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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第8章 動き出す世界
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8-1 停滞期の終わり

 歴史は不可逆の川である。


 過去に戻る事は人の身では叶わず、過去を知るには、その時代の人々が遺した物を手に入れる事でしか知りえない。


 現代を生きる観測者が、過去に起きた出来事を記した書物や口伝、伝承などをひも解き、体系的に、時系列的に並べ直し、真偽を裏付けする物証などを見つけて初めて、過去に何があったのかと現代に広める事が出来る。


 エルドラドで無神時代が始まって千年以上の時が経った。


 無神時代が始まるよりも前の時代についての歴史的資料は驚くほどに少ないと歴史学者らは嘆いた。神との対話が果たせなくなったことで、人々は不安に駆られ、その反動からか大きな戦が立て続けに起きてしまい、更に畳みかけるように大地の魔力不足による飢饉が勃発。ほとんどの国が分裂や併合、そして滅亡の道筋を辿った。


 そして神に関する資料は念入りに破壊されてしまう。燃やされ、砕かれ、埋められて、いまある神殿の多くは、法王庁が成立してから建立されたものがほとんどだ。


 歴史は一度断絶した。


 そのため、歴史学者たちは無神時代が始まった時点からの歴史を、いくつかの区分に分け、瓶にラベルを張るように分類、整理した。


 たかだか千年程度の歴史の中で人類の黄金期や暗黒期、衰退期などの大仰な名前が記されるようになったのは、それ以前が白く染まった様に空白となってしまったからだ。


 そんな無神時代において暗黒期が終わってから今日までを停滞期と学者は呼んでいた。三つの戦役、人龍、人魔、人間戦役を終え、多くの国が滅び、大地が穢れてしまった。それでも人類は滅ぶことなく、再生の道を歩み出す。滅びた国の上に新しい国が若葉のように芽吹き、穢れた大地を浄化しようと動き出した。その歩みは、再生と呼ぶには弱々しく、衰退とも凋落と呼ぶほど悲観的な状況では無かった。何処か遠くからのぞき見している神に世界の在り方をグラフとして表示させれば、横ばいを示していた。


 その時代を生きる者達にしれみれば、彼らは彼らなりに必死になって生き抜いていた。しかしその程度の努力では世界が滅びるという既定路線を変える事は出来ず、正体のわからない閉塞感だけに包まれる、変化の乏しい時代。それゆえ、世界崩壊の事を知らない学者でも、無意識に停滞期と名付けたのかもしれない。


 致命的な滅びはいまだ訪れず、一方で体の末端から毒が蝕むような悲劇的な予兆を感じさせ、しかしながら大きな争いは無い平和な時代。


 その停滞期を終らせるかのような事件が起きてしまう。


 舞台となったのは、南方大陸。


 国の名はデゼルト国。


 かつて隆盛を誇っていたエルフの国は消滅し、無辺に広がっていこうとするアルビノ砂漠と隣接した、乾いた大地の国。そこでは新たなる王を決めるために二人の王子が争っていた。それぞれがそれぞれに勝ちたい理由があり、彼らの体に絡みつくように様々な因果や思惑が纏わりついていた。結果次第では、それこそ他国を巻き込んだ、大々的な戦争へと発展しかねないほどの、緊迫した情勢。


 それすらも、その直後に起きる大事件の前座に過ぎなかった。


 全てが終わった時、生き延びた者達は理性では無く、本能で悟る。エルドラドが崩壊へと向かっているという事実を知らなくても、世界が夢も希望も無い眠りから目覚め、悪夢のような終焉へと向かいだした事に。


 歴史学者に習って、この時代を呼ぶとしたら、これ以外に名前は他に思いつかないだろう。


 ―――エルドラドの終焉期。


 その引き金は、王を決めるための一騎打ちから始まった。







 遠近感が狂いそうな壮大な山脈が壁のようにそそり立つ。木など生えていないのか、巌のような肌をオレンジ色の日差しで焼いている。山脈は一部だけ切れ間があり、その隙間を埋めるように、重厚な砦があった。


