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影操師 ―散らない桜―  作者: 伯灼ろこ
第三章 シャドウ・コンダクター
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 7節 世界ノ真実。

「影人とは、自分の影に乗っ取られた人間の総称だ。そう、その影だ。そいつをただの影だと思うなよ? 影は意思を持ち、いつ人間を乗っ取ろうかと画策している。乗っ取られると人間は死ぬ。普通に生きているように見えるが、それはただ影に動かされているに過ぎない」

――乗っ取られる理由は?

「現在判明しているだけでも、3パターンあるな」


 1、強い負の感情を長期間抱く。

 2、影人と取引をする。

 3、影人に影響を受ける。


――? 3番目の理由って……。

「要は感染だ。影人の近くに長期間いると、影響を受けて自分も影人になっちまう。病原菌みたいなもんだな、影人は。だから影人は発見次第、即座に始末しにゃならねぇ。それがたとえ、友達でも恋人でも家族でも、容赦なく」

――…………。

「表情が曇ったぜ? ケケケッ。まだ15歳の世槞ちゃんには刺激の強いお話だったかなぁ?」

――続けろ。

「はいハイ。……ったく、口悪ィなぁ。テメェやっぱり女らしくしてろ。それも気持ち悪ィが、今よりはマシだ」

――続けろってんだろ、クソが。

「……。影人には様々な形態が存在する。大きく分けてヒューマン型と変貌型に大別され、食人型は変貌型に分類される」

――ヒューマンって、つまり人間ってこと? 影人の人間型?

「ああ。影人になっても生前のままの姿、思考、記憶を保ったままのやつをヒューマン型と言う。見た目が人間と同じだから、影人との判別が難しい、一番厄介な形態だな」

――人間そのままの外見なら……人間社会に紛れ込んでも、わからない。

「そう。厄介だろ?」

――ああ……。なら、私も今まで気付かないうちに影人と遭遇していたのかもしれないのか。恐いな。

「1回だけ遭遇してるぜ。覚えてねぇのか? テメェは上条で、サラリーマンを殺そうとしていた。無意識的に」

――あっ……。

「魂に刷り込まれたシャドウ・コンダクターの本能が、テメェを動かしたんだろう。つーか、そのサラリーマン以外にテメェが今まで影人と遭遇せずに済んだのは、弟のおかげだ」

――紫遠の?

「やつはテメェを護る為、影人を含むあらゆる危機を未然に排除して生きてきた」

――…………。

「まァそのせいでテメェの覚醒が遅れたんだけどよ。しかし戸無瀬みたいな狂った学校に入学してくれて助かったぜぇ。学校自体が危険の巣窟だから、紫遠も完璧にテメェを護ることは出来なかったわけだし」

――…………。

「おっと。話が脱線しちまったか。桜木の生徒が何故、影人に――しかも全員が同じ形態になったか、だが……これは明らかに3番目の理由、“感染”だな」

――食人型の影人になった人間が、桜木の中に長期間潜んでいて……それが感染した、と。だから皆、同じ形態に。

「爆発感染を引き起こした食人型の始祖がいるはずだ。出来ればそいつが影人化した理由を知りたいところだな。俺の予想だと、そいつはまだ生きている。つーか、影人は不老不死の存在だから、殺されない限り絶対に死なない。紫遠が殺してないなら、まだどこかにいるはずだ」

――紫遠は……影人を、殺せる。

「ああ」

――お前も、殺せる。

「食人型なんざ雑魚だ」

――私も、殺せる。

「落第点レベルではあるがな」

――でも、第一桜木高等学校の人たちには、殺せなかった。

「当然だ。影人を始末出来るのは、シャドウ・コンダクター以外に存在しないからなァ」

 暗い、夜の学校。電灯は壊れているのか、点かない。夜には慣れていないけれど、私の目には、暗闇で蠢くモノがはっきりと映っていた。

「気をつけろよ。影人を狩るシャドウ・コンダクターでも、影人になっちまう時がある」

 私は自分の足元にある黒い影を見下ろした。

「それは、ついさっきまで忠実だった自分の下僕が牙を剥くことをいう。俺たちは、常に<いつ裏切るかわからない家臣>と共に生活をしていると思え」

――影人を始末しなくちゃならない理由は、人々を影の影響から護る為?

