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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第12章 大陸の果て
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12-31 槍を奪え Ⅴ

「やった、成功した!」


 爆発音が都市全体を揺るがし、氷河が崩れ落ちるように建造物が地面へと落下するのを見て、隠れていたレティが興奮のあまりに叫んだ。すぐ傍には、安全地帯に待避したキュイも寄り添い、喝さいを上げた。


 魔道具となり、軽く振ったとはいえリザの斬撃ですら傷一つ付かない堅牢な建造物が、こうも都合よく崩れたのは、全てはレティの仕業である。無論、彼女が攻撃魔法に目覚めて破壊した訳では無い。


 ケラブノス石だ。


 レイとリザとシアラがゲオルギウスと戦っている間。


 エトネとクロノとヨシツネが人造モンスターと戦っている間。


 彼女は、レイが定めた最終地点にある背の高い建造物の根元に、大量のケラブノス石を設置した。爆発すれば、建造物が根元から崩れ、通りに雪崩れ込むように置いて、起爆はレイの魔短刀ダガーを預かったエトネがやった。


 エトネに渡した分を除けば、《ミクリヤ》が所有する残り全ての石を注ぎこんだ大爆発。魔道具となった建造物であっても、重要な柱や基盤を吹き飛ばすのには十分で、結果はご覧の通りだ。


「あたしたちの上に、建物の雨を降らしたお返しだよ。さんざんやってくれたんだから! 自分のしでかしたことは自分に返ってくるんだよ!」


 ゲオルギウスの都市破壊で、建造物の下敷きにされたのを根に持っているのだろう。土煙と瓦礫に飲み込まれた魔人に、これまで溜まっていた鬱憤を晴らすように叫んだ。肩で息をしながら顔を上げると、すっきりした面持ちになっていた。


 とはいえ、この程度の爆発と建造物が雨あられに落ちたとしても、ゲオルギウスは敗北しないだろうという予感はあった。


「……大丈夫だよね。ご主人さま、お姉ちゃん、みんな」


 ゲオルギウスから槍を奪うという目的で始まったこの戦い。レイが思い付き、シアラがどうにか苦心して作戦の形を成し、全員が力を合わせて、ようやくこの最終局面にたどり着いたのだ。


 この後に出番が控えているレティは、こうやって遠くから仲間の勝利を祈るしか出来なかった。








 金色の瞳に影が差す。かつての栄華を偲ばせる装飾がされた建造物が自身に向かって落ちてくる。建造物を質量兵器として使うなど、子供が組み立てた積木を崩したかのを目にして思いついたような単純な発想だが、受ける側としては厄介極まる攻撃だ。


 なにしろ、魔道具としての性質を得た建造物だ。ゲオルギウスの槍で破壊するにも力を溜める必要がある。極端な話、小さな隕石を振りまくような行為だ。乱暴ではあるが、実に効果的であるとすら、内心では評価していた。


 そんな事を考える程度には、ゲオルギウスにも余裕はあった。厄介な攻撃ではあるが、対処方法は簡単だ。避けてしまえばいいのだ。


 重心が傾き、足裏に力が集まる。刹那の間をおかずに、危険地帯から安全地帯へと飛び退るはずだった体は、しかし、直前に感じた熱に急停止する。


「逃がすと思うか!」


 炎が壁となって退路を断つ。二つ名通りの色をした炎の中で、飛び回る龍刀影打の影が見えた。このまま飛び込めば、腕か足のどちらかを諦めることになる、と直感は囁いていた。


 硬直した隙を狙ったのか、あるいは読んでいたのか、それとも知っていたのか。


 動きを止めたゲオルギウスに薄紅色の極光が押し寄せた。槍を回して構えを取った魔人は、光の奔流を難なく受け止めて、叩き切った。だが、魔人の顔は苦々しい物と変わった。


「しくじったか。時間を潰っ」


 言葉は最後まで続かなかった。退路を断たれ、レイ達の方向へと無理やり突破するという選択肢も奪われたゲオルギウスは、倒れこむ建造物に押しつぶされたのだ。







 舞い上がった土煙は爆発によるもので生じた物なのか、それとも建造物が崩れたから生じたの物なのか混ざってしまいもう分からない。だが、一瞬にして視界を埋め尽くす土煙は、濃霧のようにレイ達に纏わりついて視界を奪う。


