12-21 主観の未来
クリストフォロスの推測は正しくもあり、間違ってもいた。
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レイの死に戻りの力、《トライ&エラー》は万能でも無敵でも無い。条件を満たしてしまうと、仲間の死という結末を変えられなくなる。
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レイでは無く、レイの仲間を狙うという方針は、悪辣ではあるが非常に効果的である。
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だが、彼らは知らない。
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《トライ&エラー》が発動する度に、死に戻りを味わう度に、彼らが魂を引き千切られるかのようなイタミを味わっている事を。
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特にゲオルギウスに殺されるイタミは壮絶で、かつて赤龍に二百を越えて殺されたレイですら音を上げそうになるほどの激痛だった事を、彼らは知らない。
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子供が砂の山を指で崩すかのように、魂が削られる。
イタミで呼吸をするのも忘れ、レイは全身を硬直させていた。
「――――ッうううう!」
閉じた口からくぐもった絶叫が零れ、視界が急速に狭まっていく。
再び意識が闇に飲まれそうになるのを、どうにか堪えた。
十分か、あるいは一時間か、それとも一瞬なのか。
イタミで意識が朦朧としているレイにとって、時間の感覚すら曖昧だったが、ようやく起き上がった時には雪洞に居た全員が視線を彼に向けていた。
「主様。……どうだった?」
問いかけるシアラの表情は、雪の反射を受けて青白くなっているのを差し引いても、明らかに消耗している。彼女も、幾度かの死に戻りを経験していた。
その隣で体を起こしているリザも、そして別の雪洞で寝起きしているレティも、死に戻りを経験している。
もっとも、前回の死亡はレイ一人がゲオルギウスに殺された為、九周目の記憶を引き継いでるのはレイだけだ。
「やられたよ……アイツに、槍で直接やられた」
喘ぐように告げると、リザとシアラの顔色が更に変わった。
周りを固める雪よりも青白い肌は、絶望の色が濃く出ている。
「そう。……あと、どれぐらい持ちこたえられそう?」
「多分、頑張って一回。二回は絶対に無理だな」
自分の状態を冷静に分析した上で答えた。魂の消耗は激しく、見えない亀裂が全身を走り、背後に迫った終わりの感覚に冷たい汗が噴き出る。
ゲオルギウスの槍は特別製である。
形なき物を破壊する権能を与えられており、今回の戦いを通じて戦奴隷の契約すら破壊できると判明した。
その力の凄まじさは《トライ&エラー》にも影響を与えていた。
通常、死に戻りのイタミは殺した者との実力差に比例して激しくなる。赤龍や『魔王』フィーニス、『守護者』サファなど、錚々たる面々に殺されるたびに、レイ達は過酷なイタミに耐えて戻ってきた。
だが、ゲオルギウスに殺されるのは事情が違うのだ。
より正確に言えば、ゲオルギウスが振るうタナトスの神杖に殺されると、死に戻りのイタミが異常な物となる。
魂を削るイタミから戻ると、体は指先一つ動かすのも至難の業となり、心臓は破けそうなほど鼓動を早く刻み、血管は煮えたぎったマグマのような熱を全身に運ぶ。数秒ではあるが、生と死の境界線が曖昧になった。
二本の槍を融合させたようなデザインの神杖で殺されると、《トライ&エラー》自体にダメージを受けているのではないかとレイは推測している。
