4-6 パーティー結成(仮)
パーティーという表現はアマツマラに来るまでの道中、レイは何度か聞いていたが、その言葉の意味を深く考えた事は無かった。押し黙っている姿から察したギルド職員が問いかける。
「レイ様は以前にどこかのパーティーやクランに所属された事はありますか?」
レイは首を横に振った。彼女は「でしたら、順にご説明いたします」と前置きし、説明を始める。
「パーティーとは複数人の冒険者によって成り立つ徒党です。ですが、それもギルドで申請をしないと意味がありません。今のままではレイ様の戦奴隷たちの関係はソロ冒険者の寄せ集めになります。それにパーティーには冒険者の所属を示す以外にもメリットがあります。一つは周囲への認知です。功績を積んで名前が広く知られるパーティーにはギルドを通さないで、個人的なクエストの依頼などが来るようになりますし、ランクが上がればより高額のクエストを受けられるようになります」
その辺りの説明は嘗てネーデの街でアイナからも聞いていた。だが、しばらくは一人で活動しようとしていたレイにとって無縁の話として聞き流していた。
「二つ目に……というよりも、これがパーティーを結成する最大の目的ですね。同じパーティーに所属している冒険者には経験値の分配が行われます」
「経験値の分配?」
「はい。御存じでしょうが、経験値の取得の原則として、モンスターに対して与えたダメージ量の割合で決まります。そうなると不利になるのは支援系魔法を得意とする魔法使いたちです」
ギルド職員の目が後方に控えているレティに向いた。ギルドで冒険者を見てきた職員だけに、彼女の役割を一目で見抜いたようだ。
そして、その問題はレイ自身悩んでいた事だ。このスタンピードの最中、レイとリザはレベルが上昇したが、レティだけは上がらなかった。技能は増え、能力値も上昇してはいるが、それも微々たるもの。このまま何も対策をしなければレベル差が広がっていくだけだった。
「ですが、パーティーを結成なされば、パーティー内のどなたがどれ程ダメージを与えても、得る経験値は各員に等分されます」
「それは直接戦闘に参加していなくても効果はあるのですか?」
もしそうなら、レティを安全地帯に置いて、レイたちが迷宮に潜りレベル上げをするという手段が取れる。しかし、ギルド職員はダメです、と短く否定した。
「過去の実験などでパーティーの代表者と遠くに離れていると、効果が無くなると判明しています。具体的には広間を三つから四つ以上離れていると経験値は上昇しません。また、階層が違う場合も同様の結果です」
その説明に、レイは自分の考えていた姑息な手段は使えないと諦める。だが、パーティーを結成するメリットは大きい。経験値の分配は仲間内でのレベル差が広がる事への対策になる。
すると、話を黙って聞いていたシアラが口を挟んだ。
「それじゃあ、クランは何なの? クランに加入しても経験値の分配は起きるの?」
「いえ。クランに加入したことで経験値の分配は起きません。クランはどちらかというと冒険者ギルド内のどこの派閥に所属しているのか、という証明にすぎません。その代り、クランごとに規則や収入に対する分配などが違います。それぞれのクランに特色があり、メリットもデメリットも等しく存在します」
例えば、B級クラン『紅蓮の旅団』は各班のリーダーごとに稼ぎ方や方針が違う。稼ぎをクランに収める事、オルドの呼びかけに応じる事の二つさえ守っていれば他は不干渉に近い。オルド班は全体のレベルが高い為、主に荷物の運搬、護衛などを行っており、各地を転々としながら稼いでいた。ちなみにクラン全体でフェスティオ商会の護衛を行ったのは、年に一度の班の再編を行うためだ。長い間旅をしていれば誰かが怪我をし、誰かが死亡し、誰かが加入する。人員の整理を行うために商会の依頼を受けていた。
今の所、他のパーティーやクランに入るつもりの無いレイにしてみたら、自分でパーティーを立ち上げるのが最善に思えた。後ろを振り返り、三人の意見を仰いだ。
「私は賛成です。このままではレティのレベルが上がらず、仲間内でのバランスが悪くなります」
「ワタシも賛成。デメリットがあったとしても、メリットの方が多いように思えるし」
「さんせーい」
三人が同意するのを確認して、レイは職員に向き直ってパーティーを結成すると告げた。職員は短く、かしこまりました、というと、書類を取りに一度席を離れた。
ほどなくして幾つかの羊皮紙を持ってきた職員はレイの前に座ると、羊皮紙と羽ペンを渡す。
「それではまず、代表のお名前と、所属する方の自筆を頂きます。なお、今後仲間が増える場合はどこのギルドでも参加手続きは行えます」