 レイの肩をリザは掴み、顔を寄せた。


 顔の正面まで持ちあがった指が決められたパターン通りに動き、それがハンドシグナルだとレイも理解した。下手に声を出せば、ゲオルギウスに位置を知らせているのと同じだ。


 リザが声を出さないでハンドシグナルに籠めた意味は二つ。


「分散」と「次の段階」。


 理解したレイは頷くと、濃霧に似た土煙の中を静かに移動して消えていった。一人残ったリザは、精霊剣を構える。当たり前の話だが、ゲオルギウスがこの程度で死んだとは、欠片も思ってはいない。


 地面にめり込むような重圧はいまだ衰えていない。


 土煙の向こう側から、ゲオルギウスが突然現れたとしても、なんら不思議ではないのだ。そうなることを想定して集中を切らさないリザは、攻撃の予兆めいたものを感じ取った。


 肌が粟立ち、首筋にひやりとした汗が伝う。


 直後、轟音と共に土煙が払われ、建造物の瓦礫が全方位に向けて爆散した。


 瓦礫といっても、リザの頭よりも大きな塊が恐るべきスピードで迫るのだ。急所に当たれば意識を失うどころか、生命にも関わる。


 リザは自分に向かって飛んできた十二の欠片を全て剣で切り裂いた。薄紅色の光が躍ると、瓦礫はバターのような断面をさらして弾かれていく。


「しまっ、ぐぅ!」


 だが、十二番目の瓦礫の真後ろに隠れていた十三番目の瓦礫に気づかなかった。直前になって身を翻したが、躱しきれずに足に直撃した。地面に倒れたリザの足は、関節の稼働範囲を大きく超えた方向へ向いていた。


 静かになった通りに、魔人の声が広がっていく。


「面白い発想だ。この都にある魔道具となった建造物を一つの武器に見立てててぶつけてくるとは。意表を突かれたが、愉快な経験を味わったぞ」


「……あれが直撃して、面白いなんて。やっぱり、発案者は感性も違いますね」


「うん? ……くははは! そうか、そうか。確かに、これは私がやりそうな手法だな。大方、炙り出しで味わったのを糧に思いついたのか」


 喜色の声は、土煙を吹き飛ばした中心からした。瓦礫の山の中にできた不自然な空洞に陣取るゲオルギウスの体は、人造モンスターの左腕を含めて四肢は繋がっている。だが、建造物が直撃したダメージはあるのか、青い塗料を頭から被ったかのように大量の血を流していた。


 ダメージは蓄積されている。


 リザは精霊剣を杖にし、無事な足を支えにして膝を折る。立って剣を振るうのはできなくても、こうすれば固定砲台ぐらいの役割は果たせる。もっとも、膝を折ったせいで傷を負った部分が地面に直接触れ、言葉にできない痛みに苛まれていた。


「ッ!! これ、ぐらい!」


 言葉と共に放った極光がゲオルギウスへと迫る。


 魔人は右の槍で光帯を受け止めると、不愉快そうに顔を歪めて穂先を横にずらした。光は瓦礫の山を削って消えた。


 満身創痍の姿であっても、ゲオルギウスは光帯を受け流せるだけの余力があるのかと歯噛みしたくなるが、これまでとは違う変化にも気づいていた。今までは、精霊剣の熱線を槍で受け止め散らしていたが、初めて受け流したのだ。


 直前の表情の変化も合わせて考えれば、受け止められなくなったと見るべきではないか。


 レイが単独で時間を稼ぎ、地面の下から奇襲を仕掛け、二人掛かりでここまで誘き寄せ、質量兵器もどきをぶつけた成果が実ろうとしている。無限に思えた魔人の体力が、底を突こうとしていた。


「ここで、決めます!」


 精霊剣の魔法陣が輝き、リザの生命力が吸い上げられ熱線となって放たれる。着弾する度に、薄紅色の華が瓦礫の山に咲いた。


 一瞬でも猶予を与えれば、ゲオルギウスに反撃のチャンスを与えてしまう。体力の底が見えたとはいえ、満足に動けないリザは手を緩めてしまえば簡単に殺されてしまう。間断なく攻撃を放つことで、ゲオルギウスを押し留められるのだ。


 連続して放つ光が荒狂う濁流のように押し寄せ、中州を削るかのようにゲオルギウスの体力を奪っていく。受け流した熱線が徐々にではあるが自身の近くで着弾するようになったのを感じて、ゲオルギウスは限界を悟った。