事実、これまでゲオルギウスに殺されてはいるが、魔法で殺された時や、槍を分解した状態で殺されても、ここまで消耗することは無かった。
おそらく、概念殺しの権能は槍が一つになった、完璧な状態でしか発動しないのだろう。
迂回ルートを選んだ三周目で、超遠距離から放たれた槍でシアラが殺された時、レイは対等契約の呪いで死に、シアラと一緒に死に戻った。一周目の奇襲の時は、リザとの契約は破壊され、彼女は記憶を引き継げなかったのとは違う結果になった。
完全なる形の槍で殺されなければ、ゲオルギウス相手でも死に戻りを積み重ねられるという結論に至り、試行錯誤を繰り返した。
東からの迂回ルートが駄目だったから、西からの迂回ルートを選択してみた。
距離を保ったまま、遠距離から魔法の打ち合いをしてみた。
吹雪でこちらの位置を感知しているのなら、同じ種類の魔法を使って相手の索敵を誤魔化しつつ強行突破を図った。
パーティーを二つに分けて、片方が囮となっておびき寄せている所を襲撃してみた。
魔法と歯車を組み合わせて湖上に城壁を築いて防衛戦を挑んでみた。
そして、前回はレイが単独で飛翔し、空からケラブノス石を用いた爆撃をしつつ突破できないか試してみた。
「信じられないよ、アイツ。上空から爆撃しようとしたら、分離した槍の片方を空に向かって投げて、その槍を追いかけてもう一本の槍が引っ張られるのを利用して空を飛びやがった。結局、空中戦に引きずり込まれて元の形に戻った神杖に貫かれて殺されたよ」
朝食をどうにか流し込んだレイは、記憶を引き継げなかった仲間へ前回の顛末を簡単に語った。
空中という特殊なフィールドに引きずり込んだが、ゲオルギウスは慣れているかのように立ち回り、勝利するのは不可能だと思い知らされた。
「サファさんと同類だ。地面の上以外でも戦い慣れてやがる」
「厄介さで言えば、『守護者』よりも上よ。エルフに手出しさえしなければ、サファが敵に回ることは無いんですもの。……あと、一回。それで限界なのよね」
どこか縋るような視線を向けたシアラに、レイは申し訳なく思いつつも頷いた。
あと一回。
ゲオルギウスの神杖で殺されれば、《トライ&エラー》自体が壊れる可能性がある。仮に壊れなかったとしても、レイの魂がイタミに耐えられるかどうか自信は無い。
打ち合わせのために集まった雛馬車の中に重い空気が立ち込める。死に戻りの記憶がある者だけでなく、記憶は無くても、これまでの試行錯誤の内容を聞いて、相手が今までに戦った敵の中でも容易ならざる相手だと実感していた。
沈黙を破ったのは、堅苦しい声だった。
「主殿。ここは苦渋の決断となりますが、相手に降伏するのが唯一の策かと」
いまさらイチェルの監視に人手を割くよりも、何か意見が出るかもしれないとシアラの判断で呼ばれたヨシツネの発言に一瞬の空白が生まれた。
「ヨシツネ殿!? 正気ですか!?」
途端に色めき立ったのはリザだ。差し込む吹雪で冷えた馬車の内部であったが、怒り沸騰という面持ちでヨシツネを責めたてた。
「敵の狙いはレイ様の生け捕りです。降伏すれば、確かに生き延びれるでしょう。ですが、レイ様の無事は保障されていません。反抗できなくするために両手足を削ぐぐらいは、彼らならします」
「いや、お姉ちゃん。発想がちょっと酷い」
「とにかく! 相手に降伏するというのは、自分の全てを相手に委ねるのと同じ。貴方はレイ様を敵に差し出すべきだと言っているのですよ」
「お怒りはごもっともでござる。しかし、冷静になられよ。現状、我らの戦力だけで魔人を打倒することも、出し抜くことも、逃げることも能わず。このまま無為に死を積み重ね、主殿が限界を迎えては、我らに打つ手は無くなってしまいます」
反論を許さぬとばかりにヨシツネは畳みかけた。
「今ならば! 今ならば、主殿の《トライ&エラー》が使えるだけの体力を残したまま、相手に投降するという選択が取れましょうぞ。奴らが主殿を生け捕りにしたい目的さえ判明できれば、あるいは反撃の糸口が掴めるかもしれませぬ」