 あったと過去形になるのは、そこが見るも無残に破壊尽くされてしまったからだ。人の背丈で図るのも馬鹿々々しくなるほど巨大で堅牢だった砦は、中央から爆発したかのように吹き飛ばされ、山にしがみ付くように残骸が残されている。何処かで瓦礫が崩れる音がし、空を区切るように黒煙が幾つも伸びている。


 これだけの破壊を、どうすれば行えるのか甚だ不思議である。ぱっと思いつくのは複数の魔法使いによる超級旧式魔法の同時発動や、暗黒期に名を馳せ、現在まで存在し続けている怪物達ぐらいだろうか。


 山脈と山脈の間を埋めるように建てられていた砦が破壊された余波なのか、巌のような角ばった山が削れ、地滑りが起きている。雪崩のように押し寄せた土砂に、瓦礫だけでなく兵士やモンスターが飲み込まれている。辛うじて、腕や体の一部が土砂の表面に雑草のように生えているが、はたして土砂の下に無事な体はあるのだろうか。


 死体はここでは珍しくない。あちらこちらに視線を向ければ、種族も、年齢も、所属すらもバラバラな死体が折り重なるように倒れ、その間をモンスターが我が物顔で歩いたり、兵士が集団で殺し合ったりしている。


 何故なら、ここは戦場だ。


 人対人。


 人対モンスター。


 モンスター対モンスター。


 まさに混沌の極み。


 生を掴むために死が撒き散らされる、卑しくも正しい戦場。


 彼方此方で剣や魔法がぶつかり、悲鳴と絶叫が混じり合い、掻き消すようにモンスターの咆哮や人間の怒号が打ち鳴らされる。そんな聞くに堪えない戦場音楽が鳴るたびに、死が蔓延していく。


 どこを見回しても、死しかない戦場で、奇妙なほど静寂な場所があった。


 そこは、戦場の中でも一番に激戦区だったらしく、酷い惨状だった。破壊の痕がこれでもかと残され、つい先程まで死が竜巻となって吹き荒れていた。一度飲み込まれれば、帰ってくることは不可能だったはずだ。それだけに戦場の中心と言えた。そこで戦う怪物達の内、どちらかが倒れれば、この戦争に決着が付くと、皆が悟っていた。


 決着は付いた。


 ただし、誰にも予想できない決着の仕方だった。


 その場にいた誰もが、予想していなかった結末に息を呑み、声を発する事すら出来ないでいた。まだ、戦争は終わっていないのに、この場所だけが別空間として存在していた。戦場の中心なのに、戦争が行われていないという矛盾。


 それを生み出した張本人―――佇む少女が振り返った。


 耳の辺りで切りそろえた栗色の頭髪が揺れ、その下にある愛くるしい顔立ちは、見た者に彼女の悲しみが直接伝わってくるような悲痛な表情を浮かべていた。エメラルドのような瞳から透明な涙が流れ、戦場へと落ちて行く。


 少女の足元には、奇妙な人形が膝を突いていた。


 いや、あれは人形では無い。


 儀礼や祭典のために華美を追求した、みてくれだけの物とは一線を画す、戦闘という一点の為だけに鍛え上げられた銀甲冑を身に着け、一目見た瞬間から人の扱える物ではないと頭では無く体に理解させる聖剣を携えた騎士だ。


 いや、あれは騎士というよりもむしろ―――。


 頭の中で単語が形を成す前に、涙を流していた少女がそっと手を伸ばした。


 無論、それはにではない。少女とワタシの間にいる少年へ向けてだ。


「ねえ、ご主人さま。あたしたちと一緒に、地獄に付き合ってくれる?」


 翠の瞳の先に居るのは、黒髪に白髪が混じり、手に刀身が紅く燃える剣を携えている少年。


 ここからでは背中しか見えない少年がどんな表情をしているのか、ワタシからは見えなかった。だけど、何かを言おうと一歩前に出て―――。







 ―――夢は唐突に終わった。


 心臓が鼓動を速めすぎて痛む。息が出来ないほど苦しい。全身から流れ落ちる汗が寝間着に染み込み氷に閉じ込められたように寒い。


 シアラはゆっくりと体を起こすと、左右を見渡した。左には同じベッドで眠っているエトネの姿があった。寝苦しかったのか掛けてあった布団を蹴とばし、今にもベッドからずり落ちそうな態勢を器用に保っている。


