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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第4章 エルフの隠れ里
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4-11 集団戦 リベンジ

 レイたちが村に向けて出発してから一時間。まだ木々の間を進んでいた。天然林のため、植林は人の手が入っているが、その後伐採されるまでは放置されている森は見通しが良くなく、敵襲を警戒して歩みが遅くなる。


見通しの悪さに加え、レイたちは現在位置を大まかにしか把握していなかった。日本で言う所のコンパスに近い魔法道具もある事はあるのだが、闇市で入手できず、太陽の位置や木に生えたコケなどから方角しか分からない。


 そもそも北の方角に村があると分かっていても、真っ直ぐに北に向かった所で村に辿りつく保証はない。北の方角に進みつつ、蛇行して村があるであろうと推測される範囲を潰していくため、余計に時間が掛かっている。


 その間、一同は黙々と歩いているわけでは無い。レイはレティと会話をしながら進んでいた。ただし、和気藹々と言った具合では無い。


 レイの質問攻めだった。


「それじゃ、その《戦乙女》の効果は?」


 応じたレティは少々辟易した様子を出しながらも律儀に答えた。


「敵に囲まれれば囲まれるほど、STRやDEXが上昇する……でいいんだよね、お姉ちゃん」


「そうよ。受動的パッシブ技能スキルだから、戦闘時に発動しています」


 先頭にて周囲を警戒しているリザが振り返りもせずに答えた。彼女はモンスターを警戒する以外にも人の痕跡を探していた。人の足跡や村人同士で伝わる目印など人の匂いを追いかければ、村に辿りつくと考えていた。


 索敵をリザに任したレイは、三人の技能スキルや魔法、それに戦技の効果や特徴、欠点などをしつこく聞いていた。どのような敵に効果的で、どんな弱点が存在し、どれだけ一度の戦闘で使えるのかを細かく尋ねる。


 リザとレイたちの間で歩くシアラは疲れ切った表情を隠せないでいた。彼女は先程まで、レイの質問攻めにあい、落城寸前まで追い詰められた。自分の持つ魔法の種類、威力、射程、回数、強弱の関係。レイはしつこく粘り強く聞いて、最後はシアラが音を上げた。


「……まったく。口の中が渇いてしょうがないわよ」


 嘆息するシアラはレティから水筒を受け取ると一口飲んで喉を潤した。その間もレイは質問の手を止めない。


 その熱意には感心するが、知識ばかりを頭に詰め込むべきではない、とシアラは思った。彼女の経験則で、咄嗟に動ける人間の特徴は持っている知識や技術をちゃんと使いこなすという点だ。知識は確かに大切である。しかし、知識だけが大切では無い。


(その辺り、分かってるのかしら。うちの主様は?)


 それでも、自分の反省するべきところを、すぐに直そうと努力する姿には好感を抱く。


「全員、静かに!」


 すると突然、緊張感のある声が先頭のリザから発せられた。彼女は青い瞳を鋭くして前方を睨んだ。


「……戦闘の音が聞こえます」


 レイたちも耳を澄ますと、確かに遠くの方から音が聞こえてきた。決して木々のせせらぎや、鳥のさえずる声では無い。


「どうしますか? 近づけば、巻き込まれる可能性もありますが」


 リザがレイの方に向いて指示を仰いだ。


「……とにかく、情報が足りない。例え危険だとしても、ここは近づいて様子を伺いたい」


 レイの意見に三人は同意すると足音を忍ばせて、戦闘の音が響く方向へと近づいた。発生源はレイたちの近くだった。


 木に体を預けて、四人は顔だけ出して様子を伺った。


 それは、戦いというよりも狩りと表現した方が適切な光景だった。


 木々が乱立する森の中。二本脚で歩く猪のようなモンスターが十体近く、手に武器を持って獲物が逃げ出さないように輪を作っている。さながら木と自分たちで小さなコロシアムのよう。中央ではモンスターと獲物が一対一で相対していた。周りの壁は唾を飛ばして声を上げて興奮している。人間には理解できない言語ではあるが、それでもそこに込められている悪意を感じ取るぐらいは誰にでもできた。


