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転居先

 メグミはなんとか奴隷街の一画にある資材置き場内に自走車置き場を確保し、いくつかの資材を積んで運搬用に偽装した上で、勿論シリンダーを抜いておいた。


 立春休暇は5日ほどなので、それまでの間にコハクに故郷の様子とその周辺についてリサーチし、地図や案内がなくとも行けるようにしておく必要がある。


 自走車の方は立春休暇までバレずに済んだようで、盗まれたり壊されたりしなかった。資材の代わりに食糧と衣服、交換用のシリンダーなどを乗せ、コハクの故郷だというバルートを目指す。


 ハンスラの自走車は、基本的に幌が付いている。アンビーのように、年間を通じて気候が穏やかならまだしも、雪も降るハンスラで幌無しは厳しい。


 屋根の部分が幌になっているワンボックスカーだと思えばいい。


 自走車で街道を走って行く。街道は広く、クロバニが飛び出してくる心配もないのでかなりのスピードが出せるのだが、バルートまでは1日走り続けなければ着かないほどの距離がある。ざっと、200kmくらいの距離だろうか。


 昼過ぎ、何となく加速が悪くなってきたので念のため早めのシリンダー交換をしていると、警戒車両(パトカー)が寄ってきて隣に停止し、中から警備兵らしい人が降りてきた。


『そこの奴隷、検問だ、……ほう、奴隷が自走車に乗っているのか。メグ……ミ、ああ行っていいぞ』


 聞いてみると、立春休暇中で人が多いので警戒中らしい。奴隷の腕輪をしている者が自走車を覗き込んでいたので車上荒らしかと思って声をかけたものだ。


 立春休暇に故郷に移動する奴隷も珍しいわけではないので、腕輪があるだけで尋問されたりはしない。


 メグミは面倒なことになって時間を取られると鬱陶しいので、食事場所を聞くと言う名目で煙草代(ワイロ)を渡したのだが、あっさり解放されて拍子抜けした。


 メグミに自覚はないが、ケイジョーで自走車を買った奴隷がいると評判になっているので名前が判れば照会するまでもなく事情がわかるのだ。それでも難癖をつけてどうこうしようとするほどハンスラの警備兵は腐っていない。


 もちろん街道沿いには途中にいくつもの街があって、食事などには困ることはない。立春休暇で移動する人が多いからか目立つ食事場所には乗合車がたくさん駐車してあり、街道沿いに店を出せばそれなりに客が入りそうな雰囲気である。


 街以外の場所は街道沿いでも長閑な風景で耕作地が広がっているが、国境近くでは耕作放棄されたらしい荒れ地もいくつかあって、そういう場所では家とも呼べないような掘立小屋が建っている。


 紛争地になったような場所には、戦力と言う名の軍隊が投下され、軍隊は多くの兵士からなっている。


 そこに兵糧などの物資が補給されている間は良いが、それが足りなくなると周辺の街や村から徴収、略奪することになるのだ。


 略奪する物資が無くなると、育成中の作物さえ略奪される。


 作物を作っても見張っているのは大変だし、そもそも兵器を持っている軍に太刀打ちできるわけがないから、結果的に自分の物にできない作物を作る意味は存在しない。世紀末の荒れた世界を描いた作品なんかでは簒奪することしか考えていない連中が良く出てくるが、生産者が作る気を無くしたり生産者がいなくなったらどうなるか考えないと滅ぶのは自分たちだ。


 一旦耕作を放棄した場所を再度耕作地に戻すのは、未開拓地を開墾するのと同じくらい大変である。こうして紛争地では耕作放棄地がどんどん拡がって行くのである。


 昼を大分過ぎたころ、コハクの故郷の村に到着した。コハクは故郷の名をバルートと言っていたが、コハクの故郷の村はテオルと言い、バルートはそこから最も近い町の名前だった。