「これも止む無し」


 手にした槍を一つに戻すと、リザの熱線は光の泡となって消えた。


 概念殺しの槍がその手に戻ったのだ。レイ達に奪われるかもしれないというリスクを嫌い、二つに分けていた槍を元に戻した。リスクを許容しなければ、自分がやられるかもしれないという瀬戸際まで追い詰められたのだ。


 光が泡となって消えるのをリザは目にしつつも、攻撃の手を緩めない。隙間の無い連続攻撃によって、ゲオルギウスの足はその場に縫い付けられたかのように動けなくなった。


 いや、動く必要が無い、と言うべきか。


 クリストフォロスの調査によって、リザの持つ精霊剣の特性とリスクをゲオルギウスも知っていた。


 精霊剣の連続使用は死に向かって一歩ずつ近づくのと同じだ。


 精霊剣がエネルギーとして変換するのは所有者の生命力。本来なら、精神力を熱に変える剣なのだが、前所有者であるエルフの『英雄』イーフェは精神力を持たず、代わりに無尽蔵に溢れる生命力を有していた。


 精神力を持たない彼女が使えるように、剣には生命力を精神力に変換する魔法陣が刻まれた。結果、無尽蔵に溢れる生命力を力に変えたイーフェは、エルフの『英雄』とまで呼ばれるようになった。


 しかし、リザは普通の少女だ。数奇な運命を背負い、上級冒険者でも生きては戻れない戦いを潜り抜けたが、イーフェのように特殊な技能スキルを持っている訳では無い。熱線を放つたびに、文字通り自分の生命を削っているのだ。


 光がか細くなるのに比例して、リザの呼気が弱まる。白い肌は病的なまでに青白くなり、瞳は暗い色を放つ。まるで死者の貌だと、ゲオルギウスは思う。


 遂に力尽きたのか、刃は地面の方を向く。全ての熱線を受けきったゲオルギウスも幾らか消耗していたが、まだ戦うには十分だった。


「見事と称賛しよう。ジグムントの系譜に連なる者よ。……奴の剣を引き継いだのが、貴様のような者で……いや、これは感傷だな」


 呟きは果たしてリザの耳に届いていたのか。


 ゲオルギウスは周囲を警戒しつつ、リザに止めを刺すべく足を踏み出し、出現した異様な壁に身構えた。


「これは……歯車か?」


 ゲオルギウスの行く手を遮ったのは、掌に乗る程度の大きさの歯車だった。そんな小さな歯車が無数にかみ合い、ゲオルギウスをドームのように取り囲んでいた。


「小賢しい、この程度の壁で、今更止められると思っているのか」


 豪腕が唸り、概念殺しの槍が壁を裂く。


「確かに、その通りです。こんな薄い壁で貴方を止められるとは思っていません」


 声は、壁にできた隙間の向こうから聞こえた。いつの間にか現れたクロノがリザを守るように立ちふさがり、ゲオルギウスを見据えて告げた。


「でも、今の貴方にその嵐は吹き飛ばせないはず!」


 言葉が終わると同時に、クロノが展開した歯車は、編み込んだ糸が解けるように崩れる。ドームを構成した歯車は一転して、彼女の指揮する嵐となってゲオルギウスに襲いかかったのだ。


 魔人の肌を鋼鉄の歯車が噛み付き、青い飛沫が辺りを汚す。


 反撃として振るった槍の軌道にあった歯車は砕けるが、無数とも思える歯車の全体からすれば僅かな量だ。歯車は四方八方から襲いかかり、ゲオルギウスに爪を立てていく。


 放置された肉にたかる蝿のように、歯車はゲオルギウスの周囲に纏わりつく。本来の力か、あるいはリザの熱線を受け止める前のゲオルギウスなら、槍の一薙ぎで大半の歯車を吹き飛ばせただろう。