 一方で、猪のモンスターに囲まれている獲物はおそらく人間だろう。おそらくと、断定を避けたのは、全身を包むフード付きのマントとターバンのせいで姿形がハッキリと分からないためだ。性別は不明で、体格はレティと同じかそれよりも小柄。もしかすると子供なのかもしれない。手に武器らしきものを持たず、猪のモンスターの攻撃を軽やかに避ける。


「あれは……グリーンボア? 中級モンスターですね」


 リザが自分の知識から敵の正体を看破した。もっともそれで状況が良くなるわけでは無い。むしろ、悪化したと言える。


 先程レイたちと一戦交えたレッドゴブリンも中級だったが、実力ではグリーンボアの方が一段階上だった。つまり、レイたちが相手をするには厄介な敵なのだ。


 当然、逃げるのが第一の選択肢―――のはずだった。


「……一応、聞くけど。主様。ここは逃げるという選択肢でいいのよね?」


「え? 助けに行くつもりだけど」


 バックパックを下ろしたレイに対してシアラは確認を求めたが、少年は簡単に否定した。彼女は頭痛を堪えるように額に手を当てた。


「状況は分かってるの!? 相手はレッドゴブリンよりも強敵! しかも敵陣の中に子供がいる! あれを助けに行く、ってどうやってよ! そもそも、助けに行く理由があるの?」


 直ぐ近くに居るモンスターに気取られないように声を低くしつつも、シアラはレイに向かって叫ぶ。しかし、レイはシアラの剣幕を受けても平然としていた。


「あるとも。僕らは村に向けて移動していた。その途中に人と遭遇した。という事はあの子は村人の可能性がある。正確な村の位置を知らない僕らにとって、あの子は道案内人になる。それに、村の子供を助ければ村の対応も変わるはずだ」


 詭弁だ。


 シアラはそう言い返したくなった。一見するとレイの意見は正しい理屈に聞こえる。だが、これは前提条件として『村の子供なら』が必要だ。村とは縁も所縁も無い子供の可能性も低いが存在する。


 それに、レイ自身も気づいているはずだ。自分が口にした内容が助けに行きたいという願いを正当化するためのつじつま合わせに過ぎない事を。


「……いくら言っても止まる気は無いようね。……それで? 策はあるのかしら?」


「一応あるよ」


 レイは簡潔に、即興の作戦を披露した。それは確かにこの状況下でこちらに被害を出さずに済む作戦だった。シアラはそこまで来てようやく諦める事にした。同時に、先程までの質問攻めが無駄に終わらなかったことに胸をなで下ろした。


「それじゃ、各自、配置についてくれ」


 四人は音も無く動き出した。獲物を前にして舌なめずりしているグリーンボアの背後に死神たちが近づいていく。







 狩人の少女は追い詰められていた。


 今日の食料を手に入れようとして、寝床を出てしばらくしてから襲われた。おそらく、先日のグリーンボアたちの同胞なのだろうと彼女は推測した。彼らの目には暗く残忍な輝きが宿る。


 それもそのはず。彼女は先日のグリーンボアの死体をバラバラにして森の中に吊るしたのだ。モンスターの肉は食用に使えるものと、使えないものに分けられる。彼女が教わった教訓は『二本足なら食えない。四本以上なら食える』と非常に大雑把な物だ。現実としてグリーンボアの肉は筋張っており食える部分も少ない為食料に向いていない。毛皮や爪などは使う事は出来るため、加工向きの素材だ。持ち帰る必要が無く、死体を野晒にして放置するのももったいない。


 考えあぐねた結果、グリーンボアのテリトリーに死体を吊るした。士気を下げるための目的として残虐行為を行ったのだ。森に自分たちに敵対する者が居り、残忍な性格だと思い知らしめれば、森の探索も安全に行えると考えたのだ。


 しかし、結果からすると裏目に出たことになる。


 自分を血眼で探したグリーンボアたちは、一瞬で殺そうとはせずに、決闘もどきを強いる。逃げ場を塞がれ、四方から憎悪の感情を叩きつけてくることから、これは彼らなりの粛清方法なのかもしれない。対峙するグリーンボアを倒した所で残りは十体近くいる。いずれ、敗北するのは明白だ。彼らは狩人が血に塗れ、泣いて許しを請うのを待っているのだ。その上で同胞の仇を撃とうとしている。さぞかし、凄惨な結果になるだろう。


