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再徴兵

 メグミが時々店に見に行くと、部長はいつも店員と喋っていた。信じられないが、あの歳なのに約1年で新しい言語を会話できる程度に覚えてしまったのだ。メグミも聞き取りぐらいは普通にできるようになったが、とんでもない状況である。


 地球ではセクハラしかしなかったため、部長の周りに寄って行く女子などいなかったのだが、ここでは男がいないためかなぜか部長を取り囲むようにして話をしている。


 メグミはいつも逃げているお詫びにフマルにお菓子でも買って行ってやろうと売れ筋らしいどこかで見たようなお菓子を選び、会計に持って行ったところでその会話を聞いてしまった。


「えー、ゲンゾー様、前は違う国に居たんですかぁ」

「そうだよ、何とかして帰りたいんだけどねぇ。どうやったら帰れるのか」

「あ、それなら私と一緒にここを出るっていうのはどうですかぁ」


 どうもこの店員は違う国にいたというのを移動できる場所と判断し、自分をここから連れ出してくれと言っているのだ。


 メグミは思わず「アッ」と声に出してしまった。


 メグミは一々対応するのが面倒で逃げ出すほど女に狙われているが、それは超優良物件だからである。しかし、顔と歳を気にしなければ、部長だってそれなりの優良物件には見えるのだ。


 そして、その気がない(ように見える)メグミと異なり、部長には自重しなければならない理由は何も存在していないのである。


「これはヤバいかも」


 もし、言い寄った女の計画を部長が了承してしまえば、どこかで家庭を持つことは可能なのだ。


「男は70でも子どもが作れるって言うし……」


 部長はギリギリそこまでの歳ではない。


(遺産目当ての悪女に引っかかって殺されてくれんかな)


 そんな自己中心的な発想ができる者なら奴隷街にはいないだろう。部長の様子に戦々恐々とする日々が続いていた。


 だがそもそも爺さんの様子に気を付けていられるような平和な日々は、そんなに続くものではなかったのである。


 メグミに戦地への招集がかかった。メグミだけではない、奴隷街の男はほぼ全員が招集対象となり、今回は部長も徴兵対象として招集された。


 国境での新たな緊張状態が発生し、大量の兵士が必要になったのである。



 ノルハンは戦地での兵士の移動のために、防空壕を兼ねていたらしい大きなトンネルを何本も作っていたのだ。


 戦況が有利になって国境を押し戻したのは良いのだが、国境を動かした結果なんと掘ってあったトンネルが何本も国境をまたぐことになってしまった。

 つまりトンネルの入り口がノルハン側に、出口がハンスラ側になっているものがいくつもできてしまったのだ。


 おまけに、今までノルハン領だったわけだからどこにどんなトンネルがあるかの調査はできておらず、ノルハンの兵士が大きなトンネルを通って簡単に国境を越えられるようになっていたのである。


 ノルハン側も必死だったのか、詳しい調査がされる前にと思ったらしくトンネルを通って大量の兵士が送り込まれてきた。国境を越えてきた兵士にあっさり背後を取られる形になって大砲を奪われ、持ち去られてしまったのである。


 皮肉なことにハンスラは、ハンスラで造られた高性能な兵器によって攻撃されることになった。


 国境を押し戻すほどの成果が出る兵器を奪われ、作ったばかりの歩哨塔だけでなく、従来の歩哨塔もすべて攻撃、破壊された。


 メグミが再度戦地に赴いた時には、国境付近の建造物は柵を含めてなにもなく、ただ荒涼とした地域が広がっているだけの状態になっていた。


「おわー、見事に何にもないな」

「でも、前の国境まで撤退したことでトンネルの位置はわかってますから、警戒はしやすくなってますよね」

「で、お互い遠くを見る手段は無いのに攻撃手段だけはあるから国境線の幅が異様に広いな」

「木も何にもないですもんね」


 メグミがキボシコを採った林も木がほとんど残っていない。


 相手が見えないが、兵士が存在することはわかっているので射程を最大にして砲撃が繰り返されている。


 相手が見えないのに睨み合っている状態だ。戦闘の長期化が予想されることと兵士の数が多くなったことで、兵舎の食糧支給方法は常設の食堂となり、部長の仕事は調理担当として固定された。一方メグミは一般兵である。


「この中を見回りに行くのか……」


 攻撃のタイミングがある程度予想できた前回と異なり、今回はいつ攻撃されるか予想できない。兵士に命中する確率は低くても不安は大きい。しかも、歩哨が国境近くに立っていないから挑発任務もない。


「おやつも豪華食事もなしかよ」

 士気が上がらないこと夥しい。


(部長に流れ弾が当たらんかなあ)


 国境までの距離が同じなら、弾に当たる確率に違いはないが、一応安全な場所に作られている兵舎の食堂と、国境近くの見回りではメグミが弾に当たる確率の方が大きい。


 冬になって、兵士の間でも流行性感冒(インフルエンザ)が流行し始めた。


(部長が感染せ(かから)んかな、あの歳なら軽症では済むまい)


 人は多いが温度と湿度が高い厨房と、温度と湿度が低く人との接触が避けられない屋外兵舎ではメグミが感染する確率の方が高いだろう。


 微々たる差ではあるが、メグミの方がより危険な状況であることは変わらない。長期化すればするほどその差は大きくなっていくだろうが、国境が元に戻ってからの両軍の死傷者数は一桁である。


 もっとも、サスペンス小説であれば高額の年金を払わなくて良いように、メグミは事故か敵の攻撃に見せかけて始末されていたかもしれない。


 こう着状態は続いているが、立春休暇が出る程度には緊張は緩んできたらしい。メグミは一旦、街に戻った。


「メグミ様、家を持って奴隷街を出れば徴兵されないのではありませんか」


 またもフマル達が結婚を持ちかけてきた。一般人であれば渡りに船とばかりに承諾するに違いないが、あいにくメグミは一般人ではない。


 部長にはそんな話は出てこないようなので戦地に戻るはずだから、簡単に奴隷でなくなるわけにいかない。戦地には女がいないのでほとんど気にしなくて良いのではあるが。


(確かに戻りたくはないなぁ、)


 メグミにはあと3節気もすれば飛び始める花粉の方が大きな問題だった。


だが、メグミと部長の兵役は唐突に終わりを告げた。

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