 だが、リザが命懸けで体力を削ったおかげで、今のゲオルギウスにそれを為す力は無い。


「鬱陶しいだけの、数だけの攻撃が、どれほどの物、かッ!」


 言葉に詰まるのは、歯車の一つが深く食い込んだからだ。歯車が肉を抉り、体内に侵入しようと迫る。槍にぶつかって砕ける歯車の手ごたえが変化している。


 奇妙なことに、ゲオルギウスを襲う歯車の嵐は、数を減らしているの比例して、徐々にではあるが強固な物へと変わっていった。


 時間経過と共に強くなる歯車を訝しむゲオルギウスは、周囲に纏わりつく歯車の色が青くなっていることに気づいた。


「やってくれるな。皮膚を裂く浅い傷ばかりだったのは、私に血を流させるためか。血を浴びて、即席の魔道具を作ったか」


「御名答。戦いが長引くほど、こちらが有利となります」


 クロノの意志を反映し、歯車は勢いを増す。鮮血を浴びた歯車は即席の魔道具となって強化され、更に肉を抉り、その血をすすり強度を増していく。


 肉と金属が擦れる耳障りな音が響くなか、しかし、ゲオルギウスの歩みは止まらない。槍を振り回し、群がる歯車を蹴散らす。自らの流した血が足跡となり、前へと続いていく。


 常人なら、その場に蹲っても不思議では無いダメージなのに、止まろうとはしない。


「信じられない。これでも止まらないの?」


「温い! 私の足を止めたければ、この倍は持ってこい!」


 気が付けば、歯車は半分以下まで数を減らしていて、ゲオルギウスを押し留めることは出来なくなっていた。槍を振るうと、歯車の嵐にカーテンを破いたような隙間が出来てしまった。


 クロノが歯車を操作して塞ごうとしたが、一歩遅い。


 飛びだしたゲオルギウスは地面を蹴ると、速度を乗せた刺突を繰りだした。


 クロノが歯車を呼び戻そうとしても遅い―――はずだった。


 槍の穂先はクロノの胸元寸前で止まった。ゲオルギウスが慈悲の心を持って槍を止めた訳では無い。彼の四肢を縛る長布によって、それ以上の踏み込みが出来なかったのだ。


「こ、これほどの剛力とは、魔人の名に偽りは無いでござるな」


 遮蔽物の影で長布を伸ばしていたヨシツネは、伝わってくるゲオルギウスの膂力に冷汗をかいた。負傷した身でレイ、リザ、クロノと立て続けに連戦しているのに、まだこれほどの力を有しているのか、と恐れすら抱いた。


「まだ隠れている奴が居たのか。だが、これぐらい、造作もない!」


 筋肉が膨張し、長布が悲鳴を上げる最中、ヨシツネは叫んだ。


「エトネ殿、お早く!」


「うん」


 長布が千切れるのと同時に、飛び込んだエトネの拳がゲオルギウスの顔面に突き刺さる。子供の体躯からは想像できない一撃に、ゲオルギウスはよろめいた。


 空中で体を捻り、第二撃を繰りだそうとしたエトネだったが、彼女の足を粘液で構成された腕が掴んだ。振り払おうとしたが、それよりも早く、彼女の体は地面へと叩きつけられる。


「がはっ!」


 咄嗟に頭は庇ったが、それでも衝撃が全身を貫く。四肢から力が抜けてしまうも、ゲオルギウスは容赦なく、同じことを繰り返そうとした。


「エトネさんを離しなさい!」


 クロノが歯車で生み出した薙刀が魔人の腕を裂いた。危うく地面に叩きつけられるはずだった少女は、走りこんだ忍者に救われる。それを視界の端で見届けたクロノは、背筋に感じた悪寒に従って薙刀を縦に持った。


 幸運だった。


 判断が遅れれば、彼女の首は地面の上にあっただろう。一撃に耐えられなかった歯車が吹き飛ぶと、クロノは盾として再構成する。


「妙な武器だな。意志一つでそこまで形を変えるのか」


 興味深そうな声色をしつつも、ゲオルギウスは槍を縦横無尽に振るう。その度に歯車が吹き飛び、盾は面積を減らしていく。遂には、彼女の頭部よりも小さくなってしまった。


「だが、これで終いだな」


 無慈悲な言葉と共に繰り出された刺突は―――。


「その通りです。これで終いです」


 ―――薄紅色の極光を従えて飛び込んだリザの言葉に塗りつぶされた。


「貴様ッ! まだ、そのような余力を!!」


「意外と上手でしょう、死んだふりも。なにしろ、何度も死を味わっているのでね!」


 タイミングを見計らったリザは精霊剣の切っ先を後ろに向け、残していた最後の一発を推進力にしてゲオルギウスとの距離を零にした。クロノに止めを刺そうとして大ぶりになる一瞬を狙って、彼女の体は砲弾のような勢いで飛翔した。