 反対側にはリザとレティの姉妹が眠っている。向かい合い、姉の胸に頭を預けるように眠る妹。実に仲が良さそうな光景だ。室内にはシアラを含めた四人の少女しか居なかった。


 ここはデゼルト国首都オーマットにおいて最重要地とされている王宮の一室だ。冒険者の戦奴隷に与えられる部屋にしては余りにも上質な家具や装飾で彩られている。


 とはいえ、部屋の豪華さも待遇の良さもこの際関係なかった。


 シアラは眠っている三人を起こさないようにベッドから体を滑らすと、机に置かれている水差しから水をコップに注いだ。


 透明な液体に映る自分の顔は焦燥と疲労に染まっていた。事実、体は眠っていたと思えないほど疲れ果てていた。まるで、連戦した直後のような疲労だ。それを押し流すように水を一気に飲み干した。


 温い水だが、喉を通る感触に人心地着けた。それでようやく、先程の夢について考える事が出来る。


(今のは、未来予知……なの? でも、今まで、あんな予知の仕方は無かったわよ。どういう事なの、一体)


 自分に対して問いかけるが、答えが返ってくるはずがなかった。


 シアラの持つ特殊ユニーク技能スキル、《ラプラス・オンブル》は二つの未来予知を可能としていた。人が死に至る可能性を、影の濃度で表す事と、これから起きる出来事を眼に映し出す、この二つだ。前者は己の意思で発動でき、後者は己の意思とは無関係に発動する。


 先程の夢は、どちらかと言えば後者の未来予知に近い。だけど、今までに見てきた予知と形が違っていた。


 これまで、シアラの金色の瞳に映った予知は、彼女がこれから見る光景を、絵画のような動きの無い一枚絵として映し出すだけだ。それが何時起きるのか、どこで起きるのか、どうして起きるのかなんて情報は教えてくれない。ただ、視えた一枚絵から推測するしかない。


 だけど、先程の夢は、夢と表現するにはあまりにも生々しかった。


 視覚以外に、聴覚、嗅覚、触覚などの五感であの場の空気を感じ取っていた。こうして、夢から覚めてもいまだに残滓が体の中に燻っている。


 鼻を突いたのは戦場の匂い。人がガラクタのように捨て置かれた死臭が立ち込める、救いようのない屠殺場。


 肌に感じたのは戦場の熱気。人間が放つ独特の殺意が渦巻く、異様な空間。人が人を殺すという行為が正当化される、異郷の地。


 耳に届いたのは戦場の歌劇オペラ。人が死に抗うために叫び、死に逝く仲間を引き留めようと縋り、死にたくないと生を訴える舞台。


 まるで絵画の世界に入りこんでしまったかのような夢だった。


 自らが暮らしていた島をたった一人の魔人に滅ぼされた時のことを思い出して、シアラは体を震わせた。


(あれは紛れもなく、戦場の雰囲気そのまま。自分があそこに居たと、その確信があったわ。だからこそ、あれは夢の形をした新しい未来予知のはずよ。……そして、もう一つ。気になるのは)


 金色黒色の瞳がそっと動く。パーティーの回復役ヒーラーは穏やかな寝息を立てている。ここからでも窺える寝顔は穏やかで、とても夢で見た、まるで世界中の悲劇を飲み込んだかのような表情とは結びつかなかった。


 あの夢の中で、レティは絶望と諦念に飲み込まれていた。表情だけでなく、立っている姿その物が声なき悲鳴を上げていた。十年と少ししか生きていない少女が、どんな経験をすればあそこまで追い詰められるのか。それを想像するだけでシアラの薄い胸は張り裂けそうになる。


 このあまり似ていない姉妹が訳ありなのは、初めて会った時から気が付いていた。


 戦奴隷が主に対して背後から襲い掛かるという、常識外れの行動を取ることからも、何かしらの事情を抱えているのだと推測していた。


 だけど考えてみると不思議な点があった。リザのいきすぎる憎悪に隠れるようにして、レティは本心を明かしてこなかった。彼女が何を考え、何を隠しているのか。それを窺うのは、闇の中に潜む怪物を暴く様な行為だ。