「それは確実な作戦とは言えません。相手が、レイ様を捕まえて意識を奪ってしまえば、永遠に反撃なんて出来なくなるかもしれません!」
「かもしれませぬ。ですが、このまま死を積み重ねることに意味はあるでしょうか」
ヨシツネもリザも、意見を変えようとはしない。一歩も引かない姿勢に、レイは頬をかいた。
どちらの言い分も正しい。
このまま、ゲオルギウスを相手に死を積み重ねたとしても突破の糸口を見つけるのは容易では無い。それこそ無駄死にを繰り返して、死に戻れなくなるかもしれない。
一方で、リザの言う通り、相手に降伏するのは全てを委ねるのと同じだ。ゲオルギウスの目的が生け捕りであっても、用済みとなれば生かしたまま解放するとは思えない。死に戻りの力を分析され、生きたまま意識を奪われた人形のようにされるかもしれない。
どちらも可能性ではあるが、十分に起こり得る可能性だ。
二人の議論は更に熱を帯び、誰も止める事は出来なかった。すると、リザが決着を付けるべくシアラの方を向いた。
「このまま話をしても平行線です。シアラ、貴女はどう考えているのですか?」
《ミクリヤ》の進むべき方向を示すのはレイだが、その道のりを考えるのはシアラだ。船で例えるなら風と潮の流れを読む航海士のような彼女は、やや時間を置いてから自分の考えを口にした。
「降伏も一つの選択肢と言えるわ」
「シアラ!?」
友の意外な答えにリザは怒気を僅かに滲ませてしまう。青色の瞳が鋭くなるも、金色黒色の瞳は恐れずに真っ直ぐ見つめ返した。
「リザ。アンタが過去の経験から、相手に降伏して捕まることに抵抗を示すのは理解できるわ。でも、生き延びるのを第一に考えれば、そこまで間違った考えでは無いのも理解しているでしょ」
優しく諭すような喋り方に、リザの中から湧き上がっていた感情が、潮が引くように消えていく。
「それは……そうですが」
リザも理解していた。降伏すれば、命だけは助かる可能性はある、と。
「でも、アンタの言う通り、降伏すれば命だけは助かっても、主様の安全は保障されないわ。もちろん、ワタシたちの安全もね」
シアラは一拍開けると、全員の反応を確かめつつ、自分の意見を口にした。
「だから、狙うなら降伏じゃなく、停戦。相手にこっちが無力なんかじゃない、これ以上戦えば被害が出るぞと思わせて、戦うのを躊躇させるべきなのよ」
「ひがい? ちゅうちょ?」
「ええ。幸い、ゲオルギウスはモンスターと違って言葉が通じる相手。理性があるなら、損得勘定が動くわ。ただでさえ誰かと戦って消耗しているアイツが、これ以上戦えば自分は死ぬ。そう思えるほど追い詰めれば、こっちから停戦を申し出れば呑むわ」
「六将軍第二席を追い詰めるのか。簡単に言うけど、それがどれだけ難しいか分かっているよな」
「言われるまでも無いわよ。口にしておいてなんだけど、出来るとは思えないわ」
「……それで、具体的な作戦はあるのかい」
期待を込めて尋ねると、彼女は唇をかみしめて俯いた。
自分が酷な事を聞いたとレイは悟り、申し訳ない気持ちから一瞬目を伏せた。そして、場の空気を払拭するべく声を上げた。
「このまま何もせずに白旗を上げるのだけは嫌だ。誰も死なせずにゲオルギウスを追い詰める事ができれば、停戦まで持ち込めるんだろ」
「……ええ。絶対に出来るわ」
未来を視たかのような確信めいた口ぶりだ。レイには、彼女の確信を裏付ける根拠は不明だが、シアラが出来るというなら、何か秘策があるのだろうと判断した。
「なら、やることは一つ。アイツを追い詰める方法を見つけよう」
自分の発した言葉が何の説得力も含んでいないのをレイは自覚していた。だが、場に活力を与えたいという意志だけは通じたのだろう。厳しい表情をしていた仲間達が、どうすればゲオルギウスを追い詰められるのか、裏を掻けるのか議論を始めた。