 交差する寸前、体を捩じり刃を横にしてゲオルギウスの腕に食い込ませる。あとは、その腕を切り落として槍を奪うつもりだった。


 しかし、彼女の顔は失敗に歪んだ。


「……肉が固い。刃がこれ以上、入らないなんて」


 刃はゲオルギウスの皮膚を裂いたが、そこから先に進めなかった。体ごと体当たりするように交差した為、ゲオルギウスの体が衝撃で後ろへと押されはしたが、異常なほどに強固な筋肉に阻まれてしまう。


「愚かとしか言いようがない。貴様らの狙いが槍であると分かった瞬間から、奪われるのを想定してこの程度の仕込みをしないと思ったのか?」


 ゲオルギウスは精神力で右腕を強化して、並大抵の一撃ではダメージを負わないように内部構造を組み替えていた。事実、これまでの戦いで皮膚が裂ける程度の裂傷はあったが、右腕の内部まで到達した傷はほとんど無かった。


 筋肉が脈動すると、リザを吹き飛ばす。そのまま、背後に居たクロノを巻き込んで少女は地面を転がった。


 リザは最後の力を使いきったからか意識を失っている。負傷しているエトネを抱えたヨシツネが二人の元へと急いだ。


「くははは! 楽しめたが、これで終わりか。万策尽きたのか!? 赤龍を、黄龍を、陛下からも生き延びた《ミクリヤ》はこの程度なのか!! どこに隠れているのだ。聞こえているだろう、レイ!!」


 狂気の声が滅んだ都に響く。満身創痍の身ながらも、圧倒的な闘気を振りまくゲオルギウスに、誰もが圧倒されてしまう。


 六将軍第二席ゲオルギウス。


 魔人の名に偽りは無く、どれだけ血を流し、肉を削られ、骨を折り、体力を削ろうとも、《ミクリヤ》のメンバーが知力を振り絞り、死力を尽くしても、この怪物から武器を奪うことはできなかった。


「ああ、本当に嫌だよ、お前」


 そんな魔人に向けて、静かにレイは語りかけた。


 声がしたのはゲオルギウスの後方。遮蔽物から飛び出した少年は、炎の鎧を展開し、魔道具の剣を構えている。


 ゲオルギウスは振り返り、最大級の警戒をレイに向けた。


 背後で固まる四人は、彼の意識から抜け落ちた。四人の中で最も戦闘力のあるリザが抜けた時点で脅威は欠片も感じない。むしろ、短期間とはいえ姿を隠していたレイから嫌な予感がしていた。


「リザの捨て身の一撃でも斬り落とせないなら、もう打つ手なんかない。……認めるよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 紛う事なき敗北宣言をしつつも、瞳には勝利を見据えた輝きが宿る。


 何かあると考えたゲオルギウスは、自身に残る最後の力を振り絞り、レイを討つべく槍を構え―――気づいた。レイの背中に褐色の肌をした、幼顔に八重歯を覗かせた少女がしがみ付いているのを。


「だから、こうさせてもらうのさ」


 レイの背中を蹴った少女の姿が、空中で秒単位に変化していく。表面が蠢くと、全く別の姿になるのだ。


 全身が傷だらけで青い血を流し、鎧は役目を果たせないほど破壊され、左腕は肩のあたりから先は無くなり、短くなった頭髪まで染料を被ったかのように青くなり、僅かに垣間見た瞳の色は金色だった。


 変化は、いや、変身は地面に着地する時には終わっていた。レイの向こう側に自分ゲオルギウスと瓜二つの姿がそこにはあった。


「呵々! いや、くははは、だったか。よくぞまあ、これほど手負いの体でこやつ等を退けたものだ。魔人の名に恥じない戦いぶりじゃったな。誇れ! そして、()()()()。概念殺しの槍!」


 その手には、ゲオルギウスが持つのと瓜二つな、死の神タナトスが振るいし神杖が当然のように握られていた。

読んで下さって、ありがとうございます。


やっとクライマックスです。次回の更新は11日頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲオルギウスのミラー化自体は湖上で一度しつつ、 それを忘れた頃、全く別の意味(戦闘力ではなく槍の能力) を目的として再度活用する事に膝を打つ想いです。 [一言] 魔人ゲオルギウス、ここまで…
[良い点] 更新感謝です いよいよ戦いのクライマックス…! [気になる点] ミラー先輩の能力は神々の権能すらコピーできるのか…気になります まだ、ローランがここにいる理由も、オルタナとクリストフォロ…
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