レイは了解したと応じると、代表の欄に自分の名前を。そして、リザ達に羽ペンを渡すと書くように促した。三人はプレートに刻まれている名前をそのまま書いていく。
「プレートと確認しますので、提出をお願いします。……問題ありませんね。それでは次に、パーティーの名前と種別をお決めください」
「名前と……種別ですか?」
要領を得ない指示にレイは不思議そうに聞き返した。職員はしまったという顔を浮かべて、補足の説明をする。
「種別というのはパーティーの主な活動についてです。パーティー申請がギルドに受理されると、名簿に登録されます。そこにはパーティーのランクと主な功績。それとどのような活動を得意とするのかが公開されます」
「なるほど。個人的にクエストを出したい奴とかがその名簿をみて、目的にあったパーティーを探すのね」
「その通りです。ギルドではお客様と冒険者の間の連絡役も努めます。特定のパーティーのみ依頼を出したい方の探しているパーティーが世界のどこかのギルドを訪れたら、連絡が付くようになっております」
クエストの内容次第だが、場合によっては遠隔地でも達成が可能な種類の物もある。それなのに、近隣のギルドに目当てのパーティーが現れないからといって諦めないように伝言板を務めているのだ。
職員は羊皮紙と共にギルドに登録してあるパーティーの名簿を広げた。そこには幾つもの名前が載っており、その数だけ種別も載っていた。大半が迷宮探索と書かれていたが、中には護衛専門、運搬専門、モンスター退治専門、はてはどこそこの街に専属など書かれていた。
「これが種別ですか。……僕らの場合はどんなのが適切なのだろうか」
独り言のように呟いたレイに対して職員が質問をする。
「レイ様の……いえ、あなた方の目的はどのような物でしょうか? 差し支えない範囲で良いのですがお答えいただけると、考えるお手伝いが出来ますが」
その言葉にレイはしばし無言を貫いた。
(僕の目的は日本への帰還。リザは強くなる事と復讐。レティはそんな姉に付き従い、シアラは……何だろう?)
そもそも、冒険者になった経緯なんて他に稼ぎ方を知らないからだ。三人には身分証を作る目的でなってもらったに過ぎない。
振り返ってみるとバラバラな組み合わせである。行く当てもなく、たまたま出会った者達が寄り添うように集まってきたのだとレイは改めて思い知った。
その時、ふと、この様な話を前に誰かとしたことをレイは思い出した。
あれは―――そうだ。ネーデの街だ。
―――「……世界が見たいです」
一つ思い出すと連鎖するように記憶が繋がっていく。まるで火花が散るかのように鮮やかに過去の映像が蘇って来る。
アイナに問われた時、心の奥底から湧き出るように出た感情を言葉に出していた。その時を思い出したかのように呟いていた。
「……旅……ですかね?」
「旅ですか?」
「えっと。生きていくために冒険者として稼ぐのも目的の一つですけど、何より知らない世界や場所を見てみたいんです」
素直な気持ちだった。帰還の方法を探すのも目的の一つだが、自分の欲求はそれ以外の物を求めていた。ギルド職員は頷くと、言葉を紡いだ。
「どこかの街に定住することや迷宮に潜ることを専門とするのではなく、旅をすること自体が目的ですか。でしたら種別は『全般』としてみてはどうでしょうか?」
「そんな曖昧な物でもいいのですか?」
「問題は無いと思われます。例えば迷宮専門と登録したからといって護衛任務を受けてはいけないという決まりはありません。種別という言い方だと分かりにくいですが、得意分野と捉えて頂けたら分かりやすいかもしれません」
その説明にレイは納得したかのように頷いた。すると、話を聞いていたシアラが皮肉混じり呟いた。
「全般って事は何でも屋ってことよね」
レイは言葉に出さずに、確かにと納得していた。シアラの言葉は聞こえなかったのかギルド職員は気にした様子も見せずに種別に全般と書くと、最後の欄を指した。
パーティー名の欄だ。
「それでは、パーティー名ですが……どのようなものにしますか?」
「うーん。……ちなみに一度登録したパーティー名の変更は」
「出来ません」
きっぱりと断言した。
「変更するにはパーティー自体を消滅するしかありません。その場合、築きあげた功績もランクも全て無くなります」
「となると、名前は重要になりますね……なんかアイディアある?」
早々に考えるのを止めたレイは後ろで暇そうにしていた三人に問いかけた。三人は聞かれると思っていなかったのか慌てた様に考えて、叫んだ。
「ドラゴンスレイヤー!」
「戦ったけど、倒したわけじゃないし、名前負けしちゃってる。次」
「シアラ様と愉快な下僕」
「主従逆転しちまったな。次」
「……混沌の流転者」
「リザさん!?」
中二病的なネーミングセンスを披露したリザに対して驚きの視線が突き刺さった。口にしてからリザは恥ずかしそうに俯いた。
