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家族

 途中でその場から離れたので最後まで聞いたわけではないが、コハクはあの部長が最近セクハラをしないと言っていた。


 さすがに子持ちの人妻にセクハラするほどクズではないだろうなどと思ってはいけない。メグミは過去に部長が子持ちの人妻どころか、子連れのおばさんにセクハラしている現場を見たことがあるのだ。


 気の毒な被害者は小学校5年生くらいの男の子を連れたおばさんで、子供会か何かの工場見学の申し込みをしに来たらしかった。部長は申込用紙の記入の仕方を教えるふりをして、おばさんに覆いかぶさるようにして一緒にボールペンを持ち、申込み用紙に記入していたのである。


 当然だが、おばさんは非常に嫌そうな顔をしていた。良く訴えられなかったものだと思う。


 そんな部長だから、いよいよ本当に衰えていろんな意味で弱ってきたのかもしれない。


 メグミも今回の件で、あまりくたばって欲しいとか願うものではないという感覚に傾きつつある。


 そう考えると、もうこのまま衰えきってくれた方が、気が楽なのだ。


 まぁ結局、消極的にくたばってくれることを願っているだけなのだが。


 それはともかく、メグミは菓子屋でコハクが赤ん坊を連れている時、ちょっと抱かせてもらった。


 さすがに父親が誰かとは聞けない。


 かと言って、抱くふりをしてうっかり落っことそうとか、そんなことを考えたわけでもない。


 赤ん坊の遺伝的形質をチェックしようとしただけである。


 コハクさんは一重瞼なのだが、赤ん坊は二重瞼だった。部長も一重瞼なので、遺伝の仕方が地球と同じだとすると、部長は父親ではないことがほぼ確定する。


 さらに、コハクの瞳を覗き込んでみた。部長の姿は、かけらも映りこんでいなかった。


 これだけ条件が揃えば大丈夫だろう、メグミはやれやれと安心した。


 部長のセクハラ担当であったコハクが(家庭を持って)子どもを作ったことで、部長のセクハラ対象が別に移ったら大変である。状況を調べるために続けて菓子屋に通ううちに、コハクから妙な話を聞いた。


 なんと、部長の養女になるかもしれないと言う。


『おじさんね、田舎でのんびりしたいと言ってたの。で、私の故郷の話をしたら、そういう所で老後を過ごすのもいいんじゃないかって』

『は? 老後はって、とっくに老後だろ』


 既に弱って来たみたいだし、今が老後でなくてなんだと言うのか。


『まぁそうだけど。そしたら、私の故郷に家を建てて一緒に暮らすのはどうかって話になって』


 奴隷街は、労働力の供給場所である。従って、働けなくなったものは不要になる。菓子を作る技術があるからと言っても、原料粉を運ぶのにも餡を練るのにも力が必要だ。


 働けなくなったら、それこそ教会の非就労者収容所で老後を過ごすことになるのだが、こういう所でも完全に働けない老人と言うのはほとんどいない。


 つまり奴隷街に骨を埋める気がなければ出て行くしかないのだが、拠点にできるような場所の当てがなければ出て行くことは困難なのである。そのため、店員として知り合ったコハクを頼って拠点にし、家を建てる代わりにあわよくば老後の面倒を見てもらおうと云う訳なのだ。商品が当たったので、親子と自分が住める家を建てるくらいの金は持っているらしい


 話を聞いてみるとコハクとその旦那――名前がわからない――はその話に結構乗り気になっており、奴隷街を出る手続きをどうするかなどの調査も進めているところだそうだ。


 手続き上は部長がコハク家族を身請けし(買っ)て、家を建てて引き取るだけだ。


 既に、コハクの故郷で住む家を探し始めているらしい。そうなると、放置することはできない。可能性は非常に低くなったようだが、家に収まった部長が何をしでかすか不安は尽きないのだ。


 そうなるとメグミはついて行くしかなくなるが、部長に知られることなく拠点を移動させるのは難しそうだ。コハクの故郷に移ったのに、メグミが近所をうろついていたら不自然である。


『コハクさんの故郷と言うのは、大きな街なのですか』

『ううん、とんでもない。家なんか50軒もないちっぽけな村よぅ。一応街道沿いだから、教会やお医者さんの所まで1日で行けるけど』


 メグミは詳しく知らないが、そもそもコハクは村が人頭税を払えないことで奴隷街に来たのである。一人二人奴隷にするくらいで税が何とかなる村の規模などたかが知れている。そんなところをメグミがうろついていたら不自然極まりない。


 これまたメグミは気付いていないが、ほぼ奴隷街限定とはいえケイジョーの有名菓子が作れる部長がいれば、その近くの街に店を出すことでおそらく税金くらいは何とかなる。それと同様に高額の年金が確実に支給されるメグミがいても税金の不安がなくなるはずなので、移住を希望すれば部長と同じく歓迎されるのは間違いない。


 その進捗具合をメグミが知ることはできないが、部長の隠居計画は着々と進んで行った。


 追跡しようにも、奴隷であるメグミが拠点を作る手段は非常に限られている。


『春になったら家族みんなで故郷に帰ることになったんですよ』

 年末近くになって、コハクがそんな話をするようになった。


 メグミがどうにか動くことができるのは、次の立春休暇が最後のチャンスである。


 まとまった休みに、コハクの故郷の村やその近くの街で拠点が作れるか調べておこうというのだ。


 困ったのは移動手段である。乗合車はあるにはあるが、立春休暇は大勢が移動するため大変な混雑となり、予定通りに移動できるとは限らない。期間内に戻ってこれなければ現在の拠点すらなくなってしまう。


 メグミは熟考というほどは考えていないが、移動のために自走車を1台買ってしまうことにした。なにしろ手元には、1年分の年金があるのだ。


 自走車の購入のため、休みの日にケイジョーを動き回ってなんとか立春休暇までに入手できる目途が立った。夕方にはゲート酔いで動けなくなったが。


 あとは、立春休暇まで目立たないように自走車を置いておける場所の確保である。もちろんこちらに日本最大を誇る月極チェーングループの駐車場など存在しない。



『どこかに奴隷用の駐車場なんかありませんかね』

『おまえは馬鹿か、自走車を持っている奴隷がいるわけないだろう』

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