再入国
翌日、ナンデの港に向かい、ケイジョー行きの運賃を聞く。
前回はイヲキがすべて手配してくれたため、メグミはケイジョーまでいくらかかるか知らないのである。
聞いてみると、今はホバー航路しか運航しておらず、食事つきで銀貨18枚必要だと言う。
メグミはデッキ船室と船倉船室があったはずだと思い出し、船倉の料金はいくらか聞いたのだが船倉は荷物専用とのことで、乗客が利用することはできないらしい。
ということは、部長は荷物として運ばれたわけだ。よく荷物に食事が出たな。
銀貨18枚は結構な大金である。稼いでいる間にも食費や宿代がかかる上、獲物入れが用意できず生け捕りを想定していないため、オオバチ1頭は銀貨3枚にしかならない。
獲物入れがあれば、生け捕りと運搬が可能ではあるのだが、場所を取る上に毒蛇なので乗合車に嫌がられるし、乗せられる車の当てもないので止めておいた。そもそもバチ取り棒がないので生け捕りは困難である。
基本、オオバチを見つけたらぶっ叩いて首だけを集めていくことにし、乗合車でユイの森に向かう。
乗船料の銀貨18枚を捻出するのに、15日かかった。
「ピンクのユニコーン様、お供えです」
何とか運賃を稼ぐことができたので、パイナップルが入手できる間にと一角カバ用のお供えを作る。イノシシ肉がなかったので代わりにヌーを使っているが、ヌー肉は味が良いから問題ないだろう。
「何やってくれてんのよ、まさかパイナップルのピザ欲しさにわざわざアンビーに転移させてくれたわけじゃないでしょうね」
「……」
「アンビーからケイジョーに行く金を稼ぐのにすっげー苦労したじゃない、オオバチにでも咬まれたらどうしてくれんのよ」
「ピザはありがたいがこの肉はネz」
「ハムかどうかっていうのは肉の種類じゃなくて調理方法で決まるはずでしょ、文句言わない」
肝心のヌー肉は燻製にしていないからハムとは言えないのだが。
「汝、『いしのなかにいる』という意味はわかるな」
「そりゃまあ、有名なゲームのネタだからね」
「転移には直接異世界に移動する場合と、神の住処を経由する場合がある。
直接行く場合、標高も、惑星の場合には自転速度も同じでないと埋まったり、上空から落ちてみたり、相対速度が大きくて叩きつけられることになる。
しかも向こうの都市は転移ゲートのため空間が揺らいでいて元の形状で転移できる保証もない。
安全を考えてあちらにした。石像やミンチ、もしくはキメラにでもなりたければ直接送ったが」
「ワンクッション置くと言う方法もあったんだよね」
「神の部屋の環境を整えるのは非常に大変なのだ。例えば、イルカを異世界転移させるために人間と同じ環境に呼べば内臓に負担が掛かろう。
我々は環境に依存せぬが、召喚者に合わせるには空間を大きく改変し、さらに転移先にも合わせねばならぬ」
「あーもう、わかったわよ。面倒ならそう言えば」
「地球に戻すときに調整が大変だった。二度も同じことをするのは面倒だ」
と、身も蓋もないことを言われ、アンビーに戻された。実際、ケイジョーの街中にある転移ゲートの影響は無視できないのである。
もし金稼ぎが難航していたら、そんなことを知らないメグミは暴れるか、教会のユニコーン像を紫色に塗っていたかもしれない。
「はあ、偉大なるヌードル神様、今回の航海では海賊が出ないようにしてください」
アンビーに戻ったメグミは念のため、ヌードル神に祈っておいた。またビア樽を持って行かれたら困ってしまう、今回は資金に余裕がないのだ。
きちんとヌードル神に伝われば海賊が出ることはないだろう。
のんびりしていても滞在費ばかりかかってしまい、気温が低くなってくるとオオバチが活動しなくなって捕まえにくくなるので、メグミは翌日の便でケイジョーに向かうことにした。
季節は既に初冬になっており、海上を北風が吹き渡って行く。この季節に台風が来たりすることはまずない。ナンデからケイジョーまでは、天候さえ問題なければ3日で到着する。
ナンデを出て4日目の昼前、無事にケイジョーの港に到着した。
「さてと」
港から教会まで移動しなければならない。メグミは手頃な闇両替商を探した。
利に敏い者と言うのは、人の表情や動きで何を求めているかわかるもののようだ。
メグミがキョロキョロしていると、
「お兄さん、両替かい」
と若い男が声をかけてきた。
『ああ、帝国銀貨1枚だけでいいんだが』
『それならハン札2枚出すよ』
男は銀貨を受け取ると、ハン札を2枚取り出す。
『おっと、役人だ』
そう言ったかと思うと、メグミを抱き寄せてハン札を持った手をポケットに突っ込む。
『それじゃあ、まいど』
再現映像を見ているようだ。メグミはため息をつきながら、ポケットから手を抜いて去って行こうとした男の腕を捕まえた。
『ちょっと待った、ハン札はしっかり置いて行ってもらおうか』
男は目を見開いてメグミを見たかと思うと、走って逃げようとした。
メグミは難なく男の脚を引っ掛けて転がすと、腕を捩じり上げて押さえつけた。
『予備役とはいえ従軍経験者を舐めてもらっちゃ困るな』
いくら予備役でも、最初にケイジョーに来た時にやられていなかったら騙されていたかもしれないが。
男は観念したのか舌打ちをしておとなしくなった。本物の役人がやって来たので、さっさとハン札を回収する。証拠品とか言って持って行かれたら目も当てられない。
『何事だ』
『こいつ、スリです』
『そうか。ん? おいっ、もしかしてメグミじゃないか。どこに行ってたんだ』
メグミは記憶がなかったが、どうも軍で同じ隊だった人らしい。
『いや、ちょっとアンビーに戻ってたんだ』
『そうか、宿舎に戻ってないから隊長が心配してたぞ。すぐに顔を出しておいた方が良い』
そりゃあ、高額の年金を1年間も受け取らなかったら行方不明扱いになって当たり前である。
「わかった、すぐに行ってくる」
メグミは一旦教会の宿舎に戻った。幸い神官が部屋をそのままにしてくれており、なぜか1年前転移の際に消えたはずの荷物も置いてあった。
さすがに1年も経つと奴隷街の住居の建築と再割当は済んでおり、メグミの住居も用意されていた。アンビーに戻っていたということで兵役回避と扱われることもなく、そのまま戻されることになった。出入国の管理などされていないから人の動きが把握できていなくても不思議ではない。
メグミは新しい住居に荷物を運びこんだ。荷物と言っても食器と服が少々だけである。とても高額所得者の家財道具には見えない。
戻って来たので、翌日部長の様子を見に菓子屋まで出かける。
カウンターの奥を覗くと、部長が生まれたばかりの赤ん坊を抱いて女性店員とにこやかに話していた。




