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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第11章 星の橋
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11-7 昇格への審議

 武骨なリザにしては珍しい詩的な表現をレイは意外だと感じた。


 しかし、周りの反応を見れば納得している様子だ。どうやらエルドラドに住む者なら今の表現に納得できるのだろう。同じ『招かれた者』であるヨシツネや、クロノも相槌を打った。


「ねえリザ。その星の橋って」


 何なのかと続けようとした言葉は、シアラのひじ打ちで押しとどめられる。もっとも、彼女は防具に込められた《耐久》の加護に阻まれてしまい痛そうにしていた。


「急に何をするんだよ、シアラ。……というか、大丈夫か?」


「うぅ……大丈夫よ。それより主様、あっちを見て」


 どう見ても大丈夫そうではないが、ともかく彼女が示した方を見る。


 ラビリンス中央の入り口とギルドは近い場所にあるため、彼女が指差した方角からギルドだと察しは付いていた。だが、豪奢な作りのギルド会館前にたむろしている集団は予想していなかった。


 ギルドの敷地とはいえ、年若い冒険者たちが木箱を運んだり、中身を広げて確認したりしている。その集団に見覚えがあった。


「あれは、マクベか。それに他の人達も揃っているな。……あれ? もう地上に出てきたのか!?」


 驚きの声が上がってしまうが、仕方のない事だ。そこに居たのは、あまりにも予想外な人達だった。


 ギルド会館の前を占拠しているのは六日前に別れた『紅蓮の旅団』のメンバーだった。迷宮から出たばかりなのか、薄汚れた姿はしているが目は爛々とし、手にはモンスターからはぎ取った素材や、迷宮内で採掘できた鉱石や植物などがある。


 上がってしまった声に反応して、少年が顔を上げた。遠くからでも分かる勝ちきそうな瞳が丸くなり、手を音が出そうなほど勢いよく振った。『紅蓮の旅団』でも最年少の部類に入るマクベだ。


「レイさーん! お久しぶりっす、なんてほどじゃありませんね。もう地上に出てきたんすか!! やっぱり、勢いのあるパーティーは、あいたっ!」


「声がデカい。周りの迷惑を考えなさいよ」


 壊れたスピーカーのように叫ぶマクベを物理的に止めたのはカーミラだ。注目を集めたレイ達は、そそくさと彼らの元へと近づいた。


 マクベの声で集中力が途切れてしまったのか、顔見知りの『紅蓮の旅団』メンバーが次々と挨拶をしてくる。


「やあ、レイ。それにアンタらも、こうも早く再会するとわね。それも、地上でなんて。ちょっと驚きだわ」


 そう言うと、カーミラは声のトーンを落とし、まるで内緒話をするように切り出した。


「それで、地下に向かったアンタらが地上に居るって事は……もしかして」


「はい。ラビリンス中央上層部のボスを撃破しました」


「やっぱり、そう言う事かい!」


 途端、顔を綻ばせ喜色浮かべるカーミラ。彼女は嬉しそうにレイの肩を何度も叩いた。


 彼女だけでない。作業の手を止め、聞き耳を立てていた『紅蓮の旅団』所属の冒険者は、一斉に歓声を上げた。


 年若い彼らにとって、《ミクリヤ》の躍進は自分たちを奮起させ、そして我が事のように喜べる内容なのだ。マクベが飛び跳ねた拍子に木箱を崩してしまったのも笑ってスルーされた。


「そうかい、アンタらだけでボスを撃破したのかい。こりゃ、団長が聞いたら喜ぶだろうね」


「オルドはギルドの中に?」


「そうだよ。あたし等はギルドカードの更新が終わって手すきになったから、こうして迷宮で手に入れた物を分別して売りに行くところさ」


『紅蓮の旅団』は六十人以上の冒険者が所属する大所帯だ。ギルドカードの更新だけでも少なくない時間を費やすのだろう。


「アンタらもギルドカードの更新かい。ラビリンスのボスを撃破したんだから、遂にC級到達も……って、そういうことか」


 カーミラは喋りながら何かに納得したように手を叩いた。心当たりのないレイ達は不思議そうな顔をする。


「どうかしたのでしょうか?」


「いやいや、何でもないよ。副長やカーティスが、どうしてこうも強行軍を仕切ったのか、その理由がね、納得いったんだよ」


 やはり、六日で地上に到達したのは強行軍を行ったからだ。そうでも無ければ、『紅蓮の旅団』といえど、この短期間で地上に帰還は出来ない。


「……そうですか。それじゃ、僕らはこれで」


「ああ、引き留めて悪かったね。ボス撃破、おめでとう!」


 カーミラの祝福に軽く頭を下げると、皆を引き連れてギルド会館に入った。


 最初に感じたのは線香に近い香りだった。


 ギルド会館を入ってすぐのホールには、まだ献花台とオーギュスター統括長の姿柄が遺影として飾られていた。流石にすすり泣くものは居ないが、現役S級冒険者の偉業に敬意を示し献花に訪れる者は後を絶たない。


