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停戦と報奨金

 火薬の量を間違えなければ一応の攻撃力があるのが確認できたので、鋳造方法自体は完成していたことから、破損から10日ほどして新しい砲身が届けられた。


 威力がわかったので、細かい調整は実戦配備しながらである。


 まず、投石器が2つ吹っ飛んだ。

 この投石器は『てっぱう』、つまり炸裂弾を飛ばすこともできるものだったが、爆弾だけに大きな衝撃を与えるわけにはいかないので、飛距離はそれほどでもない。


 これに対し『砲弾』、要するにただの金属塊を飛ばす場合は砲身が耐えられれば壊れる心配をしなくて良い。


 メグミは砲身にライフリングを切り、砲弾を弾丸型にすることで飛距離、命中率ともに上昇することは知っていた。しかし、砲身の製造技術と耐久性を信用していなかったことと、火薬の性能が不十分だったので気にしないことにした。


 この射程距離の違いが、戦いの明暗を分けた。


 6つあった国境近くのノルハン側監視塔も、すべて粉砕された。


 メグミはノルハンの兵士が砲撃で吹っ飛ぶのも目撃しているのだが、良く言われるような死に対する忌避感はどこかに捨ててきている。間諜の自爆で味方兵士が亡くなるのを見ているし、花粉症で追跡を躊躇しなければおそらく自分も重傷を負うか、場合によっては死んでいたのだ。


 自分を殺そうとした相手に手加減してやるいわれはない。


 それに、死んだあとどうなるかわからない不安から死を恐れる一般人と異なり、仏様に直接話を聞いているメグミは不安がないという点で無敵なのである。


「三途の川を渡れー!」


 そのため、通常は「地獄に落ちろー」というところだが、正確さを期すため、少々掛け声が違っている。戦争に参加した兵士であっても、地獄に落ちるとは限らないのだ。


 国境はただの柵で、地雷が埋まっているわけでもない。修理が簡単である程度に、移動も簡単である。

 結果、夏の終わりまでにかなりの範囲で国境線を押し戻すことができたのである。


 秋になってある程度の収穫が見込まれると云う事から、停戦協定が結ばれることになった。


 備蓄がない中ではノルハンも必死になってしまい、話が進まない。このまま冬になってしまったら、停戦条件がこじれかねないだろう。秋は停戦に丁度良い季節であり、国境戦線は一気に縮小して兵士の数も削減された。


 軍隊などという非生産的な集団は維持するのに大金がかかるのである。そんなもの、危険がなければ解散するのが一番なのだ。


 メグミは、大砲開発の功績を認められ、報奨金を手にすることになった。部長よりだいぶ遅れたが、現代知識チートが活かされた結果である。


 だが停戦の情報と共に、奴隷街に戻る者によってメグミがかなりの額の報奨金を得たことが伝えられてしまった。


 報奨金を手にすると言っても、メグミは強盗に襲われたり、金目当てで侵入する泥棒の心配はしなくて良い。


 報奨金は「年金」の形で継続的に支払われるものだからだ。メグミ本人は大金を持っているわけではない。なぜなら国にとっても、大金を一気に払うより年金で支払った方が楽だからである。


 若くして大金を持ち、顔も良い超優良物件。


 一時金だけでも奴隷街を出て家を持ち、奴隷を2、3人連れ出すとしても悠々自適生活が保障されているのである。


 奴隷街に戻ったメグミには、女たちが群がった。


「メグミっ、コッスス捕まえた?」

 最初はもちろん、この人である。


「あー、はい。捕まえましたよ。そして、(浮気神も)始末できたと思います」

「良かったね、もう奴隷街を出られるね。もし良かったら私を一緒に連れt」

『フマルさんは奴隷街を出られるのですか。私はしばらく出るつもりはありません』


 メグミは急遽、念話に切り替えた。戦場生活での必要性から普通に会話できるが、ややこしい内部事情を周囲に聞かせることはあるまい。


 部長の監視がある以上、おいそれと奴隷街を出るわけにいかないのだ。


「えっ……」


 絶句したフマルを見て、他の女たちはフマルがメグミに振られたと思ったらしい。


「メグミ様、そんな女放っておいて私と」

「黙れアバズレ、メグミ様には私のような清楚なものこそふさわしい」

「あんた、ケイジョー市街にいた時娼館にいたじゃん」


「「「私が、私も」」」

「きーっ」


 メグミは、「女ってこんな集団だっけ」とあきれ返っていた。類友というやつで、メグミの周囲にはこんなドロドロした女性はいなかったのだ。


「フマルさん、行きましょう」


 メグミは喧噪の真っただ中にある女たちを放置し、涙ぐんで座り込んでいたフマルを立つように促してその場を離れることができたのだった。


「じゃあメグミは本当にこの街を出ないの?」

「はい、まだ別の任務(部長の監視)があるので、それがどうなるかわからない以上、安易には動けないのです」

「その任務はいつごろ終わるの?」

「あと、7年以内に終わらないと困ったことになります」


 メグミは残りの年数を数えた。地球では今日は4月28日、あと7日、こちらで7年以内にケリがつかないとGWが終わってしまう。


「そう……」


 フマルは思考の海に沈んだ。女にとっての7年は結構長い。待った挙句にメグミを逃がしたら、次はないかもしれない。しかし、メグミは7年待つ価値のある優良物件だ。


 こうなったらフマルの拠り所は既成事実だが、メグミは既成事実の作成を禁止されているのだ。


 言い寄る女と逃げるメグミ、さらにそれを見て勘違いからメグミに寄ってくる男たち。


 カオスな状況はしばらく繰り返されることになるのだった。


あまりのカオスな状況に、メグミは部長を身請けして監視下に置いてケイジョーに家でも持とうかと考えたのだが、それはそれで不可能であった。


 菓子屋を成功させてしまった部長の身請け代はとんでもない値段となり、メグミの退役一時金では払いきれなかったのである。


 メグミは知らなかったが、同様のことはメグミ自身にも起っていた。


 ケイジョーに遊びに来たウシがメグミを訪ねようとして教会の伝手から奴隷街にいることを知り、それならと身請けしようとしたのである。


 メグミは神官には口止めしておいたが、人探しの事務方は神官とは職種も所属も異なるので、アンビーからの繋がりを使うウシには口止めは無力だった。


 もし、国境に行く前ならここで身請けされてしまって終了していたはずだが、報奨金付きになってさすがのウシでも身請けできなかったのだ。メグミの身請け代がそのままなら、メグミを安く買ってその年金を受け取り続ければ大儲けできてしまう。


 結局、メグミと部長は本人たちが希望しない限り、奴隷街を出ることはないのである。

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