12-4 氷の巨人 『前編』
吹雪で白くなる視界の先に、巨大な輪郭が浮かび上がる。
吹雪とは違う、濁った水晶を思わせる青い塊は、刺々しいデザインをしている。氷を削って人に似た両手足を持つが、どれも秘めた狂暴性をむき出しにしたかのような荒々しい形をしている。
何よりも注目すべきなのは、その巨体だ。
山を踏み越えた巨躯は、巨大としか表現できない。
比較できる建造物が無いから断言できないが、五十メートルはありそうな巨体が集落に向けて腕を広げている。
山頂まで八百メートル以上はあるはずだが、ばかげたサイズの巨人のせいで距離感が狂ってしまう。
「でかいな。ラシード君を助けに地下で遭遇したモンスターよりもでかいんじゃないか、あれ」
イチェルに肩を貸しながら外に出たレイは、危機的状況にも関わらず暢気に呟いてしまう。
それほどまでに、現実離れした光景なのだ。
すると、山の上を陣取る巨人が動いた。右手を緩慢な動きで持ち上げると、途端に冷気を集約させて氷柱を生みだした。
掌に収まるサイズといっても、それは巨人の掌。
一軒家ほどの大きさのある氷柱が、緩慢な投擲から繰り出された。
「マズッ、狙いは船だ!」
焦りを含んだエスラの叫びにレイは反応する。
龍刀を鞘に納めたまま、右手に力を籠めると、紅蓮の炎がまとわりついた。吹雪の中で生まれた紅蓮は周りの空気を歪ませながら、真っ直ぐ空へと駆けのぼり、空を流れ星のように飛んでいく氷柱に直撃した。
炎に飲み込まれた氷柱は周りを融解させるも、投擲の勢いは残っていたのか炎を突き破ってしまう。
真下からの攻撃では氷柱を粉砕するどころか、押しとどめることすら出来ない。
だが、決して無駄ではない。
下から持ち上げられた氷柱は、目標であった大型船を大きく逸れて湾に着水したのだ。水しぶきが上がり船を飲み込むが、大型船に傷一つない。
窮地を脱したかに思われた甲板上で悲鳴が上がる。なぜなら、巨体は同じサイズの氷柱を即座に生みだしたのだ。
左手にある氷柱が、同じようなフォームを描いて投擲された。
「しつこいなぁ!」
二投目を迎撃しようとしたレイだが、それよりも早く地面から上った光の柱を目にして炎を消した。
吹雪を蹴散らして空に向かう光の色は薄紅色。
光を操っているのはリザだ。
彼女は精霊剣の光を収束して地面に向けて放ち、反動で空を翔る。氷柱の近くまで飛びあがると、すかさず第二射を放った。
流石に、氷柱を一刀で両断できるほどの力を繰りだせなかったのか、あるいはレイと同じように軌道を変えるように力を調節したのか。
ともかく熱線は氷柱のコースをずらした。
一投目と同じように湾に着水した。
「よし。二発目も防いだぞ。って、まだやるのか!」
二度も攻撃を防がれたというのに、動揺する素振りすら見せない。氷の巨人は最初から織り込み済みだったかのように次の氷柱を用意していた。
正直なところ、空気抵抗を大いに受けるフォルムの氷柱が大型船に直撃する確率は少ない。レイやリザが防がなくても、外れている可能性はあった。
だが、このまま海に着水する度に大型船が水に飲まれるのも放っておけない。二個の氷柱で湾が波打ち、今にも船がひっくり返りそうだ。
氷柱を防いでるだけではじり貧になる。
レイは巨体に向けて炎を放とうと集中するが、今度は左側から放たれた雷撃を見て力を解いた。
竜の形をした雷は、巨体を支えるのには頼りないほど細い左足の関節に直撃すると、爆発した。吹雪を吹き飛ばし、余波で地面が震えるほどの衝撃が広がると、巨体が左へと傾いた。
持っていた氷柱は地面に落ち、またしても地面が揺れると氷の住居が音を立てて崩れていく。
「今の魔法は……シアラか」
「だろうね。アタシが連れてきたメンツで、あそこまで威力のある魔法をこんなに早く放てるのは居ないし。それより、アンタの仲間。エリザベートが地上に降りないで、何か探してるよ」