 毅然と正面を向き、あたかもそこに居る人物を睨んでいるかのような遺影から目を逸らすと、ギルド冒険者部門の方へと移動した。


 カウンター前はいつも賑わっており、長蛇の列になっていた。


 ギルドカードの更新だけでなく、魔石の買い取り額を少しでも上げてもらおうと訴える人や、迷宮内部の情報を尋ねて意見を求めようとする人、素材の換金はどこが一番なのか聞きだそうとする人など、様々な理由や目的で集まった冒険者で一杯だった。


「これはちょっと時間が掛かりそうだな」


「そうですね。ですが、パーティーがC級に到達すれば、これも改善されるようになります」


 リザが言っているのはC級、いわゆる上級冒険者の特典に付いてだ。


 上級冒険者になると待遇が変わって来る。まず、ギルド内部に保管されている珍しい書物や、『冒険王』直筆の書物の開示申請が出せるようになる。加えて、ギルドが仲介するクエストも、上位冒険者用の高額な物が受注できるようになり、ギルドカードの更新なども専用のカウンターを使えるようになる。


 とはいえ、それはC級に昇格すればの話だ。


 ボスを倒す事はC級へと昇格できる可能性が高いだけであって、確実だとはオルドも言っていない。果たしてどうなるのかと考えていると、いつの間にか列が進みレイの番へとなっていた。


「ようこそいらっしゃいました、《ミクリヤ》のレイ様。本日はどのようなご用件でしょうか」


 パーティーの八割が女性で、目立つ容姿をしていることもあってレイ達の顔と名前を職員なら皆覚えていた。


 レイは全員分のギルドカードを提示すると、


「とりあえず、ギルドカードの更新からお願いします。その後は、魔石の買取を」


「畏まりました。では、まずはエリザベート様から」


 ギルド職員は水晶の形をした魔道具を取り出すと、角度を調節してリザに触れる様に指示を出す。もっとも、旅の間に何度も繰り返してきた事なので、リザは慣れた様に水晶玉に手を置いた。


 後の展開も知った物で、魔水晶が輝きだし、ギルドカードの数値を新しく刻み込んでいく―――はずだった。


 それが、今回は違った結果になった。魔水晶が突然赤く輝きだしたのだ。


 驚いてリザが手を離すと、赤い輝きは消えていく。初めてした反応に、リザは不安そうに形の良い眉を下げた。


「申し訳ありません。何か、間違えたでしょうか」


「今の反応は初めて見るな。どういう事ですか」


 リザとレイが尋ねると、ギルド職員は手元の用紙に小さく何かを書き込むと質問に答えた。


「いえいえ、エリザベート様のせいでは決してありません。今のはC級への昇格基準を、この水晶が満たした事を知らせる合図です」


「え? それじゃ」


「はい。エリザベート様はC級昇格に値するだけの冒険者、という事になります」


「やったじゃないか、リザ!」「お姉ちゃん、おめでとう!」


 レイとレティが真っ先に祝福すると、リザは耳を赤くして照れた様に体を揺らした。クロノ、エトネ、ヨシツネも遅れる形ではあるが祝福の言葉を告げるが、冷静沈着なシアラは職員に対して質問を投げかけていた。


「ちょっといいかしら。昇格に値する、って言い方だとそのまますんなりと昇格は出来ないと言っているように聞こえるんだけど」


「仰る通りです。エリザベート様は昇格の資格を持ちますが、実際に昇格できるかどうかは、ギルドの判断となります」


 職員の言葉にお祝いムードは一気に消えてしまった。空気を察した職員が、慌てて説明を続けた。


「と、とにかくです。エリザベート様にはこの後、聞き取り調査を行わせて頂きます。前回の更新から、今回の更新までにどのような冒険をしたのか伺い、その内容を元に昇格かどうかが決定します。ですから、今は別の方の更新を進めたいのですが、宜しいですか」


「分かりました」


 リザは頷くと場所を動いた。職員はリザのギルドカードを別枠のように置くと、今度はシアラの名前を呼んだ。


 彼女も職員の指示に慣れた手つきで更新を行おうとしたが、リザと同じ結果となる。


 赤く輝く水晶を前に、シアラはやっぱりね、と呟いた。


「リザもワタシもD級だから、昇格するに値するって判断されると思ってたわ。これじゃ、感慨も湧かないわね」


「それでもめでたい事はめでたいだろ。おめでとう、シアラ」「おめでとう、シアラおねいちゃん」


「……ん、ありがと」


 レイとエトネが祝福すると、シアラはどこか気恥ずかしそうに髪の毛をいじり出す。だが、すぐに指を止めると、


「でも、アンタらもこうなると思うわよ」


 と、言ったのだ。そしてその通りになった。レイとエトネ、そしてレティが水晶に触れれば、赤く輝きだしたのだ。この五人はD級に到達していたため、同じ冒険をしてきた一人が赤くなれば、残りも赤くなるのは当然といえば当然なのだ。


