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奴隷街

【コッスス】をこちらで採集する手段はないが、5月の1日か2日の朝には一度戻れるはずだ。そのとき、誰かに採集を頼んでおいて、お供えしようと決めたメグミだった。

あれは是非、口にしてみてもらいたい。



 屋台を出すか出さないか。

 出すとしたらどこに出すか。


 今後の方針、ということは収入を得る方法が決まらないまま、それから3日間が過ぎていき、部長が奴隷街に移送される日となった。


「何で奴隷なんだ、年金をもらえるはずなんだぞ」

 とか騒いでいるが、当然部長はこの世界で税金も年金も払っていない。


 神官は淡々と奴隷街での注意事項なんかを説明しているようだ。


 メグミは付添いと言うことで横に立っているが、話を聞かない部長が奴隷街でトラブルに巻き込まれた方が死期が近づくだろうと思っているので、しっかり聞かせようとはしない。


 そこへやや小型の乗合車らしきものがやって来た。部長は車に乗せられ、少々の荷物と一緒に奥に座らせられた。入口に近い方が逃げようとして落っこちる可能性が高いので、最後に乗り込んだメグミはさりげなく場所を代ってやった。


 残念ながら乗り出した部長が道路に落っこちて首が折れるとか、野盗に襲われて部長に矢が突き刺さるとかのイベントが起こることもなく、奴隷街の入り口らしいところに到着した。


 ケイジョー郊外なのだろう。ウケンの街が1つ入りそうなくらいの領域を壁が取り囲んでいて、中に本当に街が入っている。


 部長収容の手続きの間に、メグミは奴隷街のシステムについて説明を聞いておく。部長にはすでに説明されているはずの内容である。


『教会には孤児・遺棄児収容院と、非就労者収容所があり、社会参加や社会復帰のための就業訓練をしています。』


 非就労者収容所はアンビーの教会にはないので、こちらに送られたわけである。


『ですが、就業訓練で一定の結果が出せない場合、単純労働者として奴隷街に送られることになります。今回、あの方はほとんど言葉が通じず、どの職業訓練でも適性がなかったのでこちらへの収容が決まりました』


 随分丁寧に説明してくれるなと思ったが、考えてみればメグミはアンビーに報告すると思われているのだ。


「うわあぁあ、嫌だぁ」

 部長はまだ騒いでいるが、黒い腕輪をパチリと嵌められた。


『では、用意ができたようですので中を見ていただきましょう。あ、入る前にこの腕輪を。腕輪をしていないと 部外者として攻撃、捕縛されます』


 奴隷は皆、識別記号が刻まれた黒い腕輪をしている。これは奴隷であるというより、正しくこの街の者であるという証拠であるらしい。腕輪を付けていないと食事の配給が受けられないだけではなく、街に所属する意思のない者として扱われる。


『そうしないと、塀を乗り越えて入り込み、労働しないで食事の配給だけ受けようとする者がいますからね』


 戦争中と言うことになっている隣国ノルハンから間諜が入り込み、奴隷を殺して腕を切り取って手に入れた腕輪で暗躍したことがあったらしい。


 メグミは職員に準ずるとして、青い腕輪を付けてもらった。


『今は、自分のものでは無い腕輪を付けているとすぐばれます。あ、その青い腕輪は絶対に無くさないでくださいね』


 入ってみると、中はいくつかのエリアに分かれていた。


 奴隷には、個別に住居が与えられる。劣悪な環境に置かれているわけではなく、普通の家と言って差し支えないようなしっかりした家だ。


『随分しっかりした家ですね』

『雨ざらしにしたりして、労働力を消耗させることもないですから』


 言われてみればその通りである。


 畑もあるが、奴隷たちが土地を所有しているわけではない。街全体の食糧生産用である。


『手を抜いたりサボったりする者はいないんですか』

『区画ごとに生産性を調べ、担当する奴隷への配給に反映させていますから、理由なく収量が落ちれば困るのは自分たちなのです』


 なるほど、サボって困るのは自分たちなのか。


 織機を使って布を生産している一角もあった。生産した布は問屋に卸されて流通する。寺前通りの雑貨屋台で見たようなのは品質が基準に満たないものだったようだ。仕入れ値は二束三文なのだろう。仕入れルートさえ持っていれば、丸儲けである。


 昼になったので、食事の配給場所の1つに向った。昼は一汁一菜になるのか、米ではない雑穀が主食のようで、野菜とおそらくイモの入った汁物、小魚を焼いたものが付いていた。

 腕輪に識別用の記号が付いているので、二重配給は受けられないようになっている。


 奴隷街の外に労働に行くこともあるが、同等の食事を与えることになっているらしい。


『徴兵されることもありますが、その場合は食事がはるかに良いので積極的に行こうとする者が多いようです。あまり食事を良くしてしまうと徴兵希望者が減ってしまうので難しいところです』


 1日3食ということ自体が驚きである。


 午後も他の区画を見て回ったが、規模の大きさは大したものであった。奴隷街と言っても、腕輪に気付かず、壁が見えなければ奴隷街とはわからないだろう。それくらい普通に生活している。


 なんと、お腹の大きい、すなわち妊娠している奴隷もいた。


『勝手に子どもを作ったりすることもあるのですか』

『子どもは労働力が増えるわけですから作ることを禁止されてはいません。

しかし若い女奴隷は娼館に派遣されることも多いので、夫婦ではない者に子どもができると罰せられます。

また、子どもは夫婦の物ではなく街の物になります』


 当然というか、物扱いである。


 部長が勝手に子どもを作ることはなさそうだが、危険が0というわけではないらしい。


 日が落ちて、暗くなってきた頃、「カーン、カーン」と鐘の音が響く。


『それではそろそろ日も暮れましたので、夕食を摂ったら出口までお送りしましょう』


 メグミは昼と違う食事の配給場所に来ていた。


 夕食は一汁ニ菜、品数は増えているが、昼食で汁物に入っていたイモが別皿で焼いてあるだけのような気もする。


 一角で男連中が行列している。


『あれはまさか酒ですか』

『外の労働に駆り出された場合、賃金の形で現金収入があります。それを使えば、酒や煙草といった嗜好品を購入するのは一向に構いません』


 自由がなく、最底辺の生活というメグミの中の奴隷のイメージがどんどん崩れていく。


「カーン、コーン」


 日暮れと異なる鐘の音が鳴っているのを聞きながら、メグミは臨時の青腕輪を返却し、見学のお礼を述べて教会に戻ろうとしていた。


 見ると、腕輪を付けた奴隷が三々五々、街の外から帰ってくるのが見える。


『あの奴隷たちは管理されてないのですか』

『奴隷たちには1節気に1日、休日があります。その日は街の外に出ても構いません。さっきの鐘から1刻以内に、自発的に戻ってくるようになっています』

『逃げる奴隷はいないんですか』


部長が逃げ出してしまったら、見つけるのは困難だろう。監視する手段が無くなってしまう。


『逃げても困らない奴隷は、奴隷になったりしませんよ』

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