「馬鹿か。そんなちっぽけな大義、あって無いようなもんだ」

――はああ?

「いいか? ん? シャドウ・コンダクターはな、この世界を崩壊させない為に影人を始末すんだよ」

――この世界と影人は、密接に関わってるとかお前は言っちゃうわけ?

「言っちまうぜ。ああ、声を大にしてな! それこそ、第三者が知ることを許されねぇ“世界の仕組み”だ――。っあ、第三者ってのはシャドウ・コンダクターでも影人でもない、世界の真実を知らねぇ一般人のことな」

――その大それた“世界の仕組み”を教えて。

「教えて教えて教えて教えて教えて……以外同文。ケケケッ、全くもって良い兆候だな。俺様は勉強熱心なやつは嫌いじゃあない」

――勿体ぶんな、変態仮面。

「……。それ紫遠の受け売りか? 受け売りだろ絶対。俺、変態じゃねぇし。つーかアブソリュートってぇ立派な名前あるし」

――…………。

「はいハイ、教えますよ。教えるから睨むな。ったく……このクソ双子め……。えー……この世界はだな、2つある。……オイ、変な目で見んな。俺は事実を言ってんだよ。抗いようのない事実を! 世界は確かに2つある。夢物語でも御伽噺でもねぇ」

――続きをどうぞ。

「今度はテメェを紫遠のように殴り飛ばしてやるからな。言っとくが俺は本気だぞ。覚悟しとけ。……えーと、この2つの世界は1つの天秤の上に成り立っているようなものであり、両者の重さは均等でならなくてはならない。片方の世界が俺たちの住む表世界、もう片方の世界は俺たちの影が住む影世界という。僅かな傾きも致命傷となり、世界各地で傾きが引き金となった原因不明の<非現実的事象>が起きる」

――非現実的……事象。

「傾きの原因は、ズバリ影人の存在。本来、影世界の存在である影が、表世界側の人間を乗っ取ることにより影人と成り果たせるのだから、人間1人分の重さが影世界から表世界へと移動すると考えたらいい。……ほら、天秤がよ、表世界側へ傾くと思わねぇか? これが世界の傾き。傾きは影人を始末することにより修正されるが、修正しないまま放置すると傾きは加速し――やがて天秤の崩壊。世界が、崩壊する」

――確かに、影人は始末しないといけない……。

「だろォ? 自分が生きる世界、または大切な人を失いたくなけりゃ、影人を始末しろ。それが俺たちに課せられた使命だ」

 納得をした。妙に。しかし私は、ふと気付いた。納得をする前に、私と道化師は一体、どうやって会話をしていたのだ。私は確か、いつ、どこから仕掛けられるかわからない攻撃に備える為、声を押し殺していたのだ。

「答えは簡単。テメェは、頭の中で俺と会話をしていた」

「そんなこと出来るの? ……あ、今、私の考えを読んだな」

「シャドウ・コンダクター同士なら、念じるだけで考えを相手に伝えることが出来る。これを“念話”と言い、影人や第三者に聞かれたくない会話をする時に利用する」

「…………」

 道化師はそう簡単に言うけれども。

「教えて、道化師」

 影に別名がある。影が喋る。影が起き上がる。影に命じる。室内に吹雪が舞う。氷を操る。青い光を操る。鋼のように強い肉体と、破壊的な威力をもつ攻撃力。

「神様から大それた使命を押し付けられた、シャドウ・コンダクターって……なに」

 左右から、食人型が来る。示し合わせたように同時に。私は左右の腕を伸ばし手の指を広げ、接近した食人型の首を掴んで骨をへし折った。道化師から歓声が上がる。

「教えてよ」

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