(闇を覗いたら、とんでもない怪物が飛び出しました。なんて、結果になりかねないわよね。……さて、どうするべきかしら)


 二杯目の水を飲み干して考えを纏めようとしたシアラの耳が、外からの音を拾う。室内には出入り口が二つある。一つは廊下に繋がる扉。もう一つは王宮の庭園を一望できるバルコニーへと出る扉だ。


 王宮と言っても、敵対する勢力が居ない訳ではない。シアラは鞄に差し込んでいた杖を引き抜くと、バルコニーの方へと近づく。ガラス越しに外を覗くと、見覚えのある少年が、バルコニーに居た。


 黒髪に白髪が混じり、目の下を横に走る刀傷を持つ《ミクリヤ》のリーダーにして彼女の主であるレイだ。


 寝間着では無く、普段着へと着替えている少年はバルコニーにて朝の清々しい空気を堪能するかのように深呼吸を繰り返していた。レイは少女らの隣室を宛がわれ、バルコニーで部屋は繋がっている。


 ふと、シアラは部屋に備え付けの時計を見た。


 時計の針は朝の四時半を指している。決闘まで時間はまだまだある。


 随分と早い起床だなと不思議に思ったシアラは、主に挨拶するべくバルコニーへと進んだ。


「おはよう、主様」


 声に反応して、レイは振り返った。少年は驚きを顔に浮かべ、


「あれ? 随分と早起きだね、シアラ」


「それはこっちの科白よ。こんなに早くからどうしたのよ。まさか、決闘が怖くて寝付けなかったとかじゃないわよね」


 じっと色の違う瞳が少年の顔色を窺った。なにしろ、レイはこれから大一番が待っているのだ。寝不足で実力が出せなかったなんて結果は笑えない。レイは誤解だと苦笑いをする。


「睡眠はちゃんととったよ。でも、この後を考えたら、巻き戻せる時間は多いに越した事はないと思ってね。だから、早めに起きておいたんだ」


「ああ、そういう事ね」


 レイの説明にシアラは納得した。


 レイの持つ特殊ユニーク技能スキル、《トライ&エラー》は時間を巻き戻す。レイが死亡した際に発動し、意識が覚醒した瞬間か、日付が変わる真夜中の、どちらか近い方まで戻す。


 となれば、朝早くに起きればそれだけ巻き戻せる時間が多くなるという訳だ。


 レイは表情を一変させ厳しくすると、声も固くなった。


「なにしろ、神前決闘の相手は帝国の将軍。ローランさんと真面にやり合った怪物だからね。……嫌な話だけど、《トライ&エラー》で何回も巻き戻るだろうな。だから、色々とやれる時間が多いに越した事はないと思ったんだ」


 神前決闘。


 デゼルト国における王を決める儀式における、最終手段とでも呼ぶべき方法。


 神に捧げる投票でも決着が付かなかった王子同士が矛を持って、武勇で決するという伝統ある儀式。それには代理を立てる事が許されていた。その代理が敗北した時、王子は命を捧げるのが掟の為、最も信頼できる戦士が選ばれる。


 レイはダリーシャス・オードヴァーン王子の代理として決闘に赴く。


 相対するのは、ダリーシャスの兄、アフサル・オードヴァーン王子の代理、漆黒の鎧に身を包んだ謎の男。エルドラドにおいて最強を誇る軍事国家帝国。その将軍だ。


 いまだに名前すら不明な存在だが、武勇の凄まじさはすでに証明されている。冒険者の最高位、S級に位置する『聖騎士』ローランと真っ向から打ち合えた存在だ。


 酷な話ではあるが、レイとの実力差は天と地ほどはある。


 当初、リザやマクスウェルを始めとした実力差を理解できる者はレイに決闘から辞退するように説得する。あまりにも違い過ぎる実力差に、自殺行為だと口にした。


 だけど、一見すると頼りなげなくせに妙に頑固な所がある主は譲らなかった。


「僕にやらせて欲しい。相手がとんでもなく強いのは分かっている。それでも、彼女の代わりに戦いたい。いや、僕自身がそれを望んでいるんだ。……あいつと戦いたいんだ」


 真剣な面持ちで告げたレイ。彼女―――ナリンザを出されてしまえばリザやシアラは何も言えなくなった。ナリンザを知らないマクスウェルも事情を察し、これ以上何も言わなかった。


