーは既に息絶えたことを意味するドクロの徴が体に浮かび上がっていた。

そもそも魔法職である後衛のプリシラ、“参謀”ファルネウス、ダンジョン攻略の要である“リーダー”アレスは防御力を考慮したキャラメイキングはされていない。

必然的に物理属性の攻撃は戦士職の前衛と比べはるかに劣る。

今戦っているローブの男は魔導士タイプであることから前衛を守るために補助魔法対魔法防御『神の祝福ホーリー・ブレス』を二人そろって行使したことが仇となったのだ。

 ルシファーの方を向くと、双剣を振りかぶって続く斬撃を振おうとするも串刺しにされ、胸にドクロの徴が刻まれていた。




また僕は全部失ってしまうのか?そう思った瞬間、何もかもが真っ白になった。

「貴公らの攻撃、私が想像していた以上であった。つい昂って、全力を出してしまった。許せよ勇者たち」感情のこもらない声がむなしく響いた。

「冗談で済まないだろ!ふざけんじゃねぇぞテメェ!俺たちが築き上げてきたものを返せよ!」怒りと悲しみに満ちた言葉でローブの男に浴びせた。

ローブの男がこちらまでゆっくりと歩み寄ってきた。

「貴公らの持つものすべての返還を望むというのか。ならばそれもよかろう。」男が僕の頭に手をかざすと何やら妙な呪文を唱えた。

見えるものすべてが一瞬にして光に包まれそこから意識を失った。





 外からは雀の鳴く声と車が往来を行き交う音が聞こえてくる。

ああ――僕は寝落ちしてしまったのだな。

そう思いながら、これからハクスラ探検隊をどうやって再建していくのだろうかとまどろみの中に居た。心地よい感覚、覚醒と眠りとの間は静かな海を漂っている心地がして気分がいい。

WOW内でのギルド壊滅のことも忘れてしまいそうになる。




意識が段々とはっきりしてきてようやく、ゲームのヘッドギアを外そうとすると――カシャンという奇妙な音がした。

カシャン・・・?いったい何の音だと思い目を開ける。

何やら金ぴかの小手が視界に入った。

きっと寝ぼけているだろうな、そうぼんやりと思いながら洗面所に向かった。

鏡に映った自分を見て驚愕した。


黄金の鎧を着た自分がそこには立っていたのだ。







序 人狼たちの慟哭 ――了――


拙い文章ですが、少しずつ頑張っていこうと思います。

改行をよく忘れそうになります。

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