言われて、レイは空を見上げる。確かに、リザは精霊剣の熱線を短く放ちながら空に残っていた。
吹雪の中でも、闇夜の灯台のようにハッキリと見える。あれでは敵の的だと思うが、すぐに彼女が何をしているのか分かった。
レイは明るさに特化した炎を空に向けて放つ。すると、リザの軌道が変わった。
まるで、白い世界を吹き飛ばす彗星のような軌跡を残して、リザがレイのすぐ傍に降り立った。お揃いの防寒具に身を包み、帽子から垂れた耳あての隙間から金色の髪が滑り落ちる。
「こちらに居ましたか、レイ様、エスラ様。……こちらは?」
「こっちはイチュル。現地の人だ。どこか、怪我をしていませんか?」
心配するレイに、もう大丈夫と言いながら、イチュルは離れた。
「それで、状況は? アタシら篭ってたから、アイツが来る直前の情報が何も無いんだ」
「怪我人などは不明です。揺れで住居が崩れていますが、幸運にも荷卸しの手伝いでほとんどの住人が出ていたため、大部分は無事かと。ご覧の通り、船の方は高波を何度も浴びていますが、今すぐに沈む様子はありません。ですが、投擲をこのまま許せば、いずれは」
「だね。他にモンスターの気配は?」
「そっちは大丈夫みたいよ!」
エスラの問いかけに答えたのは、リザでは無い。振り返れば、吹雪に体が流されるのをこらえながらシアラが近づいて来ていた。
傍には、レティやエトネ、クロノ、ヨシツネ、コウエン、そして何故かキュイまでいた。
「《ミクリヤ》は勢ぞろいってわけか。……アンタの炎が誘蛾灯になったんだね」
「モンスターの気配に関しては、吹雪の影響もあって断言できないけど、山より内側にはいないって、うちの索敵係が言ってるわ」
「たぶん、いない」
獣人種とのハーフであるエトネは、ニオイや動物的な感覚でモンスターの気配を察知できる。吹雪で精度は落ちるが、居るかどうかの区別はつく。
レイはコウエンの方を視線で窺うと、彼女は小さく顎を引いた。モンスターの肉体に転生した彼女も、モンスターの種類や正確な数、強さまでは分からないが気配ぐらいは察知できる。
頼れる二人のお墨付きを得て、レイはエスラに言った。
「相手は単独。シアラの魔法で足を失ってバランスを崩している今が攻め時です」
場慣れしているエスラも、レイに言われるまでも無く攻めるチャンスだと理解していた。
「そうね。……北方大陸資源調査団の冒険者統括として指示を出すわ。あの氷のモンスターは《ミクリヤ》で対処して」
「僕達だけで、ですか?」
「ええ、そう。残念だけど、足並みを揃えるような悠長な時間はなさそう」
「ご主人さま、あっちを見て。あのモンスター、足が復活しそうだよ」
レティの言う通りだ。
シアラの魔法で足を砕かれたモンスターは、付け根の辺りが遠くからでも分かるくらいハッキリと盛り上がっていた。
「船が片方でも沈められたら、計画は全部終了さ。アタシらは船の護衛と住人たちの保護、救出をやる。だから―――」
「―――あいつを倒すのは僕らがやればいいんですね」
エスラの言葉を引き継ぐ。『紅蓮の旅団』は大手クランとして様々な依頼をこなしてきた。モンスターの討伐以外にも、隊商の護衛や都市防衛、災害の救助など経験豊富だ。混乱している他の冒険者たちを纏めて動かせるだけのネームバリューもある。
『紅蓮の旅団』で班を預かるだけの人物である。即座に状況を判断して、的確な指示を出した。
《ミクリヤ》の指揮官であるシアラが反対しないのは、エスラの方針が問題ないと判断したからだろう。
『紅蓮の旅団』や他の冒険者たちなら、船を守る事ができる、と。
《ミクリヤ》だけで、あの巨大モンスターを倒せる、と。
「分かりました。それじゃ行くよ、みんな!」
