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帰還

 奴隷街の独身と言えば、菓子屋の店員も半数ほどは独身なのである。


 菓子屋の独身店員にも全員参加要請があり、要請があった者はしっかり全員参加したのだが、メグミと部長はもちろんそんなことは知らない。


 自分たちの対応で手いっぱいである。


 メグミもお断りしているのは単にこちらの世界で子作りするつもりがないだけで、別に男女交際否定派というわけではない。


 しかも、今はたまたま男をやっているが、地球に戻ったら女なのであり、態々女と付き合うつもりもない。


 そんな訳でお付き合いを断わったが、だからと言ってボッチの自分の周りが浮かれているのは不愉快である。


「リア充爆発しろー」

 メグミがそう叫んだ時、遠くで爆発音がした。なにかが本当に爆発したようだ。


「兵器工場の方だな」


 何が爆発したかをメグミが知ったのは、翌朝になってからだった。

 爆発したのはリア充ではなく、兵器工場の武器庫に保管されていた火薬だった。


 幸いにと言うか、保管庫で作業中の者がおらず、周囲の建物が壊れて怪我人が多数出た以外、人的被害はなかった。火薬も、リスク分散で何か所かに保管されているので全滅と言うわけではなかった。


 原因は何かの火花が散ったのかもしれないし、ノルハンの工作員の仕業かも知れない。


 あるいは誰かが遠くで詠唱に相当する叫びをあげたのが原因の可能性だってある。


 もちろん厳重な保管をしていたのだが、密閉した部屋で空気を遮断して保管していたわけではない。人が出入りできる程度に扉はあるし、作業する者が中で窒息しない程度には空気の流入も可能だ。そこに火薬を保管していたのだから、爆発しても何の不思議もない。


 なにしろ魔術で火の玉を飛ばせる世界としてはあり得ないくらい適当に火薬を保管していた訳だから、セキュリティがどうのとか言っていられない。


 今まで無人の場所を魔術で攻撃するなんてことは考えなかったので、防御する術式なんてものは研究、開発されていなかったのだ。


 だが、この事件をきっかけとして、魔術を打ち消す術式の研究が進んで行くことになるのである。



 建物の倒壊による人的被害はなくとも、全半壊した建物は多数存在し、奴隷街の中に居ながら路頭に迷う者が出てしまった。


 そのため、奴隷街の外に伝手があって生活力がある者は、建物を修復・改修する間、街の外に疎開することが奨励された。おそらく、爆発の原因が不明なので住人が密集することを避け、個々の行動を把握しやすくしようとしているのだろう。


 メグミの住居周辺は被害がなかったが、人の移動に伴う住居の再割当の対象区域に引っかかったので、かつて暮らしていた教会の宿舎に身を寄せることになった。


 神官は相変わらずの下心たっぷりの瞳と共に快く迎えてくれた。


 奴隷街に入る直前の状態に戻った訳だが、当時と異なり年金があるので、無理に虫を採って売ったり屋台を出さなくても良い。


 しかも、形の上では奴隷街を出ているので予備役の訓練もしばらく免除である。


 部長も菓子屋でなんか浮いてる感じだったし、これは暫くのんびりできるかなと思っていたある日、


「懐かしい部屋だ」


 メグミが食事から帰って宿舎の扉を開け、中に入ると、そこは久しぶりの自室だった。


 急いで携帯を見ると、5月1日18時である。


 向こうで5年以上経っているのに、こちらでは1週間も経ってないのだ。


『ユウちゃん、久しぶり―』

『そろそろ腹が減ったかな』


 ゲージの掃除をしたあと、冷凍ピンクマウスを温めて食べさせる。

 飼い主である花輪のように、専用の電子レンジを持っているわけではないので湯煎である。


 湯煎に使っているヤカンには「部長専用」と書いてある。連休中は会社では使わないのでこのために借りてきたのだ。雑巾の絞り汁を入れるなんてひどいことはしない、添加物が何も入っていない安全な食べ物を温めるのに使っただけだ。


「ユウちゃん、部長待遇だよー」


 そんなことを言っているが、ユウちゃんが部長の扱いを知れば一緒にするなと怒るかもしれない。


 一通り世話を済ませた後、近所のコンビニに行ってビールとポテトチップ、それとコンビニブランドのスイーツを買ってきた。


 ビールを冷蔵庫に仕舞い、風呂に入って天井を見上げる。


「くはーっ」


 帰ってきたことを実感し、ムニムニと胸を掴んで存在を確かめてみる。


 どこかの神官(イヲキ)ほど大きくないが、それなりではある。さらに、確かめるようにあちこち触ってみる。


「久しぶりの女体(にょたい)だぜー」


 聞きようによっては非常に危なく聞こえる言葉を口走る。


 風呂から出て缶ビールを開け、ポテチをつまみながらネットでニュースを見つつ、メールチェックをする。


 旅行組以外、メグミの旅行がキャンセルになったことを知らないので、電源が切ってあった携帯には留守メッセージなど入っていない。


 その旅行組からは、メグミを気遣うメールが数本入っていた。添付画像がないのはそれなりの配慮だろうか。


 部長の失踪に関するニュースや、そのことについてのメールはなかった。


 部長失踪の原因も、部長の現在地も知っているのでそんなメールが来ていても困ってしまうのだが。


 部長は家族にも気にされていないか、メグミが重要参考人になっていて情報を与えないように検閲されているのか。そんな可能性も考えたが、


「死体が出なけりゃ証拠なんてないんだぜー」


 まあ、それはその通りである。



「ピンクのユニコーン様、部長の捜索願が出ていてもこっちに問い合わせや捜査が来ませんように」


「行方不明に関わっているのであれば、責任があるのではないか」

「直接の接触はしてないもん、消えた原因を知ってるだけじゃない。殺したわけじゃなし」

「本人の存在場所が世界単位で移動しただけであるからな」

「死体になったら戻って来たりしないよね」

「うむ、6日に生きていればそのまま戻るだけぞ」

「え?」


 それはそれで大問題である。異世界に行っていましたと主張されれば、……されれば?


 そんなことを主張すれば、おそらくかなり退院しにくい病院に送られて、会社に来なくなるに違いない。なんだ、部長は生き延びても問題ないのか。とすれば、注意すべきは子どもだけなんだな。

次話投稿は、9日金曜日の夜になります

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