(そんなの……ぜったいに、やだ)


 狩人はどうにかして活路を見出そうと躍起になっていた。クロスボウは使っていない。装弾済みのボルトは一発しか使えない切り札。グリーンボアは少女を無手だと侮っているから全員で掛かって来ない。これがクロスボウを持っていることを知られたら、すぐさま全員で飛びかかってくるはずだ。その先は死しかない。


 振るわれるメイスを躱して、哀れな獲物の役をこなして、生存のチャンスを掴もうとする。


 しかし。


「ブボボボッ! ブボボ!!」


 業を煮やした壁役の一体が、手にした武器を放り投げた。背中を見せていた少女は迫りくる槍をすんでの所で躱した。それは正面に居たグリーンボアに対して致命的な隙を見せてしまう。グリーンボアがメイスを横に振る。槍を回避する際の着地の瞬間を狙われた。


 メイスの一撃が少女の胸部を打つ。


「ぐぅうう!!」


 驚異的な反射神経を見せて直撃は免れたが、軽くない痛みと共に少女は地面へと叩きつけられた。胸と背中に衝撃がはしり、苦しくて息が出来ないでいた。


「ブボ! ブボッボ!!」


 メイスを握ったグリーンボアは高らかに吠えると腕を上げた。呼応して囲いも騒ぎ立て、まるで勝ったかのような盛り上がりを見せる。事実、勝利したのはグリーンボアだった。少女は直ぐに立ち上がる事は出来ず。数の有利は覆らない。


 慌てることなく、同胞を殺した者へ罰を与えることが出来る。そう思っても当然だった。


 だから―――反応出来なかった。


「《この身は一陣の風と為る》!」


 リザの技能スキル、《風ノ義足》Ⅰが発動する。両足に風を纏わせた彼女は最初の一歩目で包囲の中心で動けずにいた少女を抱えた。


 そして、二歩目で一気に包囲から離脱した。まさに一陣の風のように捕まらずに、あっという間に少女を安全圏まで連れて行った。


「ブボボ!? ブボボボボ!!」


 電光石火の早業にグリーンボアたちは怒りと困惑を抱いた。この場に他の存在がいたという事実に初めて気が付いた。動揺と混乱が伝播する中、グリーンボアの頭部に向かって石が投擲された。


 ごん、と。鈍い音を響かせる。


 握りこぶしぐらいの大きさの石はグリーンボアの頭頂部に当たり、軽い血を流す。グリーンボアたちは石が飛んできた方向を睨むと、そこにはレイが居た。


 まるで、注目を集めるかのように無防備に姿を晒している。


 血を流すグリーンボアは一瞬の内に判断を下した。仲間を二つに分ける事にした。片方は連れて行かれた仇の方を。もう片方は目の前でふざけた真似をしたレイの方に。


 グリーンボアにとって石の投擲程度、脅威でも何でもなかったが、とにかく腹が空いていた彼らにとって肉が増えるのは救いといえた。見逃す理由は無い。


「ブボ―――」


 すぐさま命令を出そうとして。


「《留めよ、我が身に憎悪の視線を》!」


 思考が一瞬で塗りつぶされた。全員が何も考えずにレイの元へ殺到する。その数は十一体。手にはボロボロになったとはいえ武器が握られている。一度に掛かられれば、ひとたまりも無いのは明白なのに、レイは逃げようとしない。ファルシオンを抜くことなく、動こうとしなかった。


 なぜなら、


「《超短文ショートカット中級ミディアム半球ノ盾ヘミスフィアシールド》!」


 これは自らを囮にした作戦だったからだ。


 レティの生み出した光の膜がグリーンボアたちを囲う。ドームは小さく、十一体のグリーンボアたちを囲うのでやっとの大きさだった。身動きの取れないグリーンボアたちは全員がレイに向かって殺意を滾らせ、膜を壊そうとする。


 すると、そのドームの外側に氷の粒がいくつも出現した。それらは瞬く間の内に氷の杭へと姿を変える。全ての切っ先がグリーンボアたちに向いていた。数は六本。どれもが人の背丈よりも大きなグリーンボアと同等の大きさを有している。