呼びかけに、吹雪を突き破るように異口同音の応答があった。
「それで、あんなデカブツを倒す当てはあるのかしら?」
「無い。だから、代わりに考えてよ、シアラ」
「本当に、もう。死に戻れるからって、思い切りの良さだけは誰にも負けないわね、主様は」
キュイの背中に敷いた鞍に跨るシアラがため息を零すのが、吹雪越しでもハッキリと聞こえる。同じように鞍に跨っているレティが苦笑しつつも、状況を進めるために促した。
「でも、本当にどうやってあれを倒せばいいんだろ。あんなに大きくてもモンスター、だよね。クロノさんは見覚えある?」
「申し訳ありません。私が管理していたのは時間なので覚えておりません。モンスターのような生物は兄か、生命を司るヘメラの方が詳しいです」
二人と同じようにキュイの鞍に跨りながら、力になれず申し訳ないとうなだれる。
そんな彼女を庇うかのように、レイは走りながら言葉を発した。
「あれがモンスターかどうかは置いといても、あれが脅威なのは間違いないだろ。僕はエスラさんと話してたから状況が分からないんだけど、何が起きたんだ? この吹雪はいつから始まったんだ」
キュイと並走するリザが、同じように並走するヨシツネと一瞬目を合わせた。口火を切ったのはヨシツネだ。
「地鳴りがする直前でござる。北の山から吹きすさぶ風に雪が混じったかと思えば、あっという間に視界を白に染める吹雪と化し、その向こうに氷の巨躯が現れました」
「となると、この吹雪もアイツの仕業って可能性も」
「十分に考えられます」
雪の斜面を蹴るように走り、山の上で待ち構える氷の巨体を見上げる。近づくにつれて、天を突くほどの巨体に言葉を失いそうになる。
むき出しの骨のような細い両腕だが、それは巨体とのアンバランスさで、そんな風に見えるだけだ。軽く振り回しただけであたりを薙ぎ払える。シアラの魔法で砕けた足は、魔法工学で作られた船ですら回避した氷山ほどの大きさだ。
「……妙ね」
「みょうって?」
吹雪に紛れそうなシアラの呟きを拾ったのはエトネだ。彼女はレイ達と並んで走っているが、滑る足場にもかかわらず一番余裕を感じさせる。
「地鳴りよ。あのモンスターが歩いたせいで地鳴りが起きたのは間違いないはずなのに、揺れたのはほんの数秒よね」
確認の意味を込めた問いかけに仲間達は頷いた。
「あれだけの巨体が動くんですもの。それこそ、滑るように移動しても異変はすぐに分かるわ。でも、地鳴りは現れる直前にしかしなかった」
「山のすぐ裏手で潜んでいたのでは?」
「それは変だよ、お姉ちゃん。あんな大きなモンスターが人の暮らしているすぐ傍にいたら、誰だって気づくはず。……あれ? ということは」
自分と同じ考えに至ったレティに対して、シアラは確信をもって告げた。
「そう。あのモンスターは山の頂上あたりに突如として現れたのよ」
「突如って、まさか転移魔法か?」
モンスターは迷宮で誕生するか、地上に進出してコロニーを作ったモンスターから生まれる。この場合、どちらにも当てはまらないなら、突如現れるという条件を満たせるのは転移魔法ぐらいしか思いつかなかった。
「その可能性も無くはないけど、たぶん違うと思うわ。もし、転移魔法を使えるなら、入り江に直接現れた方が効率的だもの」
「確かに。しかし、レティ殿の言う通り、あのような巨体が山を越えたすぐ先に隠れ住んでいたとは考えにくいのでござるが」
「ええ、そうね。だから、あの巨体はモンスターの本物の体じゃないのよ。あの長い氷の手足は、モンスターが生み出したハリボテよ」
シアラの言葉を理解するのに僅かな時間を必要とした。
「……ああ、そうか! だから、地鳴りが短い間しかしなかったのか。本体が氷柱を作るのと同じ要領でハリボテの体を作って、そこから歩いた。ほんの数歩分だけしか地鳴りは起こせなかった」