それからしばらく意見が交わされたが、有益な結果は出ない。焦れた様に職員が提言した。
「いまお決めにならないのでしたら、仮の名前で申請は出来ます。もっとも名簿には載せられませんし、ここ以外のギルドでは通じないので、申請はこちらで行ってもらう事になりますが……」
「それでお願いします。しばらくはこの街の付近に滞在するつもりですから」
「分かりました、それでは仮申請用の名前をお願いします」
「でしたら……御厨でお願いします」
「ミクリヤですね。分かりました。それで登録します」
と返したギルド職員はパーティー名の欄にミクリヤ(仮)とだけ記した。
レイにとって御厨は自分が日本人である事の数少ない証明だった。例え一時であってもそれがこの異世界に刻まれることは嬉しいような、こそばゆいような感情を生む。
ギルド職員は紙片を水晶球に押し込めた。するり、と入り込んだ紙片は瞬く間に鎖へと姿を変えた。それは奴隷契約の時の光景に酷似していた。
「それでは最後になります。プレートを握り、水晶の上に手を重ねてください。あ、一番下は代表であるレイ様でお願いします」
指示の通りに四人はプレートを持ち、手を重ね合わせた。そしてギルド職員が詠唱を始めた。『宣誓』を告げると彼女から精神力が溢れだした。
「《塒に戻りし蛇よ、呼びかけに応じよ》。《契約を結べ、戦友は円卓の輪に連なる者也》」
詠唱水晶内の鎖が蠢き、出口を求めてさまよっている。
「《魂を縛る蛇よ、その身を契約の証とかせ》」
ぴくり、と。先端が持ち上がると上方、レイたちの方へと近づいていく。
「《フォーメーション》!」
最後の一節が終わると、鎖は一気に動き出した。重ねた手に向かって真っすぐに突き進み、四人の手を貫いて消えた。
終わった事を職員に確認してから、手を離す。そして手に握っていたプレートを見ると、今まで無かった一文が追加されている。
『pa-texi:mikuriya』
頑なにかな表記である。リザ達のプレートにも新しい一文が追加された。体には変化が無いがこれでパーティーは結成された。
「正式な名前が決まりましたらいつでもいらしてください。これで御用件は以上でしょうか?」
レイが頷こうとすると、背後に控えていたレティが裾を引っ張った。レイが振り返ると、彼女は服のポケットからある物を取り出す。大小さまざまな魔石だった。
これらはスタンピード時のレイたちの取り分だった。主に、レイが外城壁の外側でホラスたちと共に門の死守をしていた時と、リザがファルナたちと市街地で遊撃部隊をしていた時の戦果だ。ちなみに迷宮での取り分は迷宮の変成時の混乱で分ける前に無くなってしまった。
レイはレティから魔石を受け取ると、職員の前に出した。
直ぐに鑑定が行われ、全部で二万八千ガルスとなった。レイは現金で受け取る。
用件はこれで全部ですと、告げると職員は深々とお辞儀をした。レイたちも頭を下げてから、席を立つ。
少年たちは冒険者とギルド職員が行きかう広場のある所へと向かった。そこは復興絡みのクエストを張り出しているボードだった。
そこには幾つものクエストが発行されていた。ある地区の瓦礫撤去、支援物資の運搬に関する護衛任務、炊き出しの手伝いなど多岐に渡っている。中には冒険者らしく、近隣の治安維持やアマツマラ迷宮の探索なども張り出されていた。張り出されているクエストには何かの名前が書かれた付箋が貼られている。
「ご主人様。もう、クエストを受けるおつもりですか?」
意外そうにリザが言う。言外に、レイの体調を気遣っての発言だった。退院の許可は出ているが、レイは十二日間も眠っていたのだ。しばらくは安静にしておくべきではないかとリザだけでなくレティとシアラも考えていた。
だが、レイはクエストを眺めながら口を開いた。
「それも考えたけど、折角、パーティーを結成したんだ。四人で初クエストをやってみたいと思ってね」
「……体調の方は大丈夫なのですか?」
リザの問いかけにレイは胸を叩いてアピールした。こうなったら意見を翻さないと判断したリザは嘆息する。それを了承と捉えたレイはあるクエストの依頼書を見つけた。他のクエストと比べて書いてある情報量が少なく、何より紙片に何の付箋も貼られていなかったのが逆に目を引いた。レティが目敏くレイの視線を辿る。
「なになに? 『薬草集め。種類は問わず。十束で八ガルス。なお、種類によっては査定額の上昇あり』……普通にお店で売るよりも高いけど、儲けるには数が必要なクエストだね」
薬草は煮詰めればポーション。刻んで料理に入れれば滋養強壮。何枚か重ねて貼れば湿布として使える万能回復道具である。そのためスタンピードの最中で街にある大部分が消費された。他の街でも薬草はおいそれと送れないため、職人ギルドの方からクエストが発行されたのだ。