 テオルには若いネエちゃんはほとんどいない。若いネエちゃんにとっては村で何かするよりも街に出稼ぎに行った方がはるかに実入りがいい。村に残っているのは無理して稼ぐ気が全くない()だけである。


 ということは、部長と子どもを作る気になるような女は村にはおらず、居るとすれば街の方だということだ。村でボーっとご隠居さんをしているより、街に店でも出されたらそっちの方が危ない。


 テオルの村には泊まるところすらないのでバルートの街まで戻り、宿を探す。立春休暇中の、しかも街道沿いの街と言うことでどこも混んでおり、その上メグミは黒い腕輪(奴隷証)付きである。前払いでしかも食事なしとかかなりボラれた風なので、毛布でも買って車の中で寝た方が安上がりだったのは間違いない。立春休み中なので兵舎でもあればタダで泊めてもらえただろうが、あいにく近くに兵舎はない。


 食事が付いていないので宿近くの食堂に夕食を食べに行く。相変わらずメニューは詳しく読めないのでお任せ定食にしたところ、サフランライスかと言うような黄色いご飯が出てきた。米だ。


 メグミは急いで掻っ込もうとして黄色いご飯であることに気づき、まずはほんのちょびっとだけ食べてみる。ハンスラ生活も長いので学習したものだ。


 ご飯は案の定、素晴らしく辛かった。これがこのあたりの標準の味付けだとすると、部長はちゃんと食えるのだろうか?


 おかずは味付けが濃い目程度の焼肉だったが、結局ご飯は4分の1ほどしか食べなかった。


 残りは店の人に頼んで竹の皮っぽいものに包んでもらい、一角カバ(ユニコーン)のお供えになった。


「お供えの起源は神に収穫を感謝する物ゆえ、手を付ける前の物を最初に出すべきではないのか」

「これは最初に分けた分、私が食べたところは後から取った。だからお供えとしての要件を満たしている。つべこべ言わずに食え」


 もう連休(GW)も残り少なくなっており、部長が子どもを抱いてたりいろいろあってかなり心が荒んでいるようだ。


 翌日はバルートの街の調査である。もしも部長がすぐにくたばらなかったら、拠点を作って監視する必要があるのだ。


 街の規模はそれほど大きくはないので出来ることはあまり多くなさそうだが、街道沿いのためか排他的な雰囲気はあまりなく、年金収入があるなら生活は問題なくできそうだ。


 家を建てているところがあったので、奴隷から解放された後移住する予定だがこのあたりに家を建てられるか聞いたところ、耕作しないのなら特に問題はないようだった。


 メグミは腕輪を付けたままだと宿の連泊が難しそうだと判断し、昼の間に毛布とマントを買っておいて車の中で寝た。 のだが。


「寒っ」

 ほどなく、とんでもない寒さで目が覚めた。明け方には普通に霜が降りる寒さなのだから当然である。


「猫でも歩いていないかな」


 歩く暖房器具は、そう都合よく見つかるものではない。酒も持ってはいるが、酒を飲んで寝てしまったら100%凍死コースである。


 かと言って、街道沿いとはいえ街中火を焚くわけにもいかない。


 考えてもみていただきたい。あなたの家の近所で見知らぬ人がいきなり焚き火を始めたら不安にならないだろうか。


 メグミは、街道沿いに民家が無いところまで戻って焚き火をすることにした。バルートの街周辺の調査に最大3日ほどかけるつもりだったが、大体の所がわかったのでもう戻っても構わない。


 しかし、街道沿いに走ってみても、既に暗いので薪など見つからない。夜に見える手頃な木片など、明るいうちにとっくに拾われてしまっているのだ。


 薪が見つからなければ火を起こすことはできない。メグミは結局、酒を持って交渉し、他の旅人のたき火に当たらせてもらうことにした。


 酒代と移動や交渉の手間を考えたら、宿に泊まった方が楽だったのではないだろうか。

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