「なるほど。あれだけの巨体ならば、歩くだけでも被害をまき散らせるにもかかわらず、山の頂上から降りようとせずに遠距離からの攻撃ばかり固執するのは、動きたくても動ける構造をしていないのですか」
シアラの説明を聞き、腑に落ちる点がいくつもあった。
吹雪は、ハリボテの体が構築されるまでの時を稼ぐ目くらましの意味もあるのだろう。今も続けているのは、近づくのを少しでも遅らせるためだと推測すれば納得もいく。
「じゃあ、あの手足をこうげきしても、こうかはないの?」
「そうね。普通のモンスターなら肉が裂けて血が流れれば体力を削れるけど、ハリボテを狙っても動きを止めるぐらいの効果しかないでしょうね。現に、脚の付け根を砕いても、脚が復活し始めてるわ」
「氷を削っていけば、いずれは氷を生みだす力も失われるのでは?」
「可能性はあるわ。でも、それを悠長に待っている暇は無いの」
クロノの問いかけに、シアラは掌を開いて吹雪を受け止める。厚手の手袋があっという間に白い粒に侵略されていき、見ているだけでも冷たさが芯まで伝わってくる。
「吹雪が長引けば体力の少ない研究員が耐えられなくなるわ」
「視界を塞ぐのと近づくのを遅らせる以外に、体力を奪うっていう役割もあるのか。よく考えられているよ」
巨体がハリボテと知っても油断はできない。
止む気配のない吹雪に加え、ハリボテとはいえ五十メートルはある巨体を維持し、再生できる力。生みだした氷柱を投げるというシンプルだが命中すれば大型船すら沈められる攻撃力。
どれをとっても、超級以上のモンスターだ。
相手の正体に迫ったシアラは、金色黒色の瞳でモンスターを睨みつけながら宣言した。
「短期決戦よ。こっちの最大火力で畳みかけて、体を再生する暇を与えずに叩き潰す」
「ちょっと待ってください。短期決戦だとしても、あれだけの巨体を一度に吹き飛ばせる方法なんて……無茶です」
リザが言葉を濁した理由をレイはすぐに理解した。
龍刀の柄頭を撫でると、熱い塊が手袋に守られた掌を貫通し、腕の神経を辿って脳に直撃する。
鼓膜を震わすのは、此処にいるはずのない怪物達の雄叫びだ。
「そんなの、百も承知よ。だから、ある程度削るのよ。コウエン様」
「なんじゃ、もう妾の力を借りたいのか?」
億劫そうに返事をしたのは、スライム形態に戻ったコウエンだ。キュイの頭で置物のように鎮座していた彼女は、吹雪によって白い塊となっていた。
「貴女なら、あのモンスターの核。魔石か本体の位置が分かるんじゃないかしら」
「ふむ。……大雑把ではあるが把握できる。あの氷の体の何処かにあるな。距離が近くなれば、より正確に分かるぞ」
「良かった。あのハリボテの体を遠隔操作しているんだったら、本体を探すのに時間が掛かったわ。主様、あのハリボテを斬る事は出来るかしら?」
「シアラ!」
リザの非難めいた、いや、紛れもなく非難する声をシアラは無視した。
冷徹に、困難を越えるための最適解を導きだそうとする軍師の問いかけに、レイは同じように冷徹に自分の限界を答えた。
「できる。だけど、距離が遠い。せめて三百メーチルぐらいは近づかないと届かないな。それに、やれて二振りが限界だ」
「二振り、ってことは四等分ね。まだ、一撃で吹き飛ばすには大きいわ。リザはどうかしら?」
吹雪の世界でも際立つ青い瞳に複雑な感情を乗せつつ、リザも一人の戦士として自分の力量を答えた。
「私も距離が遠いです。二百メーチルまで近づければ、最大火力を一度だけ放てます」
「これで八分の一。うん、それならワタシの魔法で吹き飛ばせるわね。作戦が決まったわ。まず、主様が近づいて―――」
「―――みんな、気をつけて。あいつ、うごくよ!」
シアラの指示に被るエトネの警告に、《ミクリヤ》のメンバーに緊張が走った。