「必要ランクはG級。つまり誰でも受けられるクエストだ。……シアラ。このクエストを受けたらどうなるか視える?」
レイは人だかりを避けて一歩退いていたシアラに対して聞いた。彼女は髪をかき上げると、じいとレイやリザ達をつま先から天辺まで視線を上下に動かした。
「影なら問題は無いわよ。……それでも、少しはあるから十分注意と準備は必要よ」
「分かった。じゃあ、まずはこのクエストについて説明を聞こうか」
言うなりレイは近くを歩いていた職員を捕まえて話を聞くことにした。年若のギルド職員はクエスト内容を見ると、簡単な概略を説明した。
「こちらのクエストはパーティーごとの登録制ではありません。どなたでも自由に参加できるタイプです。例えば、このクエストは参加できるパーティー数が五で、貼られている付箋が四枚。つまり、あと一組は参加できることになります」
貼られている付箋に書かれている名前はパーティー名だった。規定人数を超えたクエストはボードから剝がされるシステムだ。
「それじゃ、この辺りで薬草が取れるのはどこですか?」
「この辺りで薬草がとれるとしたら……クライノートの森ですね」
聞き慣れない地名にレイたちは首を傾げた。すると、ギルド職員は地図を持ってくるとレイたちの前に広げた。アマツマラ付近一帯が描かれた地図の一角。都市から見て北西の方角に広がる森林を指した。
「ここがクライノートの森です。シュウ王国一の天然林で広大な森です。森の中に幾つか村は有りますが、あまり開放的とは言えませんので野宿をお勧めします」
「モンスターの平均的な等級は幾つでしょうか」
リザが地図から視線を切ると尋ねた。重要な問題なだけに全員の視線が彼に集まる。その視線を受けて自信満々に職員は告げた。
「この森にモンスターは住み着いていません。首都近郊という事もあり、この辺りは常に巡回が行われています。ただ、それだけにあまり実入りは良いとはいえません。何しろ、稼ぐためには量が必要で、そうなれば森の中でしばらく滞在することになります。モンスターがいないため副収入にも期待できませんので、今の所誰も受けてくれていません」
「なるほど。だったら、都合が良いと言えばいいのかもしれないな」
パーティーとして最初に受けるクエストとして危険が無い事を保証されるのはどうなのだろうかとレイは思ってしまう。しかし、薬草の枯渇は至急片付けないといけない問題だ。仮に、他の復興絡みのクエストを受けるとしたら、レイに出来るのは単純な力仕事ぐらい。そうなるとレティやシアラにも力仕事を受けてもらう事になる。他に四人そろって受けられそうなクエストは無かった。
「それじゃあ、僕らがこのクエストを受けます」
「そうですか! でしたら、クエストの受注手続きを済ませましょう」
職員が必要な書類を持ってきたのでレイは受注手続きを終らせた。職員に別れを告げて坂道を降りる。森に向かう前に準備が必要なため、下層地区の商業施設に向かった。
一方その頃。ヤルマルを始めとした行政の幹部たちを集めた復興会議の議題が新しいのに移ろうとしていた。
「それでは近隣地域の危険度に着いての報告です」
発言したのはミカロスだった。軍事の長としてアマツマラとダラズ周辺の治安維持を行っている。偵察に派遣した部隊の報告を開示する。
「山の民たちは降りてくる気配は有りません。ですが、散発的に盗賊との遭遇が起きております。まだ小競り合いの段階ですが、支援物資やキャラバンの輸送団の警備は厳重にするべきです。……それとスタンピードの残党についてですが、クライノートの森にて多数の生存を確認しました。ですが広大な森。そちらに兵を送り討伐隊を送る余裕はありません。そのため森に対する危険度が上がります」
「それは具体的にどれぐらい上げるのか? 何でしたら、討伐隊のクエストを受注いたしましょうか? 無論、報酬は国持ちになりますが」
ギルド長としてのヤルマルの質問にミカロスはテオドールの意見を仰いだ。国王が頷くと素早く危険度の計算を行った。
「数は不明ですが超級モンスターの存在も確認していることから最低でもB級以上の冒険者を要したパーティーのみとします。報酬はまた、後でお話ししましょう」
その危険度の高さから、了解した、と返答したヤルマルはギルドに戻ったらクライノートの森絡みのクエストを見直すことを決めた。幸い、唯一貼りだされているクエストは不人気の為、誰も引き受けていないのを彼は覚えていた。
その後会議は長引き、ヤルマルが城を出たのは夜になる頃だった。
レティの新スキルが3-EXにこっそりと追加されています。効果はまだ秘密です。
読んで下さって、ありがとうございます。