すると、外の吹雪に混じりレイ達を呼ぶ声が聞こえた。ヨシツネが幌を捲ると、防寒装備をしたイチェルが立っていた。
「準備の方が終わりやしたが、出発の方はいかがいたしましょうか? 吹雪が止むのを待とうにも、この様子では早々変わりやしなさそうですが。出発を一日ずらすのはあまりおすすめしやせん」
まだ、今回の作戦は決まっていない。どのように返事をするべきかと言葉を探すレイに、ヨシツネが顔だけを向けた。
「拙者が相手をします」
「うん、頼むよ」
そのままヨシツネはイチェルと共に外へと行った。
「……夜を待ってから出発するのはどうでしょうか? ゲオルギウスが単独で待ち構えているとすれば、どこかで睡眠を取っているはず。仮に眠らずにこちらを見張っているとすれば、このまま出発せずに待っていれば、消耗するのでは?」
「どっちも駄目よ。ゲオルギウスは自分の脳まで改造していて、脳を片方ずつ交互に眠らせることで、眠らずに戦い続けられるようになったっていう逸話があるの。それに、持久戦に持ち込もうとしても、魔法で吹き飛ばされて終わりよ」
「アイツ、イルカみたいな生態しているのか。……寒いと思ったら、幌がちゃんと閉じてないのか」
ゲオルギウスの知られざる生態を聞いて呆れたレイは、ヨシツネが出て行った拍子に捲れた幌を直そうとした。
ふと、外を見れば吹雪の向こう側に斜面が伸び、広大な氷の湖が広がっていた。
―――瞬間、脳裏を過ったのは彼女の言葉だった。
「なあ、シアラ」
「どうかしたの、主様。新しい作戦でも思いついたの?」
「いや……一周目の時に未来予知をしたの、覚えているか?」
言われて、シアラは思い出した。確かに、ゲオルギウスの奇襲を受ける直前に《ラプラス・オンブル》が発動していた。
金色の瞳が映し出したのは、レイが龍刀を引き抜く光景だ。
「でも、あれはあの時間軸での未来予知でしょ。もう、死に戻りが発動したから起こらないはずの未来じゃない。そもそも、あれはあの時点で過去となった場所で……それがどうしたの?」
未来を視たというのに言われるまで思い出せなかったのは、ゲオルギウスへの対抗策を考えるために集中していた為、余計な所まで考える余裕は無かった。
それに、ゲオルギウスによって殺された為、時間軸が巻き戻ったから、視たという事実が消えたと思ったからだ。
だが、レイは首を横に振って、シアラの勘違いを否定した。
「いいや、違う。君の視た未来予知は有効のはずだ」
「……どういう意味かしら」
「君の《ラプラス・オンブル》は未来に起きる出来事を見せる力じゃない。君が未来に見る光景を先に視せる力だ。たとえ、別の時間軸で起きる事であっても、君の主観でこれから起きるなら、技能はその光景を君に視せられるはずだ。違うか?」
シアラの瞳に理解の光が宿る。
確かに、《ラプラス・オンブル》が発動した時点では、視た光景の場所は過去に通り過ぎた。だが、彼女の技能における未来とは、彼女の主観である。
「未来はいまだ」
レイは雛馬車を飛び出すと、斜面に向かって歩き出した。遅れてシアラやリザ達も飛び降りる様に外へ出た。
「待ってください、レイ様! 何を為さるおつりもですか?」
「シアラの未来予知を実現させる。答えは最初から一周目に出ていたんだよ。僕がやるべき事も、そのためには何が必要なのかも」
そう言って振り返ったレイは、自分の右手をシアラの方に差し出して告げた。
「僕の右腕を凍らせてくれ」
刃のように冷たい吹雪を操るゲオルギウスは、遠く離れたレイ達の動向を把握していた。氷の湖を取り囲む様に伸びる尾根に留まり一夜を明かしてから、すぐには出発せずに一塊になっている。
すぐに湖を渡るだろうと予想していたゲオルギウスにとって、意外な行動と言えた。そこから導き出される可能性は、レイ達が慎重に行動をしているのか―――。
「―――あるいは私に殺されて死に戻りをしたのか。事前に聞いていたが、発動したのかどうか知覚できない力を相手にするのは、これほど厄介なのか」