距離にしてまだ六百メートル先の氷の巨体が、再び直立していた。シアラに砕かれた足の付け根から伸びた真新しい氷の足が、山肌を踏み潰している。
ゆっくりと、巨体にしては細い腕が動く。開いた指先が掴んだのは、シアラの魔法で胴体と離れ離れになった古い方の足だ。
吹雪で細部までは分からないが、耳を切るような冷たい風に氷を砕くような音が混じる。
瞬間、レイは叫んだ。
「来るぞ、防壁!」
「《超短文・中級・半球ノ盾》!」
既に予感めいた物を掴んでいたのか。杖を取り出し身構えていたレティの防御魔法が展開される。半球状の光の膜に吹雪が吸い込まれた直後、人の大きさ程の氷柱が何十本と盾に激突した。
モンスターが投げ方を変えたのだ。
巨大な氷柱だけで集中して狙っていたのを、細かい礫に切り替えた。
一点集中、当たれば即死もあるスナイパーライフルから、着弾範囲の広い散弾銃に持ち替えたようなものだ。
もっとも、礫といっても人の大きさぐらいはある氷柱だ。
レティの魔法が間に合わなかったら、レイ達は氷柱によって削られた雪面に散らばっていただろう。
「まずいな。あいつ、攻撃方法を変えやがった。このままじゃ、近づくのもままならないぞ」
「否。彼奴め、図体ばかりの獣ではなさそうだぞ。人の嫌がる手をすぐに思いつくとは」
どこか楽し気な響きを纏わせるコウエンの言葉で周囲の異変に気づいた。雪面を削ったり、魔法によって防がれた氷柱が震え出したのだ。
表面を突き破って出てきたのは、氷の手足だ。まるで、蜘蛛のような手足を生やした氷柱は、あっという間にモンスターめいた姿へと変身する。割れた口元から、氷を削るような笑い声が響く。
「なんと、ハリボテの体を武器として使うだけでなく、手下として操ることもできるのでござるか!」
「あいつら、いりえの方にむかうよ!」
「レティ、魔法を解いて!」
姉の言葉に反応して《半球ノ球》が解除された。光の膜が解けるのと同時に精霊剣を抜き放ったリザだが、それよりも前に周囲に群がる氷の群体は吹き飛んだ。
再び顔を覆う吹雪の中、リザは氷の蜘蛛を薙ぎ払った武器が歯車を重ね合わせた鞭だと分かった。
鞭を操るのはクロノだ。
「良かった。あまり、耐久力はありませんね」
ほっと胸をなでおろすクロノは、キュイの上から降りた。
「シアラ、メンバーを二手に分けましょう。あのモンスターを倒すチームと、入り江に小型モンスターを向かわせないように防ぐチームに。こちらは、私が食い止めます」
提案に、同じことを考えていたシアラは口を挟まない。考える間もなく、すぐに指示を出した。
「ええ、お願い。レティ、エトネ。それに、ヨシツネ。ここはアンタ達に任せるわ」
名前を呼ばれた者達は頷くと、すぐさま戦闘の構えを取る。
蜘蛛の形をした氷の脅威は数を増していき、レイ達を取り囲む。
氷の体からは鋭い牙のような手足が何本も生えていき、禍々しさだけが増していく。
その向こう側では、包囲に参加しなかった小型モンスターが斜面を滑るように移動して入り江に向かっていた。
「いい、みんな。この防寒具はモンスターの体毛を編んでいるから、ある程度の防刃性能はあるけど、鎧ほどしっかりしてないんだから。間違っても直撃なんかしないでよね」
「分かっています。道を作りますから、乗って下さい」
クロノの指先が指揮棒のように振るわれると、キュイの眼前に歯車が集まった。歯車は互いに重なりあうと、小型モンスターの包囲を越えた先まで伸びるアーチを作る。その先には、氷の巨体が待ち構えている。
レイとリザ、そしてシアラとコウエンを乗せたキュイが歯車のアーチを駆け抜けた。
読んで下さって、ありがとうございます。
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