 意外な事に、将軍と打ち合ったローランだけは別の意見を口にしていた。


「戦った者の意見を言わせてもらえば、レイ君。君に勝機は。問題は、その勝機が恐ろしく細く、脆いという事だ。手繰り寄せるのに失敗すれば死ぬしかないよ。それでも、いいんだね」


 諭すような、脅すような言い方だが、レイの意思は固かった。結果、レイがダリーシャスの代理として出場する。


「確認だけど、主様はまだ、戻ってないわよね」


「うん。まだ、戻っていない」


 戻っていない。


 つまり《トライ&エラー》を使っていないという事は、レイはこれから将軍と初めて戦うという事になる。


 平静を装っているが、その心中は穏やかではないはずだ。ローランが口にした勝機の根拠は聞けずじまいだったが、相当困難な戦いになるはずだ。先程は《トライ&エラー》の為に早起きしたと口にしていたが、実際は不安から眠りが浅くなった可能性もある。


 そんなレイに、先程見た夢を口にするべきかどうかシアラは悩んだ。


 あれは間違いなく、未来予知の一種だ。


 推測ではあるが、《ラプラス・オンブル》が進化したのだろう。


 技能スキルは使えば使うほど、進化する。戦闘系の技能スキルなら威力が上がったり、発動回数が増えたりし、補助系の技能スキルなら増幅する割合が上昇したりする。


 それと同様に特殊ユニーク技能スキルも進化する。場合によっては変質したり、分化したりもする。


 ここに来て新しいタイプの未来予知に目覚めてしまったというのか。


 どうしてそうなったのかはいくら考えても答えは出ない。それよりも問題なのは、この未来予知がどの時間軸で起きるかという話だ。


 これまで金色の瞳が映し出した未来は一つしかない。それが終わるまでは新しい予知なんて視えてこなかった。ところが今回視た予知は、どう考えてもこの決闘が終わった後に起こる出来事の筈。


 つまり、神前決闘が終わった後に起こる出来事。


 未来の更に未来の予知となる。


(未来って、こんなに簡単に予知しても大丈夫なのかしら。何が起きるか分からない不確定な状況を、ワタシが予知することで他に起きる可能性を削ってしまう。なんだか、どんどん袋小路に追い詰められている気分ね)


 内容的に考えても、かなり厄介な状況なのは間違いない。となれば、それをいま口にしたところでレイの心労が増すだけではないか。


 そう考えたシアラは夢の事をレイに話すのを止めた。


「ふわぁ。なんだか眠くなっちゃったわ。まだ時間もある事だし、もうひと眠りするわ」


「うん、分かった。それじゃ、また後でね」


 シアラが嘘の欠伸をしてバルコニーを後にすると、レイも同様に部屋に戻った。おそらく、時間が来るまで何かしらの準備をするのだろう。ここで眠ってしまえば、早く起きた意味が無くなってしまう。


 そしてシアラも眠るつもりは無かった。


 彼女は真鍮製の机の前で座ると、備え付けの羊皮紙と羽ペンを取り出す。インクの壺に先端を湿らすと、羊皮紙の上を滑らせた。


(主様にはまず、神前決闘に集中してもらう。その後に、この予知の事を話す。それまで、ワタシが一人で視た予知を分析して、何か得られる情報が無いか探ってやるわよ)


 レイが目の前の難題に挑むのなら、自分はその先にある難題へと挑む。


 それはレイならば神前決闘に勝利するだろうという、信頼があったからだ。


 かくして少年と少女はこれから待ち受ける戦いに備え―――その時を迎えようとする。


読んで下さって、ありがとうございます。


8章、開幕です。引き続き、平日更新を目指していきます。

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