 そこまできて、ようやく自分たちが罠に嵌められたと悟った。もっとも、悟った時には遅すぎるのだが。


「やれ! シアラ!!」


「《ブリザードパイル》!」


 ドームが消えたと同時に、周囲に隙間なく配置されていた氷の杭が一斉にグリーンボアを貫いていく。勢いが付きすぎて、肉を貫いた先で氷同士が激突し、削れていくがお構いなしだった。


 悲鳴と肉を突き破る音はほんの少しの間続き、森は平穏を取り戻した。


 レイは自分の考えた策がうまく嵌った事に、何とも言えない達成感を味わっていた。


「お疲れさま。レティ、シアラ」


「うんー。ちかれたー」「本当よ。肩でも揉みなさい」


 労うレイに対して、レティもシアラも鷹揚に返事をした。これは、何も助けることを選択したレイに対して悪意を持って接しているわけではない。単純に精神力を大幅に使った事による疲労を感じていたに過ぎない。


 レティは本日二度目の中級魔法。シアラも一度に十一体のグリーンボアを倒す為に用意した《ブリザードパイル》が精神力の三割近くを持って行った。連戦は可能だが、万全を期するなら二人には休息が必要だった。


 すると、森の奥からリザが姿を見せる。両腕に抱きかかえているのはマントに包まれた子供だった。配置に着いている間にダメージを負った子供はリザの腕の中で気を失っているのか、動こうとしない。


「レティ! この女の子に回復魔法を」


 リザの言葉に三人は軽い驚きを受けた。まさか、あれだけのモンスターに囲まれていた子供の正体が少女だったとは。


 レティはすぐさま杖を持って駆け寄ると「《回復ヒール》」を唱えた。


 リザの腕の中で呻いていた少女は光を浴びると瞬く間に安らかな吐息と変わる。スタンピードの最中、幾人もの負傷者を癒したレティは新しい技能スキルを手に入れた。受動的パッシブ技能スキル、《治癒ノ掌》Ⅰ。効果は回復系魔法の効果の上昇と、発動時の消費精神力の減少だ。初級魔法が低級魔法へと引き上がる。


「これで……大丈夫だと思うよ」


 レティはそれだけ言うと、地面にへたり込んで座った。精神力切れは起こしていないが、疲れた様子を見せる。リザはそんな妹の世話をするために、抱えていた子供を地面に下ろした。レイは辺りを伺った。あれだけ大きな音を立てたのに、グリーンボアやそれ以外のモンスターがやって来る気配はない。長居するわけには行かないが、すぐに出発する必要も無さそうだった。


 その時。気絶していた少女が目を覚ました。上体を起き上がらせると首を左右に振って状況を確認しようとする。


 レティがすぐさま少女に近づくと、安心させるためと容体を診るために声を掛けた。


「ねえ。あなた、大丈夫? 吐き気とか、どこか痛い所はある?」


 問われた子供はびっく、と肩を震わせる。周囲にいるレイたちの顔を順番に見て、恐る恐るレティの方を振り向いた。周りの中で一番年齢の近いと思われるレティに向けて縋るような視線を送った。


 だが、ターバンの隙間から覗く萌黄色の瞳は差し出されたレティの右手の甲を凝視した。そこに刻まれている奴隷紋を。


 瞬時に。殺気が膨れ上がった。


「レティ! 下がって!!」


 咄嗟にリザがロングソードを引き抜いて妹と少女の間に割って入る。少女は座ったまま後ろに傾くと、後方回りの要領で立ち上がると、刃の様な視線を周囲に振りまいた。そして、レイの方へと腕を突き出した。レイは背筋を凍らせる。マントで覆われていた腕には木で出来たクロスボウが装着されていた。無論、ボルトは装填されている。


 矢先は正確にレイの頭部に照準が合っていた。


 ―――瞬間。世界が速度を失った。


 レイの視界の中でコマ送りのように放たれたボルトが接近していく。彼は首を傾ける事で矢を避けた。


 世界が速度を取り戻すと同時に、ボルトは背後の樹に刺さる。


「何をするんだよ! 殺す気か!?」


「うるさい! おまえみたいな奴隷商人・・・・につかまるもんか!」


 少女の言葉に全員があっけに取られてしまった。


読んで下さってありがとうございます。

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