プロローグ:気がつけば野原
エスプリ:この小説内ではフランス人的精神という意味を示す。
僕の名前はアンジール=ベル。
あと一ヶ月ほどで27歳のしがない会社員だ。
名前からわかると思うが日本人ではない。
フランス人だ。
親の都合で生まれも育ちも日本、
フランスには行ったこともない。
頭はそれなりに良く、
顔もそれなりだが運動は壊滅的にできない。
そんな僕だが、先程会社での業務を終え、会社を出たところだ。
「帰ったらA◯elieのサントラでも聞くかー.........」
疲れた顔で青になった横断歩道に歩み出る。
その瞬間、車のブレーキ音が響く。
大きな音にふと横を見ると、目の前まで車が迫っていた。
あっ
そう思うか思わないかのうちに、
激しい衝撃と共に目の前が真っ暗になり、
意識が閉ざされる。
気がつけば野原にいた。
目の前に広がるは草の緑と岩の灰色。
目線を少し下げるとそこには手があった。
ただその手はさっき持っていたスマートフォンではなく、分厚い本だった。
よく見ると、視界の端に見える服は生前の元は違っていた。なんだか魔法使いが着るようなローブだった。
もしかしてここは天国か?
さっき自分が恐らくは死んだであろうということを思い出して、周りを見渡す。
何もない。あるのは草、岩、森、はるか遠くに山という手がかりとは微塵も言えないものばかり。
周りの情景に手がかりはない。だとしたら。
もう一度手元の本に目をやる。
「読んでみようかな、この本。自分の罪状が記されてなきゃいいけどねぇ」
柄でもない独り言を言いながら本を開いてみると、
そこには訳がわからない文字が並んでいた。
しかし、何故か僕にはその文字の意味が理解できた。
「轟け......雷鳴....己が敵を光に染めよ.....?
なんだこれ、まるで––––––––」
ファンタジーの呪文みたいだ。
そう言葉を繋げようとした瞬間、僕の目の前を眩い光が走った。
光の後には真っ黒に焦げた草。
どうしよう。まずそう思った。
もしかするとこれは本当にファンタジーの呪文なのかもしれない。
冷や汗を流しながらページを捲り、書いてある言葉を口に出す。
「突き上げろ氷槍、己が敵に零の冷たさを」
僕の前2mほどの地面から氷の槍が出てきた。
どうやらこれは所謂魔導書というものらしい。
何故僕が持っているのかは知らないが、
まぁ何かしらの理由があって手元にあったのだろう。
ここがどういう場所なのか、皆目検討もつかない。
天国か、地獄か、はたまた異世界か。
少なくとも僕のところにはまだ天使も鬼も迎えには来ちゃいない。
異世界なら転生と呼ばれる現象に当たるわけだが、
それなら自分が人か化生かもわからない。
僕は今、現状について何にもわかっちゃいない
だけど、何もしないわけにはいかない。
「とりあえず、進んでみるとしようかな」
魔導書片手に僕は足を前に出し歩み出る。
絶望するにはまだ早い、死ぬには早過ぎたんだ。
お楽しみはこれからじゃないか。
頑張って投稿しますので、今後ともよろしくお願いします。