プロローグ~冷たい夜の別離~
人々が住む地域から少しはなれたところに建つ、小さな家。
その中に居るのは少年と少女だった。
夜の帳が下りはじめているにも関わらず、明かりはついておらず玄関からはすきま風が吹いていた。
「ねえ、僕達また出会えるよね?また、一緒に暮らせるよね?」
まだあどけなさの残る少年が泣きながら言った。
その視線の先に居るのは、亜麻色の髪の少女。
少女はそんな少年を悲しそうな目で見返す。
「嫌だよ。姉ちゃんとお別れなんて・・・」
「大丈夫。きっとまた会えるよ」
それが不可能に近いことは、少女が一番理解していた。
少女は、今日魔族に引き取られる。
死ぬか、奴隷にされるか。
少女に残された未来はそれだけ。
それは、幼い二人でも分かるほど絶望と死に溢れていた。
「なんで、僕達が不幸にならなきゃいけないの?」
少女は答えられなかった。
少年にどんな言葉をかければいいのかがわからなかったからだ。
「やっぱり僕の眼のせい?僕がいなければ・・・・」
少年の肩が震える。
それに少女は思わず、
「違う!自分を責めないで・・・・」
そこで言葉が遮られた。
少女の小さな肩を茶髪の男が掴んだからだ。
男の目は赤く、魔族であることが少年にもすぐ分かった。
魔族は人間よりもはるかに高い戦闘力を持ち、人間に逆らう術は無い。
そんな魔族の主な栄養源は、魔力。
その魔力を人間は、体の中に秘めていた。
だが、魔力の所持量には人それぞれ個人差があった。
そのため、高い魔力を持つ子供たちが生贄として魔族たちに捧げられおり、少女もその中の一人であった。
魔族の男は、笑いながら
「感動のお別れはすんだかい?もうこいつは僕の物だ。君のものじゃない。」
そう、それだけだ。
その瞬間から、少女は魔族のおもちゃだ。
少女は一瞬絶望的な表情を浮かべ
「・・・・わかりました」
一瞬のためらいのあとに、頷いた。
「・・・・」
少年は、もう何も言わない。
もうわかっていた。
どうせもう会うことは出来ないのに約束を交わす意味など無いことを。
自分もいずれは魔族に利用される。
もう笑うことは出来ないかもしれない。
今の僕には何も無い。
そう思った。
「いくぞ」
男にうながされ、少女は出口へと向かっていく。
その先に死があるのを知っていても。
少年は涙をこぼしながら、うなだれる。
自分の無力さをくやみながら。
そんな少年を突き放すように扉がしまっていく。
「何で・・・・何でだよ・・・・姉ちゃん」
遠く幼い日の別離。
その出来事は少年の胸に深く刻み込まれた。