5節 生ケ贄ガ殺サレル場所。
「七不思議の六番目までは、第一桜木高等学校のものらしいわね」
テストが終わったその日の午後、俺は世槞の発言に度肝を抜かれることとなる。
「どうして……知ってるんだ」
「今朝、オカルト研究部顧問の常盤先生が教えてくれたのよ」
「は?!」
頭がぐらりとした。
「なんでそんな危険な話を、教師なんかに話してんだよ!!」
学校の制度に怯えているくせに、どこか脳天気な世槞からは目が離せない。離すとほら、すぐにこれだ。
世槞は相変わらず脳天気に、
「落ち着いて」
と言う。
落ち着いてられるか! 俺たちが操られていないことが教師側にバレてしまったじゃないか!
「ここだけの話だけど……常盤先生って“正気”の部類に入るんじゃないかしら」
「どうしてそう言えるんだよ?」
「常盤先生、私に念を押して言ったのよ。戸無瀬――ひいては桜木の秘密を探っていることを他の人に知られてはいけない、って。正気ではない人が、そんなこと言うかな」
「……わからないぞ。世槞を油断させ、正気を保った人間(俺たち)をあぶり出す作戦なのかもしれないし」
「うーん……。常盤先生のこと、そんなに信じられない?」
「当ったり前だ!」
「じゃあ、常盤先生がくれたこの情報は要らない?」
「どんな情報を?」
「要るの?」
「聞いてから判断する」
世槞は声を殺し、息だけを使って俺に伝える。
――生け贄が殺される場所は、第一桜木高等学校なんだって。
それは、俄かには信じられないほどの有益な情報だった。
「常盤先生は言っていたわ。――桜木の校舎は今も存在する。場所は私も知らないけれど、生け贄が連行される時にこっそりと付いていければ、おのずと判明するだろう……ってさ。どう? この情報」
「……有益すぎる。逆に怪しい。罠の可能性が」
「生け贄が最初に連れて行かれる場所は保健室らしいわ。何かあるわね、そこに。だから……私……明日、生け贄が発表されたら、そ、その後をつけてみる」
「おいっ」
「第一桜木高等学校へ行けば、散らない桜の謎がわかるかもしれないんだよね? こんな馬鹿げた生け贄制度が導入された理由が! そして、生け贄制度を廃止せざるを得なくなる状況を作ることが出来たなら……!」
「世槞!!」
俺は声を張り上げた。腹の底から、思い切り。世槞は目を丸くし、キョトンと俺の顔を見上げていた。
「……はは、立派なこと言いやがって。お前……やっぱ怯えてるじゃん」
最初の生け贄が発表された1ヶ月前。世槞は群れから弾き出された小鹿のように怯え、恐怖していた。俺たちは正気を保った者同士その恐怖を共有し合い、友達と呼んでいいのかわからないけれど、妙な繋がりが生まれて仲良くなれた。
その世槞が今、戸無瀬の馬鹿げた風習に真っ向から立ち向かおうとしていた。しかし言葉の節々が震えていることを俺は聞き逃さなかった。
「そりゃ、怖いわよ……でも、何もせずただ指をくわえて生徒が減っていく様子を眺めているくらいなら、少しでも、動きたい」
世槞のスカートの裾を掴む手に力がこもる。
「……テスト結果に、自信は?」
「さぁ。でも多分、大丈夫だと思うわ。不得意な数学は他の教科でカバー出来たはずだし……」
「よし。じゃあ明日、生け贄が発表された後、保健室近くの階段で待機な」
「うん!」
「それと……」
「ん?」
「問題は、俺か世槞、どちらかが最下位になってしまった場合」
「その時は」
うーんと悩んでいた世槞は、閃いたように人差し指を立てた。
「最下位が発表された瞬間、全力で逃走する」
俺たちは笑い合った。