 流石にヨシツネとクロノが触れても水晶は輝かず、二人は普通に等級が上がり、レベルが更新された。


「それではレイ殿。代表してお話を聞きたいのですが、宜しいですか?」


 聞き取り調査は別室に連れて行かれることなく、カウンターで行われた。ただ、聞き取りをする職員とは別に書類を纏める職員が増えていた。


 レイは職員のよどみない質問について次々と答えていった。前回更新したのが、クロノを冒険者にする時のため、話は主に『紅蓮の旅団』との合同訓練会と、ボス討伐に関する事だった。


 職員は説明を聞き、目を丸くした。


「二回目の挑戦でラビリンス中央部上層のボスを撃破したのですか。それを証明するものはお持ちですか?」


「ボスから回収した魔石と、クアッドケンタウロスの骨を持ち帰りました。証拠として必要ならお渡ししますが」


「ぜひとも、お願いします」


 レイは用意してあった証拠品を渡した。それを受け取ると、職員は紙の束と共に何処かへと運んでいった。


「それではこの後の流れをご説明します。今から、レイ様達のC.級昇格への臨時審議会が開かれ、先程提出された証拠や聞き取りの内容から貴方がたの昇格をギルドが認めるかどうか決定します。この会議自体は出席の義務はありませんが、追加で話を聞く場合があるかもしれないため審議対象者は残ってもらう必要があります。どうしても都合が悪い、この後に人と会うなどの特別な理由はありますか」


「そうですか。ちょっと待ってください、仲間と相談します」


 断わりを入れると、レイはどうするかと問いかけた。


「そうね、この後の予定なんて特に考えてなかったわね。お腹が空いたとか、屋敷に戻って休みたいとかあるかしら?」


 シアラの問いかけに皆が首を横に振った。ボス戦前に軽く食事をとってからまだ二時間程度しか経過しておらず、疲労は感じていたがまだ動ける体力はあった。


「急いで換金する必要もないし……全員で残って待っていた方が良いかしら。それでいい、クロノ、ヨシツネ」


「私は大丈夫です」「拙者も同様」


 C級昇格に関係ない二人が残ると言ってくれたのだから、言葉に甘える事にした。


「それじゃ、待たせてもらいます。ギルドのホールや待合所に居ればいいですか」


「いえ、こちらで控室を用意させて頂きます。どうぞそちらでお待ちください」


 そう言って案内されたのはギルド会館の二階にある一室だった。高級ではないが品の良い調度品が並べられていて、ゆったりと寛げるソファが置いてあった。各々が好きな位置に座ると、タイミングを見計らったように紅茶と茶菓子が運ばれてきた。


「それでは、レイ様。そしてパーティーの皆さま。こちらの部屋で臨時審議会が終わるまでお待ち抱きたく存じます。何かありましたら、伝声管で及びください」


 最後に一礼をすると、職員は出ていった。


 レイ達は出された紅茶に口を付けた。迷宮内で甘味は貴重なため、脳まで貫く暴力的な刺激だった。


「いい茶葉を使ってるわね。やっぱり、ギルドって儲かってんのかしら」


「少なくとも、ここ数年ギルドの経営不振、なんて話は聞きませんね。レティ、エトネ。私の分も食べていいわよ」


「いいの? お姉ちゃん」「ありがとう、リザおねいちゃん」


 クッキーを二人で分け合う姿を皆が楽しそうに見つめていると、エトネの足元からひょいと赤いスライムが飛んで現れた。筋肉なんて無いのに、一体どうやってジャンプしているのかは謎だ。そのスライムはあっという間に人の姿になると、コウエンはするりとクッキーを二枚掠めとる。


「あー! あたしの!」「エトネのも!」


「呵々! 隙を見せている方が悪いのだぞ。もぐもぐ」


「コウエンちゃんのばか!」「ううう」


「はいはい、喧嘩はそこまで。ワタシの分もあげるから、仲良くしなさいよ、アンタら」


「あの、良ければ私の分も」


 シアラとクロノが自分の分を一枚ずつ取って、残りを三人の方に渡した。レティとエトネは顔を輝かせてクッキーを頬張った。


 ぎらり、と紅蓮の瞳を輝かせたコウエンに向けて、レイが拳を落とした。コウエンは全く動じた気配をせず、


「む。其方といえど、菓子はやらんぞ」


「要らないよ。というか、子供から奪うなよ」


「ふん。あの人間が、最初から菓子を多めに用意しておけば、このような事にはならずに済んだぞ。妾の分を用意せなんだ、あ奴が悪い」


「見た目はモンスターだからな、お前。そんなにクッキーが食べたければ、僕の分もくれてやるよ」


 レイが皿を押すと、コウエンは一枚だけ摘まんで口元に運ぶと、特徴的な八重歯で噛み砕いた。


「それで? 何時まで此処に居れば良いのだ。いささか退屈であるぞ」


「さあね。流石に日を跨ぐ事は無いだろうけど……夕方までには終わって欲しいよな」


 もっともこういう時の希望的観測は当たらないよな、と思いつつレイは口にしていた。


 しかし、意外な事にドアがノックされたのは、紅茶が冷めるよりも前の事だった。


読んでくださって、ありがとうございます。

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