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身売り

 基本的に休日に外出した奴隷は必ず戻って来るものだが、戻ってこない奴隷が皆無な訳ではなく、何節気かに1回は、戻ってこない奴隷がいるのだという。しかし、その多くはトラブルに巻き込まれたり親戚に説得、回収されたりしたもので、自分の意思で帰ってこない者はほとんどいないということである。


『奴隷になりたての新参者が意味も分からず脱走したり、何回か外出して気が緩んでしまい、門限を守れなかった者とかが出ますね』


 脱走するようなものはまず野垂れ死にすることになるし、門限破りは何とかして入れてもらおうと泣きついたり、壁を乗り越えて入ろうとするらしい。


『乗り越えて入ることができても、腕輪の外出記録が更新されませんから、食事がもらえないですけどね』

『自由になれるのにどうして無理して戻って来ようとするんですか』

『自由には責任が付いてくるものです。街の中にいれば猛獣からも守ってもらえますし、外で労働中も奴隷を傷つけると罰せられます。脱走して外に出たからといって仕事、つまり収入があるとは限りませんし、夜に決められた区画の外に奴隷がいれば、殺されても文句は言えません』


 収入は少ないが、中にいる限り安全で食うに困ることはないし、家族もできる。職業スキルの無い、社会の仕組みに詳しくない者にとっては確かに中の方が楽かもしれない。


 ……それって……。


 メグミは気付いてしまった。仕事は保証されているが日常を拘束され、食うには困らないが自由がない。日本での自分たちと一緒なのではないかと。


「いっそ、奴隷街に入ってしまうというのも1つの方法かもしれないな」


 戦闘ギルドの情報も調べてみたが、その形態はどちらかというと傭兵に近く、職業的な形態が監視に向いていなかった。結局は屋台でも出すかという気でいたが、仕入れや動きやすさの点から屋台を出すとも決めかねていたメグミは、どうせ日本にいた時と変わらないのなら自分も奴隷街に入って部長を監視しようかと考え始めていた。


 ハンスラに来た主目的は、部長が子どもを作らないように監視するためである。

 同じ奴隷街にいれば、監視も非常に楽である。

 屋台を出そうとしていたのは、滞在費用を調達するためである。

 奴隷街にいれば、滞在費は調達する必要がない。

 言葉を覚えようとしていたのは、ケイジョー内の移動に必要だからである。

 奴隷街にいれば移動しなくても良いし、移動するときには混んでいるとはいえ車を出してもらえる。


 メグミは何か忘れているような気がしていたが、次第に奴隷街入りを真剣に考えるようになっていった。


 2節気ほど経ち、残り資金が少なくなってきた頃、メグミは神官に尋ねてみた。


『私が奴隷街に入って生活することも可能ですか』

『普通に働くことができるのなら、奴隷は賃金も安いですし制約も多いのでお勧めできませんが、教会の所属ということにすれば可能ですよ』

『奴隷に所属が必要なのですか』

『勝手に家族や友人を売ってしまうことがないように、本人が奴隷になることを承諾しているなどの事情とその証明が必要なのです』


 それはそうだ。朝起きたら奴隷になっていました、では社会が立ち行かない。


『ということは、奴隷街の奴隷が他の場所に売られていくこともあるのですか』

『あー、いくつかありますね、身売り、身請け、強い奴隷を軍に所属させるための一時的は所属変更、開拓村への移住などですか』


 身売りと身請けは主に女奴隷、軍属は男奴隷が多く、開拓村は老若男女取り混ぜて送られることが多いようである。開拓村は奴隷街の分所を作るようなもので、最初は賃金が出るが労働もきつく、不人気なのだとか。借金などがあるとそれを理由に優先的に開拓村送りとなるため、奴隷たちは物を壊して借金などを作ったりしないように、物を大切に使うクセが付いているのだという。


『借金をして遊んでから、自分を売ってそのお金で借金を返す人もいます』


 それって、契約金の考え方そのものではないか。もう、名前が「奴隷」だというだけで、その内容は只の労働契約と同じなのではないかと思えるようになった。


 そうなれば、メグミにとって躊躇する理由は何もない。


『それでは、奴隷街へ入るための事情証明をお願いします』

『奴隷になられるのですか。でも、あなたなら奴隷街にこだわらなければ高い値段で売れますよ』


 神官ともあろうものが、一般的な奴隷街以外への契約を勧めてくる。


『いや、奴隷街行きでお願いします』

『そうですか、事情としては働く能力がない、借金があるなどになりますが、いずれにしても教会にお金が支払われます。そのお金はどうしておきますか』


 貯金しておくことも可能であるようだが、こちらで奴隷を止めるときは帰るときである。どうせこちらで使う機会はもうないのだ。


『宿舎や情報でお世話になったので教会に寄付します』

『本当にいいのですか、それと、アンビーへの連絡はもう済んでいるのですか』

『手紙で連絡しておいたので大丈夫でしょう』


 大ウソである。だがアンビーと言えば、ウシさんがやって来たら大変だ。


 もし、メグミが奴隷になっていることを知ったら、その財力で身請けしてしまうかもしれない。元がどうであれ、奴隷になったメグミを「買う」ことは簡単だし、メグミはそれを拒否できないのである。


(ばれないようにしないとな)


 メグミは教会への寄付金に持っていた資金も足して、神官にしっかり口止めを頼んだのだった。


 無事 (?)奴隷街の住人になれた。メグミの家付近は肉体労働系の奴隷が集まっていて、もう秋なので収穫に駆り出されることが多くなっている。


 他は奴隷街で建築や土木作業、同様の仕事でケイジョー市街に出ることもある。


 住んでいる区画が異なる部長と仕事場が一緒になることはない。部長は畑仕事や軽作業なんかをしているようだ。


 部長の住んでいるところはわかっており、街の中の移動制限は非常に緩いので監視は楽なものであった。


 しかし、監視は楽なことばかりではなかった。


 監視中、迫られたのである。それも1回や2回ではない。


 特にメグミの比較的近くに住んでいるフマルさんという女性がメグミにご執心で、何度も夫婦になろうと持ちかけられた。


 メグミも発情確認機能をONにして、それらしい女性が来ると先に避け(逃げ)るのだが、フマルさんは何をどう操っているのかメグミが逃げた方に現れるのである。


 メグミも、逃げてばかりではいつまで経っても追いかけられっぱなしなので、


『気持ちはありがたいが、俺にはコッススを捕まえるという使命がある。それまでは危険なので子どもを作る訳にはいかない』

 と、きっぱり断ったつもりであった。


『「コッスス」っていうのはノルハンの奴なの? わかったわ、メグミが「コッスス」ってのを捕まえて戻ってくるまで待ってる』


 まぁ、「気持ちはありがたい」なんて言ってしまったら諦めてはくれないだろう。


 そんなことがあって暫くして、メグミは青い腕輪の職員に話しかけられた。


『ノルハン行きを希望(志願)しているらしいな』

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