死に戻りは困難に直面すれば情報を蓄積し、打開策を見出せる力だ。
対峙するゲオルギウスにしてみれば、数多の可能性を想定して挑まなければならない。事前にクリストフォロスから教授された計画を確認する。
「引き返すなら魔法で殲滅。東西どちらの迂回ルートを選んでも、人造魔物部隊を向かわせて進行を妨害しつつ遠距離から撃破。遠距離魔法の打ち合いなら、力づくで黙らせ、空中を突破するなら目標をレイだけに絞って撃ち落とす」
これまでレイ達が取ってきた作戦のみならず、まだ思いついていないような作戦に対する対抗策まで用意してあった。
幾重にも念入りに編まれた網のように、レイ達を捉えて逃がすつもりはないという意志すら感じられた。
もし、ゲオルギウスの独り言をレイ達が聞けば、水も漏らさぬ盤石の構えに言葉を失っただろう。
だが―――今回、言葉を失ったのはゲオルギウスの方だった。
遠くの方で、異常な力の高ぶりを感じ、魔人は大きく後方へと飛び退った。
本能が死を感じ取り、その場を離れろと体に命じたのだ。
直後、戦いを望む理性が、その場に留まれと命じた結果、ゲオルギウスは氷を掴んで静止した。
外套が吹雪にあおられ空に飛んでいくも、そちらに目もくれず、ゲオルギウスは視線を一点に集中させていた。
ゲオルギウスのいる地点から南の方角。
サブヴェーニエストラナー湖を取り囲む尾根の一角から感じ取った力は、噴火する直前の活火山の如きエネルギーを感じた。限界寸前まで膨らんだ力が、針の一刺しで破裂する寸前だ。
正体不明な力の出現に、自身でも気づかない内に否定の言葉を口にした。
「いや、違う。……この力は前にも感じた」
途方もない力を前にして肌が粟立ち、脳を刺激する。記憶の糸を辿る旅時はあっけなく終わった。
「ああ、思い出したぞ! クリストフォロスの放った嫌がらせのモンスターを倒した、あの力か!!」
激闘の果てで朦朧とした意識を覚醒させた衝撃。
大地と天空が上げた悲鳴に似た轟音は、ゲオルギウスを歓喜させた。
治療に当たるクリストフォロスが開いた窓越しに、何が起きたのか把握していたから、ゲオルギウスは確信する。
レイは赤龍とゲオルギウス、そしてフィーニスの血が混じった武器を引き抜いた。
動作を言葉にすればそれだけの事なのに、放たれる衝撃だけで湖が軋む。
「ふははははは!! 信じられないなぁ! なんだ、これは!! 私は黒龍を相手にしているのか!?」
過去に対峙した強敵の名を告げる相貌は、歓喜の色に染まっていた。
かつて、取るに足らない子供と見做したレイが、フィーニスから聖印を授かり、そしてここまで強大な敵となって現れた事を喜んでいた。
手負いで消耗している体に鞭を打ち、ゲオルギウスは氷を踏み抜いた。
足を氷に突き刺して固定すると、槍を前に構える。
「いいぞ、レイ。やってみろ。貴様が勝つか、それとも私が勝つか、純粋な力比べとしようじゃないか!!」
ゲオルギウスはその場を動かず、龍刀の一撃を受け止めるつもりでいた。レイに向かって魔法を放とうともせず、槍を投げる訳でもない。
六将軍にあるまじき目的を忘れた行為ではあるが、それこそがゲオルギウスを六将軍最強足らしめている重要な要素である。
目的を優先してレイの邪魔をするような奴であれば、レイ達がこれほどまでに苦戦するはずも無かった。
全身に精神力をみなぎらせ、高速で強化魔法を自身に掛ける。
いつの間にか、吹雪は止み、地響きに似た音だけが辺りに満ちていた。
そして、次の瞬間。
ゲオルギウスは溜めこまれていた膨大なエネルギーが解放されるのを感じ取り―――自分の失策に気づいた。
血管のように縦横無尽に広がる漆黒と紅蓮の炎が、サブヴェーニエストラナー湖の氷を内側から砕き、致命的な破壊音と共に、ゲオルギウスの体は落下した。
読んで下さって、ありがとうございます。
次回の更新は2月4日頃を予定しております。




